ソマック家
オレはソマックの話を聞いてここまで来る間、エルフとは思えぬ美女。
種族を越えたハイエルフとか、ソマックが嫁さんを持ち上げまくってたお陰で、ソマック家に着くまで凄い緊張してた。
エルフ以上の美人って、あのフローネたん以上の美人ってことだろ?
そして、出てきたのは、確かにエルフとは思えぬ巨漢の女性だった。
ソマック、お前、どうやったらハイエルフって言えるんだよ!
確かに伝説の存在かもしれんが、違う意味で伝説だわ・・・・
尖った耳、黄金色の金髪、ふくよかな身体、逞しい腕、どっしりした下半身、全ての顔面パーツが大きい。エルフであって、エルフで無い存在。エーテリス。
ソマックの美観は独創的だった。
個性的な美観に乾杯!
今後、他人の話、特に美観や食感などは、見てみるまで食べてみるまで信じてはいけないと、良い教訓になった。
ありがとうソマック。
そのエーテリスに土下座している男が目の前にいる。
オレは、目の前に出されたお茶を飲みながら、温かい目でその光景を見守る。
事の顛末を、誠心誠意、妻に土下座しながら話すソマックの姿は美しいなぁ。
本当にいい男だ。
「本当に、苦労ばかりかけて、すまないがそういうことだ!モートさんがくれたチャンスを次こそは必ずモノにして、お前に楽させてみせるから。この通り、これからもついて来てくれ!本当にすまなかった!」
突然の告白にソマックの独白を棒立ちの姿勢でずっと聞いてたエーテリス。
理解に時間がかかるのだろう。
しばらく土下座するソマックを見つめる。
そして、土下座しているソマックへ両手を差し伸べる。
と思った、その手を今度は勢い良く振り上げると、同時に片足も振り上げ、その足でソマックの後頭部に痛烈なストンピングをかました。
「この甲斐性なしがっ!」
流石に予想してなかった行動にオレはお茶を吹き出した。
「ちょ!奥さん!それはっ!」
2度3度と繰り返されるストンピングに、ソマックのオデコのあたりから血が床に円状に広がっていく。
止めようとも思うが、いかんせんオレも怖い。
オレにこの攻撃が飛び火してくる可能性はあるのか?
「あんた、いつも町を変える度に、次こそはって言ってるよねっ!立ちな!」
頭髪を掴んで、顔面血まみれのソマックが引き起こされる。
流れるような手際の良さだ。
エーテリスの表情が作業をこなすかのように無表情なのが怖い。
そして、引き起こされたソマックの表情を確認すると、そこに、白い歯を見せ微笑むソマックを見出し、オレは戦慄した。
エーテリスがその薄ら笑いを浮かべたソマックの顔を、自分の足の間に片手で押し込む。
両手をソマックのヘソのあたりでガッチリとロックすると、そのまま上に勢い良く持ち上げる。
遠心力で足の間にあった、ソマックの顔が大きくエーテリスの頭上に、足も遠心力で振り上がりエーテリスの肩で勢いが殺される。
そして、エーテリスがソマックのヘソの位置でロックしたままの両手を、腰を折って、地面に叩きつけるように振り下ろすと、ソマックはそのまま地面に叩きつけられた。
ドバシィィィーン!!!!
ソマックは、両手を大きく広げて床を叩き、受け身をとった。
俗にいうパワーボムというヤツだ。
初めて生で間近で見た。
床が板の間だったのが幸いか、ソマックは生きていた。
薄目をあけ、口を半開きにして、痛みを分散させるように、浅い息を何度もはいている。
若干恍惚の表情に見えるのは気のせいと思いたい。
「はっ、はっ、うふぃー!はっ、はっ、うふぃー!」
ソマックの痛みを堪える荒い息遣いが、なんか気持ち悪い。
「グレートヒール」
エーテリスが、ソマックに向けて治癒魔法を使う。
相変わらず作業をこなうかのような無表情。
「しっかり稼ぎなよ、次はないからね!」
大の字のソマックを見下してエーテリスが言い放つと、オレの方を振り返る。
あああああ。
怖い。
怖いよぉぉぉ。
まさか、次はオレって事はないよな?
な?
「モートさん、こんな旦那ですが、心根は真面目で誠実な男です。どうか、モートさんの好きなように使ってやって下さい。末永くよろしくお願いいたします」
真摯な表情でオレを見つめた後、深々と頭を下げられた。
想像してなかった行動に、オレも固まってしまって、返事が出来ない。
「え、あ・・・」
長いお辞儀の後、顔を上げたエーテリスの頬に二筋の涙があった。
意外性のある女だな、おい・・・・ちょっとグッときたぞ。
「わかりました。こちらこそ、よろしくお願い致します。私もソマックさんには、出来る限りの事はしていきたいと思います。エーテリスさん、ご主人の家庭でのサポートよろしくお願いします」
「ありがとうございます。私の出来る限りサポートしていきます。モートさん、よろしければ今夜はウチで食事をしていってください。重ねて、主人をよろしくお願いします」
再度、深くお辞儀をすると、エーテリスは涙をそのままに、台所の方へと入っていった。
今のは、一瞬だけ、いい女だなって思ってしまった。
本当に毛の先ほどだけど、いい奥さんだなソマック。
食事を食べて帰るのは、返事を待たずに決定したようだ。
まぁ、この状況で断れるような胆力はオレには無い。
ありがたく、針のムシロになるだろう、夕食の場に同席しよう。
gkbr。
治癒魔法が効いたのだろう。
ソマックがゆっくり起き上がり、対面の席に座る。
「モートさん、驚かせてしまって、申し訳ありません。あれが私の妻エーテリスです。どうです?エルフとは思えぬ美しさでしょう!」
満面の笑みでソマックが問いかけてくる。
傷は癒えてるのだろうが、まだ、顔面が血まみれなのでムチャクチャ怖いです。
ギラギラした目で見ないでー!
「ああ、確かにエルフとは思えんな」
ウソでは無い。
「しかも、怒ってもちゃんと治癒魔法までかけてくれるなんて、本当に優しくて素晴らしい妻です。私には勿体ない」
うっとりした表情のソマック。
お前、それでいいんだな。
うん。
なんかもう、このまま帰れないわ・・・
「えっと、ソマックさん、これ受け取ってください」
200万ドランを手渡す。
「モートさん、これは受け取れません!只でさえ凄い迷惑をかけてしまったのに!」
あああ、これ貴方の貯金なんです!
「当面の生活費としても、必要だと思うんです。きちんと金利は頂きますので、長い目で返していただければ結構ですので」
「ありがとうございますっ!必ずお返しします!本当に本当にありがとうございましたっ!!!」
なんか、流石のオレも居心地悪いっす。
ソマックさん、あんた凄いよ。
良い人過ぎてオレの心はポッキリ折れそうだよ。
台所から、美味しそうな良い香りがしてくると、ドタタタタタという大きな音と共に、2階から2人の子供が駆け下りてくる。
「シャリーン!エド!家の中走るんじゃないよっ!ルイが起きちゃうだろっ!」
子どもたちの足音よりデカイ声でエーテリスが怒鳴る。
「うぎゃぁぁあぁ!うぎゃぁぁぁァ!」
部屋の片隅に設置してあるベビーベットから大音響が流れる!
「ほらっ!起きちまったよ!あんた!頼むよ!」
うん、エーテリスさん、あなたの声で起きちゃったと思うんですよ。きっと。みんな怖くて言えないけど・・・
「あー知らないオジちゃんがいるー!」
なんか、エーテリスそっくりの赤毛の女の子がオレを指差して発見すると、全力疾走で突っ込んでくる。
ひぃぃぃ助けてくれー!ソマック!
ソマックを見ると、嬉しそうな顔でルイドックを抱え上げている。
その腰のあたりに、後ろからエドリックが弾丸のように突っ込んでいく。
「パパー!!!」
明らかに、腰がゴキッとダメージ受けた感じなのに、ソマックは笑顔でエドリックの頭も撫でてやっている。
オレに突っ込んできた女の子は、何故か、オレのローブを掴みながら、オレの身体をよじ登ってきている。
「これこれ、シャリーン、モートさんに失礼だろ。やめなさい」
やんわりとソマックが言う。
ソマックさん。
もっと厳しく言ってくれ。
「モート!モート!」
肩車の体制になった、シャリーンがオレの髪の毛を持って、前後にはしゃぐように身体を揺らす。
あああああああああああいでぇぇぇっぇぇ
髪の毛ひきちぎれますぅぅぅぅ
明らかな重量オーバーですぅぅぅ
ソマック家での悪夢の一夜は始まったばかりであった。




