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Death(デス)

 森の中。

 見上げた先は木々の隙間。


 青い空に太陽の光を遮るものは無い。

 森の中だけあり湿度が高く、いつも以上に暑さを感じる。


 額から頬へと流れる大粒の汗。

 目に入りそうで、拭おうと視線を戻そうとした。


 そのとき、空に黒い点が存在することに気付いた。


 青い空をゆっくりと動く影。

 ときおり太陽の輝きに隠れてまた姿を現す。


 鳥だ。


 特に危険があるわけでもない。

 それに自分が見張りというわけでもないのだ。


 兵士は特に問題は無いと判断して休憩へと戻った。


 仲間のもとへと歩き、昼食を受け取る。


 ビスケットのような保存食だ。

 それを湯に溶かして食べる。


 自分が赴任するまでの保存食は、腹に溜まればいい方だったと聞く。

 しかし領主が変わったのをキッカケに、食事内容も変わった。


 かなり美味しい。

 保存食なのに、普段から食べている物よりもずっと。

 その事実に少し複雑な気分になって手を止める。


 そして、これからの事を考え始めた。

 後、数時間もすれば怪物と戦う事になると言われている。

 だが引き下がるという選択肢は無い。


 自分は裏の人間。

 そのまま日の当たらない場所で過ごし、人知れずに消えていくはずであった。


 だが当主が変わり、自分達を日の当たる場所に引っ張り出してくれた。


 おかげで正規の兵として表舞台に立てたのだ。


 恩義を感じている。

 裏の人間だからこそ、こういった貸し借りの大切さも分かっている。

 だが情に基づいた関係の脆さも知っている。


 結果を出さなければならない。

 自分達は、表舞台に置く価値があるのだと納得してもらえるだけの結果を。


 だから怪物と戦うというのは、価値を証明する絶好のチャンスなのだ。


 仲間達の誰もが分かっている。

 気を張るような事は無くとも、この場に緩んだ雰囲気はない。


 再び、空を眺める。

 裏側にいたときよりも、ずっと明るく感じた。 


 しばらく眺め続け、彼は気付いた。


 先程、空を舞っていた黒い点が徐々に大きくなってきている事に。


 決して大きいわけではない。

 ただ降りてくるスピードが速く、急激に黒い点は大きくなってきている。


 やはり鳥だった。

 カラスだ。


 全身をは艶やかな黒。

 だが通常のカラスでないことは、その目を見れば明らかだ。

 紅い目が額にもあり、合計で3つ存在している。


 モンスターかとも思い槍を構えた──が先輩に制止させられる。


 そのままカラスは、幼き領主を乗せて宙に浮かんでいる青水晶の剣に止まった。


 アーシュが座り宙に浮かぶ大剣。

 そこに止まったハズのカラスが姿を変えた。


 美しい女性だ。

 アーシュの横に並ぶ形で、青水晶に腰を落ち着かせている。


 彼女の名はカルラ。

 幽霊船の装置に眠っていた生物兵器。


 金色の髪に焦げ茶色(ブラウン)の瞳をした美女。

 額や両手の甲に描かれた赤い目の模様があるが、彼女の美しさを損なう事はない。

 それどころか背徳感や神秘性を与えて美を一層引き立ててすらいる。


 彼女の容貌に心を奪われる仲間達。

 その者達の視線は、顔に向いたあとすぐさま下へと向かう。

 白いドレス風の服に設けられたスリッドからは、ドレスの白よりもなお白い足に。


 この場にいる男達は目を逸らす素振りこそしているが、本能が視線を完全に逸らす事を許していなかった。

 彼らに対し、リフレをはじめとした女性達の視線は冷たい。


 そんな男達の様子を気にも留めず、彼女は空で得た情報を伝える。


「主殿。ここから北東に向かってアリイルスが多く分布しておったぞ」


 アリイルス。

 あの紅い花の名。

 楽園の軍に所属していた者にとっては、悪い意味で馴染みの深い花。


「それと村の中心に人影があったぞ。あれは68番だろう」


 女性はアーシュの大剣の上で、くつろいでいるようにも見える。

 だが68番と言った瞬間、飄々とした顔に影がよぎったのをアーシュは見逃さなかった。


「予想の範疇……か」


 面倒な相手は確かだと、苦笑気味に反応を示す。


 だが68番だ。

 上位の数字を持っている相手ではない。

 そこは救いがあったと思い直した。


「ちょっといい?」


 区切りがついた所で、リフレが話かけてきた。


「68番って何?」


 そう言えば、敵の正体についての確証が得られていなかったので、詳細については話していなかった。


 どこから話すべきか?

 少し考えたが、やはり彼女の先祖が仕えた強欲王の物語を基に説明した方がよいだろうと考えた。


「強欲王の物語……この辺りなら魔導王の物語って呼んだ方がいいのかな」

「どっちでもいいよ。ご先祖様が仕えていたからって、私達にとってはお伽噺だからね」


 強欲王というのは蔑称が定着したものだが、その辺りに関心はないようだ。

 彼女の言葉を聞いて、アーシュは普段通りに強欲王と呼ぶことにした。


「強欲王に出てくる落葉の悪魔。その68番に当たるのが村にいるんだってさ」

「ふーん」


 反応は淡泊であったが、悪魔については興味がないわけでは無さそうだ。

 彼女はしばらく考えた後、おもむろに口を開いた。


「落葉の悪魔って、お伽噺で聞いた事があるけど殴って山を崩れさせたり、魔法で海を真っ二つにしたっていうけどあれって本当なの?」


 あくまで物語。

 だから面白くするために脚色される物だが実際はと言うと──。


「本当みたいだけど、それは10番よりも上の話だって聞いているよ。でも今回は68番だから、強くはあるけどでデタラメな強さっている事はないんじゃないかな」


 厄介な相手ではあるが、手に負えない敵ではない。

 それが68番への評価であると伝える。

 だがアーシュに評価を聞くも、顔から緊張が消えることはなかった。


「それがみんなの仇なんだね」

「たぶんね」

「そっか」


 口数は少ない。

 だが彼女に思いつめたような雰囲気はない。

 腰に下げた短剣を手で撫でる。


 その仕草に、今の彼女を動かす基準は何かに気付いた。


 あの短剣はアンバーに強欲王が贈ったものだ。

 短剣を撫でたのは、先祖たちへの誓いの意味があったのだろう。

 振り返った彼女の眼は、真っ直ぐにこちらを見つめている。


「私達も一緒に戦っていいんだよね」

「そういう約束だったからね」


 アーシュの言葉に、彼女は仲間に視線を向ける。


 全て村が襲撃されたとき、身内を失った者だと聞かされた。

 だが、いずれも憎しみにまみれた者とは違う目の輝きをしている。

 誇りある戦士の目とは、このような物を言うのかもしれない。


「仕返しに夢中になって死んじゃうような人はいないからさ。その辺は安心していいよ」


 見えたのは少女らしい柔らかな笑み。

 だが言動で本心を包んでも伝わるものだ。

 笑顔の下にあるのが何であるか。


 *


 ~強欲王の物語~


 楽園と呼ばれる強欲王の支配した国。

 あまりにも強大なその国が世界を掌握しようとしたとき、各国がいがみ合うのを止めて協力し合った。


 世界連合の誕生だ。


 この連合の中心にいたのが魔術王。

 魔導王と呼ばれた強欲王は、数多くの魔導の道具を完成させた。

 一方で魔術王は、強大な魔力を扱い奇跡のような事象を引き起こす王であった。


 魔術王を語るとき欠かせないのが落葉の悪魔。。

 それらは彼の直属として、楽園に対して多大な戦果を上げた。

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