リーゼロッテ、教会にざまあする エピソード5
「あんり様、おはようございます。」
側仕えの侍女に侯爵家の嫡女であるアンヌが就くことが異常事態なのだが、昨日の終末の予言を聞くにあたって適切な人選だったと王城内に勤める者みな胸を撫で下ろした所だった。
ー もし側仕えが粗相をしてあんり様が癇癪を起こしていたら、今この世は神の鉄槌で滅亡していたかも知れない。その点あんり様はアンヌ様のことは気に入った様子で事なきを得たー
一晩で評価が鰻登りの侯爵家嫡女アンヌが、あんりに朝のお伺いに出向いた。
「ああ、もう朝か。久しぶりに夢も見ないでゆっくり眠れたわー」
両腕を伸ばして欠伸混じりに独り言ちる。
「よく眠れてようございました。洗面のメイドをお呼びしても?」
「ええ、お願い。」
慣れたいつものやり取りで、あんりの身支度が始まった。
着替えをすませ、朝食を寝室の隣のリビングで取り始めた。
「あんり様、今日はお食事の後王太子妃殿下がご挨拶に伺いたいと仰っておいでですが。」
「ああ、ロッテが?良いわよ、・・・あの失礼なアレも来るの?」
あんりが脳裏に失礼な男を浮かべて嫌そうに聞いた。
「・・・いいえ、王太子妃殿下がお越しとしか伺っておりません。」
アンヌは周りの空気を適切に読み、相手の欲しい答えを出せる、出来る女である。あんりがアレと言うほど会いたくない(だろう)相手を近づけないと瞬時に誓った。
「じゃあ、良いわよ。そう伝えて。」
あんりが無邪気に微笑み答える。
アンヌは控えているメイドに目配せをして、リーゼロッテに知らせに行かせた。
「ごきげんよう、あんり様。お変わりございませんか?」
朝食が終わり、また身支度を整えさせられた頃、リーゼロッテが部屋にやって来た。
「ええ、昨夜はよく寝れたわ。」
あんりはそう答えて自分の向かい側のソファを勧める。
暫く香り高いお茶を嗜んでいると、リーゼロッテが
「実はあんり様に達ての願いがございます。」
と口火を切った。
「んー?何かな?」
「実は昨夜、この国の最高機密会議で『あんり様のみた夢現を私たちにも見せて頂きたい』という要望が出されました。それをさせて頂きたく存じます。」
リーゼロッテが頭を下げてお願いした。
「へえ、それって魔法で?」
あんりはちょっと楽しそうに聞く。
「はい。魔法とスキルという個人が有している特殊技能で、です。」
「ああ!それって祝福の代わりに神託で白い神様から貰ったヤツだね!」
あんりが、『話がわかった』という顔で言った。
「すみません、あんり様。そこのお話を詳しく伺っても?」
リーゼロッテがいつもの表情の動かない顔で聞く。
「うん、いいよ。これは今の教会の人も知らないと思うよ。一番最初の神託だね。」
「では、最初の神託は教会自身が受けていたのですか?」
「え?知らないの?神託って殆ど教会のために行われてるんだよ。」
あんりが不思議そうに聞き返す。
「北のロザリア王国のためでは?」
リーゼロッテも噛み合わないやり取りに珍しく気が急いてしまう。
「うん?ロザリア王国って教会と一緒じゃないの?だって教会が神託で造った国じゃん。」
・・・
リーゼロッテが言葉に詰まってしまった。そして、
「あんり様、大変申し訳ありませんが、そのお話をわたくし以外にも聞かせて貰えないでしょうか?」
と頼んできた。
はあーと長いため息を吐いて、
「しょうがないな、アレも一緒でってこと?」
と、聞いてきた。
「ええ、アレも同席をお願い致します。昨日のように発言は制限致します。その他に国王と宰相、そして魔術師団長の同席をお認め下さい。」
「結構な大人数だね。この話っておおごとなんだ。」
「ええ、そうです。この国の創生からの理に関わること、ですわ。」
リーゼロッテが言葉に力を込めて言った。
急ぎ、王の居室に件のメンバーが集められた。
「あんり殿。昨日は申し訳なかった。今日は大切な話を伺える機会を設けて下さり、感謝致す。」
王が顔色を悪くしながら、あんりに謝罪と感謝を述べた。
あんりはチラチラッと周りを見回してから、王に目線を合わせると
「イイデス」
と素っ気なく答えた。
「初めまして、あんり嬢。私は魔術師団長のイーサンだ。挨拶はさておき、その最初の神託とロザリアが教会のために造られた国ってのはどういうこと?」
イーサンが簡単な挨拶だけして説明を求めた。
「ふーん、あなたって教会の人みたいな見た目なのね。」
あんりが不躾な視線でイーサンを見て聞いてきた。
「ああ、魔力が多い者はどこの国で生まれても似たような容姿になるのだ。金髪碧眼の者は魔力が多い印だ。」
その回答を聞くと、あんりはリーゼロッテを見やって
「それで、ロッテもその薄い金髪とアイスブルーの碧眼なのね。確かロザリアではそう言う容姿の人が多いのでしょ?」
そう聞いてきた。
「ええ、魔力量が多いほど髪の色は白に近い金になり、目の色も透明度が高い青色になっていきます。」
リーゼロッテの答えに、
「ねえ、教皇とあったことある?」
と、あんりが一同を見回して聞いた。
「いや、この国の者は居ないな。確かリーゼロッテも会えなかったのだな。」
宰相があんりに答えた。
「そう、教皇様はね、白髪よ。そして目の色も白金色だったわ。」
あんりがそう言うと、あっ!とイーサンとリーゼロッテが小さな声を上げた。
「それって、」
「白の男神様の祝福が強いほどその色合いが強くなるのでしょ?」
「では、ロザリア王家は」
リーゼロッテが質問するのに被せてあんりが
「教会の幹部、もしくは教皇になる人を産み出すためにあそこに造られたのよ。」
と、言った。
「え?どういうこと?」
ここまで発言を禁じられていたので我慢していたヘンリーが、とうとう堪えきれずに質問をした。
チラッとあんりがヘンリーを見ると、リーゼロッテがいち早く指をならそうとした。
「いいわよ、魔法で拘束しなくて。今から順を追って話すわ。」
リーゼロッテの魔法を制止して、あんりが話し始めた。
青の女神が深淵の底にお隠れになって、白の男神も空の切れ間に隠れてしまった。
その時世界は異常気象に襲われ、確かに人類の危機的状況だった。
そこで時の教皇は、自身の膨大な魔力を使って白の男神様が隠れている空の狭間で対面することになった。
「どうか白の男神様、我らをお助けください。どうぞ下界を見てください。雨が止まず大洪水がそこここで起こり、一方日照りで一切合切の植物が消滅した地域もある。魔力の貯まるのも今までとはレベルが違うほど遅く、そのため使える魔法は限られてしまった。神は我らをお見捨てになるのですか?」
空の狭間から見るその阿鼻叫喚に、白の男神は心を痛めて教皇の訴えを聞いた。
「我が子よ。この白の世界は青の世界と表裏、内と外、空と海、ここで起きていることは青の世界でも起きている。青の女神と我と二人で揃って初めて安寧の世となる。我だけでは無理じゃ。」
その神の告白に教皇は絶望した。
「では、魔力が貯まらないのもそれが原因ですか。」
「魔力とは大気中に溶けている魔素を体が取り入れたもの。空気中の酸素のようなものだ。魔素は変わらず大気中に溶けている。ただ、それを入れる器が小さくなっているのだ。今までの器の大きさは我の祝福の成果じゃ。祝福が無い今、通常の大きさになっただけ。小さなコップにたくさんの水を入れようとしても溢れ出てしまうように、器が小さければ魔力は貯まらん。」
神から聞かされる、魔法の真理
その言葉は魔法の世界で暮らすものにとって死刑宣言のようなものであった。
「どうか、どうか神のご慈悲を。我らにご慈悲をお与え下さい。」
教皇は涙を流して、頭を下げて懇願した。
「・・・魔素溜まりという長年魔素が蓄積された場所がある。そう言う場所は生活するには不便で苦しく不毛の土地である。そう言う不毛の魔素溜まりの土地に住む者は器が大きくなるように出来ている。だから、そう言う場所に住む野生動物は環境に適応して魔物へと進化して行く。そう言うことだ。」
教皇はその神の啓示で魔力を保持し続ける方法を得たのだった。
「しかし、魔力のある者と無い者では明らかに不公平だな。ではこの世界に生まれる者にある一定の割合で特殊技能を与えるとしよう。我が出来うるのはここまでじゃ。」
白の男神がまた空の狭間で眠りにつこうとしていた。
そこに教皇が、
「どうか、どうか白の男神様、百年に一度だけその神の啓示を我らに与えたまえ。」
そう懇願した。
「では、我が子らが我の眠りを醒ませたなら、その時は話を聞こうぞ。」
そう言った後、その空間は完全に閉じられたのだった。
それから教会の魔力の強い者が北の外れの閉じられた未開の地へと赴き、苦労してロゼリア王国を建国したのだった。
「なるほど、ロゼリアの建国が教会に依るだなんて知らなかった。」
イーサンが言葉を溢す。
「では魔力溜まりにいる者は魔法が使える器を持つのだということですわね。」
リーゼロッテが今あんりから聞いた話を反芻して質問した。
「うーん、でも始めは巧く行かなくて、次の神託で聞くことになるんだよ。」
「なんと、やはり神託は教会がロゼリアのためにしていたのですね。」
宰相が怒りの声をあげる。
「そこはわからないけど、次の神託からは教皇の魔力が足らないので男神様を呼び出せなくて、青の女神様の残滓を帯びている青の世界の子を召喚して贄にすることを思い付くんだ。」
「ひ、ひどい。何て非道な考えだ。」
ヘンリーが怒りに震えて声を上げた。
「青の残滓とは?」
イーサンの質問にあんりは丁寧に説明した。
「よくわからないけど、この白の世界は白の男神の祝福を受けた力の世界、それを持っている白い子らは白の男神の残滓を纏っているって。
私たちの世界は魔力自体が無いの、その魔力の器をそもそも持ってないのだから。
で、白の世界の子らは持っている、魔法が使えなくても、器自体は誰でも持っているんだって。
その器が白の残滓。
同じように、私たち青の世界の子らは智の祝福を青の女神から受けているらしいから、魔法ではなく科学が発達したのだけれど。
その智の器を持っているって。だから青の子は青の女神の残滓を帯びているって。
その青の女神の気配に白の男神は目を覚ますらしいんだ。」
「なんてことだ!神の意思による統治がこの世の理と説いておいて、非道だ。人の命を利用した神託などなんの意味も無い。我が国は今まで一度も神託などにすがったことなど無いのに。とんだババを引かされた!神託などしなくても我が国はやってこれたのだから。」
王が忌々しそうに憤る。
「ちなみに、神託には何を聞こうとしておりましたの?」
リーゼロッテが王に聞いた。
「ああ、我が国の小麦の収穫高が年々減っているのだ。これは神の祝福が無いからだと言われてな。それを聞こうと思ったのだ。」
あんりが無表情なリーゼロッテの顔を見て、王をもう一度見た。
「それって神様に聞くこと?」
「いや、今まで何百年と問題解決をしてきたのでな、これと言った大きな問題とか無いんじゃ。別に聞かなくても良いけど、知れたら国のためになるかのうと思ってな。」
王が、身を屈ませて小さく言い訳を言った。
「現在は東の国より小麦を輸入しておりますが、自国で賄えればそれに越したことは無いのでな。」
宰相である公爵が、国王のフォローをしてあんりに答えた。
「まあね。でもそれって別に神託でなくても解決出来るんでしょ?」
「出来るかは分かりません。未解決の問題などこの食料問題位ですもの。でも、神託が無くても今までやってこれたので、なんとかなるとは思いますわ。」
リーゼロッテがあんりに告げた。
「そうなんだってね。神託をしてない国があること、女神様知らないみたいだったよ。この世の全てを滅ぼして白の男神にも鉄槌を下さないと気がすまないって言ってた。」
あんりが思い出したように王に告げる。
ぐぐっとそこに居た者は言葉に詰まり、ゴクンと唾を飲み込むのだった。
「では、ついでと言っては悪いが、今、青の女神様の言葉が出たので、その夢現を見させて貰いたい。」
そう、イーサンがあんりに頼んだ。
「うん、良いよ。見た方が良い。但し、九十九魂の話は長いし時間がかかるよ。」
と、あんりが答える。
「とりあえず、今は青の女神様の分だけ。それ以外は後日、魔術師団で見させて貰いたい。」
「わかった。」
その後、ラルゴ、ソフィア、ヨーゼフが呼ばれ、リーゼロッテもあんりの横に控えた。
魔法を展開して、ソフィアのスキルであんりの夢現を取りだし、王の部屋のシャンデリアの辺りにリーゼロッテが創った大きな透明な板のようなものに、ヨーゼフと魔石の力で映し出すことに成功した。
《許すまじ、許すまじ、白の世界の住人よ、白の男神よ、我の子らに手出しした落とし前、キッチリ取らせるから覚えとけよーーーーー!!!!!》
漆黒の闇の中、金色に蠢く二つの目が映し出され、その怒気を含んだ声が室内に響き渡ると、ドスンドスンとその場が大きく揺れた。
ワーッキョアーッ悲鳴が上がり、その場に魔術師団は震えて蹲ってしまった。
魔法が使えないとは言え、その器を持つ白の子たる王、宰相、ヘンリーもその怒気に中てられて、小鹿のようにブルブルと震えていた。
リーゼロッテはいつもの無表情な顔であんりの横に立って居たが、あんりがそっと触れたその指先は氷のように冷たかった。
「どうやら、あんり嬢の話は本当で、由々しき事態ということがわかった。魔術師団総力を以てこの問題に当たれ!」
王が震える足を拳で叩き、渇を入れると、威厳に満ちた声で命令した。
「「「御意」」」
それまで震えて蹲っていた魔術師団の者たちは、姿勢を正して答えたのだった。
「そう言えば、小麦って連作障害とかあるらしいよね。それだったら解消する手立てあるかもね。」
あんりがリーゼロッテに軽く言った。
「あんり様、詳しくお伺いしても?」
「いや、私も詳しくわかんないんだけど、ネットで検索できたらなーって、無いか。ごめんわからないや。」
「そのネットとは?」
「いや、みんなの意見とかを集合する場所があって、それを誰でも見れたり、見れなかったりするんだけど。有料とか無料ともあってーってわからないよね。うーん。」
あんりがネットの説明に四苦八苦している。
「併せて、そのネットとやらも魔術師団で解析して利用出来るようにすること、いいな!」
王が、為政者の風格でイーサンに命じたのだった。
それからの日々、魔術師団と王城勤めの者は寝る暇も無いほどの忙しさになるのだった。
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