コラボまでの時間
月曜日。
朝。
「おはよう、凛!」
「おはよう、乃愛」
教室に入った凛を、いつものように乃愛が迎えた。
「今日なんか機嫌よくない?」
「そう?」
「うん。ちょっとだけ」
「……まあ、楽しみなことがあるから」
「へぇ?」
乃愛が凛の顔を覗き込む。
「なに? なんかあった?」
「秘密」
「えー、教えてよ」
「そのうちね」
凛は少し笑う。
その表情を見た乃愛が、一瞬固まった。
「……凛」
「ん?」
「今の笑い方、ずるい」
「……何が?」
「なんでもない!」
乃愛は慌てて前を向いた。
最近。
凛の何気ない仕草にドキッとすることが増えている。
本人は。
まったく気づいていない。
────────
その頃。
別のクラス。
「…………」
白石ひよりも、机の上にスマホを置いていた。
画面には。
鬼宮鬼神
今週末。
初コラボ。
「……楽しみだなぁ」
ひよりは小さく呟く。
「どんな人なんだろう」
声は聞いたことがある。
配信も何度も見ている。
でも。
直接話したことはない。
「ちょっと緊張する……」
そんなことを考えていると。
「ひよりー!」
「ん?」
友達に声をかけられる。
「今日一緒にお昼食べよ!」
「うん!」
ひよりはスマホをしまった。
今は学校。
配信のことは一旦忘れよう。
そう思った。
────────
昼休み。
凛は一人で弁当を食べていた。
そこへ。
「朝倉さん」
「ん?」
男子クラスメイトが声をかけてくる。
「数学の宿題、どこまでやった?」
「全部終わったよ」
「マジ? 見せてもらっていい?」
「答えだけなら」
「ありがとう!」
少し離れたところで。
颯真と蓮がその様子を見ていた。
「朝倉って、やっぱ普通に話すと優しいよな」
颯真が言う。
「そうだな」
蓮も頷く。
「最初、もっと話しかけにくいと思ってた」
「分かる」
二人はまだ。
凛とほとんど話したことがない。
けれど。
少しずつ。
興味を持ち始めていた。
────────
放課後。
廊下。
凛が教室を出る。
向こうから女子の集団が歩いてくる。
「……」
その中に。
白石ひよりがいた。
「……あ」
ひよりも凛に気づく。
「朝倉さん」
「白石さん」
「お疲れさま」
「お疲れ」
二人は軽く会釈。
それだけ。
しかし。
その日の二人は。
同じことを考えていた。
――今週、コラボするんだよな。
もちろん。
お互いに。
目の前の相手と。
配信で話す相手が同一人物だとは。
思っていない。
────────
水曜日
放課後。
凛は自宅のPCの前に座っていた。
「……よし」
今週末のコラボに向けて。
ゲームの設定を確認する。
マイク。
音量。
配信ソフト。
全部確認。
「……緊張するな」
今まで。
基本的に一人で配信してきた。
だから。
誰かと話しながら配信するのは初めてだ。
「……大丈夫だろ」
そう呟いた時。
PCに通知が届いた。
星乃ひより:事前打ち合わせについて
「……来た」
凛は背筋を伸ばした。
────────
数時間後。
通話開始。
「……こんばんは」
『こんばんは!』
ひよりの声。
凛は一瞬。
聞き覚えのある声だと思った。
「……」
『鬼神さん?』
「はい」
『よかった! ちゃんと聞こえてます!』
「聞こえてます」
『よかったぁ……』
ひよりが安心したように笑う。
その声を聞いて。
凛は少しだけ緊張が解けた。
「……なんか」
『はい?』
「思ってたより普通ですね」
『えっ!?』
「いや、悪い意味じゃなくて」
『びっくりした!』
「すみません」
ひよりが笑う。
『鬼神さんも、思ってたより普通です』
「俺も?」
『はい』
「配信だともっと怖い感じかと思いました?」
『ちょっとだけ』
「……まあ、ゲームすると変わるので」
『やっぱり!』
ひよりが楽しそうに笑う。
────────
打ち合わせは順調だった。
ゲームはFPS。
基本は二人でチームを組む。
勝敗よりもトーク重視。
配信時間は二時間程度。
そんな簡単な内容を決めていく。
『鬼神さんって、普段どんなゲームやるんですか?』
「FPSが多いですね」
『やっぱり!』
「ひよりさんは?」
『私は色々やりますよ』
「FPSも?」
『……一応』
「一応?」
『……あんまり上手じゃないです』
「なるほど」
『今、笑いました?』
「笑ってないです」
『絶対笑いましたよね!?』
「気のせいです」
ひよりが笑う。
『なんか……』
「?」
『話しやすいですね』
「……そうですか?」
『はい』
凛も少し考える。
「確かに」
不思議だった。
初対面。
しかも。
ネット上でしか知らない相手。
それなのに。
会話が途切れない。
『なんか、初めて話した気がしないです』
「……」
凛の手が止まる。
「俺もです」
自然と。
そう答えていた。
────────
その夜。
通話を終える。
「今日はありがとうございました」
『こちらこそ!』
「本番、よろしくお願いします」
『はい!』
通話終了。
「…………」
凛は椅子にもたれた。
「……変な感じだな」
初めて話したはずなのに。
妙に親近感がある。
「……まあ、気のせいか」
そう呟いて。
PCの電源を落とした。
────────
一方。
ひよりも自分の部屋で。
「…………」
スマホを眺めていた。
「……なんだろう」
今日初めて話した。
なのに。
不思議と安心する。
「鬼神さんって……」
少し考える。
「学校にいたら、どんな感じなんだろう」
そして。
ふと。
今日廊下ですれ違った凛を思い出した。
「……朝倉さんみたいな感じだったりして」
自分でもよく分からない想像。
「ふふっ」
ひよりは笑う。
「……まさかね」
────────
そして。
コラボ当日。
土曜日。
午後八時。
凛はPCの前。
ひよりもPCの前。
それぞれの画面に。
配信開始まで――10分
という表示。
凛は深呼吸する。
「……よし」
ひよりも。
「……頑張ろう」
そして。
あと10分で。
二人は初めて。
大勢の視聴者の前で。
同じ画面に立つ。
――二人の秘密を知らないまま。




