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リーゼロッテはいつも怒ってる  作者: 有栖多于佳


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13/30

リーゼロッテ、勘違い侯爵令息に絡まれる

勘違いストーカー侯爵令息エドワード登場です。

「で、今の状態はどんな感じなの?」

と、王妃様が扇で口元を隠しながら聞いてきた。


「まあ、なんと申し上げたら不敬にならないかと思い悩みましたけれど、どう申しても不敬になってしまうのはお許しくださいませ。端的に言って、()()()()ですわね。」


ほおぅとため息と共にローズが告げた。


()()()()とは?詳しく」

王妃様が片眉を上げて聞いてきた。


「朝の馬車の中も、帰りの馬車の中も、昼食時のサロンでご一緒しても生徒会室でも、ヘンリー殿下はそれはそれは、失意の底のような面持ちで、一言も発しないのですもの。それはそれは居心地の悪い空間ですわ。その雰囲気を周りも感じとりますでしょ?『やはり噂は本当らしい』と、更に加速しておりますわ。」


両の手を頬に添えて、悲壮感タッップリにローズが言うと、


「あーあー、やっぱりそうなると思っていたのよ。」

と、淑女の見本からはほど遠い声を公爵夫人(はは)が上げた。


「どういうこと?」

王妃様が母に目で話の先を催促する。


「ええ、主人から陛下が殿下の頑張りに期待するしかないって聞いてきた時に、私は『そんな無謀な賭けにすがるなんて、絶対上手くいかないと思う』と言っておいたのです。殿下は王族には珍しく()()()ですもの、そんなに急に進展するなら疾うにしてますわよ。」


公爵夫人は忌憚無い意見を告げる。


「うぐぐ。」

王妃様が片手で胸を押さえ、淑女が決して出さない奇怪な呻き声が上がる。


ーお母様、止めてあげて、王妃様のHPはもうほぼゼロよー


「リーゼロッテはどんな感じ?」

目にうっすら涙を浮かべて王妃様がローズに尋ねる。


「変わり無く、いつものビスクドールな顔で過ごしておりますわ。」

「でしょうねぇ。」

王妃様より早く母が相づちを打つ。


「公爵は、婚約の申し込みを断ったと聞いたが。」

恨みがましい目を母のジェーンに向けて王妃様が尋ねる。


この二人、同じ公爵令嬢として過ごしてきた長年の親友である。


見た目と話し方のおっとりさとは裏腹に、母のジェーンは総領娘として育ってきているので物事を冷静に辛辣に判断する目を持っている。


その点、王妃様は代々魔術師団に連なる一族の末のご令嬢として、小さい時より蝶よ花よと大切に育てられて、一族の誰かに公爵家が余分に持っている爵位を与えて、一生ぬるま湯の中で暮らす筈だった・・・


のだが、当時の王家に魔力を持つものが一人も居ないのは体裁が悪いと王命により嫁いだのだった。


慣れない王宮での生活や先代王妃の目などで、ストレス耐性が低いご令嬢だった王妃様は体調を崩し、またなかなか懐妊しなかったこともあり、第一王女がロゼリア王家に嫁ぐことになったのだ。


王妃然と取り繕っても、蝶よ花よの育ちが性格に出てしまうのか母にはいつも弱いのだった。


「ええ、相手方には内々で、王家に嫁ぐ前提であるとはお伝えして、穏便に辞退してもらいましたが、王妃様の甥のイーサン様と、サルアール王国の教会と強い繋がりのある侯爵家のエドワード様は引き下がる気配もありませんが。」


母の言葉にまた王妃様は胸を押さえ、低い声で言った。

「イーサン!イーサンには何度も言って聞かせたのにまだ撤回してないなんて!!」


「ヨーゼフ様に聞きましたの。そうしたら、ヘンリー殿下に『他人に取られる位なら自分が娶ろう』って執務室まで言いに言ったそうですわよ。それからヘンリー殿下のポンコツさが際立って、あら、失礼しました。意気消沈してしまったようで。もういっそ王命をお出しになるしか無いのではありませんか?」


ローズが母親によく似た人畜無害そうな顔と話し方で、王妃様の残り僅かなHPを削った。


「王命で拒否されるのが怖いなんて、国王陛下のその殊勝な態度は一考の価値は認めますけれど、為政者としては改心されることを願いますわぁ。」

公爵夫人(はは)がおっとりと扇を扇ぎながら王妃様に決断を迫った。


王妃様は白い顔をしながらも、言葉もなく頷いたのだった。



「リーゼロッテ嬢、今日はぜひ我が侯爵家の馬車で送らせてください。」

リーゼロッテが授業が終わり帰り支度をしていると、突然三年の生徒がクラスにやってきて、ニチャーとした笑顔を向けながら話しかけてきた。


今日はローズは公爵夫人(はは)と一緒に王城に出向いており、学校を休んでいた。


朝は、いつものようにヘンリー殿下と共に馬車で登校したが、婚約もしていない男女が二人きりで馬車に乗るなど醜聞(マナーいはん)なので、王太子付の侍女も同席しての登校であった。


「わたくしは名を呼ぶ許可を与えていないのだけれど。それに名も知らぬ者と馬車に乗るほどわたくし、愚者ではないのだけれど。」


リーゼロッテは普段と変わらぬ無表情な顔で、暗にマナー違反を咎めて言った。


釣書が来ているので、三年のその生徒を認識しているが、初めましての挨拶もなく馬車に乗れとは貴族社会では到底考えられない距離感の持ち主である。


リーゼロッテの物言いは決して間違っていない。

公爵家のご令嬢であるリーゼロッテは侯爵家の嫡男のエドワードより上位である。


しかし、エドワードはそう思っていなかった。

リーゼロッテの実両親は、ロゼリアの伯爵家であるからリーゼロッテは伯爵令嬢として下にみていた。

また、エドワードは教会と関連のある、代々治療師家系のロジアン家で、サルアール王国では数少ない魔力持ちの家系であった。

教会が王家より上であるという考えのある一族のため、自分を特別視しないリーゼロッテの態度に気分を害した。


「おやおや、随分口の聞き方の成って無い礼儀知らずがいたものだ。私が誰かも知らないと見える。

私はこの国の治療師の家系ロジアン侯爵家嫡男エドワードである。随分前に婚約の申し込みをしたのだが、リーゼロッテ嬢には知らされていなかったとみえる。公爵にも困ったものだ。」


エドワードは胸を張り、背を反らして横柄な立ち姿で話し出した。


「あら、ずいぶん釣書に添えられた姿絵と違ったものでわかりませんでしたわ。そうそう、わたくしのことは貴族社会のマナーに沿ってロレーヌ公爵令嬢とお呼び下さい、ロジアン侯爵令息。」


リーゼロッテが抑揚の無い声で返答する。

姿絵と同じなのは白い肌と金髪と緑の瞳の色味だけで、四角張った顔もずんぐりむっくりな姿もおおよそ似ていなかった。


遠回しにバカにされたと感じたのか、エドワードは顔を真っ赤にして大きな声を上げた。

「一介の伯爵家の娘が偉そうに、よくも僕を馬鹿にしたな!お前は何様だ。」


「わたくしは、ロレーヌ公爵家の娘ですがどなたかと勘違いされているようですわね。」

リーゼロッテがビスクドールの(かんばせ)を向けて言った。


「何を、王弟の娘とはいえ養女であろう。正式な嫡男の私に爵位が勝っている訳がない。」

エドワードがむちゃくちゃな事を言い出した。

養子縁組みという制度を理解していないのか、自分が絶対上でなければならないという思い込みか屁理屈を捏ねた。


「いいえ、正式な手続きを踏んで養女となっていれば、その身分は養家の爵位に依るものですわ。そうでなければ、どこの家も家督を継ぐのに養子が取れないではないですか。その考えは改めるべきですわ。」


リーゼロッテはあいかわらず冷静に抑揚の無い声で答えた。


「うるさいうるさい!良いから来い!」

突然、切れてリーゼロッテの手首を強く握ろうとした、その瞬間。

エドワードの手を、バチンと弾いてリーゼロッテを背に庇ったヘンリーの姿がそこにあった。


「何をしている。」

その声は普段とは違い、威厳のある低い声で、大きな声ではないのに不思議と騒がしい教室内に響き渡った。


「な、殿下・・・」

エドワードは先程までの強気が一気に影を潜め、目が泳ぎ後ろに数歩後ずさった。


「リーゼロッテ、大事無いか!?」

ヘンリーはリーゼロッテの掴まれた手首に自分の手を沿えて、心配そうに聞く。


「ええ。」


「ほら、本人も問題ないと言っています。何でもないのですよ、何か殿下は勘違いされているのでは?」

なぜかエドワードが急に早口でまくし立て、胸を張って答えた。


「誰が、返答の許可を与えた。不敬である。」

ヘンリーが苦々しくエドワードを睨み付け、滅多にない覇気を纏い不機嫌そうに言い放つ。

すると、何処からともなく湧いてきた影(暗部)によってエドワードは組み敷かれた。


「!!な、なにを。い、痛い痛い。お、横暴だ、王家の横暴だ。手を離せ、僕を誰だと思っているんだ、こんなことして教会が許さないぞ。」

エドワードが不敬に不敬を重ねる。


「うるさい。」

ヘンリーの一喝で、猿轡を嵌められ、後ろ手に魔封じの手枷がされた。


「リーゼロッテ、何かあるか。」

無言のリーゼロッテに声をかけると、


「殿下、ご質問を。」

「ああ、構わない。」

「では、わたくしは、ロゼリア王国の伯爵家の娘でしょうか?」

「いや、何をいう、サルアール王国のロレーヌ公爵家が養女として正式な手続きをした公爵家の令嬢だ。」

「では、釣書と姿絵を届けたからと言って双方に面識があるという認識は正しいのでしょうか?」

「いや、それは届けただけであろう。実際あったことがなければ、もちろん初対面の対応が必要だ。だいたい事前に約束もなく、勝手に女性を馬車に乗せようなど拐かしを疑われる行いだ。」


その回答に、リーゼロッテは珍しく薄い微笑みを口許に乗せて頷いた。

ヘンリーの回答は100点らしい。


「ロジアン侯爵令息エドワード。今回の咎は王家より正式に当主に申し付ける。連れていけ。」

ヘンリーの堂々たる采配に従い、影がエドワードを担いでシュタっと消えた。


「リーゼロッテ、さあ、馬車まで参ろうか。」

ヘンリーが手を出しエスコートの構えをすると、リーゼロッテはそれに従った。

二人が歩いていく後ろ姿をクラスメートの面々は静かに眺めていた。


ーいや、絶対ふたり上手くいっているだろう・・・ー


この騒動により、急速にリーゼロッテが貴族の家門に嫁ぐという噂は終息したのだった。

お読みくださいましてありがとうございました。


誤字誤謬があるかもしれません。


わかり次第訂正いたします。


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