魔王からの招待状
火曜日。
放課後。
「ただいまー」
凛は家に帰ると、鞄を置いて制服のままベッドに倒れ込んだ。
「疲れた……」
今日は特に何かあったわけではない。
授業を受けて。
乃愛と話して。
いつも通りの一日。
それでも。
「……高校って思ったより疲れるな」
前の自分なら、こんなことを考えることすらなかった。
そんなことを考えながらスマホを見る。
通知が一件。
「ん?」
SNSのDM。
差出人を見て。
凛の目が止まった。
魔城院 暁
「…………」
一瞬。
意味が分からなかった。
「……魔城院暁?」
登録者17万人。
人気個人勢。
そして。
VTuber界隈では有名な人物。
「……なんで?」
恐る恐るDMを開く。
────────
『魔城院暁』
> 突然の連絡、失礼する。
>
> 我は魔城院暁。
>
> 貴殿の最近の活動を拝見させてもらった。
>
> 特にFPSでの立ち回りには興味を持っている。
>
> そこで、一つ頼みがある。
凛は画面をスクロールする。
> 我が年に一度開催しているFPS大会。
>
> **《魔王杯》**
>
> 今年の大会への参加を検討してもらえないだろうか。
「…………」
凛の目が丸くなる。
「……魔王杯?」
さらに読む。
> 大手事務所、個人勢を問わず、多くのVTuberが参加する大会だ。
>
> 貴殿には、ぜひその舞台に立ってもらいたい。
>
> 詳細については後日説明する。
>
> 良い返事を期待している。
>
> ――魔城院暁
「…………」
凛はしばらくスマホを見つめていた。
「……俺が?」
思わず声が出る。
登録者。
3万8千人。
以前と比べれば大きな数字だ。
でも。
相手は17万人。
大会には。
StellaLive。
NovaLive。
その他の人気VTuber。
そんな人たちが参加する。
「……場違いじゃないか?」
凛の胸に。
不安が湧いてくる。
────────
数分後。
凛は一人で悩んでいた。
「……どうしよう」
断る。
それも選択肢だった。
けれど。
せっかくの機会。
しかも。
直接誘われた。
「……」
凛はスマホを開く。
そして。
ある人物にDMを送った。
────────
『鬼宮鬼神』
> ひよりさん。
>
> ちょっと相談があります。
────────
数分後。
星乃ひより:どうしました!?
返信が早い。
> 魔城院暁さんからDMが来ました。
星乃ひより:え!?
> 魔王杯に誘われました。
星乃ひより:えええええ!?!?
通知が連続して届く。
星乃ひより:出ましょう!!
星乃ひより:絶対出たほうがいいです!!
凛は思わず笑った。
> でも、俺なんかが出ていいんですかね。
少し間があって。
星乃ひより:何言ってるんですか!
星乃ひより:鬼神さん、最近めちゃくちゃ有名になってますよ!?
> いや、でも……
星乃ひより:暁さん本人が誘ってくれたんですよ?
星乃ひより:だったら、胸張って出ればいいんです!
凛は画面を見る。
「…………」
ひよりの言葉が。
妙に心に響いた。
星乃ひより:それに――
星乃ひより:鬼神さんとまた一緒にゲームしたいです!
「…………」
凛は少し笑う。
> 分かりました。
>
> 出ます。
星乃ひより:やった!!
────────
数分後。
凛は暁へ返信した。
> お誘いありがとうございます。
>
> ぜひ参加させてください。
>
> よろしくお願いします。
送信。
「…………」
少しだけ。
手が震えていた。
楽しみ。
不安。
緊張。
いろんな感情が混ざっている。
「……魔王杯か」
凛は呟いた。
────────
その頃。
別の場所。
「…………」
魔城院暁は。
届いた返信を見ていた。
> ぜひ参加させてください。
「ふむ」
口元が緩む。
「やはり来たか」
暁は椅子に座り直す。
そして。
大会の参加者リストを開いた。
────────
《魔王杯 出場予定者》
StellaLive
• 天宮ルナ
• 黒瀬レイ
• 桜庭こよみ
• 星乃ひより
NovaLive
• 天城レオ
• 小鳥遊ユナ
• 白鐘セナ
個人勢
• 魔城院暁
• 獅堂ガク
• 朝霧カナタ
• 鬼宮鬼神
まだ公開前。
だが。
暁には。
今年の大会が。
今までとは違うものになる予感があった。
「ふむ……」
鬼神の名前を見ながら。
「我の大会に」
「新しい風が吹きそうだ」
暁は楽しそうに笑った。
────────
そして。
数日後。
公式アカウントから。
一つの告知が投稿された。
────────
《魔王杯2026 出場者発表》
今年も総勢20名以上のVTuberが参戦!
StellaLive
NovaLive
個人勢
様々なVTuberが集結。
そして。
その中に。
一人の新人の名前。
鬼宮鬼神
────────
投稿から数分。
コメント欄が一気に流れ始める。
『鬼神出るの!?』
『最近めっちゃ伸びてる新人じゃん!』
『FPS上手いから楽しみ』
『ひよりとのコラボから気になってた』
『魔王杯で鬼神見られるの熱い』
凛はその反応を。
自宅のPCから眺めていた。
「…………」
そして。
小さく笑った。
「……やるか」
高校生。
そして。
鬼宮鬼神。
二つの顔を持つ少女は。
今度は。
VTuber界の大舞台へ。
一歩踏み出そうとしていた。




