012 森の狩人(2)
マルス達はルシアの家まで行くことになった。
ヨハンがトカゲを背負いながら運んでいた。
(なんで俺がこんなことを……)
ヨハンはそう思いながらも黙って運んで、楽しそうに話しながら歩くマルスとルシアを冷めた目で見ていた。
「魔獣を狩って生活しているんですか?」
マルスがルシアに尋ねる。
ルシアは頷きながら答えた。
「魔獣ってさ、倒すと元の獣の姿に戻るか、魔獣の姿のままのものがいるじゃない。魔獣の姿のままのは高く売れるんだよね。魔獣の肉は食べられないけど、魔獣の姿のままの皮や爪は欲しがる人が多いんだよ」
マルス達も道中、倒した魔獣を商人に売って路銀の足しにしていた。
歩いている途中で、ルシアが地面にうずくまっている鳥の雛を見つけた。
どうやら、鳥の巣から落ちたようだ。
ルシアが見ると、瀕死の状態だった。
「これは、もう回復魔法でも治りませんね……」
マルスも見てみるとそう言った。
ルシアは雛を手に取り念じた。
人差し指の先が光り、それで雛に触った。
すると雛は元気になり、鳴き始めた。
(これは……)
「おまじないだよ」
マルスが驚いていると、ルシアがとぼけて言って、雛を巣に戻した。
「早く行こうぜ。重い……」
ヨハンが急かして言った。
「着いたよ。ここだ」
小さな山小屋に着いた。
古くに建てられたものだが、しっかりした造りの小屋だった。
「入ってよ。運んでくれたお礼に、ご馳走するよ」
マルスとヨハンはトカゲを置くと、小屋に入った。
小屋はあまりきれいとは言えず、散らかっていた。
ヨハンは渋い顔をしたが、マルスはキッチンにいるルシアのところに行った。
「何か手伝いますよ」
「そう、じゃパンを切ってくれる」
マルスは堅いパンを切りながら、ルシアに聞いた。
「ここに、一人で住んでいるんですか」
「うん、前は父、母と一緒だったんだけどね」
ルシアはスープを皿によそいながら話し出した。
「母は私が幼い頃に病気で亡くなって……、それからずっと父と一緒に暮らしていたの。回復魔法も父から教わったんだ、でも……」
「父はある日、ふらっと出かけて戻らなくなったの」
「どこに出かけられたのですか?」
マルスが聞いた。
「分からない……、どこに行くとも言わなかった。すぐに帰って来ると言ってたんだけどね……」
マルスはそれ以上聞けなかった。
テーブルにスープとパンが並んで、食事の用意が出来た。
「さあ、食べてよ」
「いただきます」
マルスとヨハンは食べ始めた。
ヨハンはスープを一口食べると苦い顔をした。
「何これ?」
「山草を煮込んだスープだよ」
「すごい味がするな」
「栄養あるんだぞ」
マルスは食べながらルシアに言った。
「私たちと一緒に行きませんか?」
マルスが尋ねると、ヨハンが言った。
「えー、コイツ仲間にするの!」
マルスはヨハンを無視して話を続けた。
「ルシアは回復魔法が使えます。回復魔法は私も使えますが、パーティーにもう一人回復役がいた方がいいです」
「それに、ルシアは弓矢が使えて、遠距離攻撃が出来ます」
ルシアは考えていた。
「それに先ほどのは……」
マルスが言いかけたとき、ルシアが話した。
「ありがとう……、でも私には勇者のパーティーなんて無理かな、それに……」
いったん口をつぐんで続けた。
「父さんがいつか帰ってくる気がするんだよね、その時家に居てあげたいと思うの……」
「そうですか……」
マルスも納得したように口をつぐんだ。
マルスとヨハンは旅を続けることにした。
「どうも、ごちそうさまでした」
マルスは礼を述べた。
ヨハンは黙っていた。
「気をつけて、旅の無事を祈ってるわ」
ルシアは二人を見送ると小屋に入った。
椅子に座り考え込んだ。
(勇者か……)
ルシアは昔のことを振り返った。
ルシアの母は病気がちだった。
ルシアの父は、そんな母を置いて、しばらくの間どこかに旅に出ていた。
しかし、これは父が母の治療法を探していたのだと、後に知ることになる。
父は、母が亡くなった後も、たまにふらっと出かけていた。
冒険者か、行商人かと思って聞いてみたが、どうやら違うようだった。
そして数年前に、出かけてそれきり戻らなくなっている。
ある時、ルシアは父に聞いてみた。
「どうして、旅に出るの?」
「助けを求めてる人がいるからね……」
ルシアの父は、それ以上詳しく話さなかったが、付け加えて話した。
「ルシア、お前もいつか人を助ける時がきっと来る。その時は迷わず人を助けるんだ」
「父さん……」
「今が、その時なの……」
「行ってもいいのかな」
ルシアは目をつむって考えていたが、やがて立ち上がった。
マルスとヨハンは森を歩いていた。
ヨハンは、マルスに問いかけた。
「ルシア、仲間にならなくて良かったのか?」
「ヨハン、嫌がっていたみたいじゃないですか」
「別に嫌がっていたわけじゃ……、マルスがルシアのこと気に入っていたみたいだったから……」
マルスは独り言の様に答えた。
「ルシアが小鳥を治していた術、あれはおそらく自らの生命力を与えたんです」
「生命力?」
「僧侶の中でも高僧にしか使えない、仲間を回復する最終手段です。そんな事が出来るなんて……」
マルスが話していると魔獣が現れた。
ルシアが追いついた時、マルスとヨハンは、また魔獣と戦闘になっていた。
そこにルシアが弓を放ちながら加勢した。
「マルス、ヨハン!」
「ルシア!」
マルスとヨハンが同時に叫ぶと、ルシアが言った。
「私も……、私も行くわ!」




