スバレック鉱山
初めてのモート以外の視点です。
昨夜は、あまり寝付けなかった。
先月生まれた次男坊の夜泣きが原因だ。
嫁さんには、頭が上がらない。
こんな冴えない男の嫁になってくれた事に感謝の気持ちでいつもいっぱいだ。
早く楽をさせてやりたい。
今はとにかく馬車馬のように働く時だ。
俺も、今は真面目に働いているが、昔からそうだった訳ではない。
生まれはアクアニアのスバレック鉱山だ。
ドワーフだらけの汗臭い鉱山町で生まれ育った。
ドワーフの男たちは職人肌で、粗野な男が多く、昼間は鉱山で鉱石を掘り、夜はその日に稼いだ金は全て飲み干すといった感じだ。
貯金などしている奴は信用されず、どれだけ働き、どれだけ気前よく金を使い、どれだけ酒が飲めるかが、男の価値を決めた。
俺のオヤジもご多分に漏れず、ドワーフ道一直線の男で、その分、オフクロは苦労していた。
男は、鉱山で働き、女は家でその鉱石から様々な武器や防具を作った。
町に出入りする様々な行商の男たちから、各地の街や観光名所、事件や大きな商売の話、そういったのを聞くのが楽しみだった。
だけど、そんな鉱山町で町から出られる金もチャンスも無かった。
俺には幼馴染のミリアムという女の子がいた。
こいつは非常に器用な奴で、武器や防具に属性付加も出来たし、それ以外にも、アクセサリーや小物などなんでも作れた。
俺は、昼間はオヤジ達について鉱山で働き、夜はミリアムに鍛冶を教わった。
そんなミリアムの父親は、俺のオヤジとも大親友で、自然、俺とミリアムも親友と言っていい程の仲になった。
ミリアムの家庭も、俺のオヤジと毎晩飲み歩く父親が、豪快に浪費するので、常に金はなかった。ミリアムとミリアムの母親が必死に稼ぐ金も、全部散財してくれる父親だった。
俺もミリアムも、町を出たかった。
だけど、出れなかった。
町に縛られ、町から出る手段もなく、このままこの町に埋もれて死ぬ事になるんだと思っていた。
ある日、ミリアムが俺に相談を持ちかけた。
このままじゃ、私たちは一生この町に縛り付けられる。
1つだけ、方法があるかもしれないと。
それは、この国の人間なら誰でも知っている禁忌の方法だった。
だけど、俺達は密かにその禁忌を破り、お互いに修行を詰んだ。
4年を経過する頃には、お互いにその練度を認め合うまでになった。
次の段階は、酔いつぶれて帰ってきた、オヤジたちを相手に訓練を行った。
更に6年もそんな生活をおくると、炭鉱や鍛冶場でも、俺達の行いに気付くものはいなくなっていた。
もう、自分たちに出来ないことは無いようなつもりになっていた。
そして、いよいよその日がやってきた。
大仕事の決行の時だ。
その日、スバレック鉱山には、ラウロスから鹿の獣人の豪商、トイロックが来ていた。
獣人ながらも、ドワーフと飲み比べしても負けないほどの酒豪だ。
郷に入っては郷に従え、と言いながら、何杯もの酒を飲み干していく。
世界を渡り歩く商人として、その土地の人間に馴染む彼なりの方法なのだろう。
酩酊して、宿へと歩いて行くところを、俺達は狙った。
まず俺が、暗闇から、普通の人間が気付かぬ程に磨き上げた、隠密移動で近づき、トイロックのアイテムボックスを開き、金を窃盗した。
俺が上手くいったのを確認すると、続いてミリアムが、秘薬やスクロール、アクセサリ-など、金になりそうなモノを窃盗した。
その瞬間。
酩酊していたはずのトイロックが驚くほどの動きで、懐の剣を抜き、周囲を薙ぎ払った。
俺は、隠密移動しながら紙一重でかわす、剣先が喉元を掠める。
ザシュッ
今でも時々夢で聞こえる、あの音に俺は驚愕した。
振り返ると、背中から血を吹き出しながら倒れるミリアムの姿があった。
素早く、トイロックはミリアムに治癒魔法を放った。
豪商であるトイロックは、一流の冒険者でもあった。
山賊や、海賊、野盗に襲われながらの旅を何十年も送っていた。
一命を取りとめたミリアムに、俺はホッ胸を撫で下ろした。
最近、少し女性らしさが出てきたミリアムだったが、まだまだ子供だった。
許されると思っていた。
待っていたのは、執拗な尋問だった。
誰がいつ、どのような方法で、この禁忌の方法を訓練しミリアムに教えたのか。
スバレック鉱山のすべての人々から、ミリアムの家族は糾弾された。
鉱山の親方からは、ミリアム家全員を奴隷として売り払い、それでも足りない金は鉱山が責任を持って全額トイロックに賠償すると申し出があった。
トイロックは、全額の賠償をやんわり断り、ミリアム家のミリアム以外の者の奴隷の売却金で、倍賞金とすると提案してきた。
そして、悪魔の技を取得した、ミリアムは今後の見せしめとして、鉱山の中央広場で処刑される事になった。
最後の最後まで、ミリアムは俺の名を出さなかった。
俺も、結局名乗り出ることは出来なかった。
自分達が、そこまでの悪行を行なっているという意識すらなかった。
気付かれるか気付かれないかのゲームになりつつあった。
気付かれた場合も、隠密行動で逃げてしまえば、正体すらバレずに、犯人を探し、怒り、悲しみ、戸惑う被害者の姿を見て、二人で達成感を得ていた。
全てを甘く見ていた。浮かれていたんだ。
ミリアムの首が、俺の前に転がってきた、あの日までは。




