男子から
一時間目の体育。
別日もクラス合同での授業だった。
「今日は男子がグラウンド、女子は体育館!」
体育教師の声が響く。
「男子はサッカー!」
「女子はバスケットボール!」
「それぞれ準備して始めろ!」
「うっしゃ!」
男子の何人かが声を上げる。
その中に、
「サッカーなら任せろ!」
と声を上げた男子がいた。
神谷颯真。
明るく社交的で、クラスでもかなり目立つタイプ。
そして、その隣。
「お前、サッカーそんな得意だっけ?」
冷静に突っ込んだのは、
桐生蓮。
黒髪で整った顔立ち。
颯真とは対照的に落ち着いた性格だが、二人は入学してからすぐに仲良くなった。
「まあまあ得意」
「絶対嘘」
「ひどくね?」
「前の体育で空振りしてただろ」
「……あれは芝が悪かった」
「体育館だぞ、あれ」
「細かいことはいいんだよ」
「はいはい」
二人は笑いながらグラウンドへ向かった。
⸻
一方。
女子は体育館。
バスケットボールの授業が始まっていた。
「よし、じゃあチーム分けするぞー!」
先生の指示で、生徒たちがそれぞれのコートへ散っていく。
その中に。
朝倉凛。
水野乃愛。
そして。
別クラスの女子、
白石ひより。
三人の姿があった。
「凛、一緒のチームだね!」
「うん」
乃愛が嬉しそうに笑う。
「白石さんも一緒だよ」
「よろしくお願いします!」
ひよりが笑顔で頭を下げる。
「よろしく」
凛も軽く頭を下げた。
「朝倉さんって、バスケ得意?」
「普通かな」
「絶対普通じゃないよ」
乃愛が笑う。
「凛、運動神経いいんだから」
「そう?」
「そうだよ」
ひよりも笑った。
「じゃあ頼りにしてるね」
「うん。できる範囲で」
そう言って、凛はボールを受け取った。
⸻
同じ頃。
グラウンド。
「颯真!」
「おう!」
ボールが飛んでくる。
颯真がトラップ。
そのまま前へ走る。
「行け!」
パス。
「ナイス!」
男子たちが声を上げる。
その隣では蓮も走っていた。
「こっち!」
ボールを受ける。
ドリブル。
一人抜く。
「おお!」
シュート。
「入った!」
「ナイス蓮!」
男子たちが盛り上がる。
「どうよ!」
蓮が少し得意げに笑う。
「調子乗んな!」
颯真が笑いながら肩を叩く。
そんな中。
休憩の合間。
颯真がふと体育館の方を見る。
「……なあ」
「ん?」
蓮もそちらを見る。
体育館の大きな窓。
そこから中の様子が少し見える。
「女子、バスケやってんな」
「そりゃ体育だからな」
「そうじゃなくて」
颯真が目を細める。
「……あれ、朝倉じゃね?」
蓮も見る。
「……ああ」
体育館の中。
黒髪を揺らしながら走る凛。
ボールを受ける。
一瞬だけ周囲を見る。
そして。
ドリブル。
そのまま綺麗にシュート。
「入った!」
乃愛が嬉しそうに手を上げる。
凛も小さく笑う。
「…………」
颯真が黙る。
「……何?」
蓮が聞く。
「いや」
颯真が少し考える。
「朝倉って、あんな笑い方するんだな」
「……俺も今初めて見た」
普段の凛。
教室では基本的に落ち着いている。
男子からすると、少し話しかけづらいくらいの美人。
だからこそ。
あの一瞬の笑顔が。
二人には妙に印象に残った。
「……可愛くね?」
颯真が呟く。
「うん」
蓮も素直に答える。
「かなり」
「だよな」
⸻
「おい!」
先生の声。
「サッカー止まってるぞ!」
「あ」
二人は慌ててグラウンドへ戻る。
「よそ見してんなよ!」
「すみませーん!」
笑いながら再びボールを追う。
しかし。
しばらくすると。
また颯真が口を開いた。
「……でもさ」
「何?」
「朝倉って、普通にモテそうだよな」
「そりゃそうだろ」
「彼氏とかいるのかな」
「知らない」
「付き合ってみたいわ」
「お前、本人とまともに話したことないだろ」
「それはそう」
「じゃあ何で付き合いたいんだよ」
「可愛いから」
「理由が単純すぎる」
二人で笑う。
「でもお前は?」
颯真が聞く。
「……」
蓮は少しだけ体育館を見る。
「俺も、ちょっと気になる」
「お?」
「いや、まだ好きとかじゃない」
「はいはい」
「本当に」
「分かってるって」
颯真はニヤニヤする。
⸻
そして。
体育館では。
「白石さん、ナイス!」
「ありがとう!」
ひよりが笑顔で返す。
ボールを受けて。
少しだけ迷う。
「えいっ!」
シュート。
リングに当たる。
――外れる。
「あー!」
ひよりが悔しそうにする。
「惜しい!」
乃愛が笑う。
「もう一回!」
「うん!」
ひよりが笑う。
その姿を。
体育館の外から偶然見た男子がいた。
「……あの子も可愛くね?」
「誰?」
「白石さん」
「ああ、隣のクラスの」
「そう」
別の男子も頷く。
「めっちゃ可愛いよな」
「なんか話しやすそう」
「分かる」
「付き合ったら楽しそう」
「お前、またそれかよ」
「だって可愛いじゃん」
笑い声が起こる。
どうやら男子たちの間では、白石ひよりもかなり評判がいいらしい。
⸻
そして。
グラウンドの颯真と蓮。
二人は再び休憩に入っていた。
颯真が水を飲みながら、体育館を見る。
「……あの子も可愛いな」
「白石さん?」
「そう」
「明るいよな」
「うん」
「水野も可愛いし」
颯真が指を折る。
「朝倉も可愛い」
「白石さんも可愛い」
「……この学年、可愛い子多くね?」
「それは思う」
蓮が笑う。
体育館では。
乃愛が楽しそうに友達と話している。
凛は少し離れた場所で水を飲んでいる。
ひよりは友達と笑っている。
三人とも。
タイプが違う。
だからこそ。
男子からすると、それぞれに魅力がある。
「俺だったら――」
颯真が言いかける。
「ん?」
「いや、なんでもない」
「何だよ」
「……水野ちゃんと付き合ってみたいかも」
「お前、今度は水野かよ」
「いや、だって明るいし可愛いし」
「まあ、分かるけど」
「お前は?」
蓮は少し考える。
「……朝倉」
「やっぱり?」
「うん」
「じゃあ俺、水野狙うわ」
「勝手にしろ」
「応援してくれよ」
「はいはい」
二人は笑った。
⸻
体育終了。
女子たちが体育館から出てくる。
凛。
乃愛。
ひより。
三人はそれぞれ友達と話しながら校舎へ戻っていく。
「凛、次なんだっけ?」
「数学」
「うわぁ……」
「乃愛、数学苦手だもんね」
「凛教えてよー」
「いいよ」
「やった!」
そんな会話をしながら歩いていく。
少し離れたグラウンド。
片付けをしていた颯真と蓮は。
その後ろ姿を眺めていた。
「……やっぱ可愛いな」
颯真が呟く。
「誰が?」
「三人とも」
「欲張りだな」
「だってしょうがないだろ」
蓮が苦笑する。
「でも俺は朝倉さん」
「はいはい」
颯真は笑う。
「じゃあ俺は水野ちゃん」
「白石さんは?」
「……」
二人は顔を見合わせる。
「……可愛いけど」
「うん」
「俺らにはまだ早いな」
「何それ」
二人で笑う。
まだ。
誰も知らない。
この三人の少女たちが。
これから学校生活だけではなく。
それぞれ違う場所で。
少しずつ物語に関わっていくことを。
そして。
男子たちが「可愛い」と話していた朝倉凛が。
ネットの世界では。
鬼宮鬼神として、少しずつ名前を知られ始めていることを。




