鬼神、事務所VTuberを知る
土曜日。
午後八時。
「よし」
凛はパソコンの前に座っていた。
今日はゲーム配信。
最近少しずつ人が増えてきたこともあって、以前より配信を始める時の緊張は少なくなっていた。
配信画面を確認。
マイクよし。
ゲームよし。
配信タイトルよし。
【FPS】今日も撃ち合う。【BULLET RUSH】
「……よし」
配信開始。
⸻
「よぉ」
画面に鬼宮鬼神が映る。
「鬼宮鬼神だ」
コメントが流れる。
『きた!』
『こんばんは!』
『待ってた』
『今日もFPS?』
「今日はFPS」
「最近これ結構ハマってる」
ゲームを起動する。
同時視聴者はすでに30人ほど。
少し前なら考えられない数字だった。
「じゃあ今日も勝っていくぞ」
『フラグ』
「うるせぇ」
⸻
数試合。
鬼神は順調にキルを重ねていた。
「一人」
撃つ。
「二人」
さらに撃つ。
「……あと一人」
敵が角から出てくる。
「そこ!」
ヘッドショット。
「よし!」
『うまい』
『鬼神エイムえぐい』
『FPSだけ見ると普通に強者』
「まあな」
少し得意げに笑う。
「これでもゲームは結構やってたからな」
『何のゲームやってたの?』
「いろいろ」
『昔からFPS?』
「まあ、そこそこ」
コメントを拾いながらプレイしていると。
一つのコメントが目に入った。
『そういえば星乃ひより知ってる?』
「……星乃ひより?」
凛は少し考える。
「ああ」
「知ってる」
『知ってるんだ』
『この前話題に出てたよね』
「この前、配信見た」
「たまたま見つけたんだけど」
もちろん。
その「この前」が。
自分のことを話していた配信だとは言わない。
というより。
凛自身、そのことを少ししか知らない。
「結構明るい人だよな」
『かわいいよね』
「うん」
「普通に可愛いと思う」
『鬼神が他の女の子褒めてる』
「なんだよ」
『浮気?』
「付き合ってねぇよ!」
コメント欄が一気に流れる。
『草』
『鬼神、彼女いないもんな』
「いないって言ってるだろ」
⸻
次の試合を待ちながら。
凛は少しだけ話を続ける。
「星乃ひよりって、StellaLiveだっけ?」
『そう』
『ステラライブ2期生』
「2期生なんだ」
『そうだよ』
「へぇ」
凛は少し興味を持つ。
「じゃあ先輩もいるのか」
『1期生が4人』
『天宮ルナとか』
『黒瀬レイとか』
『桜庭こよみ、神楽坂アリス』
「結構いるんだな」
「事務所ってそういう感じなのか」
『鬼神は個人勢だからな』
「そうだな」
凛は頷く。
「俺は一人でやってるから」
「事務所とかはよく分からない」
『入らないの?』
「んー……」
少し考える。
「今は別に考えてないかな」
『個人勢の鬼神が好き』
『このままでいてほしい』
「……そう言ってくれるなら」
少し笑う。
「今のままでいいかな」
⸻
その時。
『ひよりちゃんとコラボしてほしい』
コメント。
凛は目を丸くする。
「え?」
『鬼神×ひより見たい』
『絶対面白い』
「いやいや」
「まだ俺、話したこともないからな?」
『ひより側は知ってるぞ』
「……そうなの?」
『この前配信で鬼神の話してた』
「……あ」
凛は少し驚く。
「そういえばそうだったな」
SNSで見かけたことを思い出す。
「ありがたいな」
『ひよりちゃん鬼神好き説』
「それは知らん」
『かわいいって言ってたよ』
「…………」
凛は黙る。
「……そういうこと言うなよ」
『照れてるw』
「照れてねぇ」
『顔赤そう』
「見えてねぇだろ!」
コメント欄が笑いで埋まる。
⸻
「でも」
凛は少し考える。
「いつかコラボとかできたら面白そうではあるな」
『きた!』
『コラボ期待』
「いや、今すぐとかじゃないぞ」
「俺、まだ全然だから」
登録者。
数百人。
まだ新人。
事務所所属の配信者と並んで話すには、自分はまだまだだ。
そう思っていた。
「まずは自分の配信をちゃんとやって」
「もう少し名前が知られるようになってからかな」
『応援するぞ』
『鬼神ならいける』
「……ありがとな」
⸻
ゲーム開始。
「よし、集中する」
さっきまで雑談していた空気が一変する。
「右!」
敵を倒す。
「左もいる!」
さらに一人。
「あと二人!」
撃ち合い。
勝利。
「っしゃあ!」
『強すぎ』
『ひよりとコラボしてほしい』
「まだ言ってんのか!」
笑いながら返す。
⸻
配信終了。
「今日はこの辺で」
「また次の配信でな」
コメントが流れる。
『おつかれ!』
『楽しかった』
『ひよりコラボ待ってる』
「だから気が早いって」
笑う。
「じゃあな」
配信終了。
⸻
静かな部屋。
凛は椅子に座ったまま、さっきのコメントを思い出していた。
「……星乃ひよりか」
配信者としては。
少し気になる存在。
明るくて。
話しやすそうで。
人気も伸びている。
「……いつか話せたらいいな」
そう思う。
しかし。
凛の頭に浮かんだのは。
配信で見た星乃ひよりの姿だけ。
学校で会った。
白石ひよりの姿ではなかった。
同じ一年生。
同じ学校。
そして。
同じ「ひより」という名前。
それでも。
凛は二人を結びつけることなど。
まったく考えていなかった。
――まだ。
二つの世界は。
繋がっていない。




