残された男
オレのアイテムボックス内は比較的整理されていると思う。
秘薬の詰まった袋。回復薬各種、食料、飲み物、日用雑貨、武器、防具、アクセサリー、金と綺麗に別けて袋や宝箱に入れてある。
金とアクセサリーは宝箱に鍵をかけて入れるのが一般的だが、オレは独自の理論で袋に無造作に入れてある。
今、オレは自分のアイテムボックス内を覗いている。
視線は男から逸らし、子どもたちを見ている。
どうやら男は金の詰まった袋ごと盗もうとしているようだ。
袋が上に持ち上がり、ある程度の張力を得たところでまた元に戻る。
<窃盗防御 2>になった。
金の袋には、金が無造作に入っているようだが、まとめて盗られる事を防ぐために、金の下には重いインゴットが隠してある。並の窃盗スキルでは盗むことは叶わないだろう。
同じく質量が軽く、まとめて盗られる可能性のあるアクセサリーの袋にも勿論同じような細工がしてある。
一見、軽そうに見えて重い袋。
これが宝箱だと上手くインゴットが隠せない。
窃盗経験者なら分かるだろうが、袋の中身を上部にある金を分けて下の方まで確認する時間とスリルを考えると、まとめて盗ってしまおうと考えるか、上部の数枚の金額を盗って終わりにするか迷うところだ。
この男は窃盗にはそれなりに自信があったのだろう。
まとめ盗りを選択した、そこが大きな間違いだ。
視線は子供達に向けたまま、突然男の手を掴む。
「盗人だ!」
オレの声と同時に子供達が驚きの表情と共に飛び退る。
ラグが間髪入れずに男を取り押さえると、最初小さな抵抗を見せた男もぐったりとして諦めたようだ。
骨と皮だけの貧弱な男がそこに押さえ込まれている。
良く見れば集まっている子供達も痩せすぎている。
どういうことだ?ギルドが機能していない?国はどうした?
様々な疑問が浮かぶ。
ちょっとした騒ぎになっているのに、子供達以外に誰も出てこない・・・
男を殺そうとしたラグを止める、この状況を知る上で貴重な情報源だ。
一ヶ月の旅の予定だが、不測の事態に備えて数カ月分の備蓄がある。
宿屋の一回にあった食堂に入り。男や子供達に食料と飲み物を配る。
貪るようにそれらを飲み食いする姿を見ると、先ほどの窃盗も止む終えなかったと思えてくる。
食事が一段落し、男から事情を聴く。
男の名前はランドック。
3年前にこのボルックの町に来た、その時はルクワルドという魔法使いの付き人としてきた。このルクワルド優秀な魔法使いだったらしいが、極度の人見知りだった、そのため買い物や依頼受けなど様々な雑用は、ある出来事がキッカケでルクワルドに魂を捧げたランドックが全て行なっていた。
ルクワルドにはプルックというマナスライムの使い魔がいた。
このプルック、魔力をその身に貯めこむことが可能だったため、ルクワルドに飼われていた。人見知りな性格が災いしてパーティーを組むことが出来なかったルクワルドは、乱戦時に回復薬を飲む時間をプルックが補ってくれるので、ランドックと行動を共にするまではずっとコンビで行動していた。
ボルックの町に着いた2人と1匹は、ギルドで魔鉱石のダンジョン内に住み着いたサキュバスを退治してくれという彼らにとっては簡単な依頼だった。
ダンジョン深くに逃げ込んだサキュバスを追い詰め、洞窟内の吊り橋の上で事件は起きた。
戦闘の最中に、吊り橋の揺れが大きくなりルクワルド、プルック、サキュバスが真っ逆さまに吊り橋からどこまでも続くような亀裂の闇へ落ちていった。
間一髪助かったランドックだったが、しばらく待ってもルクワルドから魂の返還がされた様子が無い。必ず生きていると考えたランドックは洞窟内を探しまわった。亀裂の下まで行く方法を探し求めて。
もちろん、ギルドに捜索依頼も出したが結果は芳しくなかった。
2年という月日が経つ頃、ルクワルドから魂の返還は未だに無かった。生きているのだろう、そう思っていたランドックはその日もダンジョンに潜った。
そこで2年ぶりの出会いが会った、1匹のマナスライムを発見した。プルックだ!
そう思って近づくと、奥から数匹のマナスライムが湧き出てきた。
こちらに害を与える様子は無かったので、そのまま脇を通り抜けて洞窟の奥まで行くと、亀裂の中からかなりの数のマナスライムが湧き出てきていた。
その異常な光景にランドックは洞窟から逃げ帰り、ギルドにマナスライムの討伐依頼を出した。
おとなしいスライムだ、どんなに大量に発生しようとも簡単に討伐されてしまうだろう、その時はそう思っていた。
そのあたりから、少しづつ町がおかしくなり始めた。
名産品であるはずの魔鉱石の武器や防具の在庫が減っていった。
だが、長い年月の素材の備蓄があった頃は良かった、町の誰もがそのうちマナスライムが討伐されれば元通りになると思っていた。
今から半年前、とうとう魔鉱石の素材の備蓄も底をついた。
ギルドはかなりの大部隊でマナスライム討伐を始めた。
だが、ダンジョン深くに入っていった冒険者達が戻ってこない。
国に相談しようという意見も何度も出たが、町の責任者は国に管理能力を問われるのが怖くて事実をひた隠した。
冒険者ギルドは討伐依頼で大打撃を受け、商人ギルドも魔鉱石のない町で商売は難しくなった。
町を離れるもの、ダンジョンに挑むもの、様々な選択肢を選んで町から1人また1人と人が居なくなっていった。
2周間ほど前だろうか、かなり人が少なくなったが、まだ町という形を保っていたこの町をモンスターが襲った。
サキュバスの大群だった、チャームの魔法を乱発し町の人々を洞窟の奥へ誘ってしまった。
残されたのは、何故かチャームの魔法をかけられなかった町の子供達。
そして、潜伏という能力を仕えたランドックだけだった。
「サキュバス、そんなに恐ろしい魔物では無いはずだけど、それだけの数となると厄介ね」
アイラが冷静に分析する。
「ウチの雷撃で一掃するっちゃ」
ラムラは討伐に行く気満々だな。
「討伐に行く冒険者達は皆同じように言って帰って来ませんでした。ある程度の魔法防御の力があればチャームの魔法は防げるかもしれません。それでも数百発と浴びたら、、、あの時、サキュバス達は町を襲うときに大量のマナスライムを引き連れていました。ほぼ無尽蔵の魔力から繰り出されるチャームの魔法の連撃。なんとかなりそうでしょうか?」
ランドックは必死に懇願する。
「ああ、それは無理だな」
ラグが冷静に判断する。
「俺達は、これから王都に向かう。次の町でお前達への支援を要請しておく。それまでの飲料と食料の備蓄は渡しておこう。流石に子供達を護衛しながら次の町まで行くなんて芸当は俺達には出来ないからな」
「しかたがないことです」
そう言いながらもガックリと肩を落としかなり残念そうにしている。
ここで、町を離れることになってふと思いつく。
まぁ、無いとは思うけど、このランドックのアイテムボックスを覗かせてもらう。
見かけによらず整理整頓されている。
だが、その整理整頓された品々の上に無造作に被さっている布地が数枚。
腹が膨れたら魔が差したらしいな。
確かに能力があって、これだけの美女達に囲まれたら仕方が無いのかもしれない。
白や水色、シルクやレースの布地が、ランドックのアイテムボックスに入っていた。
話しを聞いてみれば可哀想な奴だし、これからの生活も子供だけでは大変そうだ。
子どもたちの面倒を見て、きっと今後も町の復興まで不便を感じながら過ごすのだろう。
餞別としてくれてやってもいいかもしれない。
使って無い新品であるならばな。
昨晩脱がせた、記憶に新しい布地の数々。
アイテムボックス内で別の袋に未使用のモノが大量に入っているのも確認出来たはずだ、そこからあえて使用済みの袋の布地を選んだランドック!
オレのだ!ざけんな!このゲス野郎が!!
「お別れだなランドック。悪いがオレは探知スキルをずっと発動していた。出来心だったのは分かってるから返してくれるか?」
俺がアイテムボックス観覧出来るとは言えないから、何らかのアイテムをランドックが盗む行為を探知で見たと遠回しに言うしかない・・・
なるべく穏便に済ませよう。
相手を刺激しないように優しくだ。
「な?何のことでしょうか?」
ああ、流石にこれから面倒みていく子どもたちの前で下着ドロ暴露は可哀想だな。白状できるわけもない。
「ごめんね。君たちちょっと我々はランドックさんと大事な話しがあるんだ。外で待っててくれるかな?」
宿屋の外に子どもたちを出す。
「出来心だったんだろう?殺したりはしないお前には子どもたちの面倒もあるからな、彼女たちのアイテムを盗んだだろ?素直に出してくれるかい?」
にこやかにランドックに話しかける。
後ろに控えるラグ一家からの、背中からの圧力半端じゃない。
ランドックごめん。
でもオマエが悪いんだよ。
「う・・・この何年とルクワルドを探し続けた。これから救助が来るまでの間も俺が一人であいつらを守ってやらなきゃならねぇ。その間に寂しさを紛らわせようと思っての出来心だったんだ。勘弁してくれ」
ボタボタと汗を流しながら真っ青な顔で絞り出すように話したランドック。
「寂しかったんだな。気持ちが分からない訳じゃない。さぁ、出すんだ」
ランドックがアイテムボックスから取り出した色とりどりの下着を右手に持って差し出したその瞬間。
黒い影がオレの横を通り過ぎた。
バシュッ!
あっ!
と思った時には遅かった。
セシルのレイピアが綺麗にランドックの首を刈っていた。
「殺さないって・・・・ぐふぅぅぅ」
「盗人ニハ死アルノミ」
ええええ?
ちょ・・・セシルさん・・・オレ約束したのに・・・
崩れ落ちるランドックの右手にラムラの雷撃が落ちる。
色とりどりの布地は黒く焦げ付く。
ランドックの肉が焼ける臭いと混じってひどい匂いが宿屋内にこもる。
「もう、そんな下着使えないっちゃ」
「外道!永久に眠れ!ファイアーアロー!」
アースが宿屋の壁など数カ所に火矢を打ち込むと猛烈な勢いで宿屋が燃え始まった。
そしてランドックさんのご遺体には火矢が集中して打ち込まれております。
オレたちまで火に巻き込まれそうだったので、急いで宿屋から飛び出る。
外に出ると、轟々と凄い勢いで宿屋が燃えている。
頃合いを見て、アイラの水魔法で消火を始める。
宿や裏手の井戸から、すごい量の水が吹き上がって鎮火した。
「ねーねー。ランドックのおじちゃんは?」
「ぼくお腹すいたよー」
「火事すげー!初めて近くで見た!」
宿の外では子どもたちが大はしゃぎだ。
「おい・・・どうするんだ?これから?」
渋い顔でシャルロットが全員を見渡す。
「何れにしてもこの子たちを連れて旅も出来ないし、この町に子どもたちだけ置いて行くことも出来ないからな、サキュバスに連れ去られたって町の人々を助けるしかない、その中にこの子たちの親もいるかもしれない。」
ラグが決断した。
「何か策はあるのか?」
お前、さっき自分で無理だなって言ってたよな?
オレはラグに聞きたい、どんな突破口があるのかを。
「無い!あたって砕けろだろっ!」
二カッとオレに笑顔で言い切ったラグ。
砕ける未来しか見えてこない。




