説得
ちょうど昼時だったので、メルロは執務室で食事をしていた。
スープにパン、サラダに、少量の肉と、かなり質素な食事だ。
オレが部屋に入ると、こちらを見て、その後キラキラとした瞳で見つめると、笑顔で迎え入れてくれた。
「遅かったじゃないか?待ってたぞ!」
メルロの笑顔を見た途端、泣きそうになる。
というか泣いてしまった。
「どうした?何かあったのか?スマンが、二人にさせてくれ」
後ろに控えていた者を下がらせると、食事も途中にオレに歩み寄ってきてくれる。
オレは思わずメルロを抱きしめてしまう。
「なっ?どうしたっ?」
近くで見ると、アラサーらしく、目尻にうっすらと小皺が出来かけている。
メチャクチャ愛おしくなる。
まだ何か言おうとしていた口をオレの口で塞ぐ。
一瞬硬直した舌が、柔らかくなり受け入れてくれた事を感じる。
寝室に行くのももどかしく、その場で着衣のままメルロに癒してもらう。
「で?どうした?」
身だしなみを整えて、対面の椅子に座ったメルロが聞いてくる。
頬はまだ、ほんのり桜色に上気している。
「ちょっと、嫌なことがあってな・・・でも、もう大丈夫だ。メルロのお陰だ。ありがとう」
オレは精一杯の笑顔で答えた。
「うん。やっぱり私はその顔が好きだな♬どうも、ルークの顔は味がない」
アレをナニしている最中に、仮面を取らされて、今はモートになっている。
二人だけでいる時は、仮面は付けないで欲しいということだ。
嬉しいことを言ってくれる。
ああ、メルロが大好きになっているオレがいる。
この笑顔を守ってやりたい。
「メルロ、今日は夕刻より、初の反ドルトニア勢力の会合があるな。その前にいろいろと打ち合わせしておきたくてな」
「ああ、私もモートと話しておきたいと思っていた」
「勢いで反ドルトニアなんて言ってしまったが、正直、今の戦力では、打つ手は何もないかもしれない」
「それは、私も分かっている。だが、どうすれば良いのだ?ドルトニアは、諸国連合を迎え撃った程の強国だ。さらにこの200年、周辺各国は、敗戦国として、ドルトニアの強引な交渉にも逆らえずに迎合している。そして、初代皇帝ビヨットは現在もその辣腕を存分に奮って富国強兵を行なっている。最後に追い込んだとしても、あの大穴を中心に無数の大迷宮が今も開発されている。生半可な事ではどうにもならないだろう」
「そうだな、だがオレはその中にこそ、何か打つ手があるんじゃないかと思っている」
「ほう、聞かせてもらおう」
「まず、敵を倒すには、敵を知ることだ。反ドルトニア戦力の中から何名かを帝都に潜入させる。そして今のドルトニアの現状、王子達の事、その相互関係がどうなっているかなど調べる限りを調べていきたい。そしてもう一つが、プロミリア、ラウロス、アクアニアの諸国の情勢把握だ。各国を旅して、再度、諸国連合軍の発足を呼びかけるのも一つの手かもしれない。諸国連合と合わせて、内戦を各地で勃発させ、王宮内での派閥抗争も同時に起こせれば、チャンスはあるかもしれない」
「簡単な事ではないぞ」
「ああ、そうだな。実情の分からない現状では、そういう方向に持っていければいいな程度の事だ。だが別にもう一つ考えがある」
「良くもそれだけポンポンアイデアが出るな、恐ろしい男だなお前は」
メルロが若干呆れ顔で言い放つ。
褒め言葉と受け止めておく。
「バイオトランスだ。あれは国に蔓延したら、忠実な国民を増やすことかもしれないが、一歩間違えれば国の生産力は落ち原因不明の病気や治安の悪化など何が起きるか分からない諸刃の剣だ。あれを他国に流す」
「なにっ!?お前、それが許されると思っているのか?」
「すべてを聖人君子のように行なって目的を全うしようなどと思ってはいない。オレは他人の不幸よりも今、目の前にあるメルロお前の笑顔を守りたいんだ」
メルロの青白い肌が、胸のあたりから顔まで、一気に赤く染まる。
「そ、それは嬉しい言葉だけど・・・」
「大丈夫だ。事が成された後には、徐々に流通量を下げて、中毒者の蔓延を防げばいい。肝心なのはそのバイオトランスが何処から流れてきたのかだ」
メルロがハッとした顔でオレを見つめる。
「ゴフトス・・・」
「そうだ、国を滅亡へと導くかもしれない危険な薬を蔓延させている陰謀を誰が行なっているのか?犯人はドルトニアの第二王位継承者ゴフトス。どうなるだろうな?」
ニヤリとメルロに笑いかける。
メルロは、血の気の失せた驚愕した顔でオレを見ている。
「それが可能なのか?」
「まぁ、何事も案だからな、やってみなけりゃ分からない」
「それはそうだが」
「それで、メルロ、オレはやるからには自分でやらなきゃ気がすまない。他人任せで失敗した時に悔やむのは嫌だからな。お前とはしばらく会えなくなるかもしれないが、帝都潜入と諸国の放浪、長い時間が必要になるだろう。なるべくこの町にも立ち寄るようにするから、会議の場でオレにそれを命じてくれ」
「何もお前が行く必要は無いだろう!危険な旅だぞ!そもそもお前は、戦えるのか?長い旅路だランガーの武装でずっと行くわけにもいかないだろう?心配過ぎる。お前に死を宣告するような事は命令出来ん」
メルロが必死に食い下がる。ありがたいことだ。
確かにオレは、ランガー装備じゃない時は、戦闘力と言えるようなものは、全然無い。
今から訓練といっても、それだけで貴重な時間を要するだろう。
「流石にオレ一人では不安だ、だからエイドリア一家で一番の戦闘集団、ラグ一家を護衛に付けてくれ、オレは商人ルークとして旅をする。やばくなったら、モートに戻ってトンズラするから安心しろ」
ラグ一家とhshsの旅計画。メルロごめん。
メチャクチャ心配そうにオレを見つめてくるメルロに心の中で謝る。
「お前を守る為だ。オレを信じてくれ」
目に力を込めてもう一度言う。
「分かった・・・必ず定期的に、この町にも立ち寄れよ・・・・お前が立ち寄らないと私は死んでしまうかもしれないんだからな・・・」
それは、精力補充が必要ということだろうか?
それとも、寂しくて死んじゃうって意味だろうか?
何にしても、愛しいメルロに何年も会わずにいられるほど、オレは人間できちゃいない。なんだかんだ理由を付けては戻ってこようと思う。
「もちろんだ。会議までまだ時間はあるな・・・」
「そうだな・・・」
見つめ合う二人の視線が絡み合う。
そして、二回戦が始まった。
もちろん、延長戦も行った事を、話しておこう。




