背負うは罪と過去されど救いはないわけでもない
最近忙しい……バンドリのうでがめっちゃ落ちる。
誰か助けてよ……
何やら物音がする。一体こんな朝っぱらからどうしたのであろう。眠い、瞼が重くて前が見えない。たぶんこの方向に薊ちゃんがいたと思う…たぶん晃司君の所か。その瞬間のことであった。
「はあ…はあ…」
何やら苦しそうな声が聞こえてくる。方角からすれば男性組の方だろう。自分が上下逆転してなければだけど……。しかし、そんな悠長なことも言ってられなくなった。
「兄さん、兄さん……おいていかないで……」
やばい、経験則からしてかなりやばい。自分の眠気など消し飛ぶ。状況から察するに男性陣はいないとみるべきだろう。それで、目が覚めるといないという訳か……事情を知らなければただの駄々っ子だけど薊ちゃんの場合は違う。常に思っていたことと公仕君から聞いた話から想定していたものとは逆の状況となったことが分かる。恐らく連れ出したのはあちらだろう。想定が外れたね。それで急いで薊ちゃんのもとへ向かう。
「薊ちゃん大丈夫。」
「はあ…はあ…」
過呼吸に陥っている。未だに彼はこの子にとっての唯一の拠り所。最近のはそういうことなのだろう。枕元にはメモが一枚。『ちょっとたかしと風呂入ってくる。』おい!メモ残してるのかよ!まあ、配慮はしていたのね。でも見えてはいないと……
「薊ちゃん、晃司君はどこにもいかないわ。ほら、ここにメモもあるわよ。すぐに帰ってくるから。落ち着いて。」
その言葉と実在したメモを見てほっとしたのかそのまま倒れこむ。そんな姿を見て正常な兄妹になんて思えない。たぶんこの子にとっても晃司君と同じで消えたらどうなるか分からない。たがいに存在しているからこそ生き残れる。運命共同体…共依存…挙げればきりがないだろう。でも、彼らを表現するには足りない気がした。
「早く帰ってきてよ……もう一度起きる前に…」
この日、自分の無力さを実感した。
朝の7時にもなっていない頃、ボク達は朝風呂へと来ていた。
たかしからの重要な話を聞くために…
「朝に入るのはずいぶんと久しぶりだなぁ。晃司は休日は朝風呂だっけ?」
「ああ、そうだよ。休日はできるだけ粘りたい。朝の方が体がかゆくなりにくい。」
「なんとも切実な……」
何かを言おうとしたのか言い淀む。だからボクも早くしろと催促はできない。催促していい内容とも思えなかったから。
「ここに呼んだのは……【あの事件】の事を話すつもりだから。」
なんでそうまでして蒸し返したいのだろうか。分かってはいる。このことを乗り越えなければいけないことも、前回の事件のようなことも起こりうること。薊や希にも言わなければならなくて逃げることは許されない。
「先に言っておく…あの時は逃げてすまなかった。俺があのまま晃司を抑えればあそこまで大事に発展することなどなかった。変わりゆく親友の姿がどうしても見ていられなかった。いや、俺に親友と言う資格なんてない。大事な時に側にいてやれなくて、守ってやれないような奴に……」
彼にも葛藤があったのは知っていた。だけど、ここまでとは思ってもいなかった。別に彼の事を責めるつもりはない。誰でもあの場にいればそう思っただろう。まあ、その場にはいなかったけどすべて聞いていたはずだ。
ボクが初めて手を下す瞬間の
「そのことについては気にしてないよ。むしろ復縁できたことがうれしい。あそこでたかしが離れなくてもいずれボクは君を追い出した。迷惑がかかるから。それに、あいつらの事は終わってから知ったのもボクと一緒でしょ。それだけじゃない…いずれ誰かがしなければあの学校はおしまいだった。ボクは今でも山崎への復讐は不十分だったと思う。どうして不特定多数の痛みと絶望をひとり分しか与えられないのか。」
「晃司……」
「この罪の意識は最後までなくしてはいけないと思う。だけど、新しく知る人を増やすのが怖い。また一人に戻るような気がする。薊にだけは知られたくはない。あの子に拒絶されることだけは絶対に嫌だ。」
「それでも、あの子は知る権利がある。知らされる権利もある。その程度の事で砕けるのなら支柱としては不良品でしかない。だから、俺はそうなれない。晃司を支えるなどという資格がない。支え切れるはずなんてない。一度裏切った相手は例え信頼を取り戻してもそれは取り戻したのではなく作り直したもので側においてはいけないものだ。だから、あの子に託すしかなかった。」
「晃司、お前のことが好きだったんだ。」
親友から紡がれた言葉はあまりにも唐突で理解の及ばないものだった。その言葉は友達としての意味ではなかったから。なんで、ボクなんかを……
「唐突に言って悪かった。ただ、俺は知っての通りキ〇ガイだった。そんな俺を最後まで見放さなかったのはお前だけだった。しっかりと向き合ってくれたのはお前だけだった……だから、俺は晃司に対して迷惑をかけないようになろうとして今のざまだ。かつての天才性は自分を抑えるために封印した。馬鹿と天才は紙一重というだろ、あれだ。俺の脳を活性化されると同時にあんな言動をとる。ちなみに現在の学年首位に使い方を教えたからあいつはあんなにおかしい。」
そういわれてみれば学年首位の奴の言動はおかしい。たかしもそういうものであったのだろう。ボクはそこまで大層なことをしたつもりではなかった。ボクの周りには変人が集まってきた。だから、変人処理に関してはそれなりにさばけていたと思う。たかしもその一人であっただけだ。でも、それがよかったのだろう彼にとっては。
「さっきのことについては取り敢えずごめんなさい。それと、決心がついた。薊と希に【あの事件】について話そうと思う。」
ボクは一年以上たってようやく決心がついた。これは決して美談なんかじゃない。そう語る人物もいるがそんなものではない。絶対に。
ボク達は部屋に戻ると薊がボクの布団で眠っており、希と美咲が心配そうに見つめていた。
「何があった?」
「薊ちゃんが発作を起こした。もう一人にしちゃだめよ。さっきようやく落ち着いて眠ってくれた。そろそろ目が覚めると思う。それまでに帰ってきてくれて助かった。」
そんなことが…最近の薊の違和感はそこにあった。そんなことしなくてもどこにもいかない。その前に……
「薊が起きてからしておきたい話がある。【あの事件】のことについてを…」
「「……」」
二人とも黙り込む。特に事情と当時の記憶がある美咲は唇をかむ。薊の事を思ってだろう。自分の兄が【人殺し】や【人生を終わらせた】業を背負っていることなんて知らせたくなかったがそれと同時に、言わなければならないことも理解していた。
「兄さんおはようございます。」
「ああ、おはよう。」
自分ができる中で一番の笑顔で言った。
先に朝食をとり、部屋に戻り話を始める。
去年の四月から六月にかけてボク達の市の引きこもりや自殺者が全国で断トツの一となった。その大半を担ったのがボクだ。
その当時、うちの学校には三つ目の勢力の貴族と呼ばれるグループが存在した。名前は察しの通り皮肉だ。このグループは他人を暇つぶしの道具としか考えていない。そこで流行ったのが【いじめ】であった。しかもそれは学校から追い出すまでが一段落で、終わるまでその人物をじわじわと削っていく。ボク達は二人の親友をそれで失った。だからボクは復讐者となった。その際のリーダー格が山崎で最後に始末した。ボクは彼らに復讐するだけでなく、学校からそういう芽のある本質を持った生徒を全員同じように学校から追い出した。そうして上条学園には【本当】の楽園ができたといわれている。
まずは、事件の発端となった四人の仲良し組について話そう。
ボクは小学五年で上条学園に転校してきた。おかげで面倒な中学入試を回避できた。それは置いておいて、中学一年の入学式の前日にボクは世界の真理を知った。頭の中に流れてくるさまざまな内容。過去の人間の業や発展の陰に隠れたもの。そんなものがいきなり流れてきて頭がおかしくなりそうだった。そのせいでかボクは世界を純粋な目で見ることができなくなっていた。友達との付き合いも一歩引いたものになり元から友達が多かったわけではないので一人となった。
その際にボクの周りにいたのが変人たち。その中にいたのがたかしだった。それから変人たちの処理に追われる日々が続き、なぜかボクはたかしと行動を共にすることが多くなっていた。彼も不幸な人物である。鼻ほじったというデマを流されるがしかし、彼はそれを逆にネタとして扱った。ふ〇っしーとハナクソを合わせた、はなっしーはクラスの中では大好評であった。
「はなっしーなっしー」
今思い出しても思わず笑ってしまう。あの頃が懐かしいから。
行動を共にするうちに次第に友と呼べるようになり、ボクの中学時代初の友達となった。取り敢えず、何をするにしても一緒だった。
夏休みの夏期講習でもう一人の人物と出会う。名前を総悟という。彼とはなんだか気が合った。初対面時の彼の服が衝撃的だった。チェックのシャツにジーパン、リュックをからってちゃんと前はとめていた。こういった方がいいだろうか……秋葉なオタクスタイル。メガネをかけていたのもプラスポイント。なんだか初対面の時に吹き出してしまってそれをツッコまれそのまま仲良くなった。たかしとの相性も良く、良くツッコみ役となっていた。ボクも変人の毛があるのでたかしともどもツッコまれた。
こんな充実した中学生活を送りながらも傲慢なことにボクは満足していなかった。彼らは本当に気が合って一緒にいて楽しく、ボクの世界に対する失望だって和らげてくれるがボクの本当の気持ちを共有できはしなかった。この感情を分かってくれるわけではなかった。
その時に出会ったのが凛久だった。須増凛久…下から読むとクリスマス。彼女は同じ電車のグループには属さず一人で本を読んでいた。話しかける人もいたがスルー。それを見ていた時に自分と同類であることに直感的に気付いた。彼女はボクを理解してくれる。そう思った。だからボクは彼女と仲良くなれるように頑張った。後にたかしから口説いたと言われることになるのだが意味が分からない。会話の仕方から何まで最初から勉強したのに…。
凛久という存在を知ってからは学校ではたかしと総悟と一緒にいて、帰りに凛久に話しかける日々が始まった。二人にこのことを話したら『恋ですか』と聞かれる。そういうつもりは一切ありませぬが。
凛久と出会ってから1か月ほど経過した後、ようやく会話するほどの中にはなれた。凛久の性格は一言で言うとクーデレ…まあ、その当時はね。ボクに対してそれなりに冷たいけど、無視はしない。意外に凛久は少年漫画が好きだった。その辺の趣味があっていたため今度は学校で貸すという話になった。
普通学校の屋上というものは閉鎖される運命にある。この学校も遜色なかった。という訳で、教師に見つからない場所を探し出すところから始まった。中学は男女別クラスであったため教室に行くのはほぼ不可能…お互いに。ようやく図書室裏という場所を発見してマンガを貸す。凛久は珍しく笑みを浮かべていた。それなりに古いから見つからないんだよね、これ。凛久の何物にも左右されない所は何だか猫を彷彿とさせる。このときから内心猫と思ってた。
しかし、凛久の孤高な精神は現在の衆愚的な社会性からは排斥されやすかった。その証拠にそこに現れたのはカースト高位の人々。その時にボクは初めて山崎の声を聴いた。別クラスだし興味もなかったから。その当時のボクは剣道部にいながらもそれほど喧嘩が強いわけでもなかった。だからひたすら守り抜くことしかできなかった。そのときは“本物”の不良だった先輩が助けに来てくれたおかげで助かった。結構な荒事だったけど。
「なんで、あなたはそこまでするの。」
凛久がボクにそう尋ねる。
「それは、俺が…」
言うことは決まっていた。そんなの…
「友達になりたかったから。」
何だか二人のため息がその時聞こえた気もしたが気のせいだろう。そして、凛久はあきれたように
「いいよ、友達にでもなりましょう。」
そうして、ボクの4人目の親友ができた。
余談だが、その先輩は中学一年生相手にやりすぎたらしく退学となった。先輩は『そもそも、学校と縁がなかったんだ。あの人から言われなければこの学校にも来ていなかったから。』と。最後にボクの名前を聞いてその名前を聞くと、『親父さんによろしくな』と。その意味は分からなかったが、先輩が残した言葉の中には小川先生の名前もあった。それでボクはあの先生の事を知った。
先輩の退学後から数週間後にはボク達は四人組になっていた。凛久は他の二人にもきつかったが二人とも別に気にしてはいなかった。ただ、総悟のツッコむ機会が増えたことぐらい。凛久の冗談とは思えない発言は本当に怖かった。太い芯の鉛筆を片手に『お注射ですよ~動かないで!』とキレさせた時のリアクションがマジだった。たかし曰、お前はまだマシな方……何をされた?
総悟が外からオタク文化を取り入れたせいで中学2年の後半からはラノベぐらいは許容できるようになっていた。そして、デュエマがめっちゃ流行った。小学生のデッキ時のデッキじゃ勝ち目はなかった。昼飯代の余りでカードを買う日々が始まった。あの頃はクロックさん強かったな。今じゃシールドは一斉ブレイクだから弱体化したな。凛久のデッキは本当に悪質。たかしはなぜ回るのか謎なデッキを普通に使いこなしていた。普通なのはボクと総悟だけだった。
中学3年の後半、例の遊びが始まった。ボク達はそのときは標的にはされていなかったが周りの生徒が不登校になるのが当たり前となりだしたころでも教育委員会すら出ていなかった。仕方ない、うちは私立だ。国や市が運営していない。久々に世の不条理について思い出していた。そして、中学卒業の三日前…総悟が学校に来なくなった。ボク達の知らないうちに奴らにやられていたらしい。総悟には夢があった。技術系の仕事らしいが詳しくは知らない。でも、そういう企業は基本的に一度でも引きこもった人間は絶対に雇わない。総悟の夢は打ち砕かれた。そして、高校の入学式の際に新入生は名前を呼ばれるがそこに総悟の名前はなかった。
そして高校一年になったときのこと……悲しみに暮れるボク達を一変させたある出来事が起こる。




