卒業記念パーティーでの婚約破棄
定番の裏側です。
多くの貴族が処分され、教会との関係性が変化した問題が片付くと、
ヘンリーたち生徒会の面々は 数多の貴族学校での行事の仕切りが続いた
ダンスパーティや学園祭、王領での野営体験など
生徒会のメンバーが全員一年生であることから、上級生の協力も得ててんやわんや
しかし、国家の威信に関係することもなく、他国との緊張関係でもなく、ただただ楽しみを追求するイベントの企画と運営は、かつて経験したことの無い気楽さでリーゼロッテは学校生活を満喫していた。
そして、期末試験をサラッと越して、今日は三年生の卒業式とその記念パーティーであった。
滞りなく卒業式が終わり、場所を貴族学校の大ホールへと移す。
プレ社交界である貴族学校での卒業記念パーティは公式式典としての格式がある。
そこでのトラブルは成人前とは言え、貴族社会では致命傷になるので出席者は皆緊張感を持って挑むのだ。
卒業生は元より、在校生も、卒業後王城勤務を希望している生徒は運営側として、給仕やメイド護衛や侍女侍従などの役割を本職に混じって担ったり、婚約者が卒業生であればパートナーとして出席したりする。
今回、生徒会メンバーは完全に運営側としての参加であった。
卒業式の最中から、卒業生の様子をスキルを用いて全体を監視していたリーゼロッテが、ある一部を凝視していることにヘンリーは気づいた。
よくよくその場を見てみると、何やら仲良さげに腕を組む卒業生男女とそれを涙ぐんで見ている女生徒がいた。
「なぜあの部分の者だけあんな不穏な感じなのだろう。」
思ったことが口から出てしまう性質のヘンリーがいつものように呟くと、
「ああ、またアレが起こるのかしら?」
と、訳知り顔でローズが溢す。
「ああ、何で毎回数組は同じようなことを繰り返すのかね」
とヨーゼフもうんざりした口調で言った。
「あの者たちが何をするのか知っているのか?」
ヘンリーが全く想像もつかないような顔で聞いた。
「殿下、東の国の第三王子の話は覚えておいでですか?」
リーゼロッテがいつもの変わらぬ表情で言う。
「ああ、幼いロッテが王子の嘘を断罪したヤツだな。もちろん、覚えている。」
リーゼロッテのことにかけては記憶力が何割増にもなる、ヘンリーが自信を込めて頷いた。
「あの、院長様が冤罪で断罪されたのが、卒業記念パーティだったのですわ。きっとあの辺りの者たちも”真実の愛”に気づいたと言って多くの前で婚約破棄騒動を起こすのではないかしら?」
リーゼロッテが抑揚の無い声で告げた。
「あれ、どうして人前で言うのかしら?結局それで上手くいったという話は聞いたことが無いのだけれど。不思議だわー」
「そりゃ、二人の”真実の愛”を見せびらかすクライマックスだからな、アドレナリンがバンバン出て高揚するんじゃない?」
ローズとヨーゼフが呆れた物言いで話していた。
「それは大いに問題じゃないか、対処しなくては!」
ヘンリーは取り急ぎ生徒会室に戻ると、過去の日誌を漁り出した。
「なになに、殿下どうしたの?もう年中行事みたいなものだからさ。」
卒業式の運営をリーゼロッテとローズに任せて、ヨーゼフだけがヘンリーに付き添った。
「いいから、過去五年ほどの”真実の愛”の発生件数とその顛末を抜粋してくれ。」
ヘンリーがヨーゼフに指示を出す。
「え?今から?もうすぐ卒業式終わってしまうよ。」
「だから、急いでくれと頼んでいる。」
「もう、そういうの前もって言ってよね。」
ヨーゼフがブツクサ言いながらも日誌を手に卒業記念パーティの項を読み始めた。
さて、卒業式が滞りなく終わり、一旦生徒は記念ホールの隣接した控え室に行き、各家から派遣された侍女やメイドによって制服から礼服へとお召し替えが行われる。
男子生徒はそれほど時間がかかる訳ではないが、女生徒は割りと時間がかかる。
そして、準備が整った下位貴族から記念ホールに入場していく。
王城の侍従志望の生徒が男爵家の名を呼び上げ、その生徒が入場し始めた。
次々と人が増えていくホールに華やかな熱気が満ちてくる。
多くの生徒は、学校からと子供時代からの卒業という節目に希望と喜びを胸に抱いてパーティの開始の時間を今か今かと待っていた。
すると、不穏なカップルが入場してきた。
伯爵家の次男とその腕に豊かな胸を擦り付けて、娼婦の衣装のように大きく胸元が開いた真っ赤なドレスを身に纏った男爵令嬢である。
家格が釣り合わないのは、家同士の取り決めでは無く”真実の愛”だからだろう。
「あーぁ。」
ローズが残念な声を上げる。
リーゼロッテはいつもの表情でその光景を黙って見つめていた。
その後も続々と入場が続く。
パートナーの居ない男女は、意中の者にエスコートの申し出をすることでカップルになる者もいるが、多くは親族のエスコートで入場していく。
王族、公爵家が在学中なため、侯爵家の嫡男が婚約者と共に入場し、そろそろ終わるかという時間。
先程の不穏なカップルが意地の悪い笑顔で入口を見ては何やら囁いている。
リーゼロッテがローズに視線を向ける。
「ああ、あの卒業式で反対側の横に居た彼女、侯爵家の嫡女なのよ。きっとあの伯爵家の次男が婿入りする予定の政略結婚なんでしょうね。本来は侯爵令嬢をエスコートするハズがアレをぶら下げて先に入場しちゃったから女生徒が独りで入場しなくてはならないのかしらね。事前には彼女をエスコートするって言ってたのかもね。だから、代わりのパートナーを用意してなくて、恥ずかしい思いをさせるのを楽しんでいるのね。悪趣味だわ。」
リーゼロッテがさすがに目力を込めて不穏なカップルを見ていた。
侯爵令嬢の名前が呼び上げられ、入口のドアが開かれる。
すると、そこには侯爵令嬢をスマートにエスコートする魔術師団のローブを纏ったヨーゼフがいた。
ヨーゼフはそうは言っても公爵家の者であり、王妃の生家の出身で、貴重な魔術師である。
見た目もイーサンのような金髪碧眼の王子様フェイスでは無いが、そこは兄弟、整った顔をしている上に少しルーズで気だるげな雰囲気が『ちょっとワルい方がカッコいいよね』層に人気だ。
ヨーゼフにエスコートされた侯爵令嬢は顔を赤く染め、目を潤ませながら中央へと進む。
それを不穏なカップルが苦々しい顔をして睨んで見ていた。
ファンファーレが鳴り、王族の入場の声が上がった。
ヘンリーが正装をして、壇上に上がっていった。
生徒たちは正しい礼節の態度をとり、頭を垂れて見送った。
「楽にしてくれ。」
ヘンリーが声をかけると、生徒が姿勢を戻した。
「今日は、記念すべき卒業の場である。卒業生の諸君、今日を以てプレの文字が取れ、貴族社会へのデビューを迎える門出の時である。その目出度い日に相応しい私の話を一つ聞いて欲しい。」
ここまでのヘンリーの堂々とした振る舞いにパーティ会場の面々は、出し殻王子などという、つまらぬ二つ名を囁かれているけど、『実はそんなこと無いんじゃないかな?』と思ったりしていた。
「ここ五年間の、この貴族学校卒業記念パーティで”真実の愛”による婚約破棄を行った総数は
八件。内訳は五年前一件・四年前三件・三年前一件・二年前二件・去年一件であり、
その”真実の愛”が成就して婚姻に至ったのは一件だった。
しかもその一組も二年後には離縁しているので、
現在継続して”真実の愛”を貫いている者はこの国には居ない。」
突然ヘンリーが数字を挙げながら、不思議な話をし始めた。
不思議とはいえ、その現場に遭遇した者もその当事者になった者もその場に居たので、
ーああ、その話ね。最早年中行事よね・・・ー
と思っている生徒が大半だった。
「多くの”真実の愛”は翌日には各家によって無かったことにされ、
稀に数週間続いた場合もあったようだが結局”真実”でないことが早々にわかって離別する。
そして、”真実の愛”によって婚約破棄を申し出た痴れ者が廃嫡されたのは三件、内平民に落とされたのが二件幽閉されたのが一件。残りは婿養子が取り消されて自然と平民になったのが四件。
そして驚くことに、八件全員が婚約破棄を告げた相手に再度婚約を迫り、
拒否されて多額の慰謝料を支払ったという事実だ。
ぜひこの数字を覚えておいて欲しい。
だいたい家と家との契約たる婚約の解消を、代理人も立てず衆人環視の中で声高に告げるなど、
常識のある者のすることでは無いと幼子でも解る理屈をなぜその者たちは理解しないか。
聞き取りによると、全員が《なんとなく》《雰囲気で》《ノリで》してしまったと答えている。
これから社会に出ようとする者が子供時代の最後の最後で、悪ノリした挙げ句その後の人生を棒に振っていくのだ。
このことをよく肝に銘じて、これからこのパーティでそのような痴れ者がでないことを願う。
さて、今年は我が愛しの婚約者、リーゼロッテが在学している。
もし、我らは”真実の愛”だと思う者はリーゼロッテのスキルでその愛を見てもらうと良い。
リーゼロッテの《スキル 真実の目》を以て真実が証明されれば、家に帰って親を説得できよう。
そして、親の説得を経て、相手の家に誠心誠意謝罪し、キチンと手順を踏んで婚約を解消されよ。
それが、貴族社会という物であろう。
話が長くなったな。では、開会する。皆、楽しんでくれ。」
ヘンリーの演説にその場に居た多くの者はウンウンと頷き、拍手喝采であった。
ただ、不穏なカップルだけが顔を赤くしたり、青くしたり、汗をダラダラ流したりしながら俯いていた。
その日のパーティは無事にお開きとなり、多くの卒業生が笑顔で旅立っていった。
「殿下、素晴らしい采配でしたわ。」
「本当に。よく婚約破棄のその後を追った数字までわかったわね。」
リーゼロッテとローズが手放しで称賛する。
「いや、誉めるの、俺だから!俺が活躍したから!」
ヨーゼフは過去の件数を把握すると、転移魔法して王宮の法務官に急ぎ調べさせて戻って来たら、急に入口でエスコート相手が居なくて困っていた侯爵令嬢を、
『お前婚約者居ないんだからエスコートしてやればいいじゃないか』
とヘンリーに無茶ぶりされ、正装が無いと言ったら
『ロッカーに入れてある予備のローブでまあいいんじゃないか?』
というので、ローブ姿で入場することになったらしい。
「それも含めて、殿下の采配お見事ですわ。」
リーゼロッテが口許に微笑を湛えて言った。
「あの後もヨーゼフ様、ダンスしたり良い感じだったじゃない。イケるんじゃない?」
ローズがうんうんと納得したように頷いて言う。
「そりゃ、入場して終わりとか可哀想だろう。彼女に非は無いんだし。まあ、今日初めましてなんだから、期待はしてないよ。」
ヨーゼフは言葉と裏腹に満更でもない顔をしていた。
後日、あの侯爵令嬢は、侯爵家から伯爵家へ伯爵家次男の貴族学校での振る舞いとそれによる不貞によって婚約解消を申しいれ、多額の慰謝料の受け取りと共に無事解消された。
そして、王妃の後押しも有り、入り婿としてのヨーゼフと婚約を結ぶことになったのだった。
この間にあの伯爵家の次男が、男爵令嬢と別れて侯爵令嬢にしつこく再婚約を迫り、ヨーゼフに打ちのめされた話がサルアール王国の社交界にあっという間に広まり、伯爵家の次男も男爵令嬢もその後は行方知れずになったのであった。
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