016 森の南の都市(3)
マルス達が大蛇の魔獣を倒して一息ついていると、ルシアがマルスに尋ねた。
「魔法剣が使えるのね」
「大蛇が闇の魔法で体を強化しているみたいでしたからね、光の魔法ならなんとかなるかもしれないと思ったんです」
マルスは魔法の操作を苦手としていた。
一応回復魔法と、自分に一番相性の良い風の魔法を習得していたが、それも並の魔法使い以下のものだった。
そのため、以前から魔法を剣に纏わせる魔法剣を習得しようとしていた。
「レイラの光属性の闇払いの魔法を見て、光魔法を剣に纏わせる事を思いついたんです」
マルスが答えると、ルシアは怪訝な表情をした。
(レイラって誰……)
「オイ、こっち見てみろ」
ヨハンが剣を大蛇から引き抜きながら言った。
見ると大蛇がいた先に、坑道が続いていた。
「地図ではここで行き止まりのはず……」
ルシアが言うと、マルスも続けた。
「大蛇は、ここを人が通らないようにしていたのですか……」
「どうする?」
ヨハンがマルスを見ながら言った。
「行きましょう!」
マルスは進みながら言った。
マルス達は地図に無い坑道を進んでいった。
外はすっかり夜になっていた。
「ねえー、少し休まない?」
ルシアが言ったが、マルスは急いでいた。
「大蛇の魔獣、あれは誰かに使役されていたのです」
「魔獣を操るなんて、普通の人間に出来るわけがない、おそらく魔族が操っていたのです」
マルスが言うと、ヨハンがつぶやいた。
「魔族……」
「前に、ヨハンに魔獣は自然発生すると言いましたが、では人はどうして魔人になるのか、知っていますか?」
マルスが言う、ヨハンが答えた。
「サンリみたいに闇の魔法を使っていると、魔人になってしまうんだろう」
「そうです。魔人も自然発生する場合もありますが、たいていは闇の魔力の魔法を使っているからです。闇の魔力を使い続けると精神が破壊され、人格が壊れてしまう。そうなった人を魔人と呼んでいます」
マルスは話を続ける。
「ところが、闇の魔力を使い続けても精神が正常なままの者がいる。なぜまともでいられるのか分かりませんが、その者達を魔族と呼んでいます」
「森の周辺の町の事件には、おそらく魔族が関わっています。嫌な予感がします。先を急ぎましょう」
話をしながら進んでいると、坑道から人工的に整備されたトンネルのような所に出た。
下には水が流れていた。
「これは、地下水道……」
ルシアが言うと、マルスも言った。
「南の都市の地下水道、坑道とつながっていた……。ここは既に都市の中……」
◆◇◆◇
マルス達が坑道を進んでいた、ちょうどその頃、森の西の町にある領主の館。
その一室でモニカが事務作業をしていた。
モニカはサンリをアルバス機関の本部に送り届けた後、西の町に戻っていた。
サンリの事件の後始末も大体終わり、モニカは事務作業をしていた。
休息しようと手を止めて、窓の外の庭を見た。
その庭はマルス達がサンリと戦った庭とは別のいわゆる裏庭だった。
マルス達が戦った美しい中庭とは違い、あまり手入れされていないのか草木が鬱蒼としていた。
その庭を何かが通ったように見えた。
人か獣か分からなかったが、通り過ぎた後を目で追うと、庭の傍らに物置小屋があった。
(何者かが、あの物置小屋から出てきた……)
モニカはいぶかしく思った。
それになんとなくだが、その小屋が庭の風景と比べて立派すぎるとも思った。
サンリの事件の後、その小屋も人に調べさせてあるが何もおかしなことはなかった。
しかし、モニカは気になったので、その小屋まで行ってみることにした。
小屋に入ると、掃除道具などが置かれていた。
無造作に置かれている掃除道具に比べると、床がきれいなのが気になった。
モニカは掃除道具をどけると、持っていた剣で床を叩いて調べていった。
すると、小屋の隅で床の音が違った。
調べると床の一部が隠し扉となっており、開けると地下へと続く階段があった。
階段を下りてみると、広い空間があった。
「これは倉庫、いや避難所……、領主はこんな地下室があることは言っていなかったが……」
整備された地下室であったが、モニカはその床にある物に目がとまった。
同じ時、マルス達は地下水道を通って広い場所に出た。
そこも、避難所のような礼拝堂のような広い地下室だった。
マルスもまた床にある物に目がとまった。
(普通の人には見えないように巧妙に隠されているが、魔法陣が描かれている!)
それは転送の魔法陣だった。
モニカが思ったとき、魔法陣が光り、光の中から魔族のブルクが現れた。
モニカは魔族が現れたのを見て驚いたが、魔族の圧倒的な闇の魔力に動けないでいた。
ブルクもモニカがここにいるのを見て、驚いて言った。
「あなたは勇者の仲間の類ですか?」
モニカは身構えた。
「一歩遅かったですね」
ブルクは更に言うと、魔方陣に手をかざし魔力を注いだ。
すると魔方陣が光り、幾多の魔獣が現れた。
魔獣達はモニカを無視して、天井を突き破り、地下から町に流れていった。
モニカは崩れる天井のがれきを避けるのが精一杯だった。
ブルクは魔方陣から現れた鳥の魔獣の背に乗りながら、モニカに言った。
「また、どこかでお会いしましょう」
ブルクはそう言うと、鳥の魔獣に乗って飛んでいった。




