転移門
監獄内に1つの施設が完成した。
それは白い門。
建築材も予め用意してあった上に、ゴーレムという重機に当たる道具もあったのだ。
さして完成までに時間は掛らなかった。
この門なのだが、不可思議な素材で出来ている。
一見すると滑らかな石。
だが直接触れてみると手触りは金属そのもの。
また、軽く叩けば今度は木のような音が反ってくる。
門を組む作業に関わった者たちも、この不可思議な素材に首をかしげていた。
その門の前に集まっているのは6人。
アーシュとその護衛達。
本来であれば、次期当主の護衛なのだから人数を揃えるべきだ。
しかしリクレイン領は慢性的な人手不足──という建前のもとで秘密の漏えいを防ぐための措置であった。
秘密の漏えいを防げるよう、この場に集めた護衛はリクレイン家の裏に生きる者たち。
彼らは秘密を厳守する代わりに、表の舞台に立つことが許された。
アーシュが白い門の前に立つ。
門は大きい。
成人した男性であっても、3人分の背丈は必要だ。
ましてや子どもである彼にとって、この門は見上げることすら苦痛な大きさとなっている。
門の前に立つと分かる。
あまりにも彼は小さな存在であると。
だが、アーシュこそがこの門の所有者だ。
どれ程の大きさであろうとも、気後れすることなど無い。
彼は、どこからともなく薄らと輝くカードを取り出した。
それはトランプのようなサイズ。
アーシュの小さな手では、不自然なほどな大きさを感じられる。
薄らとした光を放つカード。
それはマナ結晶を賢者の石で加工して作成したもの。
先日のカードだ
カードを投げる。
宙を切り門にまで届くと異変が生じた。
これまで門の先に見えたのは監獄の壁。
しかし今では風景が森へと変わっている。
まるで門の中だけ空間を切り取ったかのような光景。
予め話を聞いていた者達の間にも、目の前の現実に僅かながら動揺が走っている。
「行くよ」
アーシュが動揺した彼らを待つことは無い。
護衛は彼のためにいるのであり、アーシュが遠慮をする必要などないからだ。
彼らを置いて門に向かうアーシュを、慌てて兵たちが追いかける。
──やはり経験不足か。
この程度で動揺するのだ。
もう少し訓練をしなければ連携など期待できそうもない。
護衛に多少の不安を覚えながらも、アーシュは門を潜った。
*
楽園が存在した時代の話だ。
あの時代、世界のいたる場所に転移門と呼ばれる設備があった。
それは白い石で作られたかのような門。
空間を切り取った設備であり、門を潜るだけで世界の反対側であろうとも一瞬で辿りつけた。
だが強欲王と世界が争いを始めると、転移門が利用されるのを恐れた世界連合は慌てて破壊に乗り出す。
とてつもなく有用な施設。
だが、戦後に修繕される事は無かった。
転移門の複雑さも問題の一つである。
だがそれ以上に、転移門を維持するためのエネルギー源に問題があったのだ。
高純度のマナ結晶が必要であり、それは楽園の技術でしか作成できない代物である。
故に楽園の消失後に転移門の修復を成し遂げた者はいなかった。
この時までは。
*
世界には壊されていない転移門も存在する。
もっとも、エネルギー不足でいずれも機能は停止しているが。
それでもエネルギーの供給さえあれば使える転移門は未だに残っていた。
アーシュの移動先は、そのうちの一つ。
門の先は森であった。
護衛がアーシュの周りを固める。
そして辺りを確認していると人の影が見えた。
「お疲れ様」
こちらに近づいてくる人物に対し、アーシュが笑顔で労いの言葉を贈った。
護衛達の警戒も緩んでいる。
その人物が自分達の仲間だったからだ。
先行し、壊されていない転移門を見つけ出す。
その役目を与えられた物の一人。
リクレイン家の影だ。
「近くの集落に家を借りております」
「じゃあ、案内を頼むよ」
森を歩く。
一方でアーシュは、青い水晶で出来たような大剣に座って宙を浮かんでいる。
森の中では馬に乗ることも出来ない。
だからアーシュが唯一乗り物を使っていることになる。
このため最も移動速度が速いのだが、周りに合わせてスピードを普段よりも抑えている。
そのため森の様子がハッキリと分かった。
あちこちに見かける紅い花。
鮮やかな色をしたソレには見覚えがある。
──あの花なら、ぜひとも原種を見つけたいところだね。
ささやかな欲を胸に、彼は案内をする男の背を追った。




