ある少女の回想3
ラムラが来たのは私が学校に来て2年目の冬だった。
両手に封魔石の錠をつけて牢に入れられ黒豹の男に輸送されてきた少女は、最初から異質だった。
その後一ヶ月以上、彼女の姿を見ることはなかったが、憔悴した様子で牢から出され封魔石の錠をして授業を受け始めた彼女に近寄る生徒はいなかった。
彼女が来て半年を過ぎるころに、精神が安定してきたと判断され錠がはずされた。
そして、暴れだした彼女の雷撃で生徒や先生方にかなりの被害が出た。
牢と錠の日々がその後1年ほど彼女を拘束した。
拘束解除の最初の実践組み手で、なぜかラムラと組まされた。
1年前の雷撃で被害にあった中には私自身もいた。
彼女の孤高であろうという立ち振る舞い。
自分は傷ついている、誰も近寄るなという態度、すべてが気に食わなかった。
私だって、声を無くした。記憶も無くした。きっと両親も・・・
あの時の借りをやっと返せると、意気込んで戦った。
闇魔法で黒い霧を出し、その霧に紛れながら
雷撃をかわし、高速で近づき一撃で昏倒させるつもりだった。
あと一歩のところでラムラは自分自身をも巻き込む巨大な雷撃を広範囲に落とした。
頭の天辺から足の先まで細切れににされたような痛みが走り抜けた。
先生方の迅速な治癒魔法がなければ、どうなっていただろう・・・
気がついたときに私の目の前にいたのはラムラだった。
心配そうな表情でこちらを見ていたが、私の奥底から悔しさと哀れんだ目で私を見る彼女への怒りが沸々と湧いてきた。
その時、私の喉から
「グガァァ」
という音が聞こえた。
久しく感じることの無かった喉を走る振動。
声?らしきもの・・・
そんな私をきょとんとした表情で見つめるラムラ。
お互いのことは何も知らない二人の間に、何かの絆が生まれようとしていた。
その後、学校を卒業し、エイドリアの組織に正式に加盟した私達は、ラグ一家としてラグを中心に身を寄せ合った。
ラグとシャルロットの面倒見の良さ、アイラの優しさ、アースとラムラの快活さとが心地よい空間を作り出していた。
数々の危険な任務と任務の間に、確かな安らぎがあった。
今思えば、男性がラグだけという偏った環境ではあったけど、みんなそれなりにうまくやっていた。
幼少の頃より、身近な男性がラグだけだったともいえる私を含め5人の少女は、当然のごとくラグを好いていたし、それは淡い恋のようなものだったと思う。
私達がエイドリアの組織の中で確固たる位置を築きつつある時にその男、モートと出会った。
第一印象は、なぜ高貴な身の出身であろう猿人がこんな辺境の町で商店など営んでいるんだろう?という疑問からだった。
エイドリアもそうだが、皇帝ビヨットが建国したこの国では、猿人は往々にして要職に就くことが多い、エイドリアやモートのように、猿人であるのに辺境に住み高貴な生活をしていない猿人の方が珍しいといえる。
ラグのミスから、この奇妙な猿人の商人モートと知り合った。
その後、紆余曲折を経て、モートの部下のルークを護衛して王都まで旅することになった。
野営後に今まで感じたことの無い体の不調にこれからの旅路が不安になった。
足の付け根の痛み、衣類の汚れ、記憶の齟齬、旅の過程でどんどんと不安は募っていった。
精神的に不安定のピークの際に、汚れた衣類を盗んだ男に思わず感情が高ぶり始末してしまった事もある。
旅の間、オテロクという闇の魔物と仲良くなった。
王都に着きモートと合流した後も、オテロクとは良く語り明かした。
モートの仕事っぷりは凄まじいものがあった、各国の商人を説き伏せ、手の中のカードを隠したり大胆に公開したり、相手の情報を徹底的に集めた上で、確実に力を付けていった、遠く離れた、ドミリスやリームレ、ボルックの町の事まで考えて行動していた。
基本的に護衛として行動していた私にはそのすべてが勉強にもなったし、その手腕に次第に尊敬以上の感情も生まれつつあった。
王都では、モートの私設した特殊部隊の指導も引き受けた、基本的に体力作りを中心にしごきにしごいた、その関門を突破したものだけには、闇魔法と隠密の技を徹底的に教え込んだ。
すべてが軌道に乗ってきた頃に、妊娠した。
ラグの子だという事で、ラグが謝った。
シャルロット、アース、私、ラムラの4人が同時期に妊娠し、ラグが謝る。
一夫多妻は、この世界では能力ある男なら当然の事だ、何を謝るのだろうか?
だけども当事者5人の心はどこか釈然としなかった、記憶に齟齬がある。
記憶と感情のギャップ。
モートにある種の感情を抱いている私がラグと子を?
確かにそういう行為をした記憶はあるが。
偽りの記憶?
親友でもあり、モートと特別な関係にあるというオテロクに相談した。
オテロクは何かを知っている。
オテロクを呼び出し、5人で詰問した。
そして、明かされた真実。
私達を王族の暗殺から守る為に自分の気持ちを隠し、魂の契約の事もそれを使い私達を無下に扱う訳でもなく、国を良くする為、獅子奮迅の働きをする男モートという男の生き様に5人はただ黙ってモートの想いを汲んで知らぬふりを貫こうと誓い合ったのだった。




