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勇者と魔王の暁  作者: 詠風皓月


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007 森の西の町(4)

 マルスとヨハン、レイラが領主の館に行くことにした。

 サラはレイラのことを心配した。

 しかし、当のレイラはマルスと一緒に行くことに喜んでいた。

 そして、何よりマルスのことを信用することにした。

 

 外に出ると、待ち構えていた兵士達によって、馬車で運ばれて行った。

 領主の館に着くと、広い部屋に通され、ここで待つように言われた。

 マルスは兵士が部屋から出ていくと、床いっぱいに何かを書き始めた。

 

「何書いているの、それ?」

 

 ヨハンが尋ねる。

 

「魔法陣です。魔法の範囲を広げる簡易的なものですが……」

 

 マルスは手を止めずに話し始めた。

 

「私、最初はこの町のニコラス神父から、アルバス機関に連絡があってこの町まで来たんです。魔力がすごい子がいると、おそらくレイラのことです。ところが町に来てみるとニコラス神父は行方不明だという……」

 

 レイラはマルスに見せていた魔導書のページを開き始めた。

 マルスは話を続ける。

 

「領主の館に出入りしていた僧侶の恰好をしたものがいる。そして、ニコラス神父がレイラに教えていた魔法、これらのことから察するに……」

 

 その時、部屋に数人の男が入ってきた。

 

 10名ぐらいの兵士とオジマもいて、領主とみられる年配の男と並んでいた。

 その領主もオジマ同様、青白い顔をしていた。

 

「その者らは、勇者の名をかたる不届き者。ひっ捕らえて処罰しろ」

 

 領主が言うと、兵士達は剣を抜き身構えた。

 

「領主が出てきましたか……」

 

 マルスは魔法陣を描きながら言う。

 

「ヨハン、その人達をなるべく傷つけずに、魔法陣の中に倒してもらえますか」

 

「簡単に言うね……」

 

 ヨハンはそう言いながらも、剣を置き素手で兵士達に向かっていった。

 最初の兵士の振り下ろした剣を避けて、兵士の鎧をつかんで力任せに床に投げ飛ばした。

 次の兵士の腕を打ち剣を落とさせ、柔道でいう背負い投げで床に叩きつけた。

 

(なんだこいつら、受け身もロクに取れないのか)

 

 ヨハンは次々と兵士を倒していく。

 マルスも魔法陣を描き終わると、ヨハンに加勢して兵士を倒していった。

 途中、コザンが喚きながら向かってきたが、ヨハンが軽く足払いをすると簡単に倒れてしまった。

 そして全ての兵士が倒され、オジマと領主だけになった。

 

 マルスがレイラに目配せをすると、レイラは魔法の詠唱を始めた。

 

 オジマと領主は逃げようとしたが、ヨハンに襟首を掴まれ、魔法陣の中に放り込まれた。

  

「レイラ、今です!」


 マルスが言う。 

 

「……聖なる光、闇の威力を退けよ!」

 

 詠唱を終えるとレイラは魔法を魔法陣に向けて放った。ヨハンは魔法陣の外で構えていた。

 魔法陣は光に包まれた。

 魔法陣の中にいた領主とオジマ、兵士は正気を取り戻したかのような顔になった。

 

「これは」

 

 ヨハンが聞くと、マルスが答える。

 

「闇払いの魔法です」

 

「みんな、操られていたのですね。おそらく自分の命令を聞けというような、人を操る魔法によって」

「禁忌の魔法です。闇の魔力を使用する魔法で、使い続けると闇の魔力によって人格が壊れてしまい魔人となってしまう、闇の魔法」

 

 その時、僧侶の恰好をした男がつぶやきながら現れた。

 

「まさか、闇払いの魔法が使えるとはな……」

 

 この男は名前をサンリといい、僧侶の恰好をしているが僧侶ではない。

 元僧侶だったが、彼はいわゆる破戒僧で教会から追放されていた。

 追放され自堕落な生活を送っていたところ、魔族を崇拝する一団と出会う。

 その一団の手引きにより、サンリは魔族と出会い、配下となり闇の魔法も授けられた。

 

「貴様が勇者か、谷底に落ちたなどという偽りをかましやがって」

 

 そう言いながら、サンリはマルスと対峙した。

 

「あなたが、この人達に魔法を掛けて操っていたのですね?」

 

 マルスが詰問する。

 

「フン……」

 

 と答えながら、サンリは思う。

 

(俺の闇の魔力は強くない。意志の強い人間には操る魔法は掛からない。その腑抜けた領主や、周りにいた腰巾着共は簡単に掛かったが、この者どもには効かないだろう……)

 

「領主達を操って何をしていたのですか?」

 

 マルスがさらに聞く。

 

「そんなこと、お前に言う必要は無い!」

 

 サンリは憤慨しながら言う。

 

「こんなに早く勇者がやってくるとはな、神父が何かしていたようだな……」

「その神父をどうしました?」

「お前は、いちいち何でも聞いてくるんじゃない!」

 

 サンリは怒鳴りながら、懐からこぶし大の石を取り出した。

 その石は魔法石で真っ黒な色をしていた。

 

「あのお方に、いざとなったらこれを使えと言われていた……」

 

(あのお方……)

 

 マルスがまた何か聞こうとしたが、サンリが先に話した。

 

「ククク……、勇者か、お前を倒したら、あのお方も喜ばれるだろう」

 

 サンリが魔法石に魔力を注ぐと、魔法石は割れて中から黒い魔力が噴出し、それは闇の魔力だった。

 魔力はサンリの全身を覆い、サンリは肌が青黒くなり、苦悶の表情を浮かべた。

 

「グゥ、ガァ……」

 

 サンリは苦しそうに叫んだ。筋肉が肥大し、体が一回り大きくなった。

 闇の黒い魔力をまとい、顔が膨れて醜くなり、錯乱したのか獣のように叫び声をあげていた。

 

(これが魔人!)

 

 マルスは初めて見る魔人に驚愕した。

 

「ウワァー」

 

 見ていて恐怖に耐えられなくなったのか、叫びながら二人が部屋から出ていこうとした。

 それはオジマとコザンだった。

 

「魔法陣から出てはいけない!」

 

 マルスが言うより早く二人は魔法陣を飛び出し、出口へ逃げようとしていた。

 そこへサンリが近寄り、腕の一振りで二人は吹き飛ばされてしまった。

 その瞬間、ヨハンが横飛びしサンリに蹴りをくらわせた。

 マルスが続く。

 

「こいつを外に出します。風の魔法、突風」

 

 ここは領主の館の上階だった。窓の外には庭があった。

 

 マルスが魔法を放つと、突風がサンリを窓まで吹き飛ばした。

 窓を突き破り、下の庭へ落ちていった。

 サンリが地面に激突する音が聞こえた。

 

「キャー」

 

 下の庭で叫喚が起こり、騒がしくなった。

 

「ヨハン、あいつが人を襲わないようにしてください」

 

 マルスが言う。

 

「オウ」

 

 ヨハンは答えて剣を持って、壊れた窓から飛び降りていった。

 

 マルスは、その場に愕然としている領主達にも言った。

 

「怪我をした人の救助を!」

 

 レイラは先ほどからのありさまを見て震えて、怯えていた。

 マルスはレイラの手を取り、言う。

 

「私の力不足でこんな事になってしまいました。こんな事言える立場じゃないですけど、レイラ、アイツにもう一度闇払いの魔法を!」

 

 レイラは顔を赤らめながら、マルスの手を握って答えた。

 

「ハイ!」

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