尊敬する男
まず、驚いたのが、その店の品質だ。
俺はこれでも、アクアニアに数ある鉱山の内、一二を争うスバレック鉱山の出身者だ。その中でも、豪商と言われるトイロックに認められる程の鍛冶師だと自負している。
今は、リスクが大きくて、自分で商品を作り売ることは出来ていないが、商品を作れば一級品が作れるだろう。
その俺から見ても、とんでもない極上品ばかりが並んでいた。
このレベルまでの製品を作り上げるのに、どのくらいの研鑽を積んで来たのか、鍛冶一筋に生きてきた俺には分かる。
店に来る客は、「良い品だ」と言って、普通に買っていくが、見るものが見れば、こんな安く買える商品ではない。
素材が、鉄や銅、鋼や銀など、一般的な素材がの商品が多い為、一般的な冒険者が使いやすく、買いやすい価格設定なのに、この極上品だ。
この技術者が、ミスリルや魔法石を原料に武具を作ったら、王宮に献上品として贈るような超高級品が出来るだろう。
そして、2番目がその利益率だ。
冒険者から仕入れた物を生成して作っているらしいが、どう考えても利益率が良すぎる。
かなり粗悪な鉄からでも、極上品が作れるのだろう。
そして、素人目にも良い商品と分かるからこそ、相場より高い値であっても安定して売れる。
こんな田舎町にこんな神業をもつ人がいたとは驚きだ。
最後に、一番驚いたのは、その神業を持つ人物に会った事だった。
初めて、商人ギルドであったその男はどこかオドオドしていて、非常に腰の低い男だった。
その後、店番を任され、報酬を受け取った時に、様々な話を聞かせてもらい俺は驚愕した。
あの素晴らしい商品を作り、きちんと利益を出し、あの若さで店をオープンし、オープン資金を貸し付けした商人ギルドへの高額な返済も一度も遅れずしっかり行なっているという。更に、そんな才能をまったく鼻にかける様子もなく、常に人を敬い低姿勢を貫く。出来る事ではない。あの若さで、あの実力では誰もが慢心するだろう。
技術者であり、誠実で謙虚なモートという男に俺は一発で惚れ込んでしまった。
そんな俺の尊敬して止まないモートさんからは、何度も「店番」をお願いされている。
今回も遠方まで仕入れの旅に出ているらしい。
先日も、使いの者という、イケメンのエルフが、店の品が薄くなってきた、絶妙のタイミングで、補充用の商品を届けてくれた。
モートさんには千里眼があるかの如く、自分の店の売れ行きが分かるのだろう、その商才はトイロック以上だろう。
こんな小さな町にいるのは勿体無い男だ。
どこから仕入れた情報なのか、大きな争いがあるという情報も伝えてきた。
更に、これで仕入れをしろと、500万ドランもの大金を任されてしまった。トイロックでさえも、こんな大金を側近の部下に任せたのを見たことがない。それを、こんなただの「店番」である俺に任せてくれた事に、俺の心が確かに震えた。期待に答えなければいけない。俺にとっても大きく稼ぐチャンスだ。
あの、モートさんの情報だ確かな情報なんだろう。商売はスピードが肝心だ。
俺は、昔のツテも使いつつ、近隣の町の商品、町にある他の店の商品、出入りの行商、仲介人、放浪した時に作った様々なルートあらゆる手段を使って、争いに必要になるだろう、回復剤各種、更には、秘薬やスクロールまで、揃えられるだけの商品を揃えた。
この町で、この店とモートさんに出会えた事こそ、まさに人生の転機だった。
俺は、この町に定住することを決意した、間もなく、エーテリスとの間に3番目の子を授かった。名をルイドックという。ドワーフの男の子だ。
実は、俺に家族がいることは、まだモートさんにも話していない。
長い旅の間に、俺に妻がいて、その妻がエーテリスだという事が知れると、とてつもない美人な妻をもつ俺への嫉妬だろうか商売が上手くいかなくなり、嫌がらせを受ける事もあった。
何度か、そういう事があり、最終的に俺は独身ということにしている。
エーテリスには不自由な思いばかりさせてしまっているが、いつか俺が店を持ってくれる。貴方には素晴らしい才能がある。といつも俺を元気付けてくれる。
本当に全ての癒しがあった。
ここ最近のルイドックの夜泣きも、肉体的にはキツイが、精神的には幸せを噛み締めることが出来た。
そして、遂に今日が最終日だ。
いつもより早く家を出ると、開店の準備をするために店に急ぐ。
いつ来ても、この店の商品達に惚れ惚れする。
素晴らしい。
まず、店の前を念入りに掃き清める。空気が清々しい。
店内に戻り、商品を磨き上げる。
こんな素晴らしい職人が作った商品を間近で見れ、手入れできる喜びに、自然と笑みが溢れる。最高に幸せだ。
今日で、最後だ。
仕入れの長旅から帰ってきたモートさんに、実績を見てもらうのが楽しみだ。
あの尊敬するモートさんに「流石、ソマックさんですね。素晴らしい売上じゃないですか!」と満面の笑みで言われる事を思い浮かべるだけで、なんとも言えない高揚感が沸き上がってくる。
ダメダメだ!気合だっ!最後まで気を抜くな!
両手で頬を張る。
まずは、釣り銭の確認だ。
預っている鍵でレジボックスを開ける。
バァン!
突然の大きな音にビクッとなる。
店の入口が勢い良く開いたようだ。
こういうオカルトな現象苦手だわ。
「なんだぁ!?風か?」
とりあえず、自然現象だろ思うが吉。自分に言い聞かせ、入り口に向かう。
入り口から、外を見渡すが、早朝だ、誰もいない。
気味が悪い。
さて、中へ戻って、仕事の続きだ。
レジへと歩いて行くと、急に目の前が真っ暗になった。
「ソマックさん!ソマックさん!」
誰かに揺り起こされて、目が覚める。
よく見れば、商人ギルドの職員だ。
なんだか、必死の形相だ。
「えっと、どうしました?」
「どうしましたじゃ無いですよ!店の表看板が閉店のままだったのですが、夕刻になっても、ギルドに鍵の返還にいらっしゃらなかったので、店に入らせてもらいました」
「え?夕刻?閉店?」
「とにかく、アイテムボックス内の商品を早く陳列して、鍵を返還してください」
見渡すと、外は既に日が落ち、店の中は一つの商品も無くガラーンとしている。
事態に気づき、慌てて自分のアイテムボックス内を確認したが、そこには何も入っていなかった。今まで貯めこんできた、開店資金も、生活費も、モートさんの資金も、売上も、商品も、思い出の品も、何も、、、綺麗に何も無かった。
夢だと思った。
夢であって欲しいと思った。
でも、店の匂い、レジボックスに付いている手垢、使い込まれた商品棚、その細部に至るまで、全てがここが現実だということを突きつけていた。
窃盗なのか?
ミリアムの顔が頭を過る。
名乗り出れなかった過去の自分。
全てを失ったのか?
エーテリスや子供達の顔が最後に思い浮かぶ。哀しい顔でこちらを見つめている。
全てを理解し、絶望に目の前が暗くなり、再度、俺はレジボックスに昏倒した。




