009 森の西の町(6)
マルス達の住む大陸のほぼ中央に魔の森がある。
その魔の森からはるか北西、大陸の端にある魔王城。
昔、勇者アルバスが魔王と戦った場所である。
魔王がアルバスに敗れてから廃城になっていた。
その魔王城の廊下を一人の男が歩いていた。
男は闇の魔力を纏っていて、魔族と呼ばれる者だった。
魔王城は、近年再び魔族の根城となっていた。
その魔族は、青年男性の容姿をしていたが、魔族特有の青黒い顔をしていた。
廊下を歩いて行き、やがて部屋に入った。
その部屋には、別の魔族が円卓の席に座っていた。
座っている魔族は、同じく青黒い顔をしており、顎ヒゲをたくわえ老人の姿をしていた。
「ブルクか、どうした」
老人の姿の方が格上なのか、入ってきた魔族に横柄に尋ねた。
「森の西に遣わした者が、人間どもに捕まったようです」
そう、サンリを操っていたのは、このブルクと呼ばれる魔族であった。
老人の魔族は、不機嫌そうに言う。
「だから、あまり派手にやるなと言ったろう」
「申し訳ありません。遣わした者がいまいちだったようで……」
ブルクは悪びれた様子もなく答えた。
「目的は済んでいるのだろう?」
老人の魔族が尋ねると、ブルクは答えた。
「もちろんです」
「ならばいい!」
老人の魔族は言うと、さらに続けた。
「我らの悲願成就は近い、それまで気を抜くな!」
ブルクはうなずく。
もう一人、老人の魔族の向かいに、女性の姿をした者が座っていた。
その者は魔族ではないのか、青黒い顔はしていなかった。
◆◇◆◇
マルス達がサンリとの対決から数日後。
町の騒動も一段落して、領主の館の修理も始まっていた。
その館の被害のなかった一室で、マルスとモニカが話していた。
「あの魔人になったサンリという男は、アルバス機関の本部に移送することになった」
モニカが話す。サンリの身元は既に判明していた。
サンリは人格が破壊され廃人となっていた。
モニカとしては、サンリからいろいろ聞き出したいところだったが、対話すらまともに出来なかった。
アルバス機関の本部がある所にサンリを移送して、治療、尋問することになった。
「サンリはこの町で何をしていたのでしょうか?」
マルスはずっと不審に思っていたことを聞いた。
「それを領主から聞き出したが、どうやら操られていた時の記憶が曖昧なようだ」
領主のほか、操られていた者たちを尋問したが、皆同じようだった。
「館の修繕をしたのは本当のようだが、その工事を請け負ったのが、この町の者ではないらしい」
館の修理を行ったのは、町の外から来た一団で修理が終わると町から消えていた。
「町の外の者が修理を行うのは珍しいことではないが、その者達の消息が不明だ」
モニカは館を調べたが、不審な点は見つからなかった。
「実は魔の森の周辺、他の町でも不審な連中が出入りしていたらしい」
モニカは知り得た情報を話した。
森の北の町では、旅芸人の一座がしばらくの間、滞在していた。
古代の遺跡の近くで、芸を披露していたらしい。
これも別に珍しいことではないが、その一座の者達の消息も不明である。
森の東の町では、商人の息子が、町では見かけない女と付き合っていた。
商人の息子は、その女の色香に惑わされたのだろう。女の仲間のゴロツキみたいな連中と仕事をしていたという。
「偶然とは思えません……」
マルスは言う。
「そうだな、町には結界が張られており、魔獣や魔人は入れないが、今回のサンリの件で闇の魔法を使える者は結界内に侵入できてしまうことが分かった。また、魔族を崇拝する連中が暗躍しているとの情報もある。それぞれの町はもう一度調べさせる」
一呼吸置いて、モニカが続ける。
「マルス、君たちがいてくれたおかげで、この町の被害は最小限で済んだと思う。続けざまで申し訳ないが、森の南の都市に行ってくれるか」
魔の森の南には、魔の森周辺で最大の町があり、都市と呼ばれていた。
「南の都市では、まだそのような不審な噂はないが、これから起こるかもしれない……。森の周辺、4つの町の持つ重要性は理解しているな」
モニカが言う。
「はい、分かりました」
マルスが答えた。




