リーゼロッテ、教会にざまあする エピソード2
思ったより長くなってしまいました。三話の予定がもうちょっと続くので、話数にサブ題表記を変更します。
リーゼロッテ一行とメルゼルク辺境伯嫡男のヨハンとなぜか夫人のローズも同行して、漁師の親方の先導で目的の場所に着いた。
辺境伯が所持する最大級の船の上から、海底から空に向かって立ち上る白い煙を確認した。
リーゼロッテが甲板の先に立つとラルゴヨーゼフが横に並ぶ。
なぜか後ろにヘンリーが引っ付いているが、それは皆見ないふりをしてやり過ごす。
リーゼロッテが指を鳴らすと、ラルゴヨーゼフと共に動かなくなった。
「これは、どういう魔法?」
ローズがヘンリーに聞く。
「幽体離脱のような状態になって意識体だけが動いている。たぶん海底を潜っているはずだ。」
ヘンリーが海の水面を見ながら答えた。
「え?今、この三人意識無いの?」
ヨハンが驚いた声をあげた。
「そうだ、非常に無防備な状態だから、私がここで守っているのだ。ただ侍っている訳ではないぞ。」
「あら、そうだったのですね。リーゼにくっついてたいのかと思いましたわ。フフ」
ローズが軽く笑ってヘンリーに言った。
そうこうしていると、フッとリーゼロッテの髪が揺れ魔術師たちが伸びをした。
「無事戻ったか。どうだった?」
ヘンリーが三人の顔を見回して言った。
「そうですわね。場所を改めましょうか。」
リーゼロッテが目配せをすると、ヨハンが反応して、
「船内の貴賓室をどうぞお使いください。私たちは同席しても?」
「ええ、お願い。」
「ではこちらへ。」
ヨハンが船内の貴賓室へとリーゼロッテたちを案内し、厳しくその付近の往来を禁じて警備させた。
「リーゼロッテ、さてどういうことだ。なにか大きな問題が?」
ヘンリーが焦りを帯びた声で問う。
「ラルゴ様、ヨーゼフ様。」
リーゼロッテが二人の魔術師に説明を促す。
三人はリーゼロッテが作り出した透明な球体の中に入って問題の海底へと降りて行った。
そこで、『おおおおおおおおぉおおおぉー』という慟哭のような叫び声を聞き、その声のする方へとどんどんと降りて行った。
底には更に深い海溝があって、そこにはもう降りて行くのは難しい。
余り肉体と離れると戻れなくなるリスクがあるのだ。
そこで、ラルゴがヨーゼフに精神干渉の魔法をかけヨーゼフにその慟哭主の意識を憑依させた。
これは以前闇の魔石で男爵令嬢が移ろう魂に憑依された一件から研究された新たな魔法であった。
すると、ヨーゼフが異常に苦しがって体中をかきむしり、涙を流し出した。
《許すまじ、許すまじ 我が子たち》
聞き取れた言葉はこれだけだった。
後は音にならない雄叫びのような、絶叫のような、啜り泣くような それだけが続いた。
「リーゼロッテ様、これ以上はヨーゼフに障ります。」
そうラルゴが言うと、術を解いた。
ヨーゼフはその場に倒れ込み依り代となった闇の魔石は砕け散った。
「ヨーゼフ大丈夫なのか!?」
ヘンリーが慌てて聞く。
「ああ、直ぐにラルゴに治癒されたから大丈夫だが、あの地を這うような雄叫びに体の震えが止まらない。」
よく見ると、ヨーゼフの体は小刻みに震えていた。
「これはどういうことなんですか?」
ヨハンがリーゼロッテを見て前のめりに聞く。
「あそこには、”大きな魔力を帯びたナニカ”がおります。それは怒り心頭。今回わかったのはそれだけでしょうか。」
リーゼロッテが抑揚の無い声で告げる。
「それはこの辺りに被害は無いのですか?」
ヨハンは混乱した様子でリーゼロッテに聞き返した。
「それは現状わかりませんわ。何に怒っているのか、あれは何なのか?但し、人の力でどうこうできるレベルではございません。火山の噴火を人が制御できないように、天災と呼ぶべきナニカですわ。」
リーゼロッテがはっきりと告げる。
「天災レベル。教会の尽力を賜るのはどうか?」
黙って聞いていたヘンリーがリーゼロッテに問いかけた。
「神託ですか?正直、どのレベルの問題解決に役立つのか不明です。そうですね、神に助力を乞い願うならば、ありかも知れません。心の問題として。」
リーゼロッテが辛口な言葉を返した。
「つまり、どうしたらいいのかしら?」
ローズが単刀直入に聞く。
「一旦、魔術師団へ持ち帰り、イーサン様も含めて検討しますわ。それまでこの海域の立入は禁止して下さい。」
「あい、わかった。早急の対応をお願いしたい。」
ヨハンが不安を隠しきれない顔つきで頭を下げたのだった。
王都へ戻ると、この件は王や宰相にも報告されたが、リーゼロッテもわからない状況ではかける言葉も見当たらない。
『どうか被害が起きないように頑張ってくれ』という何とも他人行儀な言葉をかける位のものだ。
魔術師団ではヨーゼフが体験したことを《スキル 投影》で団員に共有化した。
因みに、旧ロジリア領で窃盗団をしていた者で魔術師団に入団した当時十二才の女子が投影のスキル持ちで、彼女の加入により王国での魔法の展開が飛躍的に発達したのだった。
海底での慟哭のビジョンを共有した魔術師の中には、その圧に中てられ体調を崩す者もいた。
中々進まない解析に、リーゼロッテも得も言われぬ不安感を抱いていた。
そんな新月のある夜、真夜中に夫婦の寝室で休んでいるリーゼロッテが突然苦しみ出した。
「ロッテ、ロッテ。大丈夫か、ロッテ。聞こえるか、返事は出来るか?ロッテ。」
隣で寝ていたヘンリーが、無意識ながら苦しみの声を上げるリーゼロッテの異変に気づき声をかけたが応答が無い。
「誰か、誰か医師を呼べ!治癒師もだ!」
ベッドから飛び出ると、警備の近衛騎士と暗部に大きな声で命令を出す。
「どうかなさいましたか?殿下、入室御免」
深夜の焦ったヘンリーの声に、騎士と暗部が姿を現して聞いてきた。
「リーゼロッテが意識がなく、苦しんでいる。至急医師をこちらへ呼べ。」
「御意」
そして、御殿医と魔術師団所属の治癒師が直ぐにやってきて、リーゼロッテを診察した。
リーゼロッテの顔は、青白く、冷や汗をかいていて尋常な状態ではないことが診てとれた。
御殿医の診断は衰弱であり、治癒師は著しい魔力の喪失だった。
「魔力を失うと命も危うくなってしまいます。現在非常に危険な状態です。」
治癒師が気遣いながらもヘンリーに告げた。
「そんな、なぜ魔力の喪失など。リーゼロッテが今までどれほど魔法を使っても魔力切れなど起こしたことがない。ただ寝ていただけで何が起こったのか!」
リーゼロッテの命が危険な状態と聞いて、ヘンリーは動揺を隠せない。
「これは何かの魔法が関係している。こちらに任せてもらおう。」
すると、イーサン率いる魔術師団の精鋭と治癒師が続々と入室してきた。
「あ、イーサン。魔法が関係しているだと!」
「ああ、任せてくれ。とりあえず、魔力の供給を始める。殿下は外へ。」
「ああ、リーゼロッテを頼む、助けてくれ。」
ヘンリーはリーゼロッテの頬にキスをすると、イーサンに頭を垂れ部屋の外に出ていった。
「フフ、相変わらずだな。殿下、命令すればいいのだよ。王族が頭を下げるものではない。」
イーサンがこの気の良い従弟に微笑みかけ、直ぐに治癒魔法を展開した。それに続いて他の魔術師も各々の魔法を詠唱していったのだった。
真っ暗な闇 ぽっかり空いた空間 飛び込むと其処は 無の中
リーゼロッテは書庫に閉じ込められて初めて魔法を使った日を夢で見ていた
すると、現実の出来事とは違い、リーゼロッテの頭上に赤い魔方陣が現れて、別の場所に連れ去られた
気がつくとそこは暗い暗い広い部屋、中心にはうず高く積まれた魔石の山、周りを幾十も取り囲み、多くの魔法使いたちが魔法の詠唱をしていた。
魔法使いが詠唱を終えると、中心の魔石を囲うように赤い魔方陣が発動され、リーゼロッテの魔力もその魔石に吸い込まれるように体から抜けていった。
周りを見渡すと、一人二人と魔法使いたちがバタバタと倒れていって、気づけばリーゼロッテも意識を手放したのだった。
「ロッテ、ロッテ。聞こえるか、リーゼロッテ。」
その必死の呼び掛けに意識を浮上させ、ゆっくりとその目を開いた。
「ああ、良かった。ロッテ。」
ヘンリーが大粒の涙を溢しながら、リーゼロッテの体にすがり付いた。
魔術師たちの魔力供給が夜中続き、明け方になってやっとリーゼロッテの呼吸が落ち着いて来た。
そこにヘンリーが呼ばれ、危険な状態は峠を越したと御殿医からも告げられた。
ヘンリーはリーゼロッテの手を握り、必死で名を呼び続けると半刻ほどでリーゼロッテの意識が戻ったのだった。
「いったい何が起こったというのだ。」
リーゼロッテにまだ体を休めるように告げ、執務室へと場所を移しヘンリーが魔術師団に聞いた。
「はっきりしたことはわからないが、わかる範囲での説明を行おう。」
イーサンがそう言うと、ヨーゼフとソフィアによって空中に画像が投影された。
「治癒師の魔力供給と平行して、魔力探知を行った。王太子妃殿下の魔力が強い力で引っ張られているのを関知した。その場所は大方キョコト市国の教会本部で間違い無いと思われる。」
「この部屋の魔方陣にリーゼロッテの魔力が引っ張られて抜き取られているのか。」
ヘンリーが怒りを抑え込んだ低い声で聞いた。
「引き抜かれているが、それが意図したか偶然かは分からない。」
イーサンが固い声で言う。
「だいたいこの魔方陣は何の魔方陣なのだ!」
「調べてみないとわからない。魔方陣に使われている文字は古代文字だ。しかもかなり古い。神代文字かもしれない。そうすると、現在の王国では訳すことが出来ない。」
「つまり、教会だというのは間違いが無いと言うことだな。」
「ああ、神代の魔法を使うなど教会でも滅多にない。推測になるが、この魔法は」
「「神託の魔法」」
イーサンの声にヘンリーが被せて言った。
「そうだ、なぜ殿下が?」
魔力がないヘンリーが魔法陣に気がつくとはと不思議に思ったイーサンが聞く。
「つい先日、教会から来年の神託に関わる贄の費用負担の依頼が来た。それをリーゼロッテが今までのツケから引いておくと返事を出したんだ。その仕返しかもしれない。」
ヘンリーが厳しい顔で言った。
「え、、、」
さすがの魔術師団長も教会が王太子妃の命を狙った嫌がらせを行うなど想定してなかった為、二の句が告げず言葉に詰まった。
「なんにせよ、もう少し、魔術師団には調べてもらおう。」
ヘンリーがイーサンと他の魔術師を見回して言った。
「「「御意」」」
胸に手を置き、そこにいた者は臣下の正式な礼をして返事をしたのだった。
お読みくださいましてありがとうございました。
誤字誤謬があるかもしれません。
わかり次第訂正いたします。
いいねなどいただけますと励みになります。
よろしければお願いいたします。




