柊家の謎
ボクは夢を見ていた。知らない子供と遊んでいた。自分の目線の高さからしてその子供よりも年下なのだろうか、それは置いておこう。
顔は見えない、髪の長さからして少女というべきか?自分はその夢に干渉することができなかった。ただFPSの様に一人称の視点からその光景を眺めるだけで会話の内容すら聞こえない。でもなぜだろう……夢から覚めたくない。
それでも物事には終わりが訪れる。次第に意識がフェードアウトする。
中の自分は会話を続けている。そして最後に、自分の口から飛び出した言葉が少し聞こえた。
―お…姉さん…俺は―――になるよ!
ボクは見てはいけないものを見たような気がした。
睡眠中毒者なボクはこれまた昨日起きた悩みの後処理で寝不足。薊と瞼をこすりながらリビングに降りる。
昨日のは本当にひどかった。久しぶりに剣道部に顔を出すことになったり、顧問の先生と少し話したりした。あの先生たちは数少ないいい教師だった。だからこそ、あの時は迷惑をかけたくなかった。
本当に懐かしかったな。
降りてくる際に、ボクと同じ思考パターンを持つ家族間カーストの順位が低下した人に話しかけられた。
「本当に変なこと薊ちゃんが覚えたじゃないか。瞼こするタイミングが同じなんだよ。」
ほう、そんなことが起きていたのか。なんかうれしい。当の薊は未だに目が覚め切っていない。先程の発言は聞こえていないようだ。
「おはようございます…お母様。」
『ふああ』と可愛らしいあくびをしながら言う。しっかり発言にかぶせないのは素晴らしい。
昨日見た夢の事は早めに忘れてしまうことにして朝食を手早くとる。
目覚ましを早めにセットしたことで幾何か余裕はある。と言っても、
「食べながら寝るのはやめなさい!」
怒られた。そろそろ危ないな。いつもの少し可愛らしい系の小太りの気象予報士(男性)がテレビの画面に出てきたのでそろそろ着替え始めねば。
「それで、美咲ちゃんへの勝算はあるの?」
唐突に聞いてきた。まあ、勝てるけど問題は……
「勝てるよ。ただ、殺してしまう可能性が出てくるからその辺は要相談だけど」
今の発言から少し事情を悟ったのか、母さんはそれ以上のことは聞いてこなかった。というよりもそんなことは昨晩聞いてほしかったよ。今聞くなよ!
「兄さん、もう行きますよ。」
ロスタイムのせいか薊に大幅なリード…じゃねえ、やばい遅刻だぁぁ!
薊が玄関から飛び出してボクが追いかけるとき、足というよりも太ももに違和感が…って、何かぶっ刺さってる。
悶絶した、とにかく悶絶した。誰だよこんなことしたヤツ。出て来いよ!
刺さったものを見てみると“鍵”と“メモ”だった。メモにはただ『地下室』とだけ書かれており普通に意味不明。
でも、恐らくこれは遠距離から投擲されたものだろう。ということは犯人は誠だろう。ということは…これは柊家のカギ、しかも『地下室』の存在まで記してある。全く意図が分からないが、行くしかないだろう。
余談だが、少々【オレ】と交渉することで太ももの傷の修復と薊を抱えて
ダッシュまでしてもらった。交渉の内容なんてそんなに大層なものではないが。
未だに【狂気】が恐ろしいのか認めるわけにはいかないのか。薊は解除直後、かなり警戒していた。終わると飛びついてきた。
何この天使……ボクを萌え死させたいの?しかしながら、そのようなことはみじんも出さないように気を使う。少しは弁えることを覚えた。
その瞬間を小鳥遊兄妹に目撃され、たかしは複雑な表情で…美咲は人を殺せる目で見てきた。見るな!見世物じゃぁないんだよぉ!
ボクは薊さえいればいい。でも、あの夢というよりもその、名前が聞き取れなかった人物の事が頭から離れない。もはやこれは呪いの域ではないのか。
恐らくこれが“忘れているもの”の一端なのか。だから、連想が始まっているのか……。連想が始まると人間はそのことに関する記憶を取り戻す。
ただ、その中には嘘もまぎれる。するとボクは自分の記憶の矛盾点を【数か所】発見した。なんだよ……なんで誰も疑問に思わないんだよ。
それはボクのトラウマの記憶を根底から覆すものであったり、自分の幼少期の事であったりした。大小で言えば様々あるから言えない。
こんな矛盾……ボクの両親が気付かないわけがない。
ということは仕込んだのか。父さんと母さんが……何のために?
何の記憶を消した?それはボクにとってどういう意味を持つのか?
ボクは…何者だ?
ボクの悩みは生まれる。ただ少なくとも柊の地下室と関係があるのだろう。
誠の言う【存在意義】とは?ボクは生まれる前から何かを定められていたのか?
全てはそこにあるのだろう。
「兄さん!どうしたのですか?ずっと頭を抱えて……」
どうやら二人を押さえつけて薊を落ち着かせてそのまま考え込んでしまったようだ。薊を心配させるわけにはいかないな。
「大丈夫だよ。ただ、へんな夢を見ただけだよ。」
これでいい。嘘はついていない。
「そうですか。そんなに気に病むような内容だったのですね。では、聞かないことにします。」
期待通りのセリフをありがとう。だから好きなんだよ。
人を気遣えるのは素晴らしいことなんだよ。その善意を踏みにじったボクは最低だな。そんなボクを責めないのは君だけなんだろうね。
きっと、記憶も立派なものではない。でも、知るしかない。
「ありがとう。」
ボクは自分でも驚くような優しい顔をして言った。
それから授業は全く頭に入らず、昼休みに突入する。ボクはとある人物に電話することにした。
「もしもし、希。一つ頼みごとをしてもいいか?」
「何?いきなり。情報網で回った写真は回収できないわよ。」
ああ、それは…
「そのことにしては75日ぐらい我慢する。というか諦めた。」
人の噂は何とやら…そのうち忘れる。
「で、それならなに?」
「アリバイ工作を頼みたい。今日の放課後、そっちに行ったことにしておいてくれないか?」
これで十分…
「それは…どうしてかしら?」
「柊家に行ってくる。鍵は誠に投げつけられた。」
希は絶句している。しかし、なぜそこまでの反応をする。
“特に”柊の名前を出したとき。それよりも決定的なのが…
「何で、行ってはダメよ。【地下研究所】にだけは行かないで。」
なんで…地下の事を知っている。確かに希もその家族もあの一件が初対面のはずだ。
「行くよ。失くした記憶を探しに。」
希は何かを言おうとしていたが聞く耳を持たずそのまま切った。
本当に人として最悪だな。でも、今のボクには薊以外信用できない。
全ては地下研究所とやらに。
ボクは久々に薊と別れて家へ帰ることにした。そのためか最近会っていない綾ちゃんと会う。
「なんだかずっと会ってない気がするね…具体的には2か月近く…」
「晃司さん、一応家にはいますし夏休みに離れたのは結局2週間ぐらいじゃないですか。メタいこと言わないでください。」
おお、そうだっけ。まあ、最近忙しいみたいで家の中でも会わないしなあ。
一応、この子居候なんだよね。少しその辺のこととかねえ…
「それはそうと、今日は希の家に行ってくる。薊か母さんに言っといてもらえる?」
ボクはそういう。本当は綾ちゃんとも話がしたかったんだけどなあ。
今日はそうとも言ってられないし、そもそも話しても昔の自分と綾ちゃんとの記憶の矛盾点探しになってしまうが。
「嘘ですよね。」
彼女は冷たい声で答える。その声には様々な感情が見え隠れする。
絶望、憎悪、嫉妬、執念、焦り、不信感、……何より怒り……と言うより寂しさだった。
「どうしてそう思う?」
ボクはそういうしかなかった。そして、知っていながら無視をする。
こんなのは本当は気付いている鈍感系主人公並みに重罪じゃないかな?
本当に、ここ最近のボクは最低だ。人の意志を踏みにじりすぎだ。
結局、この子の好意に対しても彼女の優しさに甘えて誤魔化し続けている。
「私、実はお昼休みの話聞いていたんですよ。希姉さんと結託するというよりも一方的な感じでした。」
本当に見ていたようでいつもとは絶対に違う違和感を見つけていた。
この子には物事の本質は見えるのだろうか。
その場合、自分が余計にわからなくなる。なんだろう、中二病かな?
「聞かれたか。その件に関してはどうしても知らなければいけないことがあったから…
知るまであまり人を信用できない。」
ボクは馬鹿正直に答えてしまった。罪悪感に心が持たなくなったか?
「そうですか。なら、私は晃司さんを信用し続けましょう。」
「は?」
言っている意味が分からなくなった。信用されないから信用する。なんだろう。
「まあ、知っての通り私は未だに絶賛片思い中なのですが……」
それは本人の前で言うことか……
「今の状態ではそんなこと不可能だということぐらい、ずっと前から気付いてます。晃司さんには
薊ちゃん以外に対する“中身”がないですから。」
それは……そんなことないはずだ。前よりは狭いが“身内”に対してはしっかりと接していたはずだ。
そんなことはない。
「夏休みの事も小鳥遊先輩と希姉さんから聞いています。だから、確信できました。
晃司さんの“中身”の無さについて。」
「私は昔の晃司さんが大好きで今でも続くぐらいです。だからこそ最初は
戸惑い、恐れた。でも、根本では変わっていないことに気付いて違和感を感じた。」
「昔とこんなにも変わっていないのにどうして“違う”のだろうかと。
それは、やはりというかなんというか薊ちゃんのようですね。」
ボクは時間がただ過ぎていっていることを時計の針の音で感じながらも一人の少女の話を聞き続けていた。
「晃司さんは過去の一件で【生きる意味】を失いました。それを補ったのが柊薊という少女の登場です。きっとそれ自体は偶然だったのでしょうが
凛久さんの最後と重ねたことで【守るべきもの】という【生きる意味】を見出した。それは次第に晃司さんの“中身”を補填する形となって今に至ります。」
「だから、私の言葉や気持ちもいつかは伝わって欲しいものです。」
そういって、綾ちゃんはボクに近づいてそっと抱擁した。
「今回の事が何かきっかけになることを祈っています。大切なら心配させないで上げて下さいね。
シスコンさん。」
「最後の最後で台無しだ。変態同人作家。」
その後、自分が同人誌のネタにされたことを知って高評価が取り消されたわけだが今言うことではないな。
柊家、謎が多く敵も多いが支援者が多く本当に謎。すべてが謎。資産とかすごいし。
案の定豪邸ではあったが、研究所を併設しているという点で見ると思っていたよりも小さいが、誠のメモの【地下室】から研究関連は地下で行われていたのだろう。そう考えると普通にでかい家だなぁ。流石、玄孫の代まで豪遊できる資産。
今回は危険も多いだろう。故に、今回は【オレ】にも協力してもらえることになった。
『おい、へんな空気が漂っていやがる。気をつけな。防犯システムはかなりの上位だろうな。』
こうやって警告してくれる。大分丸くなったというか。会話ができるようになった。薊の事も始末しようとしなくなったし。バットはもう必要ない。
「地下室の存在は分かっているんだけど場所が見当たらない。鍵を一つしか寄こさなかった点から家の中からではないだろう。」
『まあ、手っ取り早くいきたいから身体貸せ。』
そう言われたので主導権を渡す。暴走することはないだろうが今のボクには
非常用の緊急停止できるようになっている。実質ボクが理性ではある。
『どうせ地面のどっかが空くオチだ。という訳で…』
「殴る!」
と、のたまって地面に向かって拳をたたきつける。
そこで一か所だけ不自然な面を見つける。振動が緩い、案の定扉だった。
「じゃ、入るか。取り敢えず探索はめんどいからパスな。」
「おい、ちょっと待てヤ。」
そう言っても間に合わず、主導権を返してきた。その辺は有利なのね。
ボク達は扉を開けて過去を探す。
この気象予報士の名前が分かった人はきっと同じ地方の人でしょう。
ヒントとしては確か、何代目かの総理大臣と同じ名前。少なくとも下は




