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ふむ、面白い

月曜日。


 朝倉凛は、いつも通り学校へ向かっていた。


「おはよう、凛」


「おはよう、乃愛」


 教室に入ると、乃愛がいつものように声をかけてくる。


「ねえ、凛」


「ん?」


「最近、VTuberとか見る?」


「……VTuber?」


 凛の心臓が一瞬だけ跳ねた。


「うん。最近友達が話してて」


「誰?」


「なんかね――」


 乃愛がスマホを取り出す。


「鬼宮鬼神って人」


「…………」


 凛は固まった。


「……へぇ」


 なんとか平静を装う。


「最近ちょっと話題になってるんだって」


「……そうなんだ」


「知ってる?」


「……まあ」


「やっぱり?」


「ちょっとだけね」


 凛はスマホを取り出したくなるのを必死に抑えた。


 鬼神のことなら。


 本人だから。


 全部知っている。


 けれど。


「どんな人なの?」


 乃愛が聞く。


「……ゲームが上手いらしいよ」


「へぇ」


「あと、配信中と普段のギャップがすごいとか」


「凛と逆じゃん」


「……私?」


「凛って学校だとクールだけど、家だともっと違う感じしそう」


「……そうかな」


「絶対そう!」


 乃愛が笑う。


 凛は苦笑した。


(……危ない)


 まさか。


 自分の話を。


 こんなところで聞くことになるとは。


---


 昼休み。


 教室では男子たちも話をしていた。


「なあ、鬼宮鬼神って知ってる?」


 颯真がスマホを見せる。


「最近伸びてるやつだろ?」


 蓮が答える。


「そうそう」


「FPSの切り抜き、めっちゃ回ってるよな」


「この前の星乃ひよりとのコラボもすごかったらしい」


「マジ?」


「めちゃくちゃ相性良かったって」


 少し離れた席。


 凛は弁当を食べながら。


(…………)


 聞こえている。


 全部聞こえている。


(俺の話じゃん……)


 しかし。


 何も言えない。


「朝倉さん」


「ん?」


 男子の一人が話しかけてきた。


「こういうの見る?」


「たまに見るよ」


「じゃあ鬼神知ってる?」


「……うん」


「どんな感じ?」


「……面白い人だと思う」


「へぇ」


 凛は笑った。


 心の中では。


(本人なんだけどな……)


 と思っていた。


---


 その頃。


 ネット上では。


 状況が大きく変わっていた。


---


### 『鬼宮鬼神 初コラボ切り抜き』


**再生数:18万**


### 『【鬼神×ひより】初対面とは思えない二人』


**再生数:12万**


### 『鬼神、FPSになると別人になる』


**再生数:9万**


 コメント欄には。


**『この新人誰!?』**


**『最近めっちゃ見る』**


**『ひよりから来ました』**


**『鬼神強すぎ』**


**『この二人またコラボしてほしい』**


 そんなコメントが並んでいた。


---


 そして。


 鬼神の登録者数。


**9,842人。**


 あと少し。


 そして。


**10,000人。**


 通知が鳴る。


「…………」


 凛は画面を見つめる。


「……一万人」


 活動を始めた時。


 こんな数字になるとは思っていなかった。


 ただ。


 両親に勧められて。


 なんとなく始めた。


 ゲームをして。


 喋って。


 楽しかったから続けた。


 それだけだった。


「……すごいな」


 凛は小さく笑った。


---


 その夜。


 別の配信。


 暗い部屋。


 大きなモニター。


 そこに映っているのは。


 銀髪。


 二本の角。


 鬼宮鬼神。


「…………」


 それを見ている男がいた。


 黒い衣装。


 長いマント。


 頭には王冠。


 そして。


 魔王を思わせる雰囲気。


 **魔城院暁。**


 登録者15万人。


 個人勢として長く活動している人気VTuber。


 彼は普段からゲーム配信をしている。


 そして。


 今日はたまたま。


 最近話題になっている鬼神の切り抜きを見ていた。


「…………」


 無言。


 動画が終わる。


 暁は少し笑った。


「ふむ」


 もう一度再生。


 鬼神が敵を倒す。


「ほう……」


 さらに再生。


 今度は。


 ひよりとの会話。


「……なるほど」


 暁は顎に手を当てる。


「FPSの腕もある」


「トークも悪くない」


「それに……」


 少し笑う。


「この荒っぽさ」


「面白いな」


 暁はSNSを開く。


 鬼宮鬼神のアカウント。


 フォロワーは増え続けている。


「まだ一万人程度か」


 暁は呟く。


「だが」


 画面を見ながら。


「この勢いなら、すぐにもっと上へ行くだろうな」


 そして。


 少しだけ考える。


「……今年の魔王杯」


 毎年一度。


 自分が主催しているFPS大会。


 今年も。


 すでに参加者の候補を考えていた。


 StellaLive。


 NovaLive。


 個人勢。


 様々なVTuber。


「今年は少し新しい顔を入れてみるか」


 暁は笑う。


「……鬼宮鬼神」


 名前を口にする。


「覚えておこう」


 そして。


 まだDMは送らない。


 まだ声もかけない。


 ただ。


 魔王の記憶に。


 一人の鬼が刻まれた。


---


 翌朝。


「おはよう」


「おはよう、凛!」


 学校。


 いつもと変わらない朝。


 乃愛が笑っている。


 凛も笑う。


「おはよう」


 教室の中では。


「昨日鬼神の配信見た?」


「見た見た!」


 そんな声が聞こえる。


「…………」


 凛は自分の席に座る。


 そして。


 窓の外を見る。


(……なんか)


(急に世界が広がったな)


 学校では。


 ただの高校一年生。


 そして。


 家に帰れば。


 鬼宮鬼神。


 まだ。


 二つの世界は交わっていない。


 けれど。


 少しずつ。


 その境界線は。


 近づき始めていた。

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