小話 可愛いは正義メアリ スチュワート
ドンっと突然通りすがりの二人組の女生徒が肩にぶつかって来た。
キャッと小さい悲鳴を上げてよろけてしまう。
「あーら、ごめんなさい。影が薄すぎて見えなかったわー。」
「クスクス、ねえ、メアリスチュワートあなたって歩き方まで可愛い子ぶって恥ずかしくないの?」
私は、スンっと表情を無くした顔でその二人を一瞥すると、ポケットから小さなミラーを出して前髪を確認する。
ーあ、少し乱れてしまったわー
手櫛で前髪をチョンチョンと整えて、もう一度鏡を覗いて
ー大丈夫、うん可愛いー
「あなた、何無視しているのよ、聞いてるの?」
「何よその態度、高位貴族に対する態度でないわよ」
キャンキャンとうるさく吼える雌犬の態度は高位貴族として正しいのかしら?
無視して歩き去ろうとすると、腕を掴まれた。
「何無視してんのよ、まだ話が終わってないわ。」
話すことなんてないんだけど、という気持ちを込めた目を向ける。
「あなた、ディズモンド侯爵家のアラン様に色目を使っているんですって?いったいどういうつもり?」
ええ?誰それ、知らないんだけど。
「男爵家の次女の癖に高位貴族に取り入ろうなんて、どういうつもりなの?」
どういうつもりも何も、その人知らないんだけれど。
何て言えばわかってくれるのかな?とちょっと考えて止めた。わかろうなんて思ってもいないのだろう。
結局言いたいだけなのよね。
「それは侯爵家のアラン様に聞いたらよろしいのでは?」
突然、私の目の前に薄い金髪にアイスブルーの碧眼の美少女が現れて、表情の無い顔で言った。
「何よ、あなた、どこの子よ。ここは貴族学校よ、お子様の遊び場じゃないのよ。」
「いったい、ど、どこから現れたのよ、急に出てきてなによ!?」
二人の女生徒がアワアワと慌てながら少女に食って掛かった。
「あなた方、嘘を言ってますわ。アラン様に彼女が色目を使ったというのは嘘ですわね?」
美少女は全く恐れること無く淡々と告げた。
「うるさいわね、あなたの妹なの?躾もなってない。下品ね下下は。」
勝手に私の妹と仮定した上で暴言を吐いてくる。
「わたくしは彼女の妹ではありませんわ。わたくしはロレーヌ公爵家の次女、リーゼロッテですわ。」
すると、彼女はチョンとスカートを軽く摘まんで略式の挨拶をした。
「え?ロレーヌ公爵家って。」
「あ、この髪色って、あのロザリア王国から来たという!!!」
家名を聞いた途端、女生徒らは顔色を悪くして震え出した。
「先程も申し上げました通り、彼女はアラン様とやらに色目は使ってないですわよ。」
ー大事なことだから二回言うー
美少女が同じ表情、同じ口調で告げると、
「「申し訳ありません。勘違いしていました。」」
と、二人が言い訳を始めた。
しかし、リーゼロッテという美少女は
「それも嘘ですわね。それに私に謝るのではないと思うのですけれど?」
と言って引く気配がない。
高位貴族とはいえ、ロレーヌ公爵は王弟だ。王家以外では最も高い地位にある一族。
「「も、申し訳ありませんでした。これで失礼。」」
女生徒二人は屈辱に歪んだ顔をしながら、口だけで謝罪を告げ、走り去って行った。
「ありがとうございます。」
私はリーゼロッテお嬢様に感謝を告げた。
「いいえ、別にお礼を言われることはございませんわ。ところで、先程から気になっていたのですが、その髪につけているピンがずれた時、あなたの髪色が一瞬暗くなったのですが、どういうことか教えて頂ける?」
え?いつ見たの?一瞬、ピンが外れた場所の色が変わったことによく気がついたわね、というかどこで見ていたの?
「ご挨拶が遅れました。私はスチュワート男爵が娘 メアリ スチュワートでございます。このピンには魔石が粉々に砕けた屑魔石を付けてありまして、髪色を変えるように微量な魔法をかけております。」
私が自身の精一杯丁寧に挨拶を告げ答えた。
「そのお話を詳しく聞かせて頂けるとありがたいのだけれど。」
リーゼロッテお嬢様が薄く微笑み聞いてきた。
ーふぁわー!めちゃくちゃ可愛い!ー
「もちろんでございます。」
私の人生で一番の可愛いに出会った瞬間で、この時から運命の輪が回り始めたと言っても過言ではない。
「ローズ様、リーゼ様いらっしゃいませー」
「ごきげんよう、メアリ。ご無沙汰ね。」
「ごきげんよう、お変わり無い?」
今日の私の装いは、白いベレー帽に光と火の屑魔石をこれでもかと貼り付けたモノによって、髪がパステルピンクになっている。
それに、レースをたっぷり襟につけた、フェミニンなワンピースにレースのエプロンをした出で立ちである。
王都の貴族街の一画、フワフワとパステルカラーと可愛いがいっぱい詰まったお店がある。
そこはメアリ スチュワートがオーナーのお店だ。
メアリはギュッと握って強く願うという魔力の圧縮法を偶然みつけた。
それが色々なことに汎用利用されたことの報償として、公爵からこのお店が贈られたのだった。
メアリはイーサンの家門一族の末端男爵家の令嬢であるが、魔力はほとんど無いに等しく、両親のように魔石に魔力を詰めることもできない。
姉はそこそこ魔力があり、魔術師団に入っているけれど、メアリは子供の頃からみそっかす扱いだった。
家は貴族と言えども、貧しい方で、魔石の出来高払いで魔術師団から払われるお金だけが収入だったのだ。
メアリは小さい頃から可愛い物が大好き。
キレイな瓶やタイルの欠片、レースや良い香りの花、金髪碧眼の王女様が出てくる物語
そして、いつか自分が納得する可愛い女の子でありたいと願うようになった。
可愛い髪型は?可愛い微笑みは?可愛い話し方は?可愛い女の子になりたいな!
理想の可愛いを追い求め研究に励む日々、研究の結果、可愛い男爵令嬢はピンク髪であると結論ついた。
メアリは母親似で整った顔立ちをしていたが、髪色は茶色、目も鳶色といいうよくあるサルアールの色合い、せめて一部だけでも良いからピンクにならないかな?そう思っていた。
貧乏だけれど、両親の職業柄、魔石はある。
売り物にならない屑魔石なら好きに使える。
遊ぶおもちゃを買い与えられる訳でもない。
そんなに本も買って貰えない。
だから、家にある屑魔石を使って、髪色を変化させようと多くの時間を費やしたのだった。
その結果、ギュッとしてグッと願う方法が生まれたのだ。
いつものように願った屑魔石を家にある安いピンに貼り付け、髪を留めれば、あらビックリ!顔の周りの髪色をピンクにすることに成功した。
気を良くしたメアリは翌日意気揚々と学校に行き、男子生徒をザワめかせ、女子生徒の嫉妬を煽ることになるのだが、そんなことはメアリは意図しないことであった。
だいたいメアリは男子にモテたいからピンク髪にしたのではない、可愛い男爵令嬢はピンク髪という自身の矜持にしたがった行動である。
が、周りはそうは見ない。
しゃべり方、立ち振舞い、笑い方、満を持してのピンク髪と可愛い研究の一環であったのだが男子に媚を売っているという女子の反感を買い、メアリは女友達が出来なかった。(残念ながら男友達も一人も居ないが)
屑魔石の圧縮法で何か褒美をと言われた時に、貴族学校を辞めて可愛い店を出して働くことを決意した。
そして現在は手作り可愛い商品だけでなく、公爵夫人のルートで紹介してもらった商店から可愛いものを発掘して、時に自作して、お店で紹介すると、一躍繁盛店となった。
両親も魔石の出来高払いの仕事の他に店の従業員としてメアリの店で手伝いをしている。
「メアリ、今日も可愛いわ。」
ローズが弾んだ声で言う。
「ローズ様もお似合いですよ。」
もともと朗らかなローズも可愛いものが大好きだったので、会った瞬間から意気投合し、メアリがデザインした自慢の可愛い服を購入してよく着用している。
「最新の何かはないの?」
リーゼロッテがビスクドールの顔で聞く。
「ありますよ。光の魔力の屑魔石ギュッとして可愛いって思われたいと強く願ったら、少し好感度が上がる石になったのでそれをブローチにしました。魅惑のブローチってどうですか?」
メアリは何気ない感じで説明したブローチをスッと手にとってリーゼロッテが言った。
「メアリ、そのお話詳しくお願い。」
こうして、可愛い研究家メアリスチュワートは後世に色々物議を醸し出すことになる、魅了魔法を図らずしも作成してしまったのであるが、それはまた別のお話。
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