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68番

 紅い花を避けて移動する。

 麻薬のような効果がある花だ。

 効果は薄いにしても、過度に近付き過ぎない方がいい。


 慎重を期しての迂回。

 それが悪かったのか。

 森に異変が出始めた。


 紅い花を残し、植物が生気を失い始めたのだ。


 葉も花も色を失っていく。

 木に絡みついた蔓は萎びれていき、枝は己の重さに耐えきれずに折れていく。

 儀式が始まったのだ。


 急速に変わっていく森の様相。

 緑色が薄れていく様は、森そのものが死に向かっていることを予感させるには十分であった。


「まだ予兆だよ。計画の変更は必要ない」


 動揺が広がろうとしたが、アーシュの一言で場が収まった。


 すでに彼は自身の力を見せている。

 圧倒的な魔導の力は、戦いに身を置く者を平伏させるだけの価値を示した。

 それが功を奏したのだろう。


 生命の輝きを失っていく森の中を移動し続ける。


 森の奥へ──ひたすら奥へと。


 やがて音楽が聞こえてきた。

 ハープの音色だ。


 美しいとすら感じる音色。

 だがそれ以上に気色が悪い人外の音色。


 森の影に隠れて視線を送る先。

 そこにヤツはいた。


「確か68番の名前はルベリア。この音楽は植物の生長を促す効果以外はないはずだよ」


 かつてダークエルフの村だった場所。

 すでに生活の後は残っておらず廃墟と化している。


 変わり果てた村の様子に、顔を悔しさで染める者もいた。

 だが年長者により咎められ、誰もが自分を取り戻す。

 彼らは覚悟を決めてきたのだ。


 復讐に酔うではなく、祖先から連綿と繋げられてきた誇りを貫く覚悟を。


 ダークエルフ達は睨む。

 復讐者の目ではなく戦士の目で。


 瓦礫が積み上げられた場所。

 そこでハープを弾いていたのは薔薇の異形。


 まるで青い花が、無理やり人の姿をしたかのような存在。

 人の姿を象ろうと、蔓や葉が絡み合って作られたかのような体。

 その体には至る所に、純白の薔薇が咲いている。


「アイツが仇なんだね」


 彼女の瞳を覗くも、揺らいだ様子はない。

 ダークエルフという種族自体が、このような物なのだろうか。

 それともリフレが特別なのか。

 いずれにせよ、今はその強さが心強かった。


「じゃ、行こっか」


 強欲王の知るアンバーの一族もそうだった。


 仲間を決して無駄死にさせない。

 自分の力量を把握し、己の果たす役割を見い出す。


 これを強さと呼ばない者も多い。

 だが戦を知る者の多くは、敬意を抱いていた。

 戦士としても、人としても。


 強欲王の知識にあった、アンバーの長と彼女は重なる。


 滅んだ国の王に連なる者と、その配下だった者の子孫。

 手を組みかつての宿敵と戦う。


 宿業とも呼べる因果がここにあった。

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