闇夜
水族館のようだった。
俺達の周りにガラスの壁があるように、空間が空きその周囲を大量の水が満たす。
目の前にアイラの尻。そして、この密集隊形。最高の水族館だな。
水の中を山賊たちが踊るように口から泡を出しながら手足を動かす。
やがて踊りを止めた山賊たちがぐったりしてくると、徐々に水の量が減っていた。
水の量が、膝下ぐらいまで減ると大量の海賊たちが河原中に転がっている。
「念のためだっちゃ」
ラムラはダメ押しでそこに雷撃を数発落としていく。
水の上に落ちた雷撃が広がるように水上を走る。
山賊たちがブルブルッビクビクッと動く。
そして、水が引きあたりに沈黙が訪れた。
どうやら山賊を完全撃破出来たようだ。
「走るよ!休憩は無しだ!仲間が来る前に駆け抜ける!」
シャルロットの掛け声で全員で先を急ぐ。
夜通しかけても明日の朝まではかかろう距離を駆け抜けるという。
体力的には回復剤で何とかなっても、精神的な疲労は抜けない。
かなりの強行軍になるだろうが、何千という山賊になぶり殺しにされるよりはマシだ。
オレは雑念を振り払い最後尾を走りはじめた。
夜が明け、日が昇り、走りながら食事をする。
会話は無い。
少しでも体力を温存し、一歩でも前に進む。
静かな強行軍は夕刻になっても続いた。
肩に乗ったオテロクも空気を読んで静かにしてくれている。
ラグ一家も山賊程では無いが、夜目スキルはある程度あるようだ。
オレも夜目スキルのスキル値を上げてひた走る。
走っているという感覚すら無くなってくる。
ただ、足を前に出す。
前に倒れ込む身体を次の一歩で支えるような前傾姿勢で走る。
膝や内蔵の痛みには、治癒魔法をかけながら進む。
そうして作業のように無心で行動しながら足を出し続けると、周囲に闇が立ち込める頃、次第に周囲の谷幅が広くなり始めた。
「どうやら、抜け出せそうだな。もうすぐ谷間を抜ける」
ラグの声にも疲労の響きが濃い。
どうやら助かったようだ。
安心感と共に、急速に眠気に襲われる。
いやなんだこれは?
身体が・・・
視線を前に向けると、他の6人も次々に倒れるところだった。
拙い。
なんとか意識を保とうとするが抗えぬ眠気にオレの意識は奪われた。
ドスッ
背中への衝撃で目を覚ます。
目は覚めたのだが、今度は身体が動かせない。
麻痺だろう。
実は、前回テレスパイダー麻痺攻撃を受け、回復したときに<麻痺耐性 1>というスキルを得ていた。
その横に今回は<睡眠耐性 1>というスキルも増えている。
何者かによって、睡眠攻撃を受けたのは間違いないらしい。
「スキル値変更」で<麻痺耐性>を100まで上げると、身体が動くようになったようだ。
だが、身体は動かさないで周囲を確認する。
完全に取り囲まれている。
昨夜の山賊たちだろう。
懲りない奴らだ。
アイラの水魔法も、全員が麻痺攻撃をされたようで動けない。
麻痺攻撃をして安心したのか、山賊たちは俺達を取り囲んでニヤニヤと眺めている。
「くっ、卑怯な!正々堂々と戦え!」
シャルロットが叫ぶ。
「モート、オテが暴れようか?」
上空にいたオテロクが舞い降りてきてオレの肩に止まる。
オテロクが暴れると言っているが、こんな小さな奴が暴れてどうにかなる数じゃない。
先日の襲撃の時は数百だったが、今回は数千はいるだろう。
もうこうなってくると、俺達を襲うというか、前回の迎撃の落とし前ってところかな?
散々ひどい目に合わされて最後は殺される。
だが、オテロクが、どうにか山賊達の気を逸らしてくれれば、一度変装セットを取ってモートの姿になる。ラグ一家は驚きの表情を見せるだろうが、もうこれはお約束の反応だし、後でモートって記憶は消してやればいい。
ラストスパークを連発すれば、囲みを突破することも出来そうだ。
まずはオテロクの闇霧による、敵前衛の視界潰しに期待したいところだ。
「オテロク、頼む!暴れてくれ!」
肩口のオテロクにお願いすると、オテロクの右手が赤く光り出した。
闇が赤い右手に吸い込まれていくのが分かる。
次第にその赤が右肩まで達する。
どんどんとオテロクの身体が大きくなっていく。
これは、どこかで見た赤だ。
唾液でここまで混じったのか。
メルロの呪印。
こんなものまで混じってたとはな。
とんでもない化け物を創りだしてしまったんじゃないのか?
突然の翼の生えた悪魔降臨に、山賊たちは完全に腰が抜けた様子だ。
既に戦意すらない。
闇夜の中に巨大な黒い影、赤く光る巨大な呪印。
「オテ暴れる!ぐおおおおおおぉぉぉ」
オテロクが翼を羽ばたかせ山賊の集団に突っ込んでいく。
吹き飛ばされるというよりも、巨大な重量の衝突で潰れるという表現が正しいのだろう。
闇夜を裂く赤い光。
縦横無尽に飛び回る姿は綺麗でもある。
山賊たちの阿鼻叫喚をBGMにラグ一家の麻痺を回復薬で治していく。
ラグ達が動けるようになる頃には、一方的な殺戮は山賊たちの逃走と共に終わりを告げていた。
死屍累々。
血なまぐさい匂いが周囲に立ち込める。
夜明けを待ち、周囲に散乱した山賊達のアイテムを回収して谷間を抜けた。
朝の光りと共に元の大きさに戻ったオテロクはラグ一家の完全な人気者になった。
敵に回したら恐ろしすぎる破壊力だったが、味方となればこんなに心強い奴はいない、授けてくれたオデロンに感謝だな。
谷間を抜け、その先にある森を抜け、やっと草原地帯に出るとそこに大きな町があった。
地方都市ボルック。
鉱山の町として有名で、良質な魔鉱石が取れると聞いている。
ちょっと寄り道して、鍛冶をしたいという気持ちが沸いてくる。
職業病だな。
久々に宿のベットで寝れると思うと楽しみでならない。
この町に来るまでに、様々なパターンで夜も楽しませてもらったので少々寝不足でもある。
数日はこの町に逗留し疲れを癒してから旅を再会しよう。
町の北門から入ると、オレの想像していた活気ある鉱山町はそこにはなかった。
「お兄さん!このパン買ってくれよ!」
汚らしいパンを差し出す子供。カビが生えている。緑と青の斑模様のパン。
「お姉さん!この傷の薬を買いたいんだ!恵んでくれよ!」
かなり酷い腕の切り傷を見せる子供。
様々な要求を口にする子どもたちが、北門から入ってきたオレ達を取り囲んだ。
そして、突然<窃盗防御 1>というスキルを得た。
急いで探知を試みる。
子どもたちに紛れて、うっすらと男の姿が見える。
潜伏スキルを使っているのだろう。
オレが男を見ると、視線が合う。
男は動かない。
どうやら隠密スキルは習得してないようだな。
動くことは出来ないらしい。
アイテムボックスを確認するが、盗まれたモノはないようだな。
未熟者め!失敗しおったか!
この男どうしてくれようか!
それにしても、酷い町だな。
魔鉱石の恩恵どうした!?
鍛冶屋はなにやってんだ!?




