魂
相変わらず豪華な客間だ。
正面には、赤髪の美少女が果実酒を飲んでいる。
羽がフルフルと動いている。
「明日、決戦を行えと?」
「はい」
「確かにお前に剣を捧げると話したが、準備の整ってない現状で、決戦に挑むとなるとまた話は別じゃ」
「このままバイオトランスを奪われ続けては、ゴフトス王子へ報告しなければならないのでは?資金も枯渇してくるかと思います」
「確かに、今の状態は、売れてもいないのに、エイドリア達に奪われる為に王都から仕入れ続けている状態だからな」
「明日、決戦に赴いていただけるならば、少なからず私の力もお役に立てるかと思います」
「ほぉ。数も劣り、準備も万端でない我が軍を勝利に導く方法が何かあるのか?」
「確か、準備は回復剤各種が不足しているのですよね?」
「そうだ、エイドリア側が買い占めているのか、もの凄い金額に値段が通常の20倍位上まで高沸しておる。近隣では、回復剤自体売ってないという状況だ」
そこまでか・・・
ある程度は予想していたが、ソマックの手際の良さに戦慄を覚える。
「その回復剤、通常の5倍の値段でご用意する準備があります」
「その他にも、相手の兵力はこちらの約3倍じゃ、今回はお前のお陰で呪印の力を存分に使えるとはいえ、長期戦にもつれ込むじゃろう」
「まず、朝より進軍し、昼には決戦の場へ、私も昼には回復剤や他の物資と共にあなたの元に駆けつけましょう」
「ルーク。おまえの作戦の詳細を聞きたい。その回復剤の出処や、勝利を掴む奥の手とやらもな。剣を捧げる覚悟じゃ、何があってもお前を裏切るような事はないから安心せい」
「元来、非常に臆病な性格ゆえ、剣を捧げると言われても、先々が不安になってしまいます。言い難い事ですが、すでにあなたはゴフトスに剣を捧げていらっしゃるのに、私にも剣を捧げようと言う。いつか、他の誰かの剣になり、その切っ先が私に向いてしまうかもと考えずにはいられません」
メルロの表情に、一瞬怒りの感情が湧き消えていく。
だが、現状ではオレの提案や、オレの肉体はメルロの生命線だろう。
多少の強気の交渉は大丈夫だ。
「そうか、確かにルークの言うことも一理あるが、作戦の詳細も分からぬのに、軍を動かすことは出来ん。さすれば、どのようにすればお前の信用を得られる?」
オレは、あらかじめ用意してあったモノを懐より取り出す。
「そ、それは・・・」
さすがのメルロも表情を曇らせる。
「そうです、魂の契約書です。剣ではなく魂を捧げていただきましょう」
「魂を・・・」
「まずは、契約書をお読み下さい。相互契約にしておりますので、契約書の中には、魂の返還に対する事項も明記してあります」
「確か、一般的に魂の移譲は、移譲された者が死んだ時には、元の持ち主に返還されるんだったな」
「そうです、あなた方ダークピクシー族は、きっと私よりずっと寿命もありますから、あなたの人生においては、一瞬の事かもしれません」
「ルーク、お主がエルフ族だとすれば、そんなに大差ないのではないか?」
「エルフ族ではありません。特殊なアイテムで変装させていただいております」
「流石に信用出来ないな。そんなアイテムがあるなど聞いたこともないわ」
かなり苦労して作った変装セットを褒められたような気分でちょっと嬉しい。
「これでも信用できませんか?」
変装セットを取り去る。イケメンフルフェイスは、契約書が取り交わされるまでは外せない。
メルロが、驚愕の表情でオレを見てくる。
「まさか、本当だったのか、エルフでは無いとは思っていたが、脱着式だったとはのぉ。魔術か何かで变化しているのではと思っはていたが、、分かった、どれ、契約書を見せてみろ」
「これです、すでに契約主の欄には、私の血判が押してあります。契約内容を確認のうえ、契約者の欄に血判を」
「「「「「「「「「「「「「「「「「「「
契約書
・契約者は契約主に魂を捧げる
・契約主は契約者の生命・精神の保護に努める。契約者の生命・精神に危害を及ぼす、行動や企てをした場合には、契約の違反として、即時契約者に魂を返還する。
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「なんだこの契約書は?私を永遠に守ってくれるって事だよな?こんな契約内容見たこともないぞ?まるで・・・」
ハッとした表情のあと、次第にメルロの青白い肌に赤みがさす。
メルロが顔を赤らめ俯く。
「ルーク。ありがとう。お前の気持ち確かに受け取ったぞ」
メルロは、真っ赤な顔でオレの目を真摯な眼差しで見つめながら
腰の赤い刀を抜き、親指を切ると、契約者の欄に血判を押す。
メルロの控えめな胸の間から、前回、ラグ一家と契約書を結んだ時より、大きな赤く輝く球が浮き出ると、オレの胸の方へ漂ってきて、オレの胸の中に収まる。
契約成立だ。
「ありがとう。では、作戦の詳細を説明しよう。と、その前に、オレの正体を明かさなきゃな。この部屋に人は入ってこないな?」
「ちょっと待て」
メルロは立ち上がり、各扉の鍵を閉め、窓のカーテンを閉める。
「良し、これで大丈夫だろう。ちょっと楽しみだぞ」
「オレの正体を明かしたくは無いが、魂まで捧げてくれたお前に嘘をつき通す訳にもいかんからな」
遂に、この時がきたか。
イケメンフェイスをそっと取り外す。
オレもかなりドキドキする。
メルロの反応をいろいろ想像してみたが、結局良い反応は予想出来ない。
素顔のまま、メルロを見ると、青白い顔が更に真っ青になっている。
普段は物色の唇までも紫色に変色している。
「お、お前!まさか、ゴフトスの手先ではあるまいな?」
「なっ!?どうしてそう思う?」
「お前!獣人、それも王族関係者である猿人ではないかっ!」
チーン。
オレの脳内に悲しい響きが・・・
こういうオチか。
ブサメンはつらいよ。
人間だよオレは。
転生前もアダ名には「ゴリ」とか「ウホさん」とか、いろんな奴にそっぽいアダ名を好きなように付けてもらったけなぁ。影で。
転生前は目が悪かったから、小さい頃はお約束の「メガネザル」って称号も持ってたさ・・・
それにしても、本物の猿人に間違われるとは思わなかったわ・・・
そもそも、ドルトニアでも田舎町である、リムーレには、王族関係者である猿人はエイドリアに会ったのが初めてだったからな。
店でたまーに旅人が、オレの顔を見てギョッとした表情をしていたのは、知っていたが、みんなその後にホッとした表情に戻って買い物続けてたし、まさか、の展開だわ・・・
「そう見えるかもしれませんが、人族です。知っていると思いますが、裸になっても尻尾も無いでしょう。それと、本当の名前はモートです。リムーレの町で商人をやっています」
「商人?モートはそれが本職なのか?」
「そうです。回復剤各種も、店にかなり蓄えがあるはずです。流石に通常価格ではお譲りできませんが、5倍の破格でお売りします」
「リームレの商人がエイドリアではなく私に売ってしまって大丈夫なのか?」
「ですから、私の事は今後もルークと呼んでください。それと、明日は顔を隠す装備を付けて、この声で参戦しますので、よろしく」
「分かった、それと、その敬語はもうやめろ。仮にも魂を捧げた主なのだからな」
「おお、じゃぁもうやめるわ」
「流石、切り替え早いな」
「メルロ、オレの女になったんだな」
「はい」
「オレの一生は短い。だが、その一生はお前の幸せのために尽くそう」
「はい」
「お前から見て、悪事だったり、不誠実だったりする事もあるかもしれんが、全てはお前の為にしていると考えろ」
「はい」
どうやら、強気で押されると弱いらしい、突然メルロが上目遣いでモジモジし始めた。羽がピクピク動いている。
一応、念のために魂にも命じておく。
{モートの正体は明かさない。モートを裏切らない。モートの為に尽くし行動しろ。}
オレの胸から赤い小さな球が、メルロの胸に飛んでいく。
どうやら、魂にも染み透ったようだ。これで安心だな。
「メルロ、明日の作戦の詳細を説明する」
「はい」
とりあえず、明日の作戦の詳細を説明すると、身体を求めてくるメルロを後に、オレはリームレに戻った。




