リーゼロッテ、教会にざまあする エピソード3
意識を取り戻しても一日中、ベッドの住人にされたリーゼロッテ
「ロッテ、体調はどうか?」
ヘンリーがことある度に顔を出す。
そして侍女やメイドの数が異様に多い。
「ヘンリー様、今日は部屋に人が多いのですが。」
リーゼロッテが珍しく困惑を感じる声で聞いてきた。
「ああ、何かあった時に人の手と目が必要だからな。そしてこれをロッテに。」
そう言うとヘンリーがリーゼロッテの右手の小指にピンキーリングをはめた。
「これは?」
不思議そうにそのリングを見てリーゼロッテが質問する。
「ああ、これはメアリの最新作だそうで、魔封じの指輪だそうだ。組紐の逆を魔法展開したとか。詳しくはまた元気になったらメアリに聞いてくれ。」
ヘンリーが珍しく王子然とした顔で告げる。
「魔封じとは?」
「ロッテの魔力が発動しない。そして外からも干渉されない。その名の通り魔力が封じられるのだそうだ。」
「なぜ、魔封じが?」
リーゼロッテが表情の無い顔を向け抑揚の無い声で聞く。
「理由は簡単だ。まず、ロッテが魔法でどこかへ出掛けぬように。魔力欠乏は死に至るそうだ、今日は魔法を使うのを禁じる。魔力を貯めて英気を養うのだ。次に、もしまた何者かがロッテの魔力を抜こうと魔法を展開したとしても、指輪の石によって撥ね付けるそうだ。メアリは結界のようなものと言っていたぞ。他に質問はあるか?」
ヘンリーが表情や声は優しいが、絶対この条件は守らせるという決意を込めて説明した。
リーゼロッテは、この口ぶりではヘンリーが魔術師団を通したとしてもメアリと直接交渉して指輪を作らせたことは容易に推察され、それが自分に向けられた愛情故だとわかるので、
「ヘンリー様のご意志のままに。本日は休ませていただきますわ。」
と、素直にベッドの住人となったのだ。
リーゼロッテが休んでいる中、ヘンリーは執務の傍ら、魔術師と暗部に命令して教会の動きを探らせていた。魔術にかけては教会とは比較にならないほどの差がある王国魔術師団ではあるが、そこは外部から《スキル 探究者》を持つメアリを招聘して、”できたらイイな!”を形にして行くことで、教会の裏を探る手立てとし、教会の内部へと調査の手を延ばしていった。
程無くしてリーゼロッテの魔力も元に戻り、執務に復活することになった。
「ヘンリー様、あの夜の出来事についてそろそろ教えて頂いても?」
リーゼロッテの質問に、イーサンも呼ばれて説明することになった。
「王太子妃殿下、お加減はいかがですか?」
イーサンが丁寧な挨拶をする。
「ええ、もうすっかり。殿下が過保護なくらい心配して下さるので、随分休ませてもらいましたわ。」
リーゼロッテは親しげに返事をした。
「それは良かった。では殿下がなぜそんなに大事を取らせたかも含めて、説明をさせていただこうか。」
そう言うとイーサンはあの夜にリーゼロッテの身に起こった話を始めた。
そして、ビジョンで見た神代文字の魔方陣の話
「ああ、あの魔方陣ね。」
リーゼロッテも夢現でみた魔方陣を思い浮かべ答えた。
「神代文字を使った魔法を使うのはこの世界で教会だけ。しかも」
「神託の贄に関わる魔法なのね。ああ、それで。」
イーサンの声にリーゼロッテが被せ、小指の指輪をそっと撫でる。
「殿下の指示の下、教会を調査した結果、どうやら異世界から人を転移させたようです。」
「い、異世界って?そんな物語みたいな。」
ヘンリーも初めて聞く報告に驚く。
「ヘンリー様、わたくしたちは見たではありませんか。異世界の移ろう魂を。」
「あ、あの破廉恥な制服の魂は異世界から呼ばれた贄だと言うのか!」
「異世界と呼ぶか、青の世界と呼ぶか。」
イーサンが呟いた。
「ええ、教会では青の世界と言っていますわね。そこから人を連れ去り、贄にする、と。」
リーゼロッテが抑揚の無い声で答えた。
「本当に青の世界などがあるのか。して、別世界から人を転移させるなど、そんなことが可能なのか!?」
ヘンリーが驚きが収まらぬようにイーサンに聞き返した。
「可能か、と言われると可能なんでしょうね。我が国には無いが教会にはある、秘術なのでしょう。しかし多くの代償を払っていることでしょうが、ね。」
イーサンが苦々しく告げた。
「そうですわね。わたくしは何十もの魔法使いがバタバタと倒れている様を見ましたわ。」
「魔力を絞り取られて絶命した魔法使いがいるのでしょうな。」
「それが教会の所業か!神託とは、神とはなんなんだ。」
ヘンリーが声を絞り出して言った。
神託にあたっての説明と称して教会本部から使節団がやってきた。
「青の世界より来られた《渡り人》を依り代として神託を行います。渡り人がこの世に未練なく神の御元に行けるように希望を叶えることが、神託を受ける国の役目となります。どうぞ大切に扱って下さい。」
「そして、青の世界より渡り人を呼ぶ秘術には非常に大きな力が必要になります故、教会の負担が大きいのです。ですので、神への寄進をお願いしています。」
一度その申し入れをリーゼロッテによって断られているにも関わらず、教会からの使者と言う教会幹部はいけしゃあしゃあと金の無心をしてきた。
「なるほど。その件に関しては以前王太子妃殿下から返答をさせてもらったはずだが。」
宰相が冷たい口調で答える。
「いや、そうですが、サルアール王国では初の神託故、その作法をご存じ無いのかと。」
嫌な下卑た笑いを口許に湛えて教会の使者が言い返す。
「なるほど、作法ですか。確かに西の国に伺った所、後宮で教会幹部を接待して関係強化を図っているとか伺いましたが、残念。我が国は教会の教典通り一夫一婦制の為、後宮がござらん。申し訳ないのう。」
宰相が全く申し訳無くない、なんなら蔑んだ顔で答えた。
「うぐ。いや、後宮など噂でしょう。創生の夫婦神を祀る教会がそんなことあるわけがございません。」
その教会の使者は、暑くもないのに急に額に汗をかきかき、言い訳を言う。
「そう言えば、先月の新月の夜、我が妃がどこかの魔法によって魔力を抜き取られ死ぬところであったのだが、教会で思い当たることは無いか?」
ヘンリーが教会関係者に直球を、豪速球の直球を投げた。
「え?いや、全く。それは、大変な。いや、はや。」
先程以上に汗を毛穴から吹き出して、教会からの使者があたふたと言い訳をする。
「そうか、我が国の魔術師団の対処が早かった故、現在は持ち直しているが、その時の夢現でみた魔方陣が神代文字で書かれていたとか。私は魔法に詳しくないが、我が妃はロザリア出身でな、魔術に長けているので見間違えることなど無いと言うのだ。」
「それは、夢の話では。」
教会の使者が目も合わせずに答えた。
「そうか、では我が妃の前でもう一度答えてもらえるか?知らぬかも知れぬが、我が妃は《スキル 真実の目》を持つ者なのだよ。」
ヘンリーが威圧を込めて逃げられない状況へと追い込む。
「いや、失礼しました。この寄進の話は王太子妃殿下から九百年間の多額の寄進で対応する旨ご返事頂いておりましたな。では、また。近々渡り人を送り届けに参ります。」
あせあせと転がるように退席する教会の使者を王国側の列席者が冷たい目で眺めていた。
その後すぐ、教会から贄の移動の申し入れがあったが、王国の警備上の理由で教会の聖騎士が転移魔法で王国内に入ることを禁じ、王国の北側の辺境地、旧ロジアン領から王国の馬車で王城まで”青の渡り人”様をお連れした。
王城につくと貴賓室を居室として与え、側使えの侍女にヨーゼフの婚約者 侯爵令嬢のアンヌを指名し一ヶ月ほど様子を見ることにした。
”青の渡り人”様はまだ年若い少女だったが、教会から与えられた地味な修道服を着て顔色も悪く塞ぎがちであった。
そこで、アンヌの指示でバラを浮かべた香り高い温かな湯に浸かり、王宮の優秀なメイドによって身体中をマッサージされ、王国の最南端で採れる柑橘を絞ったジュースを振る舞った。
その日”青の渡り人”様は、少しリラックスした様子で食事を済ますと、すぐ眠りについたのだった。
「やはり、アンヌ様にお願いして良かったわ。青の渡り人様が少しでも心穏やかに過ごせるよう心配りをお願い致しますわ。」
リーゼロッテが王宮の王太子妃の応接室で、アンヌとお茶をしながら状況を聞いていた。
その少女は口を聞かず、目も虚ろだったが、ジュースを飲んだ時だけ
「美味しい」
と小さく呟いたと言う。
「きっと教会では怖い思いをしていたと思いますの。ちょっとした物音にも過敏に反応しておいででしたから。お可哀想に。」
ヨーゼフからある程度話を聞いている様子で、アンヌが言葉を溢した。
”青の渡り人”様は寝ている間、苦しそうに魘され、時には涙を流している時もあった。
一ヶ月後、王への謁見が行われる日の朝、おどおどした態度は鳴りを潜め、意を決した顔つきの少女がそこにいたのだった。
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