鬼神見つかる
鬼宮鬼神の配信から二日後。
(ちな今日も学校休みです。
理由???をやなもん私がそう決めたから!)
凛は朝からスマホを眺めていた。
「…………ん?」
通知が多い。
SNSの通知。
昨日までは、こんなに来ていなかった。
「何これ……」
寝ぼけた頭で画面を開く。
「…………」
数秒。
「え?」
鬼宮鬼神のアカウント。
フォロワー。
236人。
――ではない。
1,184人。
「…………は?」
凛はスマホを持ったまま固まった。
「なんで?」
昨日の夜までは。
確かに300人にも届いていなかった。
「……何があった?」
慌てて通知を確認する。
そこには。
大量のリポスト。
そして。
一つの投稿。
⸻
『この新人VTuber、FPS中だけ豹変するの面白すぎる』
添付されていたのは。
昨日の配信の切り抜きだった。
内容は。
ゲーム中の鬼神。
『右!』
『そこいる!』
『逃げんな!』
『おい、待てコラ!』
普段の落ち着いた声からは想像できないほど、荒々しい。
そして。
最後の一言。
『……勝った』
少しだけ照れたように笑う。
そのギャップ。
切り抜き動画は。
12万再生。
「…………」
凛は目を疑った。
「じゅ……12万?」
何度見ても。
12万。
「いやいやいや」
自分の動画だ。
間違いなく。
「なんでこんな……」
⸻
コメント欄。
『この子誰?』
『新人?』
『声かわいいのに口悪くて草』
『鬼神って名前なの納得した』
『FPSになると鬼になるの好き』
『普段の喋りとのギャップえぐい』
『この子絶対伸びる』
凛はしばらく画面を眺める。
「…………」
嬉しい。
もちろん嬉しい。
でも。
「……怖」
今まで。
見てくれる人は数十人。
多くても数百人。
それが。
いきなり何万人もの目に触れている。
「……俺、何か変なこと言ってないよな?」
慌てて切り抜きを確認する。
「……言ってるな」
結構言っていた。
⸻
昼。
フォロワー。
1,842人。
さらに。
2,306人。
「…………」
凛はスマホを見る。
「増える速度おかしくない?」
SNSには鬼神についての投稿が増えていた。
『最近見つけた鬼宮鬼神って新人、めっちゃ面白い』
『FPS配信見たけど普通に上手い』
『声かわいいのに言動が鬼なの好き』
『個人勢らしい』
『これから絶対伸びる』
そして。
ある投稿が目に入る。
『鬼宮鬼神、星乃ひよりの配信から知った人も多そう』
「……ひより?」
凛が首を傾げる。
そういえば。
この前の配信で。
ひよりの話をした。
「……あれが関係してるのかな」
分からない。
ただ。
確実に。
鬼宮鬼神という名前が。
少しずつ広がっていた。
⸻
同じ頃。
StellaLive。
事務所の配信部屋。
「……ん?」
星乃ひよりがスマホを見る。
「鬼宮さん……?」
SNSのトレンド。
そこに。
#鬼宮鬼神
の文字。
「えっ」
ひよりがタップする。
「……すご」
切り抜き。
数十万再生。
「昨日までこんな感じじゃなかったよね……?」
コメントを見る。
『この新人誰?』
『鬼神っていうのか』
『ひよりちゃんが話してた人?』
「……!」
ひよりの目が少し大きくなる。
「私が話してたから……?」
もちろん。
実際にはそれだけではない。
だが。
ひよりが配信で鬼神について話したこと。
そしてその後の切り抜き。
いくつかの偶然が重なって。
鬼宮鬼神は一気に注目を集め始めていた。
「……鬼宮さん」
ひよりは少し嬉しそうに笑う。
「頑張ってるんだ」
⸻
そこへ。
「ひよりー?」
ドアから同期の声。
猫宮こはくだった。
「何見てるの?」
「鬼宮鬼神さん」
「鬼神?」
「うん」
こはくがスマホを覗く。
「うわ、再生数すご!」
「でしょ?」
「この人、最近話題になってるよね」
「うん」
「ひより、この人好きなの?」
「えっ!?」
ひよりの顔が赤くなる。
「ち、違うよ!」
「怪しい」
「本当に違うって!」
そこへ。
「何の話?」
月城ミナトもやってくる。
「鬼神さんの話」
「へえ」
ミナトも動画を見る。
「……FPS上手いな」
「でしょ?」
ひよりが少し嬉しそうに答える。
「これ、個人勢?」
「うん」
「なら、今後伸びそう」
さらに。
「誰が伸びそうなの?」
白雪ましろも入ってくる。
「鬼宮鬼神さん」
「あら」
ましろが画面を見る。
「可愛い声ね」
「そうなんです!」
ひよりが食いつく。
「……」
三人がひよりを見る。
「……何?」
「いや」
こはくがニヤッとする。
「ひより、めっちゃ詳しいじゃん」
「そ、それは……!」
⸻
その夜。
鬼宮鬼神。
SNSフォロワー。
3,000人。
登録者。
2,100人。
凛は数字を見ながら。
「…………」
しばらく無言だった。
そして。
「……本当に増えたな」
数日前まで。
誰も知らなかった。
自分だけの名前。
それが。
少しずつ。
誰かの画面に表示されるようになっている。
「……もっと頑張らないとな」
凛は笑う。
まだ。
大手ではない。
まだ。
新人。
それでも。
確実に。
鬼宮鬼神という名前は、VTuberの世界に見つかり始めていた。
そして。
その名前を。
すでに知っている少女がいる。
星乃ひより。
彼女が。
鬼神と初めて言葉を交わす日も。
少しずつ近づいていた。




