014 森の南の都市(1)
マルス達は森の南の都市に到着した。
魔の森周辺で一番栄えており、交易の都市としても機能していた。
華やかな町並みで大きな商店街があり、ヨハンとルシアは久しぶりに都会に来たらしくはしゃいでいた。
マルスはそんな浮かれている二人を制して、先に市長のもとに挨拶に行った。
市長は勇者達を歓迎し、西の町での活躍を褒め称えた。
市長はマルスから話を聞き、マルス達に協力は惜しまないと言った。
しかし、この町で特に不審な情報は届いていないと語った。
南の都市に到着して数日が経っていた。
「今日は何するの?」
マルス達が世話になっている宿屋で朝食を取っているときに、ルシアが聞いてきた。
マルス達は市長から頼まれた仕事や、町人の仕事の手伝いなどしていたが、ルシアは空き時間に観光もしていた。
「今日はアルバス機関の人と会う予定です」
マルスが答える。
ヨハンの痣の件で、前にモニカと話した専門家と会う予定になっている。
ルシアはこの時、初めてヨハンの左腕の竜のことを聞いた。
朝食を食べ終え、部屋に戻ろうとするとき、女性と男性が宿屋に現れた。
「マルス!」
女性はマルスを見つけると叫んだ。
「ソアラさん」
マルスにソアラと呼ばれた女性はマルスに近づいてきた。
「元気そうだな、ん……、背が少し伸びたか、体もたくましくなったな!」
ソアラはマルスの体を触りながら言った。
「ちょっちょっと、マルスに触らないで!」
ルシアがマルスとソアラの間に割って入った。
ソアラがルシアとヨハンを見て言った。
「あなた達がマルスの仲間ね」
「はじめまして、私はソアラ」
ソアラは名乗った。ソアラはアルバス機関の回復系の魔法や、医療の専門家でマルスも顔見知りだった。
もう一人、ソアラと一緒にいた男性が名乗った。
「はじめまして、私はシモムといいます。主にアルバス機関の事務方をしております」
シモムは歳がマルス達より上のようだが、丁寧な言葉遣いだった。
「事務方の……」
「マルス様の調査の手伝いをするように、モニカ様に言われて来ました」
マルスが疑問を口にする前にシモムが答えた。
マルスは都市に着いてから、いろいろ情報収集したが、不審な情報は得られなかった。
挨拶もそこそこに、宿屋の部屋に移動し、ソアラがヨハンの診察をすることになった。
ソアラは先ほどまでとは打って変わって、真剣な表情で診ていて、やがてヨハンに聞いた。
「この竜が段々と大きくなっていると……」
「ええ……」
ヨハンは答えた。
竜の痣は、前腕から上腕にまで達していた。
診察が終わると、ソアラは皆の前で話すべきか迷っている様だった。
「どうぞ、話してください」
ヨハンが言った。
「私も、診たことがない。文献で見ただけ……」
「文献によると、竜の痣を竜斑紋と名付けていて、最初は小さな竜斑紋が徐々に大きくなり、心臓の方に向かっていく……」
ソアラがそこまで言った時、マルスは思った。
そう言われれば、ヨハンの竜斑紋も腕から心臓の方に向かって大きくなっているように見える。
「やがて心臓に達した竜は、心臓を喰い、心臓を喰われた者は……」
「竜鬼人になると書かれている」
「竜鬼人!」
皆が一斉に叫んだ。
「竜鬼人って、伝説の!」
ルシアが言うと、ソアラが答えた。
「そう、人が竜になった、あるいは竜が人になったという竜鬼人の伝説は至る所にある」
ソアラは竜鬼人の伝説をいくつか話した。
ある町の兵士が、自分の影が竜に喰われていくと言っていた。
同僚たちは笑っていたが、その兵士は徐々に言動がおかしくなっていった。
「竜に影をすべて食われたら、竜に体を乗っ取られる」
兵士はそう言っていて、やがて兵士は発狂してしまった。
同僚が見た兵士の影は、竜の姿だった。
竜斑紋の話では、こんなのがあった。
村で養われていた浪人がいた。
「俺は腹に竜を飼っている」
浪人は冗談めかして言っていた。
興味を持った村人が、浪人の腹を見せてもらうと、浪人の腹には竜の形をした火傷のような痕があった。
村が災害に襲われた時、浪人は竜の姿に化身して村を救ったという。
「どれも伝説の話で、どこまで本当の話か分からない……」
「ヨハンも痣に心臓を喰われて竜になると……」
マルスが聞くと、ソアラは首を振って答えた。
「あくまで伝説の話だからどうなるか分からない……。話を聞いた時から治療法を探している、何か治療法が見つかるかもしれない」
ソアラはそれきり何も言えなかった。
診察の後、ヨハンは剣の訓練をしていた。
マルスがヨハンを見かけて、近づいてきた。
「旅を続けるよ」
マルスが言うより早く、ヨハンが言った。
「前にも言ったろ」
ヨハンが更に言うと、マルスは頷いた。
しかし、マルスは思っていた。
かつて勇者アルバスと戦った魔族の中に、竜の背に乗り竜の一団を率いていた魔族がいた。
その魔族も竜鬼人と呼ばれていたことを。




