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第五話 最高の御膳立て

 俺の視界から一瞬でデュオリヴィックが消えた。

 次の瞬間には「消えろ」という、ドスの利いた重低音の言葉が響いていた。

 アングラーの首元に刃が突き立てられ、その刃が振り抜かれた。

 生首がドチャッ、という鈍い音と共に転がった。

 その生首も、次の瞬間には消え失せた。

 トーキックで蹴り飛ばされ、壁にぶつかり、壁に血痕を生んだ。

 彼が肩で息をしている。

 それ程に、この男が憎かったのか。

「すまない……」

 俺とマギシェは呆気にとられ、その狂乱の姿を見ていたが、我に返り、正気を取り戻したデュオリヴィックが小さく言った。

 無論、デュオリヴィックのこの行動にとやかく言うつもりはない。

「大丈夫だ。急ごう。天使が外で待っている」

 俺が王宮を出ようとした時だった。

 地に鳴り響き、骨の髄までを震わせるような轟音。

 強風。帝都の崩壊した家屋の瓦礫が舞い上がっている。

「世界樹が……黄金に発行している」

 これまで観測された事の無い、異常な行動だ。

 金に輝く世界樹の回りを竜巻が回り、黄金の樹が生えている。

『我は神・オーディンである』

 脳に直接語り掛ける様に、俺の頭に響いたその神の声。

 発信元は間違いなく、光り輝く世界樹の中に居る神々だ。

『我等が依り代である樹を焼却しようなどという、貴様らの蛮行・悪行は目に余る』

 否定はしないな。

 俺らが燃やそうとして神々の逆鱗に触れたのは事実だ。

『故に、我が主神オーディンの名のもとに宣言する』

 息を呑んだ。

『全人類、ヒューマノイドを一時的にこの大陸より一匹残らず()()し、新たなる我らに従順な人類やヒューマノイドを移植する』

「な、何だよ。ソレ……。オカシイだろ。俺達は一人残らず、神々の手により、システム的に殺される……。そんなのが神と名乗っていいのかよ!」

『我らは半年後に、貴様らの住む地上層に冥界からの使者を送る。それらに従順について来るように』

「死刑宣告ってか。面白い。受けて立とうじゃないか……」

「で、でも、神々の軍勢と戦うなんて、命が何個有ったって足りないよー」

「その不可能を可能にするのが俺達の様な、若い力だろ?」

「ヒューマノイドも含めたという事は、ドワーフやエルフなどからの援助も得られそうだな」

「ドワーフはティーア連合と繋がりがあった筈だ。ドワーフは彼らに頼むとすれば、エルフはエ・マギアか。マギシェ、頼めるか?」

「もちろんだよ」

 王都を走り続ける中、小さな作戦会議が始まっている。

 こんな感じ、悪くない。


「半年後に本格的に神々の軍勢が下界に下り、俺達を滅ぼすと告げた……かー」

「ここで、この軍議に集う全員に聞きたい。軍は民を守るために存在している。だから、今回も神々の軍勢から人々を救うことが俺は軍の責務だと思う。だが、今回は神々の軍勢と戦闘という、未曽有の危機に晒されている。故にここで評決を取りたい。選択肢は三つ」


・滅びを待つ

・可能な限りの一般人や兵士を、大陸外に脱出させる

・神々の軍勢と最後まで戦い、徹底抗戦


「先に言うけど、これはこの大陸に生きる全ての生命をかけた戦いだよ。この評決で大陸に生きる五千の民の命の運命が変わるんだよ」

「そういうことだ。考えは纏まったか?」

 皆が一様に頷いた。

「なら、評決を取る。手を上げてくれ。滅びを待つ、に票を入れる者は手を上げろ」

 デュオリヴィックの質問に誰の手も上がらない。

「安心だ。滅びを纏うとするものは、俺が後から斬り捨てるつもりだった」

 デュオリヴィックが笑顔で怖い冗談を言う。

「次、可能な限りの人民を大陸外へ脱出させる、に票を入れる人ー」

 パラパラと手が上がる。

「じゃあ、最後だ。徹底抗戦に我々の望みをかける者は手を上げろ」

 大多数の手が上がった。

「そういう事だ。異論は認めない。解散」



 三日後。

 天使軍は全軍撤退。

 レビロ帝国帝都は完全に壊滅。帝都の機能を北西の第二都市・コーラムに移動。

 集結した五十万は旧帝都を駐屯地として滞在。

 その日のうちに各国へ、フォルティスたちの徹底抗戦の意思が伝わり、協議が始まった。

 アングラーの頸はイポティス本国に輸送され、首見分が行われているのに対し、宰相様の訃報は大陸を駆け巡り、特に宰相様の母国である北部高原の小国・ナタリスは国を挙げての国葬を。レビロは神々との大戦での勝利を捧ぐと、レビロ帝国臨時宰相で生き残りの最後の王宮武官であるマイオール・ファトル・レビロが宣言した。

 加えて光龍の惨状を哀れんだ各国からの援助により、各国の軍の代表を一時的に光龍傘下の将とした。

 軍務大臣と軍務卿、戦士軍司令をデュオリヴィック・イポティシアンに、内政に精通するマギシェ・レア・ルーンを内政大臣及び内務卿、魔法軍司令に就任させ、フォルティス・ヴァルツァーを総務大臣、宰相補佐、総務卿に就任させた。

 しかし、帝兄であるマイオールの新生レビロ政権はたったの数日で瓦解した。


 最後まで生き残った皇家の一人で、先王の兄にあたる帝兄のマイオール・ファトル・レビロが何者かによって暗殺された。

 これにより、皇家は本家や分家共に途切れ、他の遠縁の皇家の者たちは一般市民としてこの世を去っており、レビロ帝国の再興は絶望的だった。

 そこで、天使軍が去った一月後に、各大国の王の間で協議され、レビロ帝国は帝国を辞め、一時的に四大国の庇護下に入り、公国を宣言するよう、宰相補佐で実質的なレビロ帝国の指導者であるフォルティス・ヴァルツァーに要請した。

 それに対し、フォルティスは「『一時的に』という名文を必ず守るという約束の下、これは実現する」と承諾。

 これにより、数百年続いたレビロ帝国は帝国としての史に一時的に幕を引き、レビロ公国として形を変えた。

 その長きに及んだレビロ帝国の史に幕を閉じることは想像を絶するほどの重責であり、三日間、フォルティスは軍議にも出席しなかった。


 そして夏が終わり、神々の天使軍が去ってから三か月が経った頃、ようやく最後のワイズン共和国が軍への加担を表明したことで、大陸は一丸となり神々へ抗う決意をし、本格的な準備が始まった。


「各国より集められるだけの総戦力を世界樹平原へ集結させろ。恐らくはそこが、決戦の地だ」

「神々の軍は無尽蔵に兵を生み出すだけではなく、我々人類やヒューマノイドにない奇想天外な用兵術を行う可能性が極めて高いです。指揮官には慎重な判断が求められます」

「神々の主力は世界樹より無尽蔵に生み出せる樹兵だ。数は多い代わりに、戦闘力は極めて低く、鹵獲品を兵士に渡せば士気の温存にもなる。樹兵の部隊に農兵隊をぶつけるのは悪くない判断だ」

「先日の小競り合いにて鹵獲した樹兵の装備を解析したところ、防具についている特定の属性攻撃無効化魔導などはどの鎧でも発見できず、剣にも特に攻撃力強化などの魔導を付与された物は発見できませんでした」

「では少数ですが、イポティス軍が持つ火玉を使うのはどうでしょう?」

 俺が今日の軍議で初めて発言した。

 刻一刻と迫る決戦までの時を無駄にしている場合ではない。

「あの魔力爆発を引き起こす遠投投石機か。悪くはないな。範囲殲滅能力も高い。だが、それには近づけさせぬ工夫と、乱戦にせぬ工夫が必要となる」

「だったら、魔力壁を使うのはどうだ? 魔術兵の石壁を使うのもありだと思うが、マギシェの見解はどうだ?」

「悪くない案だとは思うけど、それ程広範囲に魔術を展開させるとなると、相当技量の高い術者やかなりの魔力素量がある場所に限られるね」

「魔力素量は世界樹平原全体、魔力素が濃い。特に亀裂周辺の魔力素量は群を抜いている。それに術者は魔森から出てきたエルフに頼めばいいだろう?」

 魔森とは大陸南東部に広がる広大な森林地帯であり、小国家が乱立し、情報が少ない東部の中でもひときわ情報が少ない一帯である。

 滅多に里から出ないエルフ族の特性と、森という環境のせいで、中部や西部に伝わっているのは「エルフの国がある」という情報だけだ。

 そのエルフも今回の大戦に参加しており、東部の戦乱も一時的に小康状態にある。

「プルクラ・ウィングハート殿、この件、引き受けてくださいますか?」

「問題はない」

 彼はエルフ軍の軍長。プルクラ・ウィングハート。風魔法を得意とするエルフの中でも、その実力は群を抜いている。

「分かりました。では、次に兵の装備についてです。イポティス軍が武器庫を開き、大量の武器を各国へ振り撒いていますが、それにも数の限りがあり、いざ、戦争が始まれば鹵獲品である程度は賄えるかとは思いますが、それでは開戦時の兵数が極端に少なくなります」

「そこで、俺らドワーフの出番ってワケか」

 ガッチャガッチャと鎧と金槌の音を鳴らしながら、一人の小柄で屈強な男が入って来た。

「俺の名前はテルム・ベルツィムだ。ドワーフ族で今回の戦争に協力させて貰う」

 参戦要請を承諾してから二十日。やっと顔を出したか。

「話は聞かせてもらったぜ。武器が欲しいんだろ? 幾らでもくれてやる。だが、対価はコレだ」

 テルムは俺達の間に分け入ると、机の上に一つの光輝く鉱石を置いた。

「これは魔導石。武器に使って、その武器に魔導を付与すると、その武器の性能が格段に向上する優れもんだ」

「これを、欲していると?」

「ああ、その通りだ。上質な武器の鍛造にゃあ、これが必要不可欠だが、山脈で掘るには如何せん効率が悪ぃ。だがな、俺の耳に、エ・マギアの海岸沿いの一帯に大量の魔導石が眠っていると聞いた」

「そうだよー。でも、あれ、掘るの難しくて誰も手を付けないんだよね。大量に有るのに勿体無いったらありゃしないんだからねー」

「そうだ。だから俺達ドワーフの技術でその魔導石を露天掘りで掘る許可が欲しい。それで今回の武器代はチャラにする。どうだ?」

「これはエ・マギアに判断を一存する。マギシェ、頼んだ」

「女王様からはその手のことは独断で決めていいと言われているし、おっけーするね。好きなだけ掘ってヨシだよ」

「分かった。そんで、これが試作品の武器だ。どうだ?」

 ゴトッという重い音と共に、魔導石の隣に剣が置かれた。

 一般的で凡庸的な直剣だ。余計な装飾はなく、いかにも量産型と言った感じの武器だ。

「これが試作品の剣。主に歩兵が扱うように設計している。どうだ? 振ってみてくれ」

 デュオリヴィックが数歩離れた場所で剣を振るう。

「歩兵が扱いやすいような乱戦用ショートソード。楯も持てるが、軽すぎない重さ。とてもいい剣だ。イポティスの鍛造技術では実現不可だった。感謝する」

「んで、これがその剣と併用する楯だ。バックラーとカイトシールドの両方がある。両方同じ数ずつ作るつもりだが、いいな?」

「問題ない。よろしく頼む」

「でだ。問題は魔兵の装備でな。防具の鍛造技術で長衣などは作れるんだが、ステッキなどは如何せん、武器の鍛造技術では作れない。どうしたものかと思案しているところだ」

「いやー、最悪魔法や魔術は無詠唱・無武器でもなんとかなるし、大丈夫だよ。ウチの魔導兵の装備も準備してくれれば十分だよ」

「そうか。心配り感謝する」

「で、次は、軍馬や騎兵生物か」

 イポティスが発言した。

 北のティーア連合は騎獣を乗りこなすため、グリフォンやヒッポグリフ、ダイアウルフに馬、象など多岐に及ぶ騎獣が必要となる。

 馬は特にワイズン騎士やイポティス騎士団など、使う国が多く、イポティスやワイズン両国の軍馬の数で埋められる程ではない。

 ティーア連合の代表も騎獣の数が懸念点と話していた。

「ワイズン平原での馬の育成が多いに生きており、必要最低限の量は確保できるそうだが、不慮の事故などで一斉に失うことなども十分在り得る。追加での育成を要請する」

「騎獣の中でもグリフォンやヒッポグリフ数がいるらしいが、地上戦に強いダイアウルフやキメラなどが少ないと聞く。ティーアに確認しろ」

「兵站に関してはワイズンの備蓄食料や各国の食糧を掻き集めて、一千万の兵が三年間、食事を続けられる程の食糧を各地に分けて保管しております!」

「舞台としてはこの上ない程に最高の御膳立てされた。あとは俺達の手で勝利を掴み取るだけだ。我らに御加護が在らんことを」

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