谷間
3日も谷間を進み続け、谷間ルートの道も半分を過ぎた頃、それは唐突に現れた。
10人程の屈強な男達。
山賊だ。
一般的な商隊が通る際の交通量一人1万ドランを山賊に渡す。
ここでこの10人を殺して谷間ルートを通るのは、数千といる山賊を相手にする覚悟がいる。
「お前らは商隊じゃねぇからな。お得意様じゃねぇ場合は、更に1万ドランだ」
どんなに理不尽な要求でも、無用なトラブルは避ける方が良いだろう。
更に1万ドランを上乗せして、合計12万ドランを支払う。
自分たちの所有の土地でもない谷間を勝手に占拠して、交通量でこれだけの大金をとるのだからボロい商売だ。
山賊と言っても、心根は商人に近いのだろうか?
金を渡すと、また帰りもこのルートを使うように話して山へ戻っていった。
商人と違うところといえば、屈強な体はもちろん、全員の顔に張り付いた下卑た笑顔だろう。
にこやかな商人スマイルとは違う笑顔。
その夜は河原にテントで野営した。
川の近くではラムラの雷撃を川に落とす、浮かび上がってくる魚を回収と、簡単に魚を捕ることが出来た。
満腹になり、夜のお楽しみをしていると、オテロクがテントに慌てて入ってきた。
「ルーク、何かが迫ってくる。かなりの数だよ」
オレは慌てて魂を操作し、全員に服を着せて、部屋を暗くし、みんなを一旦眠らせる。
もちろん記憶操作もバッチリだ。
「みんな起きろ!何かが迫っている!」
さすがラグ一家の準備は早かった。武装を整えテントの外へ出ると、川を背に陣形を整える。
山から数百の影。
近づいてくる。
人だった。
夜の闇を火も灯さず駆け抜けてきた。
全員がかなり夜目スキルを上げているのだろう。
「なんの用だ?」
ラグが一歩前に出て声を張り上げる。
集団の中央から、一際体が大きく、筋骨隆々の男が進み出た。
口元はヒゲだらけ、頬の大きな切り傷。
数百の影に囲まれると漂ってくる独特の臭い。汗臭くも獣臭くも男臭くもある臭い。
くせぇ。
完全に包囲された。
さすがにこの人数を相手に、闇夜の中、川を背に闘うとかは無謀すぎる。
ここは素直に要求を飲むしか無いだろう。
「金は払ったはずだ」
ラグは更に言い放つ。
若干言葉の最後が掠れていた。
緊張なのか?怯えなのか?
「確かに金は受け取った、だがそれは普通の冒険者を通す値段しかもらってねぇ」
「俺達は普通の冒険者だ。何の問題がある?」
「お前の後ろのそいつらは普通じゃねぇだろ。報告に来た奴らが女神が舞い降りたって大騒ぎしてた時は、話半分で聞いてたが、どうやら本当だったようだな。容姿だけじゃねぇ、ここまで良い香りがするぞ。そいつらは、交通量として俺達が貰い受ける。大人しく渡せば乱暴はしねぇ」
いや・・・こんな人数で押しかけてこっちは5人ですよ・・・
どうするつもりだよ!
俺のだよ!
壊すつもりかよ!
貸し出し厳禁!
ランガー装備でブチのめしてやるか?!
ラグ一家には、記憶は消してやれば、こんな山奥ならランガー装備発動可能だろう。
「私が皆様の所へ伺います。それで、どうにか他の者を通してはいただけませんでしょうか?」
アイラが一歩進み出た。
「ほぉ。なかなか話の分かる女がいたようだな。お前は一番最初に可愛がってやるぞ。だが、この人数だお前だけではダメだ。全員だ。男達もだ」
「俺達もなのか?」
ラグがすっとんきょうな声を上げる。
「お前はなかなか体格もいいし人気があるだろうな」
特上の下卑た笑顔で山賊は答えた。
あああああああ。
オレもかぁぁっぁ
守備範囲広すぎるだろ山賊さんよぉぉぉぉ
その時、シャルに突然手を引かれて、アイラの後ろに連れて行かれる。
頭を押さえつけられて、強制的にしゃがみ込む。
他の5人も同じような体制になっている。
同時に轟音が響き、見上げると先ほどまでの星空が無くなり、代わりに水の壁が倒れこんできた。




