幕間 女の子の買い物
土曜日。
「凛、こっち!」
「待って、乃愛」
駅前のショッピングモール。
凛は乃愛の後ろを歩いていた。
「今日は服買うんだよね?」
「うん!」
「私、あんまり詳しくないんだけど」
「大丈夫!」
乃愛が振り返る。
「私に任せて!」
「……うん」
この時。
凛はまだ知らなかった。
今日一日。
乃愛の服選びに付き合うことになるということを。
────────
「これどう?」
「……可愛いと思う」
「じゃあこっちは?」
「可愛い」
「これは?」
「可愛い」
「凛」
「ん?」
「ちゃんと見てる?」
「見てるよ」
「全部可愛いしか言ってない」
「だって……」
凛は服を見る。
「違いがよく分からない」
「もう!」
乃愛が笑う。
「じゃあ凛の服も選ぼう」
「え?」
「せっかく来たんだし」
「私は別に――」
「はい、決定!」
「…………」
凛は抵抗する暇もなかった。
────────
数十分後。
「これ着てみて」
「……これ?」
「うん!」
乃愛が選んだのは。
黒を基調にしたクール系の服。
シンプルなトップスに、細身のパンツ。
「似合うと思うよ」
「……そうかな」
「絶対!」
試着室へ。
しばらくして。
「……どう?」
凛が出てくる。
「…………」
乃愛が固まった。
「乃愛?」
「……凛」
「うん?」
「ちょっと待って」
「?」
「……めちゃくちゃ似合ってる」
「そう?」
「うん」
凛は首を傾げる。
本人に自覚はない。
だが。
近くにいた女性客がちらちらと見ている。
「……あの子モデル?」
「すごい綺麗……」
「人形みたい」
そんな声まで聞こえてくる。
凛は気づかない。
「じゃあこれ買おうかな」
「うん!」
────────
店を出る。
「次どこ行く?」
「えっとね――」
乃愛が歩き出す。
その瞬間。
「すみません」
「……?」
二人の前に。
若い男性が立った。
「よかったら連絡先交換しません?」
「…………」
凛が固まる。
「え?」
男性は2人を見ている。
「めっちゃ可愛くて……」
「…………」
凛は困った顔をする。
「すみません」
「彼氏とかいます?」
「いませんけど……」
乃愛が一歩前に出る。
「この子、そういうの興味ないんで」
「え?」
「ちょっと、乃愛」
「ほら、行こ!」
「待って」
二人はその場を離れる。
────────
「……びっくりした」
凛が呟く。
「凛ってナンパされるんだね」
「知らないよ……って言うか乃愛でしょ」
「自覚なさすぎ」
「何が?」
「……なんでもない」
乃愛は少しだけ頬を膨らませる。
「凛、可愛いから気をつけてね」
「……ありがとう?」
「そこじゃない!」
乃愛が笑う。
────────
その後も。
二人が歩いていると。
「すみません!」
「モデルさんですか?」
「写真お願いしてもいいですか?」
「彼氏います?」
次々と声をかけられる。
「…………」
凛は困り果てていた。
「乃愛……」
「うん」
「もう帰りたい」
「ふふっ」
乃愛が笑う。
「じゃあ、あと一軒だけ」
「……一軒だけ?」
「うん!」
「本当に?」
「本当!」
「……分かった」
二人はまた歩き出す。
休日の街。
並んで歩く二人は。
周囲から見れば。
どこからどう見ても。
美少女二人組だった。
そして。
凛本人だけが。
そのことに。
まったく気づいていなかった。




