魔道具開発して無双する
「もう、びっくりしたわー」
「本当よーさすがに陛下が怒り出すかとヒヤヒヤしたわー」
王城からの帰りの馬車の中で、ローズと公爵夫人がため息混じりに言った。
「リーゼロッテ、帰ったらもう少し聞きたいことがあるんだが。」
公爵が含みのある顔で言う。
「わかりました、お義父様」
リーゼロッテはいつもの表情で答える。
公爵邸に着くと、応接室に全員で移った。
馬車の中で夫人もローズもロレンツも話を聞きたがったからだ。
「もう一度尋ねるが、リーゼ教会の話は間違いないんだな。」
「どの話です?」
「神託が北のロザリア以外はほぼ無いと言うことだ。」
「ええ、間違いありませんわ。教会の記録が残っている限りでは東の国が二回と西の国が三回で、残りはロザリアでした。」
「では魔力のあるスキル持ちは教会に囲われているというのは。」
「これも間違いありません。使い魔の蜘蛛によって教会本部の厳重に囲われた離れに赤子から成人前までの子が暮らす場所がありました。」
リーゼロッテの話を聞くと軽く首を振り、眉間に深い皺を寄せて公爵が聞いた。
「そうか。ではイーサンに頼んだとは何だい?」
リーゼロッテは全く表情筋が動かない顔つきで言った。
「魔石がございますでしょ?」
「ああ、ランプや火付けにつかうな。」
「使い終えた魔石ってまた魔力を込めて売られますでしょ?」
「ああ、そうだな。」
「それに魔力を圧縮してたくさん詰めたい、もしくは小さい魔石に許容量以上に込めたいのです。」
「・・・それはどういうことだい?」
全く想定も想像もできない話を話し出した。
公爵はしっかりとリーゼロッテの目を見た。
ずいぶん大人びたことを言って、今日も王である兄をも驚かせた発言をするがまだまだ最近八つになったばかりだ。相手に分かりやすく説明することは難しいのかもしれない。
「お義父様は魔法での戦いって経験ございます?」
「いや、無いな。そもそもこの大陸で他国との争いは起こっておらん。」
「そうですわね。でもロザリアは魔獣がでますから魔術師団と魔法騎士団が常時配備されていますし、教会には聖騎士団がおります。でもそれ以外は自国の憲兵団と近衛騎士団位です。」
「そうだな、それが何か?」
「圧倒的な軍事力を持っているのがその二つだけなので、パワーバランスが取れないんですわ。軍事を魔法にだけ拘ること無いと思うのです。元々ほとんどの国民が魔力の無い国で、魔法で軍事配置をするとか無理ですわ。」
「だが、周辺国も含めて嘗てよりずっとその状態であるが。」
「嘗ては今よりはスキル持ちも魔力持ちも居たのではありませんの?」
「そうだが・・・」
「それが減りに減ってしまったのでしょう?虎の子の公爵家から王妃様を迎えたものの王子殿下には魔力が引き継がれなかったと。もしくはお子がなかなか出来なかったか?そんな事情で、教会にお願いしてロザリアとの婚姻契約に至ったのですよね。」
公爵はもう何も言葉が出なかった。胸の内とはいえ八つの子と侮ったことなど忘れて、リーゼロッテの考察力に舌を巻いた。
「魔力や魔力バランスはさておき、サルアール王国には他国を圧倒する物が多数有りますわ。」
リーゼロッテはそれは自信を持って頷きながら言った。
「それはなあに?」
ローズが軽快な口調で尋ねた。
「多くの国民が生活をもっと豊かにしようと貴族に王族に言われたからではなく、自発的に行動することですわ。」
「うーんよくわかんないけど、商人とかは逞しいわね。」
「そう、それですの。同じような環境の東の国でも西の国でもあったのですけれど、平民たちは魔法なんて夢物語程度にしか重きを置いてなくって、より簡単により楽にと嘗て魔法でしていたことを別のアイデアで代替してますの。代替というか発明ですわね。」
珍しくリーゼロッテが目を輝かせて言った。
「で、最近知り合った方に教えて頂いたモノがありまして、こちらなんですが。」
そういうと、リーゼロッテは空間を小さく黒く裂いて、そこに手を入れると数本のピンを取り出した。
「なんだい。それは?」
ロレンツが身を乗り出してピンに触れようとする。
「お待ちください、お義兄様。」
ロレンツの手を避けて、そのピンで自身の前髪を留めた。
すると、リーゼロッテの薄い金色の髪が、みるみると赤みを帯びてピンで留めた前髪部分が濃いピンクに色づいた!
「え?なにそれ、かわいー。」
「本当に可愛いわー。」
公爵夫人とローズが口々に褒める。
「それどうなってるの?」
ローズがリーゼロッテの髪のピンに手で触れてみた。
「特に、変わった感じはないわね。どういうこと?」
リーゼロッテは手に持っている残りのピンを皆に配った。
「なにか表面に粒々がついているわ、これなあに?」
「魔石の砕けた屑ですわ。それを糊で貼り付けているらしいのです。」
「え?これ魔石なのか!」
ロレンツが驚いてピンの粒々を撫でてみる。
「そうですわ、これは火の魔力が込められた魔石の屑ですの。ある方のお宅ではご家族が魔石に魔力を詰める仕事をしているそうなんですけれど、これを作った方は詰めるほどの魔力は無いそうですの。ですが屑をギュッと握って色だけ使わせてと願ってこのピンにつけて、髪色の変化を楽しんでいるとのことでしたわ。」
「え?ギュッと握って色だけって願っただけで?」
「そうですわ。水の屑魔石がついたピンは青い髪色に、土は緑に変わると言っておりました。わたくしが闇の魔力を込めた魔石をわざと粉々にして、ギュッと握って使わせてと願ったら黒に、イーサン様が願ったら金になりました。」
「へえ、これって変装にも使えるよね。」
「ドレスにビーズのように付けたら部分的に色が変えられて、おしゃれじゃない?」
ロレンツだけでなく、公爵夫人もその利用法を考え出した。
「そのギュッと握って願うのってなんだい?」
公爵が本質的な質問をしてきた。
リーゼロッテは薄く微笑み、
「彼女は無意識に圧縮の魔法を考案していたのだと思われます。」
と言った。
「え、だってその子は魔力が少ないんだろう?」
「ええ、だけれど日々願っていたそうですわ。可愛いピンクの髪になりたいと。」
その強い願いは彼女の中の魔力を手の中に集めてギュッと圧縮することで、可能になったのだと言う。
「それで、それが何になるんだい?」
公爵が先を促す。
「例えば、魔石に火の魔力を普通入る量を1として、圧縮して10入れたとするでしょ?それを木に向かって投げつけたらどうなると思います?」
「威力が10倍の火で、木が燃えるかも知れないね。」
「同じように10の水を詰めた魔石を投げたら?」
「消火出来るかもしれない。」
ロレンツがわかったという顔をして答える。
「お義父様、魔力を持つものが造った道具を使うのは、魔力の無い人でもできると思いませんか?」
リーゼロッテがビスクドールの顔で問いかける。
「そうだな、それは間違いない。では魔力持ちには道具の開発を担当してもらい、それを使った者を軍事配備できるように再編しよう。」
「ええ、これは侵略のために使うのではなく、あくまで防衛戦略上魔力バランスをとることに使うと約束してください。そして、その技術は日常生活が便利になるように転換されて、広く国民に還元されるべきですわ。原資は国民の納めた税で開発されるのですから。」
公爵は貴族の顔つきに、いや、国の宰相の顔つきとなり、重々しく答えた。
「リーゼロッテ、そなたの《スキル真実の目》に誓って約束しよう。」
リーゼロッテは義父の顔に黒い斜が掛かっていないことを確認して、一つ頷いた。
それから、リーゼロッテは王城にある魔術師団の塔に通い、イーサンや魔術師と共に魔石の研究を進めていった。そこにはなぜか、いつもロレンツとヘンリーも同席していたのだが、それはまた別の話。
「陛下、万事整いました。」
リーゼロッテが十歳になった頃、そのお披露目の機会がやってきた。
そこは王都から離れたこの王領地の一画だった。
そこに、新たに整備された魔法騎士団が整列していた。
「はじめ!」
ヘンリー王子の号令と共に、前列の騎士が弓を放つと、着地点から次々火が上がり、次の矢で火柱が天高くそびえ立った。そこに配置されていたホースのついた車がやって来て、水をザンザンと放水して消火した。
奥から出てきた騎士たちは石の填まった盾を掲げていた。
その盾に向けた矢は風で向きを変えられて射抜くことができない。
更に手に持つ剣を奮うと炎が飛び出してきた。
「止め!」
またヘンリーの声がかかる。
騎士たちは整列し、王に騎士の礼をした。
「すごいな、あれはなんだったんだ。説明を。」
王が興奮して聞くと、魔術師団長のイーサンが前に進んで答えた。
「最初のモノは、矢じりを火の魔石で造ったもの、次はそこに風の圧縮した魔力を込めた矢じりを打ち込むことで、火力があがったのです。消火に使った消火車は風の魔石で動かし、水の魔石から放水します。これは火事場での消火活動に利用されるよう、王国の各地に配備することになっています。」
ロレンツも前に進み出て説明に加わった。
「騎士の盾には風を圧縮した魔石を付与し防御力を上げ、剣には火を圧縮した魔石を付与して攻撃力を上げました。」
そう説明が終わったその瞬間、空間が黒く裂けそこからまばゆい光が溢れるとその狭間からリーゼロッテが突如として現れた。
「な、なんと。リーゼロッテお主どこから現れた!」
王が腰を抜かすほど驚くと、
「闇の魔法を圧縮した魔石を予め付与した魔方陣から魔方陣へと移動できるように致しました。」
「それは、なんじゃ?」
「所謂、転移魔法でございます。」
「それは、誰でも使えるのか?」
「現在、できる回数や人数はまだ少ないのですが、誰でも可能です。人でも、動物でも、物でも決められた場所から場所へ転移することが可能になりました。」
リーゼロッテがカーテシーをした。
「リーゼロッテ、天晴れである。魔術師団長始め魔術師団の面々、魔法騎士団、よくやった。」
サルアール王国に新しい風が吹いた記念すべき日であった。
「ねえ、リーゼロッテ。今日、メアリの所に行かない?」
公爵家の面々が朝食の席につき食事が始まったばかりだが、ローズが楽しげに声をかけてきた。
「そうですね、久しぶりに伺いましょうか。」
リーゼロッテは朝から麗しいビスクドールの顔で答える。
「あら、良いわね。何か新しいモノがあるかしらね?」
公爵夫人も弾んだ声で答える。
「あら、お母様は今日、王妃様のお茶会でしょう?」
ローズが首を傾げて言うと、
「そうだったわ。じゃあ、二人で楽しんで来てね。」
「キチンと護衛騎士と侍女もつけて行くんだぞ。」
公爵が心配そうに言う。
「わかりましたわ、お義父様。そのように。」
リーゼロッテはいつもの表情筋が動かない顔で答えたのだった。
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