ボルックへの帰還
皇帝崩御の報は、ドルトニア中を駆け巡り、国葬が盛大に執り行われる事になった。
その一大事件が起きるまでの数年間は実にほのぼのとしたものだった。
世界が変わるようなその大きな変転が訪れるのはまだ、少し先の話になる。
舞踏会の開催後は、ゴフトス・ルシュランド両名からの刺客は一切無くなった。
もちろん定期的に納金させてもらっているが、こちらとしても生命と商売に余計な横槍が入らないことによって充分な恩恵が得られた。
舞踏会の開かれた後にはボルックにて盛大に内々の祝いを行った。
フォレストオブジャスティスへのメンバー加入祝い及び、新領地の件などなど、まとめて一気にお祝いをした。
ボルックに着くとさっそくソマックが迎えに出向いてくれた。
忙しいだろうに律儀な男だ。
「ご無沙汰しておりますモートさん」
「久しぶりですねソマックさん。全てお任せしてしまっている中で、これだけの成果を上げて頂いている事に常々感謝しています。」
「いえいえ、モートさんに全て万全なる体制作りと援護射撃の数々で支援してもらっているからこそです、今回の件でも更に周囲への潰しが効くようになるでしょうし、ビジネスの幅も広がると思います」
「そうか、期待しているぞ」
相変わらず商魂たくましい男だ。頼りになる。
「「「モートさんお帰りなさいませ」」」
久しぶりにラグの家に来た。
奥からお腹を大きくしたラグ一家が出てくる。すっかり地域の名士になったオレに対する対応も当初とはずいぶんと変わった。
ラグの家族でもあり、オレの家族でもある。
オレの力不足以外の何者でも無いが、彼女たちを守るためにもオレの家族と公表するのは、刺客や陰謀の多いこの世界では危険すぎる。
王族であるビヨットですら自分の子供達を守りきれていない、そういう意味では、無くす以上に増やし続けた彼は凄い。
世間では、俺の事を男色家や不能者と噂する声がある事は知っているが、臆病者のオレに彼らを失うことは許容出来ない。
こうして足長おじさん的にこの街に住まう、オレの子供達を支援していければ充分に思える。
「みなさんこんばんは。今日は王都からたくさんお土産を用意してきましたよ。並んで下さい」
ラグ一家の美貌は、子を産んでからも全く霞むことが無い。むしろ子を育てることで冒険者時代の刺々しさが無くなり、物腰全体に柔らかさが出て、女性らしさが増したとも言える。
「よぉ!」
屋敷の奥からラグがいつもの様に手を上げて出てきた。相変わらずだなこいつは。
「みなさんも元気にしているようで何よりです」
「ああ、元気だけが取り柄みたいなもんだしな」
「一気にこれだけの子供を授かるとは、ラグさんも大したものです」
「ああ、俺自身こんなに子宝に恵まれてこんな生活を送ることになるとは冒険者時代は思いもしなかったが、今はこの街で温かな住民に囲まれて穏やかな生活をおくれている、全てモートのお陰だな。ありがとうな」
「恐縮です。本来なら自分がこの街の事ももっと尽力しなければならないのでしょうが、任せきりになってしまっていますね」
「場を与えられた喜び、任される喜びってのを充分に満喫させてもらってるよ」
「そう言っていただけますか」
「ああ」
ソマックにしてもラグにしても好漢ってこういう奴らの事なのだろうな。
新領地のコンス地方開墾にラグ一家を誘おうとも思ったが、この状況で誘うのは無理がありそうだ。
その後の調べでは、コンス地方は過去何度も王国が開拓団や冒険者たちを送り込んできた地域だと判明した。それでも開拓の足がかりすら掴めていない所に、このドルトニアという国の火力の弱さと、コンス地方の厄介さが伺える。
今夜は、久々のボルックへのオレの帰還を祝って、ラグ一家とボルックに最近出来た大人気のレストランに行くことになった。
「癒しの泉亭」という旅館も兼ねたその店は、店先にまで人が並ぶほど繁盛していた。拡張に拡張を重ねたのだろう。店の形は継ぎ足し継ぎ足し大きくしたような不格好な形をしている。
既にボルック内に系列店を数店舗構えているということで、どの店も軒並み大繁盛らしい。
行列の最後尾に並ぼうとするオレをシャルロットが遮り、行列の先頭まで連れて行くと案内の店員に耳打ちする。
しばらくすると、店の奥から聞き覚えのある声が響いてきた。
そしてざわめきが大きくなっていく。




