第十四話『おこめちゃん』
まさか百瀬家があんな場所にあって、あの店が百瀬家だったとは驚きだったが、それ以上に妙に互いの家が近かったのだなと思いながら、俺はあの騒がしさを少しだけ羨ましく思い、自宅に帰宅する。
この家には『おはよう』という言葉がない。『おやすみ』がある家でもない。
だから、『ただいま』も『おかえり』も必要はない。
「……ただいま」
それでも、俺が持っているか持っていないかは、別の話。
返ってくる言葉はない。母には聞こえていないだろうが、父は察知系なのだから、俺の帰宅に気づかないわけがない。
だけれど、彼はもう既にこの家庭環境に対して、俺以上に心を閉ざしている。
「まぁ、いつものことだわな……」
父も母も在宅ワークだが、俺が帰ってきた所でわざわざおかえりと言いにくることなどない。二人の前に顔を出したとしても、一瞥されて終わりだ。
それでも俺は、自分が今この場所に存在しているのだという宣言を伝えるかのように、毎度ただいまという独り言を、家に帰る度に、呟き続けている。
――それは希望かもしれないし、呪いかもしれない。
いつかおかえりと言われたら、きっと俺は困ってしまうのだろう。
それでも俺は、家族の誰かがただいまと言った日に、おかえりと言えるようになりたい。
おはようと、声をかけた時に、ちゃんとおはようと返ってくる事を、小さく祈ってしまっている。
「しかし、色々あったな」
俺は二階の自室に上がり、制服のまま、ベッドに寝転ぶ。
感情が渦巻く日だった。楽しいことがあったような気もするし、苛立ちを覚えたような気もする。
それらをひとまとめにするには、あまりにも色んなことが起きすぎた。
制服から部屋着に着替えて、ぼんやりと今日の出来事を反芻していると、あまり鳴らぬスマートフォンからポコポコと通知音が鳴り始めた。俺はとりあえずスマートフォンをミュートにして、画面の通知の先を見る。
想像していた通りのグループチャットが、どんどんと通知を積み上げていく。
陽雁『やほーい』
おこめ『わーい』
陽雁『こういうの、秘密基地みたいでなんかワクワクするよね』
陽雁『葦名くんはまだかな?』
おこめ『多分まだ帰ってる途中なんじゃないかな?』
陽雁『うちと近所みたいだから、もう着いてるよ。どうせ見てないんだ!』
おこめ『(可愛いクマが困り顔をしているスタンプ)』
ヒカリのいつも調子に、思わず通知ごと切って無視しようと思いかけたが、それもあんまりなので軽く返信だけしておこうとスマホを手に取る。そうしてグループチャットを開いた瞬間、スポッと新しいメッセージが表示される。
陽雁『おか!』
陽雁『(頭身が高い奇妙な動物が奇妙な踊りを踊っている動くスタンプ)』
おこめ『わーい』
おこめ『わーーーい!』
葦『暇なのか?』
既読通知がついた瞬間から、この二人にとっては会話開始の合図のようなものなのかもしれない。
とはいえ、ヒカリは本名が好きだと言っていたから、普段は本名を使っているのも分かるが、稲穂の『おこめ』ってネーミングセンスは独特すぎる。
文面を見る限りでも、思ったより稲穂はネットのテンションが高いのかもしれない。
わーいくらいしか言ってはいないのだけれども、それでも彼女の雰囲気から考えると、無邪気にわーいだなんて言っている稲穂を想像出来ない。想像出来たら、それはそれで和みそうだけれど、そういうタイプでもないだろう。
陽雁『私はお酒のボトルを拭いている……』
葦『飲むなよ?』
陽雁『あったりまえでしょ? 飲めもしないのに掃除ばっかりするなんてね……よよよ』
おこめ『私はご飯を焚いている……』
葦『偉いな』
陽雁『なんか私と扱いが違くないかな?』
葦『そうだな、違うな。眠いから寝ていいか?』
おこめ『(びっくりしたクマのスタンプ)』
おこめ『夜眠れなくなっちゃうよ!』
陽雁『葦名くんは怠惰だなぁ……』
葦『考えてみてくれ。普段机に突っ伏している俺が、今日みたいなことが起きて疲れないと思うか? 逆に元気すぎないかお前ら』
陽雁『(頭身が高い奇妙の動物がガッツポーズをしているスタンプ)』
おこめ『(頭身の低い可愛げなクマがガッツポーズをしているスタンプ)』
とりあえず、想像以上にこの二人はやけに仲が良く、波長が合っている事だけは分かった。
明日からこのグループチャットが正しく機能しますように、と願いつつ、俺は早々に疲れを取ろうと思い、スマホを置いて風呂場へ向かう。
「あぁ、帰ってたの」
「あぁ、帰ってたよ」
母との会話、だけれどそこに感情があるかと言われたなら、お互いに存在していないのだろう。
それを悲しいと思うことは、もうとっくになくなっていた。
ただ、母は母としての義務のようなものを彼女なりの判断で果たして、俺は息子として、母が求める義務なようなものに付き合う。
「しかし、変わらないね、キミも。曰く人間は選択から逃げられない。キミはいつまでその力から逃げ続けるのかな?」
「逃げるという選択もまた、選択だろ。その代わりに俺は逃げた選択の責任をこんなお遊びで消化してるだろ」
これが、俺と母との日常会話だった。
そこに意味があるかと言われたなら、母の知的好奇心をほんの少しだけ埋める。その程度の意味しか無いのだろう。
俺はただただ、母が投げてくる哲学的な言葉から、のらりくらりと逃げつづけているだけ。
彼女はきっと、その哲学や主義の正答や、論戦を今の俺と繰り広げたいのではない。思い通りに生まれなかった実の息子相手に、ただひたすら思考実験を繰り返しているだけの悲しい女性なのだと思っている。
それはある意味で、思考系アドを持って生まれなかった時点で彼女にも課せられた呪いなのだろう。
母はつまらなそうに鼻で笑ってから、居間のテーブルの上に二人分の食事を置き、自室へと戻っていった。
「ほんとはアンタも、直接議論できる相手が欲しかったんだろうな……」
ただ、その可能性の俺を考えても、結局の所、母の玩具になっていたのだろうと思えば、やはりアドを好きにはなれない。
俺は風呂の湯沸かし器をセットし、味の薄い食事を口に運ぶ。実際、作ってくれるだけありがたいとは思っている。誰かのように、食事について合理不合理を考え始めたら、暖かい食事が出てくるかなんて分からない。
母の場合、世利華のように倫理や感情を理解するのが不得意なわけではなく、倫理がズレているだけだ。
だからこそ、食事を作ってくれるあたり、母なりの感覚として子を成した責任だと理解しているのだろう。
父もまた在宅の仕事だから互いに家事は分担しているようだし、実際のところ、俺は家庭環境の冷たさの割に、暖かい食事もまともな住居も必要な生活資金も貰うことが出来ている。
それについては感謝している。だけれどその感謝が伝わることはない。
それ以上にこの家には、人としての何かが大量に欠けている。
「……母さんはどうだ?」
早めの夕食を摂っている俺の前に、父が座る。俺は、彼が座った事だけを意識する。決してその目は見ない。
「どうもこうも、かな。いつも通りだよ。今日はサルトルの選択論だった」
問われた内容を思い出し、聞き飽きるほど言われ続けた哲学者の名前の一人を答える。
「……はは、相変わらずだな」
これもまた、会話ではなかった。会話のように思える調査でしかない。
父は強い察知系アドを持つが、臆病で壊れやすい。
母のような思考強度の高い人間とまともに向き合えば、簡単に心の安定が崩れてしまう。
だから、父はいつも俺を通して今日の母を知る。変わらないやり取りを淡々と続ける。
俺は怒りも悲しみも隠して、味のしなくなっていく食事を口に運ぶ。
それなのに俺は、そんな父を一瞥する事すら出来ない。
――この、怒りや悲しみ、そうして不憫だと思う気持ちが、きっと彼に透けてしまうから。
それが、どうにもひどく哀れにも思えた。彼はどうすれば幸せになれたのだろうか。
どうして母と出会い、俺という子を成す事が出来たのか、聞く気もなければ聞きたくもないが、正直、想像もつかない。
もしかすると、母の呪いを、俺よりも前から受け続けた結果が、居間にいる父なのかもしれないなと、そう思った。
「ご馳走様。風呂、先に入るけど、沸かしてあるから」
「あ、あぁ……。すまないね、後で頂くよ。母さんには?」
「風呂場に行く時に会ったから、きっと分かってると思う」
父は軽い愛想のような返事をして、そうして彼との会話のようなやり取りが終わる。
俺は食器を流し台に置くと、丁度風呂の準備も出来たようで、俺は寝間着を取りに部屋へと戻る。
風呂を沸かすくらいのことは、俺がやったとしても問題はない。
時折、食器を洗っても良いのではないか、洗濯機を自分で回してもいいのではないかと思う時がある。
だけれど、それは父が分担されている家事であり、それを俺が代わりにやってしまうということにすら、彼は何らかの意味を察そうとしてしまい、心に傷を負わせてしまう可能性がある。
俺から見れば、性格の問題もあるのではないだろうかと思うし、時々病的なのではないかと思ってしまうこともある。ただそれも結局、今じゃアドという言葉に帰結する。
結局、俺はこの家に縛られ、そうしてひたすらに養われている。なまじ父と母の稼ぎは悪くない。
だからバイトをするにしても、母は何故かと問い、父は何故だと嘆く。
それらに対抗するほどの理由を、俺は持っていない。
思考は出来る限り続けたし、続けさせられている。
察知についても同様に、周りを細かく見られるような努力はしてきたし、させられてきた。
しかし、両方とも大成の予感はなく。俺には運動系のアドだけが残った。
アドは嫌いでも、得た者の務めとして、多少の鍛錬はするものの、何に精通しているわけではもない。
そんな中途半端な存在がが、今の俺だ。
いつか、一人暮らしをしてやろうと企んではいるけれど、その為の資金は月一で渡される小遣いを貯める事しか出来ない。
求められるだけの努力ならばしてきたはずだ。
だけれど俺の知る限り、完全な思考系アドの持ち主と、完全な察知系アドの持ち主に敵うかと言われたなら、そんなはずもないのだ。
寝間着を取りに戻ったついでにスマートフォンを確認すると、相変わらず通知の連打が続いていた。
おこめ『あれ? 葦名くん寝ちゃった?』
陽雁『えー、ほんとに寝るやつがいるかよーう! 夜はまだまだこれからだぞー?』
おこめ『まぁ、今日は色々大変だったからね……あとそのセリフは本当に夜が更けた時に言うんじゃ? まだ19時だよ?』
陽雁『(頭身が高い奇妙な動物がショックを受けているスタンプ)』
葦『風呂入れてた。今日はもう入って寝る』
おこめ『早寝早起きは健康に良いよね!』
おこめ『(可愛いクマがグッと親指を立てているスタンプ)』
陽雁『(頭身が高い奇妙な動物が両手でピースサインを作っているスタンプ)』
楽しそうだな、とふと思う。この家の中でこういう気持ちを覚えるのは久しぶりだ。
葦『ヒカリはスタンプのセンスを一旦考えた方が良い』
陽雁『(頭身が高い奇妙な動物が地団駄を踏んでいるスタンプ)』
俺はスマートフォンから目を逸らして、風呂に入り、シャワーでは流しきれない程の疲れを、湯船の中でゆっくりと溶かしていく。
このままふやけて、少し思考が柔軟になればいいのだが、さっきの母の言葉が頭を過ぎる。
――人間は、選択から逃げられない。
誰が引用しただとか、本当の意味がどうだとかは、きっと俺にとってはどうでもいい。
ただ、その言葉を母がさっき口にしたという偶然が、いやに自分の感情を揺らしていた。
風呂から上がり、疲れからかスマートフォンも見ずに通知を切って、俺はベッドに倒れ込む。
気付けば次の日の朝になっていて、ぼんやりと携帯の画面を見るとものすごい量のグループチャットのログと、俺個人宛のチャットが届いていた。
陽雁『家の前でブラツイてるから、一緒行こ』
確かに、ヒカリ自身の正義というものを手伝うと決めたわけでもないが、単純に見ていて危なっかしいのは確かだ。一緒に登校するくらいは構わないかと思い、返信をする。
葦『今から準備する。着いたらメッセージ送るから家の中で待っててくれていいぞ』
そう伝えると、相変わらず頭身が高い奇妙な動物のスタンプが画面でクネクネと踊っていた。
「あぁ、そうだよな……好みを否定するのはやめるか」
俺は一人呟いてチャット画面を閉じ、さっさと朝の支度を済ませる。
多少普通の家庭と違うが、我が家にも朝のルーティンくらいはある。
母は食卓に普通の食事を並べている。
父は食卓に座り、新聞で顔が見えない。
「さて、昨日の続きだよ。逃げるのが選択であり、私との対話でその責任を取っていると言ったね?」
――こんなルーティン、あってたまるか。
父の身体がピクリと動く。しかし、問われているのはあくまで俺だ。
もしかすると、俺が生まれるまで問われたのは彼だったのかもしれない。
「あぁ、言った。俺はアドを良しとしないからな。ただ、アドを行使しない選択の代わりに、アンタの言語ゲームに乗っかっている。採算が合わないか?」
「ふむ……言語ゲームとはキミも多少は学をつけたね。しかし、しかしだよ。キミが選択の立場を持つという事の意味が分かるかな?」
面倒な問答が続く。
俺は決して、何らかの立場を取るつもりはない。
ただ俺は、思考を突き詰めた結果、最終的に言語ゲームという言葉に辿り着いた一人の哲学者を、目の前の母に重ねて揶揄しただけだ。
「俺に立場なんかあるもんかよ。ただ、アンタとの会話はつまらない。それでもこれがその対価だって言うなら、俺は無理をしてでも食いつくしかないだろ? ……頂きます」
俺はニヤついて自室へ戻る母が振り向きざまに笑う。
「選択をしないという非選択が、もう立場を持っているのだがね」
、食事を作ってくれたせめてもの義理として頂きますと言ったが、その言葉に返事はない。
代わりに、嫌味のような真実を一つ置いて、母は自室に戻っていった。
「相変わらず、だね。大変な役目だと思うよ」
父が新聞を置き、また俺を気遣っているような言葉を置く。
彼の言う『役目』という言葉に、きっとこのやり取りは他人事じゃなかったのだろうなと思ってしまう。
ただそれは、やはり長く暮らしているからこそ分かるが、俺を想っての言葉ではない。
母と俺によって淀んだこの空気を、彼なりに和ませたと納得させる為に行われている彼の為の言葉だ。それが分かっているからこそ、俺は何でもないように笑う。
「慣れたよ。それに、昔は父さんの役目だったんだろ?」
「はは……それもそうだね」
あえて、役目という言葉を返すと、父は困ったように笑う。
その笑いが徐々に消えて、そのまま、会話は終わった。そんな事も、長年の関係で分かっている事。
会話が続かないという事は、彼の中では、もう問題がないということだ。
やはり、朝はあまり良い気分ではない。極力二人と接触することも、会話をすることも避けたいけれど、家族としては機能していなくとも、家庭としては機能している以上、どうしようもない。
事実、俺は今日の昼食を購入するための金銭も受け取っているし、朝食だってまともなものを食べさせてもらっている立場なのだから。
朝食を終え、独り言の「ご馳走様」を告げて、準備をしてから独り言の「行ってきます」とともに、俺は家から出る。
崩れがちに見えた昨日の天気より、ハッキリと崩れて曇っている天候。
正直、晴れたり曇ったり雨が降ったりするよりかは、このくらいの方が良い。
俺はスマートフォンで今日の天気予報を見て、一日中曇っているという事だけ確認し、傘を持たないまま、ヒカリの家の方へ向かった。
葦『そろそろ着く』
陽雁『りょ!』
信号待ちの間に、簡単なメッセージを送ってから、俺は昨日寝てからのグループチャットを確認する。
おこめ『葦名くん寝ちゃったかな?』
陽雁『思ったより健康的なんだねぇ』
おこめ『葦名くんらしくて良いと思うけどなー』
おこめ『葦名くん、学校じゃ結構寝てること多いしねー』
陽雁『そだっけ? 流石稲穂ちゃんはみんなのこと良く見てるなぁ』
おこめ『(可愛いクマがドヤッと胸を張るスタンプ)』
おこめ『それはそれとして明日は私、早めに登校しとくね。ちょっとクラスの様子見ておくよ』
陽雁『一緒しよっか? 葦名くんを叩き起こすのは悪いし、私も早く出る?』
おこめ『んーん、大丈夫。朝から暴力沙汰ってこともないだろうし、二人はいつも通りで大丈夫だよ』
陽雁『了解! じゃあ適当に、葦名くん引っ張ってくねー。それじゃまた明日!』
おこめ『(可愛いウサギが耳を振っているスタンプ)』
どうしてだろう、何故か表示されているのは『おこめ』という文字なのに、『おこめちゃん』と呼びたくなってしまう衝動に駆られる。
おこめちゃん改め稲穂さんは、やはりチャットだと妙にテンションが高いというか、スタンプからあざとさすら感じる。無意識だろうけれど、スタンプが動物系なのも、解釈が一致する。
やはり女子高生は女子高生、単純に可愛いものが好きなのだろう。
ただ、そう考えるとヒカリのスタンプはどうなのだろうということについては、一旦保留にしておくことにした。
もう少しでBAR百花が見えそうな所まで来ると、遠くにヒカリの姿が見えた。
彼女は俺に気づくと、大ぶりでブンブンと手を振ってくる。普段は猫のように俊敏でも、仕草はまるで大型犬を見てるみたいだなと思いつつ、苦笑しながら俺も軽く手を上げた。
しかし、会ってそうそう文句を言われる。
「なんかさなんかさ、チャットの葦名くんって、普段以上に冷たくない?」
「いや、お前らが元気すぎなだけだよ……実際、女子二人のテンションに俺がついていけると思うか?」
ヒカリは少し考えたような素振りをして、立ち止まりスマートフォンを覗く。
「んー? そんなテンション高いかな? こんなもんじゃない?」
「いや、少なくともおこめちゃんは普段よりテンション高く見えたぞ。それはそれで和んだけども」
「おこめちゃん?!」
「あっ……と、まぁなんかそういう雰囲気だろ。あの感じは」
思わずちゃん付けで呼んでしまったことを誤魔化しながら、俺はヒカリから顔を逸らす。
二人は普段からやり取りをしているだろうから気づいていないのだろうけれど、ヒカリの通常営業は別に何処だろうと変わらないのは納得として、稲穂はやはり現実のイメージとの乖離が見える。
「稲穂ちゃんねー、ほんとはとっても明るい子なんだよ? 今は結構大変そうだけどさ」
「……そんなもんか。二人は前から?」
「そだねー、小学校が一緒で、中学校は別々で、高校でまた一緒!」
まぁ、分からない区切りでもない。通う学校の区分は絶妙なラインが引かれているし、俺とヒカリが通っていた中学がライン的にギリギリ別だと考えれば、昨日早々に分かれた稲穂とヒカリが小学校と中学校でずれるのも納得だ。
しかし、高校で再会というのもまた、機縁だなと思う。俺にはそういう友人はいない。
というより、友人関係は疲れる事が多かったから、中学校時点で一区切り、高校一年で一区切りとしている節があった。
「仲が良くて何よりだよ。俺のことはまぁ気にせず楽しくやってくれ。ただ学校では真面目にしてくれよ?」
流石に、授業中に通知連打されるのは、勘弁していただきたい。完全に通知をミュートにして気づかないというのも避けたいので、扱いには少し困るが、この一件も長引かせるつもりはない。
なんとかして早々に決着をつける方法を探せばいいだけだ。
「稲穂は……先に行ってるみたいだな? 変に巻き込まれてなきゃいいが」
「あの子も結構強い子だし、大丈夫だよ。下手なこと言って相手を怒らせるような子でもないしね」
そこは、付き合いが長いヒカリの言葉を信じる事にする。
結局、この騒動を収束させる為に動いているのはヒカリと稲穂、そうして別の軸で山岸だ。
俺に出来る事は、とりあえず世利華との接点を作って、彼女自身に状況の打破に動いてもらう事だろう。
ただ、学校に着き、クラスに入って最初に感じたのは、嫌悪感だった。
もう、そこまで状況が進行するものかという、単純な悪意の露見が、世利華の周りにこびりついていた。




