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リーゼロッテはいつも怒ってる  作者: 有栖多于佳


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リーゼロッテ、教会にざまあする エピソード4

国王の謁見の場に現れた”青の渡り人”様は王の御前だというのに平伏しなかった。

その態度に王も王妃も、そこに集まった高位貴族の者たちは眉をひそめた。


如何にも不満があるような顔つきで国王陛下が声をかける。

「”青の渡り人よ”よくぞサルアール王国に参った。不足無く過ごしているか。」


その問いに少女は答えず、目に力を込めて睨み付けていた。


「ううん。」

国王は咳払いをすると、あからさまに声に不機嫌さを乗せて不遜な態度で

「何か願いがあるのなら、言ってみよ。」

と、聞いた。


”青の渡り人”と言われる少女は腕を組み、足を肩幅に広げると、フンッと鼻息荒くニコリともせずに

「願い?願いというなら元の世界へ帰ることだけよ。直ぐに帰して。知らない世界に勝手に連れ去られて私はこの世界の被害者よ。早く元に帰してよ!」

そう怒りに震えながら答えた。


教会からは『神の御下へと行く贄なのだから、心残りが無いように大切に扱え』と言われただけだが、独自の調査で異世界から少女を強制的に転移させたことを聞いていた国王は、贄の少女が拐われたと感じていることに驚き、慌てて


「そ、それはできない」

と、目は泳ぎあたふたと声も裏返った、威厳も無い様で、焦って答えた。


その様子を見て少女がバカにした口調で


「そりゃあ、そうでしょうね。この世界って本当に遅れてるわ。暴動が起きたと言えば神託、蝗害が発生したら神託、疫病が蔓延したら神託、なんでも困ったら神様ーおせーて、おせーて!ってさ、バカじゃないの?その王冠を乗せている頭の中には甘いクリームでも詰まっている訳ぇー?」

プーックスクスと嫌みな笑いと共に答えた。


さすがにそんな態度を取られたことが無い国王は、

「な、な、なんと!不敬なり。死ぬまでに心残りが無いようにと教会が言うから聞いてやろうと温情をかければ、その態度!許せん。直ちに贄にしてやろう!!」

とぶちギレた。


普段は温厚で、よく臣下の進言に耳を傾ける国王の激昂に、その場にいた他の貴族も『不敬だ、不敬だ』『我が国をバカにしおって!小娘が』『引っ捕らえろ!』と口々に騒ぎ出した。


その様子を見渡して、またニヤリと嫌みに笑った少女は

「温情?心残り無いように?勝手に拐っといて何偉そうに言ってんの?あのさー、知らないと思うから教えといてあげるけど、この世界って今までに神託の贄にされた九十九魂(くじゅうくこん)の憎悪の思念がそこら中に漂っているのはわかってる?この不穏な空気の中よく普通に暮らしてられるね。」

と、言った。


「何を馬鹿げたことを。そんなこと教会からも何も聞いとらんわ。」

国王が大きな声で言い返した。


「おかしいと思わない?私が神託のこと、過去にどんな神託をしたかとか贄のこと知ってるの、何でだと不思議に思わないの?」

腕を組み、顎をあげて強気に言う少女の言葉に、『確かに』『というか、贄って何だ?』『拐って来たってどう言うことだ』『え?拐ってきた少女を生け贄にして神託するのか』ザワザワ ザワザワ と、周りの小さい呟きが広がる。


「私は、この一ヶ月間、この城の部屋で九十九魂(くじゅうくこん)の移ろう魂の子たちと話をしていたもの、だから私の行く末を知ってるのよ。古い子たちからは今の教会幹部でも知らないことも聞いたわ。そして、昨夜は青の女神様という神様と話したの。女神様はそれはそれは凄まじく怒り心頭でさ、百人目の生け贄の私を使って神託をした瞬間、この世界を滅ぼしてくれるって約束してくれたわ。」


フフンと鼻を鳴らして少女は世界の破滅を予言した!


「さあ、さあ、やってみなさいよ。そしてこの世界の破滅のトリガーを引くのよ、王様。」

少女は親指を立て人差し指を国王の胸に向け、一転して自分の胸に人差し指を押し付けてバーンと声を上げた。


先程までのザワツキがピタリと止まり静寂に支配される。

王は王妃と顔を見合わせ、宰相も衛兵も黙って下を向いた。


「青の世界の渡り人様、大変申し訳ありません。」

音もなく少女の前に進み出たリーゼロッテが深々と臣下の礼をとり、

「この世界の度重なる無礼をお詫び申し上げます。どうぞ罰はわたくしが受けます故、お許しください。」

そう声をかけた。


少女はリーゼロッテを上からジッと見ていた。

そこへヘンリーが走りより、リーゼロッテに声をかけた。

「何を言っているのだ、ロッテ。」

それを見た宰相もハッとして、寄ってきて

「リーゼロッテ、何を言うのだ。お前が罰を受ける必要など無い。」

慌ててそう言った。


リーゼロッテは頭を垂れた臣下の礼のまま

「いいえ、ヘンリー様、お義父様。世界の破滅が目の前に迫っているのならば、私の命などなんの価値がございましょう。わたくしはこの国の為に捧げた身なのですから。」

と言うと、アイスブルーの碧眼を少女に向けた。


ジッと成り行きを見ていた少女は徐に口を開いた。

「要らないわよ、あなたの命なんて。自分達の利益のために人の命を使って来た人と同じだと思わないで。」


「な、何を言うんだ!私たちとて人の命を代償にして利益を得たことなど無いわ!!!」

この緊迫の状況でヘンリーが怒りに委せて声をあげた。


「はぁー?寝ぼけてんの?あんたらの神託とやらのためにわたし、異世界から呼ばれてるの、わかってる?てかあんた誰?エラそうね、偉くなさそうだけれど。」

少女はフンと横を向いて、怒ってしまった。


「ヘンリー様、黙って下さい。青の渡り人様、大変申し訳ありません。どうか話を聞いて下さい。本当に我が国は神託を得たことは未だ嘗て無いのです。今回が初の神託だったのです。」

リーゼロッテがヘンリーを嗜め、少女に謝罪と状況の説明を始める。


「えー?そんなこと女神様言ってなかったけど。ふーん、あなただけなら話をしてもいいわ。私を元の世界に帰してくれると約束してくれるならね。」

少女はジッとリーゼロッテを見つめてそう言った。


「だ、ダメだ。ロッテ、危険だ。こんな女の話、信用できない。」

ヘンリーがリーゼロッテの前に屈みこんで肩を揺すってそう言った。


「はあー?さっきからなんなのよ、あんた誰?」

「この国の王太子だ!」

「ええーあんたが王太子?失礼な国だな。人のこと知らない癖にこんな女って何よ!もういいよ、メンドクサイ。なら、あんた私を殺したら良いじゃない!どうせ生け贄にされたら殺されるんだし。私を殺したその時、私の言ってることが本当かどうかわかる前に世界が破滅して、みんな死んじゃうのよ。ほらほら、やってみなさいよ!もういい加減どうでもいいわ!!」


少女がまた怒ってヘンリーに食ってかかって、両手を広げて殺せるものならやってみなさいよと言ってにじり寄って行く。


「ヘンリー様、黙って下さい。」

リーゼロッテが臣下の礼のまま、低い声を上げ指を鳴らすとヘンリーの体が拘束され、声を封じられた。

「重ね重ね、申し訳ございません。どうかお怒りを鎮めて下さいませ。」

リーゼロッテが姿勢を低くして、膝をつき頭を垂れる。


すると、横に立っていた宰相が同じように膝をつき頭を垂れた。

それを合図に王、王妃、そこにいる全ての者が膝をつき頭を垂れ、許しを乞う。


「どうぞ、我らに神の言葉とその叡知をお与え下さい。」

リーゼロッテがそう告げると、

「わかった。あなただけとなら話してあげるわ。」

少女がそう言った。


ヘンリーは魔法で拘束され、言葉を封じられているので、ボーと立っているしかできない。その様子は余りに間抜けで、嘗ての残念王子の面持ちだった。


話し合いの場所を王太子妃の私室の応接室に移し、お茶と共に少女と対面した。

どうしても同席したいと言うヘンリーと宰相にリーゼロッテは一切の発言を禁じ、部屋の隅に座らせた。


「もし次に不用意な言葉で”青の渡り人”様を不愉快にしたら、今後一切会話ができぬようにその口から言葉を取り上げますので、留意して下さい。宰相(おとうさま)、もしヘンリー様が発言しようとしたら体を張って引き摺って退席して下さいね。」

リーゼロッテが冷え冷えとした声で、圧をかけて念を押す。


「あい、わかった。この身に代えても約束を守る。」

宰相は強く頷き答え、ヘンリーは口を押さえて首肯した。


「ねえ、その人王太子ってことは、あなたの旦那さんでしょ?大変ね。」

少女がヘンリーを一瞥すると、労りの声をリーゼロッテにかけた。


「ええ、まあ、大丈夫ですわ。では、”青の渡り人”様」

「ねえ、その呼び名って何?私はあんりよ、あんりって呼んで。」

少女が気楽な口調で言ってきた。


「では、あんり様。わたくしはサルアール王国王太子ヘンリーが妃、そしてこの国の宰相をしているロレーヌ公爵家の次女である、リーゼロッテと申します。どうぞロッテとお呼び下さい。」


「ふーん、そこのおじさん、公爵様なんだ。公爵令嬢が王太子妃になったんだ。私の世話をしてくれてた人は侯爵令嬢なんだってね。アンヌさん、あの人はとても気が利いて優しい人。あなたが彼女に頼んでくれたんでしょ?彼女が教えてくれたわ。ありがとう。」


「いいえ、身に余る光栄です。」


「うーん、そういうの良いから!苦手なんだよね。とりあえず話を進めない?青の渡り人って何?渡り人は異世界から拐われてきた私のことでしょ?青って何?」

あんりがくだけた口調で質問した。


「あんり様、教会で青と白の世界の創生神話について話を聞いたりしませんでした?」

「ええ、修道女に聞いたよ。私のいた世界が青の世界、ここが白の世界。青の世界が戦争を始めたから女神様が嘆いて深淵の底に隠れちゃって、男神様も女神様が居ないことを嘆いて空の狭間に隠れちゃったんでしょ?」

「そうですわ。そして、この世から神の祝福が消えてしまって混沌になったのです。」

「修道女は青の世界のせいで混沌に陥ったのだから、白の世界を青の世界の子が救うのは当然だって言ってたけど、そんな理屈ある?私が何かした訳じゃないのに、勝手に罪を着せないでよね。」

あんりが修道女に言われた言葉に反発して批判する。


「当然ですわ、そんなの道理が通りませんわ。言い訳に聞こえるかもしれませんが、我が国では神託や青の世界があることなどはお伽噺の様なものだと皆が思っておりました。魔法もそんなに身近にはございませんし。」

「え?ロッテは魔法使うじゃん。指パチンってして口を塞いでたじゃん。」

あんりが不思議そうに聞いてくる。


「ええ。私はこの国の出身ではありませんので。」

そうして、リーゼロッテは自分の出生の話、魔法と白の世界の話、教会の話をあんりに話して聞かせた。


「そうなんだ、だから女神様あんなこと言ってたんだね。」

長い長い話を黙って聞いていたあんりは、話を聞き終えた時そう呟いた。


「あんり様、それはどういうことでしょう?この世の終わりとはなんでそう思われたのですか?」

リーゼロッテがあんりに聞き返した。


九十九魂(くじゅうくこん)の怨み辛みを毎日何人分も聞いていたんだよ、ある子は王子様にチヤホヤされて好きになって幸せになれると思った矢先、生け贄にされちゃって怒髪天だったりさ。」

あんりが苦い顔をして言った。


「まあ、それは乙女の純情を踏みにじる所業、殺されても文句は言えませんわね。」

リーゼロッテも冷たい声で相づちを打つ。


「ある子は国の外れに大きなお城を建ててもらって心穏やかに生活していた所、突然魔方陣によって意識を刈り取られて生け贄にされたり。」


「それは、人の所業とは思えませんわね。」


「人拐いにあって、傷ついている子を保護して優しくして、一年したら生け贄にして死に至らす。これに怨みを持たない者など誰一人居なかったわ。みなこの世界、白の世界に憤り憎しみ怒りを抱えて、この世の大気に溶けずに澱のように溜まっていった残留思念が、深淵の底に隠れていた青の女神の眠りを覚まし、その所業を全て知った青の女神は凄まじく怒り狂っていたよ。」


リーゼロッテはメルゼルク領の白く煙立ち上る海底での『おおおおおおぉおおー』という雄叫びと『許すまじ許すまじ我が子』というヨーゼフが震えた声を思い出した。


「この青の世界と白の世界は表と裏 内と外 空と海 一対の世界でしょ。白の世界だけが青の世界の子を生け贄にして白の男神の神託を受けてきたなんて、青の世界(ひとんち)に手を突っ込んだんだから覚悟しとけって、白の男神も白の世界の住民も神の鉄槌を降すって女神様が昨夜、夢現に現れて言ってたよ。」

あんりが軽やかに笑いながら言った。


さすがにリーゼロッテも、部屋の隅でジッと気配を消して話に耳を傾けていたヘンリーと宰相も、ヒュッと息を飲む音を漏らした後、暫く吐くことを忘れたほどだった。


二人は今聞いた言葉を反芻した後、『約束を守れず、すまん。御前失礼する』と言うと部屋から走り去って行った。


「あんり様、ご無礼を申し訳ございません。」

リーゼロッテが珍しく顔色を悪くしながらも、正式な謝罪をした。


「いいよ。別に。ロッテが居なければ私はこの話をする気がなかったんだ。こんな世界無くなっちゃえって。でもさ、ロッテから神託について知らない人がほとんどだって教えてもらって、何も罪が無い人も罰を与えられるのって私に生け贄を押し付けた教会と同じ考えだって思った。だから罪の無い人に迷惑がかからないようにするなら、私も手伝うよ。そしたら、私の願いを叶えて欲しい。」

あんりが先程とは違う真剣な面持ちで言った。


「あんり様、何なりと。」

リーゼロッテも真剣な瞳をあんりに向けた。


「ロッテ、白の世界を破滅から守ったら、私を元の世界に帰して。私、家に帰りたい。」


「あんり様、仰せのままに。但し、暫しのお時間を頂けますようお願い申し上げます。」

リーゼロッテが深々とカーテシーをして、正式な回答を述べた。


この世界で、贄の願いを聞き届けた人はリーゼロッテだけであった。


「陛下、確かに終末の鐘を鳴らすも鳴らさないも我が国にかかっております。」

宰相が重く言葉を溢す。


「グヌヌ、散々寄進だなんだと、我が国から金を無心したあげく、厄災を持ち込みおって!今後教会を禁じよ!」

「兄者、今はそんなことを言う時でござらん。逆にあんり殿が我が国に保護できて良かった。保護せず他所の国で神託をしていたら、何も知らぬ間に皆死ぬところだったのだから。」

「それもそうか。一年後の神託の日までに、青の女神の怒りを鎮めてもらう手立てを考えるのだな。」


国王と宰相が兄弟の口調になっていた。

降って湧いたような危機的状況が、王族としての仮面を脱ぎ捨てさせてしまったようだ。


「陛下、とにかく、魔術師団を交えて話し合いをした方が良いと思うのですが。」

ヘンリーが兄弟の話に割り込んで進言した。

「そうだな、魔術師団長を、イーサンを呼べ!」


その日の王家と魔術師団、リーゼロッテとあんりのそれぞれの話し合いは深夜まで及んだ。


そして翌日、とりあえずあんりの夢現が本物かどうかを確認することになったのだった。



お読みくださいましてありがとうございました。


誤字誤謬があるかもしれません。


わかり次第訂正いたします。


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