全員集合!
土曜日午後八時。
星乃ひよりは、いつもより少しだけ緊張していた。
「…………よし」
マイクの位置を確認。
カメラを確認。
配信画面を確認。
そして。
参加者一覧を見る。
天宮ルナ。
黒瀬レイ。
桜庭こよみ。
神楽坂アリス。
星乃ひより。
月城ミナト。
猫宮こはく。
白雪ましろ。
StellaLive所属。
1期生4人。
2期生4人。
総勢8人。
今日は。
事務所初の大型ゲームコラボだった。
「緊張する……」
ひよりが呟く。
その直後。
『ひより、聞こえてる?』
先輩のルナの声。
「はい! 聞こえてます!」
『よかった!』
明るい声。
それだけで少し安心する。
『ひよりちゃん、緊張してる?』
こよみの優しい声。
「ちょっとだけ……」
『大丈夫よ』
アリスが笑う。
『先輩たちが全部何とかしてあげますわ』
『その言い方、逆に不安なんだけど』
レイが冷静に返す。
『えー! 私たち先輩だよ?』
『ルナは勢いで突っ込むから信用できない』
『ひどい!』
通話が一気に騒がしくなる。
ひよりも思わず笑った。
「ふふっ」
『ほら、ひよりも笑ってる』
「だって……」
『じゃあ今日は楽しもう!』
「はい!」
⸻
――配信開始
画面に8人の名前が並ぶ。
コメント欄が一気に流れ始めた。
『8人!?』
『大型コラボきた!』
『1期生と2期生全員じゃん!』
『待ってた』
「こんばんはー!」
ひよりが挨拶。
『こんばんは!』
『こんばんわー!』
『こんばんは』
8人の声が重なる。
「今日はなんと!」
ルナが進行を始める。
「StellaLive、1期生と2期生全員で!」
「チーム戦ゲームをやっていきます!」
『うおおおお!』
『絶対面白いやつ』
『チーム分けどうなる?』
ひよりもテンションが上がる。
「楽しみ!」
『ひよりちゃん、ゲーム中に迷子にならないでね』
レイが言う。
「迷子になりません!」
『前回迷子になってたじゃん』
「それは……」
『してたね』
ミナトが淡々と追撃。
「ミナトまで!?」
コメント欄が笑いで埋まる。
『ひよりいじられてて草』
『2期生仲良いな』
⸻
――チーム分け
「じゃあチームを発表します!」
アリスが仕切る。
「今回はバランスを考えて、こちらで決めましたわ」
「まず――」
「Aチーム!」
画面に名前が表示される。
天宮ルナ
黒瀬レイ
月城ミナト
星乃ひより
「おお!」
ひよりが声を上げる。
「ミナトいる!」
『ひより、私が守る』
「頼もしい!」
ミナトはFPSが得意。
ひよりにとってはかなり心強い。
『私もいるよ!』
ルナが言う。
「ルナ先輩も!」
『任せて!』
レイが笑う。
『……ルナが最初に突っ込んで全滅する未来が見える』
『しないって!』
「ふふっ」
ひよりは笑った。
⸻
「そしてBチーム!」
神楽坂アリス
桜庭こよみ
猫宮こはく
白雪ましろ
『え、こっち癒し枠しかいない』
こはくが叫ぶ。
『アリスいるじゃん!』
『私が作戦を考えますわ』
『絶対こはくが聞かないやつ』
ましろが笑う。
『ふふっ』
「チーム分けだけで面白い……」
ひよりが呟く。
⸻
――ゲーム開始前
待機画面。
「今回のゲームは四人一組のチーム戦です!」
ルナが説明する。
「最後まで生き残ったチームが勝利!」
『つまり撃ち合いね』
レイ。
『そう』
ミナト。
『ひより、私から離れないで』
「はい!」
『絶対離れないで』
「分かりました!」
ひよりは少し安心した。
ミナトがいれば大丈夫。
そう思った。
だが。
『あっ』
ルナの声。
『私、操作設定間違えた』
「え?」
『……走れない』
「えぇ!?」
コメント欄が爆発する。
『始まる前から草』
『ルナ様!?』
『1期生の威厳』
『ちょっと待って!』
レイが笑う。
『ルナ、設定からやり直して』
『分かった!』
「……大丈夫かな」
ひよりが笑う。
⸻
ゲーム開始。
「行きます!」
ひよりがキャラクターを走らせる。
「わ、わ!」
『ひより、右!』
ミナトが指示。
「右!」
『そのまま!』
「はい!」
ひよりが走る。
敵チームが見える。
「いた!」
『撃たないで』
「え?」
『まだ距離がある』
「なるほど……」
ミナトの指示に従う。
レイが別方向から回り込む。
ルナが正面。
「じゃあ私も――」
『ひより、まだ!』
「はい!」
その瞬間。
敵が動く。
『今!』
「えいっ!」
発砲。
敵に命中。
「当たった!」
『ナイス!』
「やった!」
ひよりのテンションが上がる。
⸻
だが。
その直後。
『うわあああ!』
ルナの叫び。
「ルナ先輩!?」
『やられた!』
『早い』
レイが冷静に言う。
『ルナ、開始一分で倒れるのやめて』
『敵が強かったんだよ!』
コメント欄。
『ルナ最速退場w』
『ひよりの方が生き残ってる』
『ミナト有能』
ひよりは笑いながらゲームを続ける。
「ルナ先輩……」
『ひより、私のことはいいから!』
「はい!」
『敵を倒して!』
「分かりました!」
ひよりは真剣になる。
⸻
数分後。
Aチームは三人。
Bチームは四人。
「……」
ひよりは緊張していた。
「ミナト……」
『いるよ』
「敵、近い?」
『近い』
心臓が速くなる。
画面の向こう。
コメント欄も盛り上がっている。
『ひより頑張れ!』
『ミナト頼む!』
『レイもいるぞ!』
そして。
『――来た』
ミナトの声。
「え?」
『正面』
敵が現れる。
「……!」
ひよりが銃を構える。
引き金を――
引く。
「当たって!」
画面が揺れる。
敵のHPが減る。
「あと少し!」
そして。
敵が倒れた。
「やったぁ!」
『ナイスひより!』
レイが褒める。
ミナトも。
『ナイス』
「えへへ……」
ひよりは嬉しくなった。
大型コラボ。
先輩たちと。
同期たちと。
同じゲームをして。
同じ時間を共有している。
それだけで。
今日は最高の日だった。
―Bチーム視点
「……でさ」
白雪ましろは、ヘッドセット越しに笑っていた。
「これ、普通にバランスおかしくない?」
『何が?』
神楽坂アリスの声が返る。
「Aチーム、ミナトいる時点でだいぶ強くない?」
『そこは戦略でカバーしますわ』
『戦略って言ってる時点で負けフラグなんだよなぁ』
猫宮こはくが笑う。
「でもさー」
桜庭こよみが柔らかく言う。
「ひよりちゃんいるの可愛くない?」
『そこ?』
「そこ」
こはくが即答する。
「いや、普通に癒し枠でしょ」
『戦場に癒し枠入れるな』
アリスがため息をつく。
────────
ゲーム開始前。
BチームのVCは妙にゆるかった。
「作戦どうする?」
『正面突破はやめましょう』
アリスが即答する。
『絶対負けますわ』
「じゃあどうするの?」
『包囲ですわ』
『出た、アリスのそれっぽい単語』
こはくが笑う。
「でもさ」
ましろが画面を見ながら言う。
「Aチーム、ルナ先輩いるんだよね」
『あの人、突っ込んでくるタイプでしょ』
「うん」
『じゃあそこ狙えばいいのでは?』
こよみが穏やかに言う。
『優しい顔して一番えぐいこと言うのやめて』
────────
そしてゲーム開始。
「行きますわよ」
アリスの声。
『了解ー』
『りょーかい』
『はーい』
Bチームは慎重に動き出す。
だが。
「……ねえ」
こはくが小声で言う。
『何?』
「Aチーム、ひよりちゃんいるんだよね?」
『いるわね』
「さっきから思ってたんだけどさ」
「ひよりちゃん、普通に上手くない?」
ましろが少し驚いた声を出す。
「え、そう?」
「うん」
「なんか、ちゃんと指示聞いて動いてる」
『ミナトがいるからでしょ』
アリスが即答する。
「いや、それもあるけど」
こはくが続ける。
「反応早くない?」
────────
その頃。
Aチーム。
『今!』
「えいっ!」
ひよりの一撃。
敵撃破。
────────
BチームVC。
「……今の見た?」
『見た』
『見たわね』
『見た』
沈黙。
「……え、あの子初心者じゃないの?」
『初心者ではない動きだったわね』
アリスが冷静に言う。
『ミナトが育ててる説』
「育成ゲームじゃないんだけど」
こはくが笑う。
────────
戦闘中盤。
Bチームは少しずつ押され始めていた。
「やばくない?」
『やばいわね』
『ミナトが強い』
『ルナ先輩はもういないし』
「それ言う?」
────────
そして。
ましろがぽつりと言う。
「ねえ」
『何?』
「ひよりちゃんさ」
「なんか……」
「楽しそうじゃない?」
────────
一瞬、VCが静かになる。
『……まあ』
『それはそう』
『分かる』
アリスが少しだけ笑う。
『あの子、こういうの好きそうですわね』
「うん」
こよみが優しく言う。
「すごく楽しんでる感じする」
────────
その時。
画面の向こう。
ひよりが笑っていた。
「やったぁ!」
小さく、嬉しそうに。
ただそれだけの笑顔。
なのに。
Bチームの誰もが一瞬だけ思った。
「……あの子、いいな」
────────
『でもさ』
こはくが言う。
『負けるのは嫌なんだけど』
『それはそう』
『そこは別問題ですわ』
アリスが即答する。
「じゃあ行くよ」
『最後の突撃ね』
『了解』
────────
Bチームは動き出す。
勝つために。
でも。
その裏で。
誰もが少しだけ思っていた。
この試合は。
ただの勝敗だけじゃない。
“楽しい配信”として完成していると。




