決戦
店を出ると、リムーレの町は蜂の巣を突いたような大騒ぎだった。
「鮮血の女王だってよ!逃げろぉ!」
「噂ではずっと先の話じゃなかったのか?」
「奇襲なのかっ?!」
着の身着のままといった感じで、ドミリスとは反対の方向へ逃げていく。
ドミリス方面の門まで行くと、武装した兵で埋め尽くされている。
出るに出られない。
仕方がないので、迂回してドミリスに向かう事にする。
ドミリアまで行かずとも、リームレとドミリアの間にある大きな草原で、メルロは陣を張っていた。
ドラゴンの洞窟がある山脈より、少し北よりだ。
陣に近づくと
「何者だ?」
と流石に止められる。
「ルークという者の使いだ、メルロに用がある」
すぐに一人が本陣に駆けて行く。
本陣から、メルロ本人がこちらに向かって来た。
陣が割れるように道を作る。
「今日は、勇ましい格好だな」
「ああ、この姿の時は、ランガーと読んでくれ、これもまた仮の姿として使っていく、それなりの装備をしてきたので、微力ながら助太刀するぞ。それとコレ」
大量の、回復剤各種、スクロール、秘薬を渡す。
「この量は!?凄い量だな。一介の商人が持っても捌ききれる量では無いぞ」
「戦争が起きるのは分かっていたからな」
「そうか、そうだったな。流石、商人ってことだな。金だ受け取ってくれ」
5000万ドランが受け渡された。
ちょっと、多い気もするが、秘薬やスクロールもあるから、こんなものかもしれない。
「確かに受け取った」
「では、本陣へついて来てくれ」
「ああ」
メルロについて本陣まで歩く。
全軍の視線がオレに集まっている。
何者だ?ってところだろう。
ちなみに今日のオレの装備は、顔が見えないだけじゃない。
見た目にも凄く強そうな装備になっている。
装備 両手剣 古代龍の牙杖 全属性攻撃 +32 攻撃力 80 魔力 +130
頭:古代龍のスケールアーメットヘルム 全属性耐性 +32 防御力 172
上半身 下半身:古代龍のスケールアーマー 全属性耐性 +62 防御 230
足:古代龍のスケールブーツ 全属性耐性 +35 防御 156
腕:古代龍のスケールガントレット 全属性耐性 +38 防御 153
アクセサリー:古代龍の牙イヤリング 全属性耐性 +88
<全装備統一効果>
武器 ・魔力消費 極小 ・古代魔法「ラストスパーク」
防具 ・自動治癒 強 ・竜人化
作ってみて驚きの規格外でした。反則すぎる。
そもそも、産後の弱った状態で、屈強なパーティー50人でも倒せないラングロングが、完全に元の体力や魔力を取り戻したら、倒すことは出来ないんだろう。
そのモンスターの素材で装備一式作れるなんて鍛冶屋冥利につきる。
鱗は、この間回収したものを使い、牙に関しては、素直にラングロングに頼んだら、一本抜いてくれた。
なんでも、牙は抜けると、奥に無数に生えている歯、が無数に出てくるらしい。それでも、一応、すぐにキャンにヒールをかけてもらって修復したけどね。
アイテムボックスが無かったら、牙も重くて持って帰って来れなかったろうな。
鱗も牙も大きすぎて、加工には苦労したけど、まだ素材はたっぷり余っている。
流石に売る気にはなれないな。
こういう良いモノは独占するに限る。
この装備なら、戦場で死ぬことはあるまい。
流石に、敵軍の集中砲火を食らったら回復する間も無く死亡するだろうけど、そういう状況には本陣にいる限りはならないだろう。
見たことも無い装備を身にまとった、オレに刺さる視線が心地良い。
全身紫というところも好きだし、一見、刀のような牙杖も非常に気に入っている。
本陣に着くと、メルロが、アイテムを部下たちに渡す、そこから、さらに、アイテムが拡散されていく。
昼食を全員で取り終わるころ、リムーレ方面から、エイドリアの軍隊が姿を現す。確かに凄い数だ。こちらの5倍以上の規模だ。これは確かに普通に戦っては勝てないかもしれないな・・・
「全軍!敵は、数だけだ!勝利は我々の手にあるぞ!」
「「「おおおおおぉぉぉぉぉおおおお!!!!」」」」
流石にバイオトランス効果と言ったところだな。
これだけの戦力差があるのに、戦士たちの目に逡巡はない。
「先手必勝じゃ!突撃ぃぃ!!」
メルロが赤い剣を敵に向けて振り下ろすと、凄まじい地鳴りと共に、敵陣に突っ込んでいく。
「ハイセットアースウォール!ハイセットアースウォール!」
突っ込んでいく、自軍の両脇に巨大な壁が立ち上がる。
数の不利を極力減らすように、局所戦を行うようだ。
敵軍は、壁を迂回しようと大きく2つに割れる。
薄くなった中央を自分が貫く。そして、すぐに戻ってきて2手に分かれる。
右側より迂回してくる集団の中に、ラグ一家を見つける。
左側からは、エイドリアとガルローズがいる。
「ハイセットアースウォール!ハイセットアースウォール!」
「ハイセットアースウォール!ハイセットアースウォール!」
さらに4つの壁が立ち上がり敵軍が閉じ込められる。
唯一の出口に陣取る、自軍と局所戦を行うような形になった。
これだけの大型魔法を連発するとは、呪印の力は凄まじいなと思って、振り返ると、黒髪に戻ったアラサーのメルロがそこにいた。
うん。
やっぱり、流石に連発は厳しいみたいだ。
でも、このアラサーぐらいが一番エロティックだな。
アースの放った矢が、上空で無数の矢になって自軍に降り注ぐ。
ラムラの電撃魔法がその突き刺さった矢を避雷針にするように、自軍に落ちまくる。
凄い連携攻撃だ。
オレも、何か役に立たなきゃと思い、装備統一で得られた古代魔法を使ってみることにした。
牙杖を敵に向けてっと。
「ラストスパーク」
何も起こらない。
敵軍、自陣の動きが止まり、全員が上を指さしている。
上空から紫色の巨大な光球が2つ落ちてきた。
着弾。
ドコーン ドカーン
いつものラングロングの洞窟で聞いていた音と共に、敵味方含めて吹っ飛ぶ。
凄い数の治癒魔法が飛び交い、ホタルの園に来たようだ。
うん。
この魔法、もう使っちゃダメだな。味方の前線まで壊滅しそうだったわ・・・
「凄い威力だな」
メルロが話しかけてくる。
称賛というより、この目はなんだ。怖れのようなものだろう。
駄目だ。これモテる魔法でもねぇ。
とりあえす、拮抗した勝負になってきた。
しばらくは、傍観する事にしよう。
夕刻になると、自陣に篭っての防戦一方になってきた。
メルロの創りだした壁も、そう長時間維持できるものでもないらしい。
あと、1時間ほどで、敗北が決定しそうだ。
エイドリア側の戦士達も、戦いの終わりを感じているんだろう、攻撃の手を緩めるどころか、さらに強くなってきている。
特に、右側ラグ一家のいる戦場は苛烈を極めた。
今日の夜には、商人ギルドに戻って、オレに返済しなきゃならないから必死なんだろう。
このまま負ければ返済もクソもないけどな。
オレは戦場とは別の方向、ドラゴンの山に向かって、スクロールを使って、ファイアーボールを5発ぶっ放した。
ゴオォォォォアァァッァア
ラングロングの咆哮が聴こえると、山の方からラングロングが滑空してきた。
ラングロングの両足に黒いものがぶら下がっている。
オデロンだ。
二人が近づいてくると声が聴こえてきた。
「モート!オデ、空飛んでる!飛んでるぞ!気持ちいいぞ!」
「モートそれで何処に降りれば良いのだ?」
「オデロンは左側で、手を離して着地してくれ、ラングロングは右側を頼む!」
ドーン ズシャァァァ
突然、舞い降りた2体の巨大モンスターに両軍が戦慄する。
「モート、思いっきり暴れていいのか?」
「オデロンもラングロングも多少は手加減してくれ、生かさず殺さずで頼む」
「了解した」
「オデ手加減する」
モンスターとメルロ軍に挟撃される形になった、エイドリア軍は混乱しているようだ。
2人がうまい具合に、攻めたり退いたりしてくれたので、戦いは日が落ちる頃になっても続いた。
ラングロングは火も吹かないし魔法も使わないが、尻尾を振り回すだけで、数百人が宙を舞った。
草原に降り立ったその姿、巨大な存在感が、ラングロングは絶対的な強者だと敵が気づくのに時間はかからなかった、次第に反撃を恐れて攻撃の手が緩まる。
しかし、攻撃が弱まると、一歩一歩ラングロングが前進してくるので、また攻撃が始まる。
その無敵状態のラングロングに味方から治癒魔法も飛んで行く。
オデロンは全身から黒い霧のようなものを敵陣に放った。
敵陣右側が闇に包まれる。
敵陣が明らかに右往左往し混乱している。視界不良の為同士討ちまで起きている。
数名が霧を抜け出しオデロンに斬りかかったが、オデロンが平手でまとわりつく虫を追い払うようにして吹っ飛ばす。
途中メルロは、降服しろと伝令を飛ばしたようだが、エイドリアは受付なかったらしい。
完全に日が落ちると、飛び交う魔法攻撃と治癒魔法の光の中を、7つの輝く球が、敵軍より浮かび上がって、オレの胸の間に吸収された。
{ラグ一家及びガルローズに命ずる。即時、降服せよ。勝敗は決した。剣を捨て、周囲の仲間も説得せよ。
また、借金の返済は、昨日、モートに行ったものとする。魂の契約書は無事に破棄された。返済が出来たので、お前達の魂は無事守られたと思え。以後、モートへの不利益、危害を加える行動や思考を禁止。他者に魂の契約を持ちかけられた場合、契約前に必ず頼れる商人モートに相談をする}
敵軍右側より、次々と剣を捨て、両手を挙げる兵達。
そして数分後には、敵全軍が降服した。
自陣より大歓声が沸き起こる。
その後、メルロ軍が降伏した敵をすべて包囲し武器を回収し拘束していく。
「ラングロング。オデロン。ありがとうな。もう帰っていいぞ」
「まさか、先日の敵が今回は味方となるとはな。分からんものだな。モートお前は不思議な奴だ。私こそ例を言うぞ。人間達の治癒魔法を浴びながらの戦闘は心地よいものじゃった。彼らにも礼を伝えといてくれんか」
「わかった。必ず伝える。既に人間達はお前の事を、自分達のピンチを救ってくれた龍神なんて話してるし、一応ここら辺一帯を統括する集団だからな。もうお前の所に攻め込んで行くやつはいなくなると思う」
「お前には大きな借りが出来たな」
「そう思うなら、キャンとオデロンの魚の件、今後もよろしく頼む。帰ったら今日頑張ったオデロンにたっぷり魚食わせてやってくれよな。夜でも捕るのか?」
「ははは。誰に言っておる。魚を獲るのに魔法を使うことは、普段は無いが今日は特別だ。魔法を使えば浮かび上がってきた魚を造作もなく捕れるだろう。」
「そうか。流石だな。じゃぁ、オデロンを連れて帰ってくれ」
「オデロン。ラングロングの足に掴まって帰れ」
「また魚食えるのか?」
「そうだ、魚で戦勝祝いでもしてくれ」
「モート今日は楽しかった。外で暴れるのは爽快だな」
「オデロンも大活躍だったな」
「オデいつでも暴れるぞ」
「また、いつか頼む事もあるかもしれん、キャンとカイエントの事。守ってやってくれ」
「もちろん。二人は初めての友達だ」
「なるほど、そうなんだな。お前が側に居るだけで二人は凄く心強いと思うぞ」
「オデたち先に帰るけど、モートもまた遊びに来いよ」
「分かった。二人ともありがとうな」
草原の中央でラングロングが羽ばたき始める。
両翼を広げるともの凄い大きさだ。
40m近くあるだろう。
暴風が吹き荒れる。
敵味方が身を寄せ合って吹き飛ばされないように必死に陣形を整える。
ラングロングは舞い上がり大きく上空を一回旋回して山へ戻って行った。オデロンの喜びの声も一緒に遠ざかる。空を飛ぶのはかなり気持ち良さそうだ。
メルロ本陣にて、戦後処理が次々と進められる。
そして今、目の前にはエイドリア軍の幹部達が拘束されて膝をついて座っている。




