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魔王杯事前挨拶

それから二週間。


 魔王杯開催まで。


 あと三日。


 鬼宮鬼神は。


 大会前の事前顔合わせに参加していた。


 今回の顔合わせは配信されるわけではない。


 参加者同士の挨拶と、大会についての簡単な説明。


 それだけの予定だった。


 ……だったのだが。


「こんにちはー!」


「お、ひよりじゃん」


「レオさん! お久しぶりです!」


 通話バーチャル空間には。


 すでに何人ものVTuberが集まっていた。


「今年もよろしくお願いします」


「こちらこそ」


「今年こそ優勝したいなー」


「それ去年も言ってたよね?」


「言うだけなら自由だろ!」


 笑い声が響く。


 かなり和やかな雰囲気だった。


 鬼神は。


 その様子を少し離れたところから見ていた。


(……すごいな)


 普段。


 配信画面越しに見ている人たち。


 その本人たちが。


 今。


 同じ場所にいる。


「……緊張してる?」


「っ」


 突然。


 隣から声をかけられた。


「ひよりさん」


「はい」


 星乃ひよりが笑っている。


「ちょっとだけ」


「ですよね」


「こういうの初めてだから」


「大丈夫ですよ」


 ひよりが笑う。


「私も最初はめちゃくちゃ緊張しました」


「……そうは見えないけど」


「え?」


「普通にみんなと話してるから」


「それは……」


 ひよりは少し照れた。


「慣れただけです」


「なるほど」


────────


「お?」


 そこへ。


 一人の男がやってくる。


「噂の鬼神?」


「……!」


 天城レオ。


 NovaLive所属。


 登録者29万人。


 FPS界隈でも有名な実力者。


「初めまして」


 鬼神が挨拶する。


「天城レオ。よろしく」


「鬼宮鬼神です。よろしくお願いします」


「配信、何回か見たよ」


「え?」


「FPS、かなり上手いじゃん」


「ありがとうございます」


「でも――」


 レオが笑う。


「大会だと、俺も遠慮しないからな」


 一瞬。


 空気が変わった。


「……もちろん」


 鬼神も笑う。


「俺も勝つつもりで来てます」


「お」


 レオが楽しそうに笑う。


「いいね」


 その会話を聞いていた暁が。


 少し離れた場所から口を挟む。


「ふむ」


「我の大会らしくなってきたではないか」


「暁さんは余裕そうですね」


 小鳥遊ユナが笑う。


「当然だ」


 暁は胸を張る。


「我は魔王だからな」


「出た、魔王様」


「今年もそれやるんですか?」


「当然だ」


 また笑いが起きる。


────────


「鬼神さん!」


「ん?」


 今度は小鳥遊ユナ。


「初めまして!」


「初めまして」


「前からちょっと気になってたんですよ!」


「俺を?」


「はい!」


「……なんで?」


「ひよりちゃんとのコラボ!」


「ああ……」


「めっちゃ面白かった!」


「ありがとうございます」


「今日一緒に話せるの楽しみにしてました!」


 明るく笑うユナ。


 鬼神も少し笑った。


「俺も楽しみです」


「じゃあ大会では敵ですね!」


「そうですね」


「絶対負けないから!」


「……俺も」


「ふふっ」


 ユナが笑う。


「鬼神さん、意外と負けず嫌い?」


「……そうかも」


────────


 そして。


 少し遅れて。


「……どうも」


 静かな声。


 白鐘セナ。


「こんにちは」


「こんにちは」


「鬼神さん」


「はい」


「FPS」


「うん」


「強いんだってね」


「……まあ」


「じゃあ」


 セナが少しだけ笑う。


「大会で当たったら楽しみ」


「俺も」


 短いやり取り。


 けれど。


 互いに。


 相手の実力を探っている。


────────


 その後も。


 挨拶は続いた。


 天宮ルナ。


 黒瀬レイ。


 桜庭こよみ。


 神楽坂アリス。


 神楽ミユ。


 獅堂ガク。


 朝霧カナタ。


 そして。


 魔城院暁。


 参加者全員が揃っていく。


「では」


 暁が声を上げる。


「改めて」


「今年の魔王杯に参加してくれて感謝する」


「ルールについては事前に渡した資料を確認してくれ」


 全員が静かになる。


「そして――」


 暁が笑った。


「楽しむことも忘れないようにな」


「はーい!」


 ユナが手を挙げる。


「……まあ」


 レオが笑う。


「楽しむのは勝ってからだな」


「それはそう」


 ガクが短く答える。


「お?」


 暁が笑う。


「随分とやる気ではないか」


「当然」


 ガクが答える。


「勝ちに来てるから」


────────


 その言葉を聞いて。


 鬼神も黙って頷いた。


 最初は。


 ただの挨拶だと思っていた。


 けれど。


 違う。


 ここにいる全員。


 笑って。


 冗談を言って。


 仲良く話している。


 それでも。


 心の中では。


誰も負けるつもりがない。


 そのことが。


 少しずつ伝わってくる。


「鬼神さん」


「ん?」


 ひよりが小声で話しかける。


「ちょっと空気変わりましたね」


「……うん」


「でも」


 ひよりは笑う。


「楽しみですね」


「そうだな」


 鬼神も笑った。


「負けたくないけど」


「はい」


「楽しみでもある」


────────


 そして。


 最後に暁が告げる。


「三日後」


「我らは戦場に集う」


「今年の魔王杯」


「誰が最後に立っているのか――」


 少し間を置いて。


「楽しみにしていよう」


 通話が終わる。


 画面が暗くなる。


────────


 鬼神は椅子にもたれた。


「…………」


 静かに息を吐く。


「いよいよか」


 大会まで。


 あと三日。


 敵も。


 味方も。


 まだ決まっていない。


 だが。


 確かなことが一つある。


 ――この大会。


 絶対に。


 面白くなる。


 そして。


 鬼宮鬼神にとって。


 VTuberとして初めての。


 大舞台が。


 始まろうとしていた。

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