会議
なんだか、流されるままに反ドルトニア勢力とか立ち上げてしまって、流されるままに、今オレはソマックと合流し会場である、学校近くの洞窟に向かっている。
メルロも同行している。
他の幹部たちも来るのかと思ったが、彼らはメルロの命令を聞く人形かのごとく、自分の意見は発言しない。
これもバイオトランスの影響だろう。
配合量を徐々に減らすことによって、自分たちの意思表示がはっきりしてきたら、次に彼らを襲うのは、バイオトランスを飲まされてきた事への怒りだろう。
その時に、うまく怒りの矛先をゴフトスに向けさせる事が重要だとメルロには助言してある。
オレは、決意を何度も変更し、ずっとぐじぐじと悩んで、気持ちが左右されるのは男らしくないだろうが、人間なんてこんなもんだと思う。
なんか、目標を持って、それに向かって突き進める人間なんてそんなにいないだろう。
オレは、転生前も後もトラブルの無いようにひっそりと生きてきたが、あのラグからの窃盗の後も自分の前の壁を突き破ろうと行動しては、予想しない展開に翻弄されながらも、その場の勢いでここまで来てしまった。
メルロやキャン達、ラグ一家を連れて人里離れたところで、ひっそりとハーレム状態で暮らすことも、魂を得た今なら出来るかもしれない。
ラングロングとオデロンは、オレが守らなくともあの洞窟にいる限り、そう簡単には人間も手を出せないだろう。魚だけ食って生活してれば、人間達と争うこともなく平和に生きていけるだろう。
国家転覆を狙うのは良いが、現状も分からなく、おおよそ平和なこのドルトニアを戦乱に巻き込むことによって、多大なる死者を生み出すかもしれない事はどう考える?
そもそも、何故そんな面倒な事をする必要がある?
ぐるぐるとそんな考えが頭に回りながらも会場へと足を運ぶ。
「ルーク?今日はやけに無口だがどうした?」
20代後半ぐらいの容姿になり、少し赤みがかった髪になった、メルロが心配そうに覗きこんでくる。くそ可愛い。
山奥に隠れ住んでハーレムを味わう事に、刺激がない。
オレ自身が、かっこ良くもない。
国家を打ち倒すということの言葉の響き。
ドキドキワクワクする。
まぁ、こういう流れになったのも何かの縁だろう。
最悪、ルークという隠れ蓑を捨てて、一商人モートに戻ればいいという保険もある。
そして、メルロやラグ一家の美女たちに心からの笑顔と尊敬を得る事も出来るかもしれない。
魂への命令でそれを得る事の空虚感を想像すると虚しくもある。
どうせ血を流すのならば、ランガー装備で、帝都の遠方から、「ラストスパーク」<潜伏><隠密>で何度もテロ行為を行うという事も考えたが、これも無用な血を流し、最悪、王族を大迷宮深く隠れさせる結果になりかねないと思いとどまる。
いろいろ考えても結局は思い通りになんてならない。
思うがままに、その場その場で判断していくしかない。
洞窟に着くと、エイドリア、ガルローズとラグと3人が来ていた。
こちらの、ソマック、メルロ、オレを合わせて、合計6人とかなり少数だが、大人数で議論して、結局結論が出ないよりも、この少数で決定していくなら好都合だ。
むしろ、エイドリア以外の魂を握っているオレが主導権を握っている会議だ。
「なんでルーク、あんたがメルロと一緒にいるんだい?」
ああ、そうだった。
ルークでこの場所に来たら駄目じゃないか・・・
その場その場で判断してたら、さっそく行き詰まった。
「えー、えっと」
必死で言い訳を考える。
確か、ラグとエイドリアに会った時には、エイドリアの組織に入りたいって事にして、監視をしてたんだよな。借金の事、実は、モートに頼まれた監視者だった事、素直に話すのがいいのか?
メルロ、ガルローズ、ラグの魂を操作して、一時的に口裏合わせは可能かもしれないが、オレ自身が何処でどんな嘘をついて来たか分からなくなってしまいそうだ。そしてその嘘が原因で追い込まれる結果にもなるだろう。
出来るだけ、本当の事を織り交ぜた嘘を。
「親父。実は・・・」
ラグが話そうとする。もう真実を打ち明けてもらうのが楽かもしれない。
後は野となれ山となれだ。
考えるの大変になってきた。
ラグは、組織の上納金を盗まれた事、モートという商人に借金をして上納金を収めた事、その契約の際に魂の契約書を結んだこと、ガルローズやラグ一家にも保証人になってもらったこと、その後無事借金は返済し契約書は破棄された事。一つ一つ話しながら、顔は青くなり冷や汗が出てきている。
俺は内心しっかりと命令が反映されて、思考操作出来ている事が確認でき、嬉しくなった。
それにしても、第一印象から、今日まで、エイドリアは気のいい親分という感じで、ガルローズやラグの方が、よっぽど人相も悪いし、腕っ節も強そうに見えるが、何が彼らをこんなに怯えさせるのか?
ラグの隣で話を聞いているガルローズも目を伏せ小刻みに震えている。
ひと通り話が終わると、その場に長い沈黙が流れる。
なんか、作戦会議のはずが、オレがルークの姿で来た事によって、凄いややこしい厄介な状況になっている。
ごめんな。ラグ。ガルローズ。
目を閉じ、腕を組んで話を聞いていたエイドリアがゆっくりと目を開く。
「良く話してくれたね。ラグ」
満面の笑みだ。
オレは心の中でホッとする。
バチーン ガァン バチーン ゴッ
一瞬だった。
ラグとガルローズが、洞窟の端まで吹っ飛んだ。
ピンクのゴリラが鬼の形相で吹っ飛んだ二人に駆け寄る。
「おいっ!あたしゃそんなに頼りにならない親父かいっ!」
ドガァッ
ドスの効いた声で言い放ちながら、一撃でグッタリとなった巨漢のガルローズの腹を蹴り上げる。
隣に横たわっていたラグも一緒に蹴り上げられて、壁に叩きける。
ゴハッ
二人の口から血しぶきが飛ぶ。
スプラッタ!!
なんかちょっといろいろ嫌な記憶がぁぁぁぁ
ゴクリ。
ツバを飲み込む音で、隣を見ると、ソマックが何故か羨ましそうな表情で二人を見ている。
狂ってるよぉぉぉ
罵詈雑言を叩きつけながら、数分間蹴り上げが続く。
ちょ・・・・執拗すぎませんか・・・死んじゃうんじゃ?
助けを求めようとメルロを見ると、感心したような表情でエイドリアを見ている。
オレは関わってはいけない世界に足を踏み入れてしまったようだ。
凄惨な光景に膝が震え、立っているのがやっとだ。
とにかく、こちらに矛先が向かぬよう、オレは傍観する。
心を無にするんだ。
「もう、そのぐらいにしてあげたらどうだ?!」
洞窟に怒声が響く。
鬼の形相でエイドリアが振り返る。
恐ろしい。
怒声を上げた人物。
ソマックだった。
おいっ!
顔がニヤけてるぞコイツ!
「一家の事に部外者が口出しするんじゃないよ」
ゴリラ筋肉マッチョ女がソマックを睨みながら歩いてくる。
ソマックはニヤニヤしている。
「あんた何者だい?この状況でニヤつくとはいい度胸だね」
「ルークさんと同じ商人モートの使用人ソマックです」
ニヤつきながら答えるソマック。
やめてくれ、もうそれ以上挑発するな。
「あんたもモートって奴の手先かい。で?その肝心のモートって奴は何処にいるんだい?」
「モートは既に、情報収集及び、資金収集の為に旅立った」
前もって打ち合わせした通りに、メルロが答える。
「会議にも出ないで単独行動かい。ずいぶんと勝手な奴だね」
「だが、頭は切れる男だぞ」
メルロがニヤリと微笑む。
「あたしは、会ったことも無い奴を信用は出来ないね。だが、このソマックという男は大した度胸だ。あんたの事は少し認めてやるよ」
エイドリアの声が幾分落ち着いてきた。危機は去ったようだ。
「モートさんは偉大な男です。あなたも会えば分かる」
ソマックは、エイドリアをギラギラした目で見ながらそう言った。
「いろいろと事情があり、身元を明かせなかった事、改めてお詫び申し上げます。改めまして、モートの使用人、ルークと申します。以後、お見知りおきよろしくお願いいたします」
オレはエイドリアに深々とお辞儀をした。
「ずいぶんと慇懃な態度だね。で?これからどうするつもりだい?反ドルトニア勢力って言ったって、アタシ達とメルロあんたの所じゃ合わせても微々たる力だ。とてもじゃないが国をどうこうしようなんて力は無いよ?それは分かってるだろ?」
「ああ、確かにそうだな。私達は無力だ。だが、策が無い訳ではない、聞いてくれ」
メルロは昨夜オレが話した策をエイドリアに話し始めた。
「分かった。確かに私達には、情報も仲間も少なすぎる。そして、今、私やあんたがへたに動いて、ゴフトスやルシュランドに私達の動きが勘付かれるのは不味い。このルークという男の護衛依頼を受けたという名目なら、ラグ一家が帝都に潜入しても怪しまれるような事はないだろう。とりあえず、やってみようじゃないか」
「ありがとう、まさかあなたとこういう関係になるとはね。表向きはこれからも争っているようにしなければならないのが少し心苦しいわ」
メルロがはにかんだ笑顔で話す。
「そうだね。鮮血の女王が味方だっていうんだから、こっちとしては頼もしい限りだよ」
エイドリアもニカッと笑う。
この二人なにか通じるものがあるのだろう。
「ほれっ!いつまでそこで寝てるんだい!?準備を始めな!ラグ!あんたの一家に仕事だよ!」
エイドリアがいまだにピクリともしない二人に近づいていく。
治癒魔法も使えないのに部下をあそこまで痛めつけるってどういう感覚なんだろうか?
身体に刻み込む教育なのだろうが、オレには一生理解できそうにない、というか理解したくもない。
ヒールスクロールは持っているが、余計な事をして、オレに矛先が向かう可能性もあるのでやめておく。
エイドリアは、軽々と二人を両肩に担ぎあげてオレの元に向かってくる。
「じゃぁ、明日にでもモートって奴の店にラグ一家は向かわせるからね。ルーク、ラグの一家はみんな気のいい奴らだが詰めの甘い所もある。冒険者として荒事には向いているが、良く言えば世間ずれしてない、あんたの商人としての才覚が必要になる場面も多々あるだろう、帝都まで長旅になるだろうが、よろしく頼むよ」
オレにニカッと笑いながらそう言うと、エイドリアはメルロ、ソマックにも簡単に挨拶をして洞窟を出て行った。
3人を見送りながらオレは念じた。
{ガルローズに命ずる。お前はエイドリアが大好きになる全力でエイドリアを口説き落とせ}
結果どうなるかは、旅から帰ってのお楽しみだな。
素敵なカップルが誕生している事を願おう。
横を見るとソマックは、どこか残念そうな表情でエイドリアの背中を見送っていた。
正直者で真面目で、少し不器用な良い奴というオレのソマックの印象はこの数日で大きく変わってしまった。
今後、部下として接していく間に、まだまだ奥深い秘密を持っている男だと覚悟しておかなければならないだろう。
いろいろと不安要素はあるが、明日からラグ一家との旅が始まると思うと心のウキウキが止まらない。
美女軍団と楽しくもドキドキの帝都までの旅。
自然顔がニヤけてしまう。




