正体
一人ずつ、魂の契約の効果を確認しながら、少しづつ味わっていく事も考えた。
だが、やめた。
明日をも知れぬ旅に出てしまった事を実感したからだ。
今日一日、魔物を相手に闘いながら、この草原にやっと着いた。
ラグ一家は、本当に旅慣れているのだろう、怪我をする場面もあったが、冷静に治癒魔法をアイラが飛ばしながら戦い、進んできた。
オレはと言えば、かなり先の旅路が不安になった。
夕刻、もうすぐ野営地に着くと思った時だった。
オレは、ラグ一家の最後尾を歩いていた。
一日中、前方5人のお尻がプリプリ動くのを堪能させてもらった。
草木の匂いにまじり、良い香りがする。
幸先良い旅だと思った。
そして、オレは前方に倒れ込んだ。
身体が動かなかった。
何が起きたのか理解したのは、10分程の戦闘が終わり、アイラの治癒魔法を受けた後だった。
そこには1m程の大蜘蛛テレスパイダーが緑の液を撒き散らして死んでいた。
この戦闘で、オレのスキルに<探知 1>というスキルが増えた。
完全な不意打ちだった。
敵は前方からだけじゃない。上からスーッと忍び寄って来る事もある。
今回は麻痺だった。
いつか即死の攻撃を受けることもあるかもしれない。
恐ろしかった。
怖かった。
明日からの事よりも、今の事しか考えられなかった。
テントに入ったと同時に、全員の動きが停止した。
「なんだこれは?」
「麻痺?」
全員に恐怖の表情が浮かぶ。
「全員そこへ並べ」
オレが発言し、指で差し示すとその場所にラグ一家が一列に並んだ。
「なんだ?」
「身体が、なぜ?」
「ルーク?どういうこと?」
「並ばない。並びたくない」
意識とは無関係に行動してくれるようだ。
そして、全員が理解していない。
魂の契約。魂を取られるという事。恐ろしい事だ。
自分自身で実行しながらも、その力の凄さに恐怖感が沸く。
それと同時に、なんとも言えぬ安心感が込み上げる。
この旅の間、冷静に対処してきたラグ一家が、今オレの前に、不安を恐怖を表情に出して並んでいる。
先ほどテレスパイダーに麻痺を食らった直後のオレもこんな表情をみんなに晒していたんだろう。
そんなオレをラグ一家は、臆病者とも言わずに受け入れてくれた。
むしろ、商人の身で、モートの意思を受けてこんな危険にその身を晒す事を讃えてくれた。
嬉しくもあったが、悔しくもあった。
女達に守られるオレ。女達を守るラグ。
天と地ほどに開いている。
「さて、まずは皆さんに見て貰いたいものがある」
オレはゆっくりとルークの仮面を外し、モートの素顔を晒す。
「オマエハ!?」
「ルーク!え?」
「モートお前だったのか?」
「何故変装などする!?」
今度は全員が困惑している様子だ。
「そうです。皆さんお久しぶりです。モートです。ラグさん、先日は良い契約をありがとうございました。お陰で素晴らしい魂を手に入れることが出来ました」
「馬鹿な!金は返した。契約書も破棄されたはずだ!」
「そうだ!私もその場にいた!金は返したはずだぞ!」
「それは、オレがお前達に植えつけた記憶だ。残念だったな」
笑顔が堪え切れない。ニヤニヤとしてしまう。
「そんなっ!そんな事が!?」
愕然とした表情の6人。
「どうして、身体が思うように動かないか分かるか?考えてみろ!オレが魂に命令したからに決まってるだろ!」
「てめぇ!許さねえ!許さねえぞ!」
「殺してやる!絶対にお前を殺してやるぞ!」
「魂カエセ!」
「ラグだけは助けてだっちゃ!」
「お前みたいなクズに・・・・」
身体を動かそうとする素振りはあるが、足も手も、一歩も並んだ状態から動かせずに、オレに罵詈雑言を浴びせかける6人。
「安心してください。明日からも旅をする仲間じゃないですか。酷いことをするだろうとか、勘違いしてませんか?」
オレは満面の笑みで6人に語りかける。
「じゃぁ、返してくれるのか?」
「酷いことはしないのか?」
「そうだ、明日からも旅をする仲間だもんな!」
少し安堵した表情に変わる6人。
「一緒に旅をするのに、恨みを買って寝首をかかれるなんてゴメンです。ですから、今日の記憶は明日にはすっかり消してあげます。今日これからどんな酷い事があっても、皆さんには、健やかに眠りについた安らかな思い出をもれなくプレゼントしますよ」
ここでニッコリ微笑む。
「うおおおおぉぉっぉぉぉ!!!」
「きさまぁあぁはなせぇぇうごけぇぇぇ!!!!」
「コロスコロスコロスゥゥゥ!!!」
今の話で理解してくれたようだ。
全力を出して動こうとしている。
だけど動けない。
見たことの無い表情でオレを血走った目で見る6人。
かなり怒っているな。
まだ夜は長い。
「じゃぁ、とりあえず全員脱いでくれるかな?」
笑顔で全員に命令する。




