リーゼロッテ、北のロザリア王国でざまあする
これから毎回リーゼロッテがざまあしていきます。
リーゼロッテは北のロザリア王国の伯爵令嬢としてその生を受けた。
そしてすぐに妹が生まれた。
だから物心ついた時にはすでに姉として扱われた。
よくある話で、一つ違いの妹はとにかくリーゼロッテの持ち物を何でも欲しがった。
「お姉さまばっかりズルいわ。」
「お姉さまのアレが良いわ。」
「お姉さまと一緒じゃないとイヤ」
日がな一日中、ズルいズルい、アレが欲しいコレが欲しい、あれしてこれして
よくもまあ、あんなに人のことを見ているものだと感心するくらい(いやしないが)、
朝から晩までお姉さまお姉さまとまとわり付いてくる。
父親の伯爵は北の貴族らしい大柄で無口な男で、家内一切に口を出さない。
いつも苦虫を噛み潰したような顔をして親らしい愛情を見せられたこともない。
母親は元来、大陸南部の温暖な気候のような穏やかな性格だったが、この時期は珍しく沈み勝ちだった。
自身が結婚後順調に妊娠出産をしたのに、王家の期待と共に輿入れした第一王女、王太子妃に妊娠の兆しが無い。
コレばかりは授かり物だからと王太子妃も周りも口では言うが、年子で子を授かった御付きの者に対しての目は物言いたげで、居たたまれない。
出産後でもあり精神的に不安定で沈み勝ちになっていた。
そんな中、家で毎日起こる姉妹のイザコザを姉のリーゼロッテに我慢させることでやり過ごしていたのだ。
リーゼロッテは母の実家から届いた自身の誕生日プレゼントのドレスも、おばあ様から頂いた大好きな髪留めも、おやつのケーキも、朝食のオレンジジュースも
「お姉さんなのだから、妹にあげなさい。」
「お姉さんなのだから、我慢しなさい。」
と次々に取られていった。
もちろん最初はなぜ私が我慢しなければならないの?と、子供らしい態度で嫌がっていたが、日に何度も続くやり取りにキレた母が、なぜかリーゼロッテを罰として書庫に閉じ込めた。
どうして、私が罰を受けなきゃならないの?
リーゼロッテは震える体を自身の幼い手で抱き締めて、力強く足を踏ん張った。
こんなとこに私が居なきゃならない理由なんて無いわ、もうこんな家に居たくない!
強く願ったリーゼロッテの震える足元に大きな黒い穴が開き、リーゼロッテを飲み込んだ、いや自分からそこに飛び込んだ、といった方が良いのだろうか?
リーゼロッテは暗闇の世界でじっとしていた。
どのくらい時間が経っただろう。
時間の流れすら感じられない暗闇の中、あのお姉さまズルいという妹の声が無い世界で、リーゼロッテは自身を抱き締めて眠った。
熟睡である。
怒りで震えるほど激昂し、初めて魔法を使ったリーゼロッテはとても疲れてしまったのだ。
食事の時間になる頃、書庫に迎えに来た乳母はリーゼロッテがどこにも居ないことに驚き、伯爵家中を探し回ったが、どこにも居ない。伯爵に伝えに行くと、夫人と共に書庫に飛んできたが、やはりその姿はどこにもない。
屋敷中、誰も彼もが捜索したがやはり何処にも見当たらない。
翌日になっても見つからないので、いよいよ困って王家に相談し魔法騎士団の捜査を依頼した。
リーゼロッテはその出生の瞬間からロザリア王国からサルアール王国に養子に出ることが決まっていた、言わば預かり者である。その為の養育費として少なくない歳費がロザリアに支払われているのだ、何かあったら国際問題になってしまう。
ロザリア一の魔法騎士が伯爵家を捜査する。
その最中、書庫で魔力を探知し、それによってリーゼロッテが消えたと推察された。
「魔力を探知したというと、即ち誘拐か!?」
自宅の書庫で誘拐など想像もしていなかった伯爵は、珍しく顔を歪めて聞いた。
「いいえ、ここにある魔力は伯爵の魔力と近いモノかと。」
「・・・どういうことだ、私が娘に何かした、と?」
「いえそうではありません。娘さん本人の魔力では?」
「は?あれはまだ三つだぞ。もちろん魔法もまだ学んでおらん。どういうことだ!」
そうは言っても、では実際お見せしましょうと言うと、その魔法騎士は魔法を詠唱した。
すると、書庫の床に魔方陣が浮かびその中心から黒い亀裂が起きた。
その亀裂が大人の体ほどの大きさになった時、徐にその亀裂に手を入れ勢いよくナニカを引っ張り出した。
そこには、昨日の服装のままのリーゼロッテが丸まって眠っていた。
「どういうことだ、リーゼロッテが自分で魔法を使い、隠れていたということか?」
伯爵は頭を抱えて声を絞り出して魔法騎士に問うた。
「やり方は聞かねばわかりませぬが、まず本人の意思で空間の切れ間に入ったのでしょう。」
更に一年後、リーゼロッテは四つになると三つの妹と一緒に教会で祝福の儀が行われた。
すると、リーゼロッテにだけ、《スキル 真実の目》が発現した。
前年の失踪騒動の後、王城の魔術師が調べた結果、リーゼロッテは現在のロザリア王国で唯一の闇属性の持ち主であり、魔力量も規格外の多さだとわかった。
その上、珍しいスキル《真実の目》の持ち主となった。
ロザリア王家はリーゼロッテをサルアール王国に養子に出すことに難色を示した。
「伯爵夫人はまたおめでただとか、いやめでたいな。お主のとこには年子の妹もいるのだろう?そちらを養子に出してはどうか?」
夫婦で側使えしている王太子の直言である、暗にリーゼロッテを国内に留めよという命令だった。
王太子夫妻にもやっと第一子の王子が誕生したばかりだった。
年は上だが行く行くはリーゼロッテを王妃として迎えたいという考えが透けて見えた。
そのすぐ後よりリーゼロッテは側使えの夫人と共に王城に通い、赤子の王子より大分早く王子妃教育が始まったのだった。
まだ遊びたい盛りである。
しかも飽きずに毎日妹からは『お姉さまばかりズルい』『ズルい私も王城に行きたい』と言われている。
リーゼロッテは始め、『ズルいズルい』と騒ぐ妹に辟易としていた。
教会でリーゼロッテにだけスキルが発現した時もズルいズルいと騒いだ妹に、
「あなた、何がズルいと思っているの?誰がズルいの?」
と、聞いてしまった。
教会の司祭や神父たちは気まずそうに顔を背け、母親は
「リーゼロッテ止めなさい」
と、またもやリーゼロッテを責めた。
実際は責めたのでは無いのだが、責められたように聞こえたのだ。
「ならこのわからず屋に聞くのは止めますわ、お母様、私にスキルがあると何がズルいのですの?」
リーゼロッテはハッキリと母に聞いた。
「え?え?いや、この場では止めなさいと言っているのよお。」
「それなら、妹に言うべきだわ。ズルいと騒いでいるのはこの子だもの。」
リーゼロッテは憤慨に震える体を手で抱いて母に告げた。
「あなたはお姉ちゃんでしょ?」
「そうですよ、リーゼロッテ様。身重の母上に心労をかけてはいけませんよ。」
母と司祭が取りなすように言った。
うんうん、と頷く周りの大人も母も司祭も、体中に黒い斜が掛かっていることに気がついた。
王城の人々は濃さの濃淡や量に差こそあれ、みな黒い斜がかかっていた。
「本当にリーゼロッテ様は飲み込みが早い」
と褒めてくれる教師たちも、
「リーゼロッテが王家に入ってくれたらこの国も安泰ね。」
という王妃でさえ、黒い斜の向こう側にいた。
リーゼロッテは早々に、黒い斜は嘘をつく者、偽物にかかることを理解した。
この世界は嘘に塗れている
王城の教育で受けた《神託》によって政をすることがこの世の理
この授業を受け持ったこの王国の大司教でさえ、真っ黒な斜に塗りつぶされていたのだから。
リーゼロッテに弟が生まれた。
伯爵家の嫡男である。
母は三人目にして男子を生んだことで、自身の義務を果たしたとホッとし、元来の性格を取り戻していった。
相変わらず、妹は『ズルいズルい』と騒いでいた。
「お姉さまばかり王城へ行ってズルいわ」
妹は目に涙を溜めてキャンキャンと喚く。
ちらりと母を見ると、リーゼロッテの視線に気づいて困った顔をしながら、
「お姉ちゃんは何もズルくないわ。王さまからの命令でお勉強に行っているのよ。」
「ズルいわ、本当はお姉さまが他所に行くはずだったのに私に代えてしまって。私はこの国に居たいわ。」
エンエンと大きな泣き声をあげた。
さすがに王家からの命令である。
いつものようにお姉ちゃんでしょっとリーゼロッテのせいには出来ない。
母は眉を下げて、優しく妹を抱き締めてその背を撫でて慰めた。
すると、それでいい気になった妹は更に大きな声で泣いた。
その背中は黒い斜に覆われていた。
リーゼロッテが七つ、妹が六つ、弟が二つ、ロザリア王家の王子は三つになった。
王家から内々にリーゼロッテに王子の婚約者にと声がかかった。
一家は王城の、プライベートな王太子宮に招かれた。
私的なお茶会で子供たちの仲を深めるという、名目である。
「こっちに温室があるんだ、そこに行こう」
王子と弟に手を繋がれて、温室に向かおうと手を引かれる。
「お姉さまばかりズルいわ。」
妹が王族の前でいつもの声をあげた。
今日はそういった発言をしてはいけないと母から言われていたのに。
父が苦い顔をし、母が目を伏せた。
「王子殿下、しばしお時間を頂きたく存じます。」
リーゼロッテは王子に声をかけてから両方の繋いだ手を離し、妹に向き合った。
「あなたこそ、弟のお姉ちゃんでしょ?いい加減にしなさい。今日はそういった発言をしてはいけないと言われていたでしょ?」
妹はうーうーと呻き声をあげ、目に涙を溜める。
「あなた、その声動物のようよ。私があなたの年にはもう王城で教育が始まっていたし、弟の年にはお姉ちゃんなんだから我慢しなさいと言われていたし、王子殿下の年には、言うことを聞かないからと書庫に閉じ込められたわ。」
「それはお姉さまが悪いからじゃない。そんなこと言ってひどいわ」
えーんえーんといつものように大きな声で泣き出した。
これにはさすがの両親も顔を青くして、
「いい加減にしないか!」
「泣き止みなさい。はしたない。」
と、妹を叱った。
普段叱られたことが無い妹は、ビックリして更に大きな泣き声を上げた。
「いい加減にしないか!」
父が妹の手を引っ張り控えていた侍女に渡そうとするのを、リーゼロッテが横から止めて
「お父様、乱暴はお止めください。」
と言って向き合った。
「この年まで躾らしい躾をして無いのです。野生の獣と同じ吠えて鳴くくらいしか出来ないのもしょうがないではないですか。」
妹はグジュグジュと鼻を啜りながらも、声を潜めて周りを見回していた。
「な、な。」
父は声を無くして立ち竦んだ。
「僭越ながら、王太子殿下妃殿下にお伺い致したく存じます。」
リーゼロッテは綺麗なカーテシーをしてみせた。
「どうした?」
王太子が問う。
「この不肖の獣が如き妹をサルアール王国に養子に出して国際問題にはならないのでしょうか?」
「「う!!」」
そこの一同が息を飲んだ。
王太子妃の方を伺って見る。
いいんか?これでいいんか?と、強く目で訴える。
母は顔色を無くして項垂れ、父は立ち竦んだ姿勢のまま意識を手放しているようだった。
「リーゼロッテ」
王太子妃が声をかけた。
「はい。王太子妃殿下」
「元々、あなたが生まれたその瞬間から、あなたが養子に行くことになっていたのよ。」
王太子妃は抑揚の無い声で告げた。
「仰せのままに。」
再度綺麗なカーテシーを披露してこの茶番はお開きになった。
その場の大人たちはみな黒い黒い濃い斜がかかっていた。
「リーゼロッテ息災でな。」
父が声をかける。
「体に気を付けてね。」
母が労ってくれる。
「お二人も息災で。みなの幸せを遠くからお祈りしておりますわ。」
そういうと、馬車に乗り込んだ。
リーゼロッテ七歳のことである。
みなの別れの声が小さくなっていく。
その姿は黒い斜の中に消えて行った。
家内を省みない無責任な父
お姉ちゃんだから、お姉ちゃんだから、と問題を押し付けてきた母
ズルいズルいと、妬んでばかりの妹
自国の利益の為に約束を反故する王家
リーゼロッテは自身の不遇を良しとしない。
ぜっったい、ぜっっったい、人見御供なんて、私は絶対にならないんだから。
リーゼロッテ 《神に愛された》という名の彼女は、その麗しの見た目とは違い苛烈な性格の少女であった。
お読みくださいましてありがとうございました。
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