再会
「おう!久しぶりだね!元気にしてたかいっ!?」
相手の満面の笑みと相対して、俺の気持ちは一気にどん底まで落ちていった。
あの悪夢の夜が走馬灯のように脳内を駆け巡る。
忘れようとしても忘れられない思い出の象徴たる人物が目の前にいる。
「・・・な、なぜこの町に?」
オレの口から出た言葉は情けなくも震えていた。
「愛する旦那が、こっちの仕事に夢中になっちまってね。ボルックに呼び出されたはいいが、旦那は忙しすぎて帰ってこないし、子供たちは採掘場の預かり所に預けられるからね。最初は採掘を手伝ってたりしたんだけど、なんだか私の作った賄いが大人気でね。いまじゃぁ、こんな店構えて、弟子とって料理教えたりしてね。楽しく過ごさせてもらってるよ。今日はあんたが帰ってきたお祝いをやるって予約をもらってたからね、奥にみんなも呼んであるよ。さぁ、入った入った」
エーテリスに背中をドンドンと叩かれながらオレは店内に入っていった。
店内はすごい広さだった。そしてその広い店内が人と活気に溢れている。
王都にすらこんなに大きな飲食店は無いし、こんなに騒がしい店もない。
店の真ん中に巨大な円卓が用意してあり、オレ達はその席に案内された。
「さぁ、座った座った!今日は飲んで食べて、思いっきりこの店を楽しんでってちょうだいな!」
席に座ると次から次に見たこともない創意工夫のある料理が運ばれてきた。
前菜は、小さな緑の果物の中を繰り抜き、中にその果物の切り身で作ったドレッシングが入っている。それをかけて食べるサラダも新鮮でシャキパリと美味しい。
次にハムと卵とチーズがミルフィーユ状に折り重なったものに、酸味の効いた甘いソースのかかったもの、しつこいかと思ったがさっぱりとしながらも、チーズの芳醇な濃厚さも味わえる。
円卓の中央には、巨大なイノシシが丸焼きになって鎮座している。この店の名物にもなっているらしい料理をみんなで切り分けて食べる。獣肉の臭みがまったくないのは、内部に詰め込まれた香草のおかげだろう、一度全体を蒸して、その後砂糖と果汁を調合した特別なソースを何度もかけながらゆっくりと炭火で焼き上げていく調理法らしい。その皮もパリパリとしながら甘みと肉の旨味とかブレンドされて非常に美味しい。
それら数々の料理をゆっくりと食べながら、樽酒が円卓を囲むように設置される。
それぞれの樽に様々な酒が入っているらしく、これも自家製の酒ということだった。
酵母の発酵を助ける為に、特殊な魔術を施し大量生産につなげているとのことだったが、詳細は専門用語すぎて分からなかったが、様々な果実や獣の乳、穀物などをベースにした原酒が多数、さらにそれを蒸留した酒、ブレンドしたもの、飲みやすいように果汁とミックスしたもの。驚くことに炭酸のように泡立つものまであった。これも酵母による炭酸らしいが非常に飲みくちの良い酒である。
振る舞われた酒と料理、モートというこの町の英雄の帰還。
それらの相乗効果で店の中のボルテージは最高潮に達していた。
歌と踊りが始まり、手を叩き合う者、抱きあう者、地面に大笑いして転げまわる者、放心状態で涙しながらも穏やかな表情でそれらの騒ぎを眺める者、肩を組み共に歌う人々、活気と喜びが溢れていた。
「良い店だな」
「こんな場所を作れたのもモートさんのお陰ですよ」
自然、口から出た言葉に、いつの間にか隣に座っていたソマックが応じる。
「これからが本番だ。富以上に力を手に入れなければ、安定という日々が来ないことを、王都での日々で良く分かった。特にあの気まぐれな王族達の些細な心変わり一発で瓦解するだろう日々だということは重々承知してなければな」
「モートさんがそう言うなら、我々は力の限り尽くすのみです。金銭面では、この飲食店もエーテリスの弟子達に店を持たせ、ドルトニアの南部に既に店舗を確保しつつあります。食材に関しても、冒険者ギルドを斡旋できるボルック・リムーレ・ドミリスの町を結ぶ地域周辺で安価で安定調達が出来ています。今後、更なる利益の増大を図るために、ボルックとリームレ・ドミリスを繋ぐ3つの街道の整備が急務かと思います。川沿いの街道の山賊や魔物の討伐と道の整備、洞窟を通るルートの調査と整備、山を登ってのルートの開拓と、3つのルートが開拓されれば、海と山の幸、ドラゴン素材と魔鉱石の流通の円滑化や食材の流通、加工、様々な面でメリットが考えられます。どれも一大事業になりますので時間はかかると思うのですが、当面の目標として掲げていきたいと思っています」
オレの考えていた事とほぼ同じ事を提言してきたソマック。
コイツとの会話は本当に楽しい、意思を共有している感じだ。
「それの件はオレも考えていた、そしてルートの開拓にはちょっと考えがある。上手くいけばかなり工程は短縮されるだろう」
「おお!それは楽しみですね!どのような方法で?」
「まだ、可能かどうかは分からないからな、楽しみにしていてくれ」
「わかりました。では、自分は自分の出来る範囲で、商圏の拡大と、最終工程に向けた人員や資材の確保を進めます」
「ああ、任せた」
ソマックは根っからの仕事人間なんだろう、酒で顔を真赤にしながらも楽しそうに仕事の話をする。これでかなり泥酔していても翌日しっかり話の内容を覚えているから凄い。
「何、難しい話してるっちゃ?せっかくの楽しい夜を楽しまなきゃそんだっちゃ!」
何故か泥酔したラムラがオレの膝の上に座り絡みついてきた。
肉感的な感触がオレの酔いを一気に覚まさせる。
向かいの席のラグの事が気になり視線を送るが、既に酩酊状態で机に突っ伏していた。
「えっと、人妻がこの行動はちょっと大胆すぎやしませんか?」
「もうラグも寝てるっちゃ」
・・・ラムラは、こんなにオレにベタベタするような接し方はしなかったハズだ。
気高きダークエルフがいつの間にやらビッチ化してた?
いや、ありえない・・・
そして、この光景を眺めるラグ一家の視線に冷たさとは違うモノを感じる・・・
オレの知らないところで何があった・・・?




