初コラボ
大型コラボ配信から二日後。
StellaLiveの事務所。
「…………」
星乃ひよりは、スマホの画面をじっと見つめていた。
表示されているのは。
**鬼宮鬼神**
最近、急激に名前を広げている個人勢VTuber。
切り抜きの再生数も伸びている。
SNSのフォロワーも増えている。
そして何より。
「……やっぱり話してみたい」
大型コラボの時に口にした言葉。
あれは冗談ではなかった。
一度。
ちゃんと話してみたい。
できれば。
一緒に配信してみたい。
「……よし」
ひよりは立ち上がった。
---
事務所の一室。
「失礼します!」
「どうぞ」
デスクに座っていた女性が顔を上げる。
**橘玲奈。**
StellaLive所属タレントを担当するマネージャーの一人。
仕事はかなりできる。
そして。
ひよりの性格もよく理解している。
「どうしたの?」
「玲奈さん!」
ひよりが勢いよく近づく。
「お願いがあります!」
「……何?」
玲奈は少しだけ警戒した。
「鬼宮鬼神さんとコラボしたいです!」
「…………」
沈黙。
「またその話?」
「またです!」
即答。
「本当に好きね」
「好きっていうか!」
ひよりが慌てる。
「面白そうなんです!」
「はいはい」
「それに、最近すごく伸びてるじゃないですか!」
ひよりはスマホを見せる。
「これ!」
画面には鬼神の切り抜き。
「再生数もすごいし、配信も面白いし!」
「ふーん……」
玲奈は画面を見る。
「確かに最近かなり伸びてるわね」
「ですよね!」
「登録者は?」
「……えっと」
ひよりが確認する。
「三千人くらいです」
「なるほど」
玲奈は少し考える。
「個人勢ね」
「はい」
「今まで直接交流は?」
「ありません」
「SNSで?」
「……まだです」
「つまり、完全に初対面」
「はい!」
ひよりは元気よく答える。
玲奈はため息をつく。
「分かった」
「え?」
「まず私の方で確認してみる」
「本当ですか!?」
「ただし」
「はい!」
「勝手にDMは送らないこと」
「…………」
ひよりの動きが止まる。
「……はい」
「その顔、もう送ろうとしてたでしょ」
「してません!」
「嘘ね」
「……ちょっとだけ」
玲奈が苦笑する。
「まず事務所として問題がないか確認するから」
「お願いします!」
---
その日の夕方。
玲奈は鬼宮鬼神について調べていた。
個人勢。
活動開始からまだそれほど経っていない。
しかし。
最近の伸びが異常に速い。
FPS配信。
雑談。
切り抜き。
SNS。
どれも少しずつ数字を伸ばしている。
「……確かに面白い子ね」
さらに。
過去の配信も確認する。
「炎上もなし」
「他の配信者とのトラブルもなし」
「活動方針も問題なし」
玲奈は資料をまとめる。
そして。
「これなら……」
ひよりとのコラボを止める理由はなかった。
---
翌日。
「ひより」
「はい!」
「許可が出たわ」
「…………」
一瞬。
ひよりは理解できなかった。
「……え?」
「鬼宮鬼神さんとのコラボ」
「…………!」
「進めていいそうよ」
「やったぁぁぁ!」
ひよりが両手を上げる。
「玲奈さんありがとうございます!」
「ただし、先方との調整はちゃんとすること」
「はい!」
「あと、コラボ内容は事前に決める」
「分かりました!」
「それと――」
「はい!」
「本人に連絡するのは、あなたからでいいわ」
「…………」
ひよりが固まる。
「え?」
「DM」
「…………」
「自分で送って」
「…………」
急に緊張してきた。
「……私が?」
「あなたが」
「…………」
ひよりはスマホを握る。
「……頑張ります」
---
午後。
ひよりは自分の部屋に戻った。
スマホを机に置く。
画面には。
**鬼宮鬼神**
SNSアカウント。
「…………」
指が動かない。
「緊張する……」
相手は。
最近急激に伸びている新人。
自分は登録者8\.5万人。
相手は数千人。
それでも。
こちらから声をかける。
「……よし」
文章を打つ。
消す。
また打つ。
消す。
「硬すぎるかな……」
もう一度。
そして。
完成。
「……送る!」
送信。
---
### 『鬼宮鬼神さんへ』
> 突然のDM失礼します!
> StellaLive2期生の星乃ひよりです。
>
> 以前から鬼宮さんの配信を拝見していて、ぜひ一度お話ししてみたいと思っていました!
>
> この度、マネージャーさんとも相談して、もしご都合が合えばコラボ配信をお願いできないかなと思い、ご連絡しました。
>
> ご検討いただけたら嬉しいです!
「…………」
送った。
「送っちゃった……!」
ひよりはスマホを伏せる。
「…………」
10秒。
20秒。
30秒。
「まだ来ない……」
当たり前である。
だが。
ひよりには長く感じられた。
---
その頃。
朝倉凛。
「ただいまー」
学校から帰宅。
鞄を置く。
「疲れた……」
制服から着替えようとした時。
スマホが震える。
「ん?」
通知。
SNS。
鬼宮鬼神のアカウント。
DM。
「……?」
凛は何気なく開く。
「…………」
目が止まる。
「…………え?」
送信者。
**星乃ひより**
「………………」
数秒。
「………………え?」
凛はもう一度見る。
間違いない。
星乃ひより。
StellaLive2期生。
登録者8\.5万人。
その本人から。
DMが来ている。
「…………俺に?」
内容を読む。
「…………」
凛は椅子に座る。
「コラボ……?」
頭が追いつかない。
「いやいやいや」
スマホを見る。
「待って」
「8万人の人から?」
もう一度読む。
「……マジ?」
心臓が早くなる。
もちろん。
嬉しい。
めちゃくちゃ嬉しい。
でも。
それ以上に。
「どうしよう……」
今まで。
自分から配信を始めた。
一人で喋って。
一人でゲームして。
一人で配信を終わらせていた。
それが。
初めて。
誰かと一緒に配信する。
「……コラボ」
凛はしばらく画面を眺める。
そして。
返信欄を開いた。
---
### 『鬼宮鬼神』
> DMありがとうございます!
> こちらこそ、ぜひお願いします。
>
> 星乃さんの配信も以前拝見させてもらいました。
>
> 俺も一度お話ししてみたいと思っていたので、嬉しいです!
「……送信」
送った。
「…………」
数秒後。
返信。
**『本当ですか!? ありがとうございます!』**
「……早っ」
凛が笑う。
さらに。
**『ずっとお話ししてみたかったんです!』**
「……」
凛は少し照れた。
「……俺もだけど」
小さく呟く。
---
そして。
その夜。
StellaLive。
「…………!」
ひよりはスマホを見ながら笑っていた。
「返信きた……!」
玲奈に報告。
「コラボ、OKだって!」
「よかったわね」
「はい!」
ひよりは嬉しそうに画面を見る。
そして。
凛もまた。
自分のスマホを見ながら笑っていた。
「……初コラボか」
楽しみ。
そして。
少しだけ不安。
それでも。
新しい世界に踏み込む感覚があった。
――鬼宮鬼神。
初めてのコラボ。
相手は。
**星乃ひより。**
まさか。
その相手が。
毎朝、同じ学校ですれ違っている少女だとは。
二人とも。
まだ知らない。




