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リーゼロッテはいつも怒ってる  作者: 有栖多于佳


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16/30

侯爵令息エドワードの処遇

「さて、名残惜しいだろうがそろそろ王城に行かねばならんな。」


ヘンリーがリーゼロッテをエスコートしながらティルームを出ると、そこには、従兄妹の面々が待ち構えていた。


「殿下、戻るのであればご一緒しましょう。」

イーサンがそう言うと、ある方角を指差した。


「それはもちろんだが、どういうことだ?」

不思議そうに首をかしげ、イーサンの後に続いて歩いていく。


「ああ、アレをお使いですか?」

リーゼロッテが感情の無いいつもの顔で答える。

「「ああ、アレを。」」

ロレンツもローズも納得して後に続いた。


公爵邸の奥まった角部屋に入ると、公爵夫妻もそこにいた。

「この度はおめでとうございます。王妃様もお喜びでございましょう。」

公爵夫人は満面の笑みをヘンリーに向けた。


「さて、私も一緒に参ろう。」

公爵が前に進み、部屋の中央に立ち、その横にイーサンとヘンリーが並んだ。


「では、今から魔方陣の展開を」

「いや、今日は私がやろう。」

リーゼロッテの言葉が終わらぬうちにイーサンが言葉を被せ、そして魔法を詠唱し始めた。


「あら、では少し皆様お下がりくださいませ。」

リーゼロッテと他の皆は部屋の隅に移動した。


「な、何をするのだ!魔法、なんの魔法?」

要領を得ないヘンリーが慌ててイーサンに問う。

「大丈夫、転移魔法(ワープ)ですよ。」

公爵が横から説明する。

「え?転移魔法(ワープ)の魔方陣が公爵邸に?」

そう言っている間に魔法が展開して、ヒュッと一行が消えた。


「さすが、イーサン様ですわ。三人でなんて。」

ローズが感嘆の声をあげる。

「この魔法を使いこなせるようになった者は何人もいるが、自分以外を引き連れてとなるとうちの国ではイーサンとリーゼしかいないからね。」

ロレンツも感心しながら話す。


「魔石を活用した転移魔法(ワープ)であれば、可能になりましたわ。」

リーゼロッテが解説をいれるが、

「でもその魔石量がすごい量必要になるから、驚くほど高くつくのが問題ね。」

公爵夫人はため息混じりに三人がいた空の部屋中央を眺めて言った。



「すごい、これが転移魔法(ワープ)か。こんな所に魔方陣があったとは。」

ヘンリーたち三人はある地下室に出た。


「有事の際の脱出用ですよ。魔石量が半端なく必要だから、リーゼに会いに来るのに使ったりしてはいけませんよ!」

公爵がヘンリーに厳しく言った。


「な、な、そんなことに使う訳なかろう。」

ヘンリーはちょっと頭を過ったことを先回りして公爵に釘を刺されてドギマギすると、目が泳いだ。


「はは、殿下、めちゃめちゃ目が泳いでいるよ。魔石を使わないで、この魔法を使えるのは現状では魔術師団でも数名、別の人を連れて魔法展開できるのは私とリーゼのみだからね。」

イーサンがニヤニヤ笑いながら言うと、先を歩き出した。


部屋を出てすぐの階段を登ると、窓も扉もない暗い小さな部屋に出た。

イーサンが壁を押すと、何かが動いて外にでる穴が空いた。


背を屈めて出ると、そこは王の執務室であった。


「あ、イーサンどうした?いや、公爵もヘンリーも一緒か」

王と側近が驚いた顔をしていた。

「いや、陛下に話すことが多岐にわたるため急ぎ参りました。」

公爵が満面の笑みで言った。



さて、こちらは王宮の地下にある留置場である。

貴族の嫡男なので普通は貴族牢に入れられる所であるが、サルアール王国の法では以下のような条文がある。


《本国において魔力を保持する者が法を犯した場合、魔封じ後、身分を剥奪し厳罰に処す》


魔法の使えるものが少ない国の運営上、魔術師など魔力のある者には厳重な管理が必要なのだ。

その為、魔力のある者は国の庇護下に置かれ、その身分を保証する代わりに王家に仕える。


貴族学校という環境はプレ社交界だ。

成人前の練習の場ではあるが、公式な場として相応しい振る舞いを求められる。

通学は家長に一任されているが、そこを卒業するということは『社交の場に出ても恥ずかしくない振る舞いができるりっぱな貴族である』と認められる位には権威がある。


そこで時の国王の弟である公爵且つ宰相の娘に対して、非礼な行動を行ったのだ。

しかも、王太子であるヘンリーに対しても直接罵倒をしたのである。


その内容は王家に対するクーデターとも取れる発言のため、エドワードの身柄は最凶悪犯として扱われることとなった。


「出ろ」

衛兵に引っ張られて、牢屋の取り調べ室に連れていかれた。

そこには黒いローブを着たアッシュグレーの髪の魔術師と、茶色の髪の魔術師がいた。


「座れ」

ドンっと押されて、椅子に座らされると、衛兵は入口に立った。


二人の魔術師はしばし無言でエドワードを眺めると、徐にアッシュの髪の魔術師が魔法を詠唱し始めた。

猿轡をされ、後ろ手に魔封じの手枷をされたエドワードは、学校から連れ出されてからずっと止まらぬ震えがより激しくなった。


それは恐怖に対する、本能的な震え

目からは涙が、鼻からは鼻水が、猿轡された口からは涎が、絶えず流れる

見下される冷たい目を見ると、生温かい物が制服のズボンの股間を濡らした



エドワードは、サルアール王国の王都から北の先、キョコト市国との境界線を持つ辺境領主の息子として生まれた。

魔力のある者が希少なこの国で、数少ない魔力持ちの家系。

地政学的に、キョコト市国の者との婚姻を重ねた結果だった。


なので、いつからか、魔力の無い王家を下に蔑んでいる家門であった。

かつては治癒師が病や怪我を癒す唯一の方法だったため、非常に重要視されていたが、特権意識が高く、市井の民を治療することはなかったため、自然発生的にサルアール王国では医学と薬学が発達したため、結果近年は重要視されることが無くなった。


そんな一族の中、領主の一人息子として期待をされていたエドワードは、残念ながら光の魔法属性が無く魔力量も普通か、普通より少し少ないか位であった。


しかし、かつての権勢をもう一度と期待する一族の者が誉め上げ、甘やかし、耳元で囁いた『王家よりも王の風格』という声を真に受けて育ち、気づけば癇癪モンスターに成っていた。


流石に不味いと思った参謀が進言し、家長である侯爵も嗜めるようになったが、時既に遅し、誰の言うことも聞かぬ裸の王様(裸の王の風格)になっていた。


「リーゼロッテ様に対しての思いを述べよ」

詠唱を終えたアッシュの髪の魔術師が質問をする。


ああ、あの伯爵家の娘か ロゼリアから魔力を引き継ぐ為にやってきた

言わば、産むための女 クククッ

あの、お高くとまった表情の無い人形のような顔を 

何としても涙でグチャグチャに歪ませたいものだ

泣いて喚いて俺に許しを乞えばいい

ハハハッ 高々偶然魔力を多く持っただけの存在だ

なんの努力も無い 地位も無い ただ顔だけの女


あんな女に頭が上がらないなど ヘンリーも王太子としての資質が無いな

まあ、予てより 残念王子の二つ名を持つ愚か者だ


ハハン 魔術師の血を引けぬハズレ者

偶然王家に生まれただけ そこで運を使い果たした

出し殻王子だ 


あの顔だけ女を何としても娶り この俺の貴き血とあの女の魔力を引いた子を

教会の後押しを以て 正しい王家として君臨するのだ


はははっはっははっはっはっはっはっははっっはっっはーーーははっは・・・


「狂ってしまったのか」

呆れた顔で茶色い髪の魔術師(ヨーゼフ)が聞くと、


「いや、精神干渉(自白)魔法で狂った訳ではないな」

アッシュ髪の魔術師は忌々しげに言った。


「なんだ、あいつ、元々狂ってるのか?」

ヨーゼフが汚物をみるような目で聞くと


「いや、狂っているというか、歪んでるんですわ」

突然空間が裂けてリーゼロッテが出現すると、抑揚の無い声で答える。


「リーゼロッテ様、どうして。」

ヨーゼフが驚いて聞き返すと、


「ええ、大丈夫ですわ。少しわたくしからもお話しさせて頂きたいと陛下にお願いして、許可を得ております。教会と謀ってのクーデター計画も聞けたことですし、少しお時間を頂けるかしら?」

決してノーとは言えない圧の覇気を体に纏い、リーゼロッテが指を鳴らした。


すると、牢の中ではなく、暗闇の空間に全員が移動した。


そこは上下左右も無い暗闇の空間


猿轡と手枷を解かれたエドワードとリーゼロッテが対峙していた


魔術師の二人は少し離れた場所に隔離されて置かれた


「さて、そこの、先程のお話を承りましたわ。

どうぞ、思う存分わたくしに魔法をおかけになって。泣かせて見せるのでしょ?」

リーゼロッテはビスクドールの(かんばせ)で告げる。


「お、お前ぇぇぇ、権力で俺を支配しようとして。許さん!」

女子供と弱い者には滅法強い、屑オブクズ、成人間近な男がズボンを濡らしてビショビショな姿のエドワードは魔力全開で魔方陣を展開し、魔法を詠唱する。


すると、炎の火柱がリーゼロッテに向かった。

重ねて、雷撃がリーゼロッテの頭上から一直線に落ちる。


「「リーゼロッテ様!」」

魔術師二人は隔離された場所から助けようとしたが、魔法が発動しない。

どうやら、ここは結界魔法を施した場所のようだった。


リーゼロッテは避けるでもなく、反撃の魔法を展開するでもなく、そこに佇んでいた。


ボボボボボボボー ドガッガラガラガラドドドッドーン

リーゼロッテが炎と雷撃に直撃を受けた


「はは、死ね。俺を怒らせた罰だ。失礼な女、死ねーキエエエエエエー!」

ニチャーと嫌な笑みを浮かべたエドワードが口汚くリーゼロッテを罵る。


魔法の衝撃で煙った空間が元の静寂に戻ると、

髪の毛一本も乱れぬリーゼロッテが魔法を受ける前と同じようにそこに立っていた。


「あら、もうお終いかしら?ではわたくしのターンね。」

リーゼロッテが指を鳴らすと、突然エドワードの体が金縛りのように動かなくなった。


「いいかしら?炎と雷撃のコンビネーションをお返しするわ。」

リーゼロッテがまたもや指を鳴らすと、エドワードが展開した魔法がそのままエドワードに返ってきた。


ボボボボボボボー ドガッガラガラガラドドドッドーン


エドワードは自身の魔法を自分で受ける恐怖に、また身体中の穴から液体を垂れ流して気を失った。


「あらあら、まだまだよ。」

リーゼロッテが指を鳴らしてエドワードの意識を揺り起こす。


「あ、あわわわ、あわわ」

エドワードは表情の無い麗しの顔を向けて佇む少女に恐れ戦き、意味の無い言葉を発した。


「フフフ、何だったかしら?たまたま魔力を多く持って生まれただけの伯爵家からやって来た子を生むだけの女?涙でグチャグチャに歪ませたいだったかしら?どのくらい歪ませれば良いのかしら?あなたのその顔じゃまだ足りないかしらね。」

リーゼロッテは小首を傾げてひとり言ちる。


「や、止めて。止めて、お願い。助けて。」


「ああ、泣いて喚いて許しを乞うのだったわね。」

リーゼロッテはまた指を鳴らす。


すると、エドワードの体中を電流が走った。


「わああああああああ」

その衝撃にまた気を失うが、またリーゼロッテの魔法で揺り起こされる。


「さて、ヘンリー様をなにか不愉快な名で呼んでいたわね。言ってみて。」

リーゼロッテは目にイラつきをくっきりと乗せて指を鳴らす。


エドワードはこれは絶対口にしてはいけないと手で口を押さえるが、無情にも口は勝手に言葉を垂れ流した。


「あんな女に頭が上がらないなど ヘンリーも王太子としての資質が無いな

まあ、予てより残念王子の二つ名を持つ愚か者だ。魔術師の血を引けぬハズれ者偶然王家に生まれただけ そこで運を使い果たした出し殻王子だ」


エドワードは必死で首を振り、口の中に手を突っ込んで話せないようにしたが、なぜか舌は滑らかに回りしっかりと聞き取れる言語を話す。


「あらあら、そんな二つ名を呼ぶ愚か者が居るとは。しっかりと躾をしないといけないわね。ヘンリー様の良さがわかるまで。」

リーゼロッテがパチンッと指を鳴らすと、エドワードは黒い炎に全身を包まれた。

それは灼熱の業火のような、極寒の暴風雪のような、皮膚から強い刺激と痛みを伴って燃え続けた。


「他責思考のあなたにはわからないでしょうね。自身の足り無さを知り、その中で努力を重ねる人のことを。到達点を低く設定するのでなく、完璧を目指すからこそ、時間がかかるのを厭わず日々精進する人がいることを。それこそ、魔力では補えない王の器だということを。」

リーゼロッテの声が暗闇の空間に響き渡る。


離れた場所にいる、魔術師にも聞こえるほど。


しかし、エドワードにその言葉が届くことは無かった。

永遠に終わらない黒い炎の中で、エドワードは今日何度目かわからない気絶をしていたのだった。


 

お読みくださいましてありがとうございました。


誤字誤謬があるかもしれません。


わかり次第訂正いたします。


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