018 森の南の都市(5)
魔族の襲来から数日後。
魔獣の襲撃もなぜかその日以降なかった。
怪我をした町人の治療も一段落し、町の復興が始まっていた。
マルス達アルバス機関の者は、市長と協力して復興の手伝いをしていた。
その仕事が終わった夜、ソアラとシモム、マルス達が集まっていた。
ソアラは他の森の町の被害を話した。
森の北の町、森の東の町は被害が大きかった。
もともと魔獣の襲来に備えて、町人の避難場所は決まっていた。
それでも逃げ遅れた人に犠牲者が出た。
町を襲っていた魔獣は、しばらくすると魔の森の方に向かって行ったという。
森の西の町では、モニカの他アルバス機関の者が数人いたので、被害は少ない方だった。
しかし、魔の森の結界が消えると、ここに南の都市と同様、魔の森から巨大な魔獣が現れた。
「しかし、ここからがモニカさんの英雄伝なのよね……」
現れたのは巨大な虎の魔獣だった。
モニカは城壁に立ち、虎の魔獣と対峙した。
モニカが身構え、虎を睨みつけていると、虎は攻撃してこなかった。
虎はしばらくうろうろした後、やがて魔の森の方へ帰っていったという。
「北と東の町には、魔の森からの魔獣の襲来はなかったのですか」
マルスが聞いた。
「そうらしいわ……」
ソアラが答える。
マルスはしばらく考えてから、申し訳なさそうに聞いた。
「私たちが居たから、森の魔獣を招いてしまったのでしょうか……」
「そうかもしれないけど、あなたたちが居たから、被害も少なかったと思う。町の人も大勢助かったわ」
ソアラは気遣うように言った。
「そして、魔族の行動」
ソアラは話を続ける。
「状況から察するに、魔族共は魔の森の中心に行きたかった。しかし結界が張られていた」
「魔の森の結界を張っている石碑も、町の結界によって守られている。その石碑を壊すために、町に入る策をいろいろ講じていたのでしょう」
魔族達は石碑を壊した後、魔の森の中心に向かって飛んで行ったという。
「魔の森の結界は元々、アルバス機関の結界師達が定期的にメンテナンスしていた。その結界師達によって、それぞれの町に結界を張ることに成功した。しかし魔の森に再び結界を張ろうとしたが、どうもうまくいかなかったらしい」
「魔の森の広大な結界を張ったのは、元々勇者アルバスと共に魔王と戦った、大魔法使いですからね……」
マルスが言った。
ソアラは話を続ける。
「とにかく、魔族共は魔の森の中心に集まって、何かをしている。冒険者達が魔の森に様子を見に行ったが、魔獣がうろうろしていて、とても奥までは行けないと言っていた。魔獣達は、森の中心に人が行かないように魔族に操られているのでしょう」
「それでも、行くしかないですね。魔の森の中心に!」
マルスが言うと、ソアラはうなずきながら言った。
「アルバス機関もその方向で動いている。既に首都アルバスに滞在していた賢者フローラが弟子を一人連れて、魔の森に向かって来ている」
(賢者! 賢者って世界に一人しかいないという賢者……)
ルシアは思った。
「そして、勇者アリア!」
ソアラが言うと、マルスも言った。
「アリアさん……」
アリアは女性の勇者で、マルスの師匠であった。
アリアが率いるパーティーは、元魔王城の周辺で魔族が暗躍しているとの情報から、魔王城に向けて旅立っていた。
しかし、今回の魔の森の事変を聞いて引き返し、魔の森に向かっている。
「今回の一件を聞いて、アリアは魔王城周辺での魔族の暗躍は、魔族による陽動だったのだろうと悔しがっていたようだ」
ソアラはアリアの事を話した。
「そしてあなた達、勇者マルス、パーティー3組で、魔の森の中心を目指す」
マルスはうなずいた。
「作戦決行にはまだ日にちを要する。それまで、町の復興と共に、準備と鍛練を怠らないで」
「はい!」
マルス達は答えた。
◆◇◆◇
マルスとヨハンが剣の修行をしていた。
休息中に話していると、話題はマルスが熊に放った技の事になった。
「熊を倒した技、縮地で移動して無双一斬を放ったのか、そんなこと出来るなんて……」
ヨハンがマルスに尋ねた。
「前から、剣技と体術を組み合わせる技を考えていたんです」
マルスが答えると、ヨハンは思った。
自分も縮地の移動をマルスから教わったが、どうも自分にはうまく使えなかった。
剣術と体術を組み合わせて使える、マルスに感心した。
(しかし、この短期間に……)
その組み合わせの技といい、マルスが洞窟で使った魔法剣といい、急速にマルスが成長していると感じた。
剣技と体術の組み合わせの技について、マルスが言った。
「勇者アルバスが使用したという奇跡の技、剣技と体術と魔法を組み合わせたという、三位一体の技、いつか自分も出来るようになりたいのです」
(そんなこと出来るの!)
魔法を使えないヨハンは不思議に思った。
しばらくしてヨハンが提案した。
「マルスが熊に放った技に名前を付けようぜ!」
「別に名前なんていいです……」
マルスは言ったが、思った事があるのでヨハンに聞いた。
「無双一斬とかって、ヨハンが名付けたんですか?」
「ん! そうだよ」
(まあー、養成所で習った技に、俺が勝手に名前を付けたんだけどね……)
「そうだな、縮地で瞬間的に移動しての無双一斬だから、疾風一斬とか……」
ヨハンは何か、ブツブツ言っていたが、マルスは修行を再開した。
修行が終わったとき、ヨハンは思いついたのか言ってきた。
「閃光一斬とかはどう!」
聞かれて、マルスは言った。
「閃光……、閃光の女傑は、師匠勇者アリアの二つ名ですよ」
「なら、ちょうどいいじゃん。師匠から受け継いだ技も使っているんだし」
「好きに名付けて下さい」
マルスは言ったが、まんざらでもなかった。




