エドワードの顛末、そして教会
一瞬の暗転の後、気づくと魔術師は取り調べをしていた牢の中だった。
目の前には気絶して失禁、どころか身体中の穴から体液を放出したエドワードが臭い立っていた。
「ううん、酷い臭いだ。」
「とりあえず、今日はここまでにしよう。」
魔術師は触れるのも嫌な様子で衛兵を見たが、衛兵も首を振って動かない。
仕方がないので、ヨーゼフが転移魔法を使って元居た牢屋にそのまま移した。
それからは、魔術師団だけでなく、暗部による内偵が行われた。
そして、可及的速やかに侯爵以下家門の当主と嫡男、辺境領なので独自の騎士団を持っている手前
その団長以下幹部が王宮に呼ばれ、取り調べを受けることとなった。
代々の侯爵もエドワードほどではないが、一族の魔力を鼻にかけていたから、王族を小バカにするような証言は数多と集まり、一族の間や教会の関係者とそんなやり取りを認めた手紙などの証拠品も暗部には容易く入手できた。
「これについて、何か申し開きがあるか。」
宰相の仮面を被った公爵が証拠の品を手に聞いた。
「いや、あれ、それは言葉の綾でして。」
土色の顔をして滝のような汗を流した侯爵が弁解する。
結局、クーデターを画策していたかどうか事実は定かではないが、エドワードの証言もあり、それを裏付ける証拠の手紙も多数あったため、お家取り潰しの厳しい処分が下った。
貴重な魔力保持者の一族であったが、それ故に子供一人としてほうっておく訳にいかないため一族郎党儚くされた。
「なぜ、俺がこんな目に合わなければならないのか!」
最期までエドワードが癇癪を起こして喚いた。
「誰のせいだと思っているのか!お前がつまらぬことをしたからだろう!」
「本当に、なんと哀れで愚か者だったか。戯け者が!」
父の侯爵と領の重鎮、騎士団長と同じ牢の中、エドワードは殴られ蹴られ、罵声を浴びせられた。
そして、その傷も癒えぬまま斬首され、広場に晒されることとなった。
魔力のある一族による王国転覆のクーデターは重罪なので、毒杯などの優しい死は許されない。
侯爵一族はサルアール王国建国以来初のギロチンでの処刑であった。
これに異議を唱えてきたのが、キョコト市国にいる教会に出家した一族の者であったが、サルアール国内ならば重要登用された可能性はあるが、教会内ではさほど重要なポジションについている訳ではない。
この教会にいる一派が勝手にサルアール王家を転覆させるような話を認めた手紙もしっかりと残っていた。
「今回のクーデター未遂事件の黒幕は教会だったということで宜しいかな?」
宰相がリーゼロッテを傍らに置いて強い口調で聞いた。
「いや、とんでもない。私たちも今回の知らせを聞いて驚いているところです。」
先日、負担金の話し合いに来た教会関係者がサルアール王家に呼び出しを受けてやって来たばかりの中、額に汗を滲ませて否定した。
「そうは言っても、この手紙には教会の印章がしっかりと押されている。負担金や祝福をいい加減にしてきた過去の行いをみても、とても信用には値しない。残念ながら、私たちは教会の意見を最早必要としていないのだ。金輪際、サルアール王国内での教会の活動を認めぬ。即刻活動を停止して市国に帰られよ。」
普段はみせない厳しい態度で、宰相が告げた。
「ええ、そんな罰当たりなことを本当にするおつもりか?」
教会の幹部が焦り荒い口調で言った。
「罰もなにも、我が国は建国以来教会の求めるままに応じてきた、累積された徳がございましょう?何を以て誰から罰を与えられるのか。間違いを犯したのはどちらか?」
リーゼロッテが冷たい微笑を湛えて口を挟んだ。
「・・・」
教会関係者が口を開くことはできない。
一言でも発したら、嘘をついていたことがバレて真実となってしまう。
リーゼロッテの《スキル真実の目》から逃れることはできないのだ。
「この場での沈黙は了承でしかないのだが、司祭。」
侯爵家に縁付くその教会本部の司祭は力無く項垂れて膝から崩れ落ちた。
教会本部からの正式な謝罪文が教皇の名でもたらされた。
サルアール王国が、建国より長く教会に尽くしてきたことを認め、それに教会が応えられていなかった不備を詫びた。
その上で、今回のクーデター未遂は教会内の一派が私情で行ったこととして、最も厳しい処分を既に終えたとあった。
今後は王家と教会本部で直接関係を深め、王国の為に教会は出来ることを何でも手伝っていくとあった。
「さて、これはどうしたものか?」
王宮の王の私的な場所で、国王と王太子ヘンリー、宰相の公爵、そしてリーゼロッテが顔を合わせて手紙を読んでいた。
王は宰相をみて尋ねた。
「教会が無くても現在、王国内で問題が起きていない。このままで良いのではないか?」
予算の多くを教会に割くため、長く苦労をしてきた宰相はとても憤慨していた。
「そうだが、結婚や葬儀はどうする?」
ヘンリーが聞くと、
「そんなの国で賄えば良いのです。予算の三割でもお釣りがきましょう。」
フンッと鼻息も荒く宰相が答えた。
「ではそれでいいか、リーゼロッテは何かないか?」
国王がリーゼロッテに話を振ってきた。
「そうですわね、公爵の言うことも尤もですわ、ですが、折角ですし、払った分だけ働かせたら宜しいのでは?」
リーゼロッテが麗しの顔の表情筋を全く動かすこと無く抑揚の無い声で答えた。
「それはそうだが、何をさせる?」
ヘンリーがリーゼロッテの思惑を聞きたくて先を急かした。
「全平民の教育ですわ。読み書き計算までできるようにすること、教会の事業の中心として他の国でもされた方が良いわね。それと、孤児院。そして」
「まだあるのか!?」
国王が呆れ混じりの声をあげる。
「ええ、建国以来のツケを払って頂くのですよ、まだまだですわ。」
リーゼロッテがうっすらと口許に冷笑を乗せて言った。
「全国民のスキル鑑定のやり直しを希望致しますわ。スキル保持者は我が国の貴重な人材ですもの、ぜひしっかりとみて頂かなくては。」
「ああ、それはそうだ。なんせ、毎回かなり高額な予算を使っていたのだからな。」
うむうむと宰相が頷きつつ、それに賛同する。
「では、そのように返答せよ。」
国王が重い声で決断し、教会へ要求としてリーゼロッテの言葉そのままに出したのだった。
これを教会が全面的に飲んで、このクーデター未遂事件は終息を迎えた。
しかし、この教会が平民に教育を施すことによって、これからの平民の生活水準が飛躍的に改善していくのだが、それはまた別の話。
他の国でも同様な政策を教会が取ることによって、魔法に頼らない世界になっていくのです。
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