学校
店を出ると、向こうからラグ一家が6人で歩いてくるのが見えた。
遠目から見ると美女たちと野獣だな。
「よぉ!ルーク!」
ラグが相変わらずくったくのない笑顔で、大声で挨拶してきた。
「こんにちは、ラグさん。今日は、どうしました?」
「いや、なに、この間の本部の仕事のお陰で、やっと22万ドラン集まったからな。持ってると使っちまいそうだったから、先にモートに返しちまおうと思ってな。モートはいるかい?」
欲張って、ガルローズにまで血判押させて、22万ドランにしたのは失敗だったかな。30万ドランなら流石に1周間では返せなかったろうに、ミネローゼ強奪の報酬良すぎだろ!
「今日は、店番のソマックさんという方しかいませんでしたよ。なんでも帝都に仕入れに行ってるとかで、明日の夕刻まで戻らないそうです。それより、今日は借金返済を祝してお祝いでもしますか?おごりますよ」
「いや、それがちょっと慌ただしくってな、これから別件用事があるんだわ」
酔わせて窃盗コンボも無理っぽい。
詰んだ。
もう詰んだ。
メルロとイチャコラしてた罰か。
とりあえず、ギリギリまでチャンスを探るべきだな。
「えっと、一応最後まで監視しなければなりませんので、自分も同行させてください」
「今日は冒険じゃないし、来ても面白くもないぞきっと」
「何処へ行くんですか?」
「俺達の母校でもある、学校だよ。今回は鮮血の女王が相手だからな、老いてきて先日モンスター戦で惨敗したって話だから、勝てるとは思うが、念には念を入れて、学徒出陣で、戦力増強と課外授業ってわけだ。まぁ、まだ相手側もいろいろ準備中だろうから、来週ぐらいまで可愛い後輩たちに、基本的な実践訓練をしてやってくれって親父からの依頼だ」
「本部からの依頼ってことは、また高額報酬ですね」
「今回は、命がけって仕事でもないから、そこまでの報酬じゃないが、当面の心配事はクリア出来そうだからな。今は、金よりも仲間の命だ」
「流石、ラグさんですね。尊敬します」
こういう慢心が、あの時、金に執着してれば良かった。と苦悩に歪む表情も見てみたいものだね。
学校は山奥にあった。
こんなところに学校があるとは、普通は気づかない。
俺達の母校ってラグが言ってたし、ラグ一家もこの学校の出身ってことは、本人達は知らないが、どこかから誘拐されてきたのだろう。
戦術訓練の先生紹介をするための、全校集会ってことで、全校生徒が集まっている。
およそ300人ぐらいいるだろうか、年齢は3歳ぐらいから17歳前後まで、赤子は保育棟にいるらしい。
予想してたより大規模な組織でビックリだ。
挨拶っていうからラグが挨拶するのかと思っていたら、シャルロットが全生徒の前に設置された台に上がっていく。
「あれ?ラグさんが挨拶すんじゃないんですか?」
ラグに直接聞いてみる。
「こういうのは、あいつが得意なんだよ。学生時代も生徒代表みたいな事してたからな。力ばかりのオレはああいうのは苦手なんだ」
確かにラグにああいう場は似合いそうにない。
流石に400人も子供達がいると騒がしい。
手を振る子どもたちに、アースやらラムラが笑顔で手を振る。
「静まれぃ!」
シャルロットが大音声で一喝すると、水を打ったように静まり返えった。
オレも突然の事だったのでビクッとなった。
「聞いている者もいるかもしれないが、遂に訓練の成果を戦場で発揮する場をお前達は与えられた。長きにわたる訓練から解き放たれ、お前達の牙を存分に敵に味あわせてやれるぞ。今日から一週間ほどだが、お前達の修行の仕上げとして、戦闘特別講師として赴任したシャルロット・クーシャニナである。そして、後ろに並んでいる教師陣を右から紹介する。武闘派ラグ・ドルチーノ先生。弓の名手アース・カンファニック先生。稲妻の魔導師ラムラ・イーゼニア先生。漆黒の忍者セシリア・ホムライン先生。癒しと補助の専門家アイラ・メーテルンド先生だ。」
それぞれが、シャルロットの紹介でお辞儀をする。
オレは紹介もなく、みんなの横にボヤーっと立っていて、あいつ誰たっていう生徒たちの視線が痛い。
オレは先生たちにお金を貸してる監視役です。
「それでは、休憩を挟んだあとに、さっそく訓練を始める。解散!」
初戦闘前の心構え、について10分程話すと、シャルロットは台を降りてきた。
「素晴らしい演説でしたね」
一応、お世辞は言っておく。
「世辞は良い。お主も手伝うのか?」
「いえ、私は監視をしております」
「そうか」
なんか、シャルロットさんチョット怖いっす。
学徒出陣と言っても、流石に今回は14歳以上の生徒しか参加しないらしい。当然だな。14歳でも早いと思う。
休憩の後、まずマラソンが始まった。マラソンと言っても、かなりのスピードで走らされている。先頭をセシリアが走っているが、本物の猫のように速い。そして汗もかかずにぶっちぎっている。後列遅れそうなヤツの後ろには、ラムラの電撃が落ちている。既に数人は電撃を食らってリタイヤしている。かなり過酷な訓練だ。
その後、休憩を挟んで、ラグとシャルロット相手に実践訓練だ。といっても、今回は一方的に2人に武器や魔法で攻撃するだけだ。2人にはアイラが補助魔法と回復魔法を連発してかけているが、本当に身体を張った授業だ。生徒たち年齢順で、2人に3分ほど攻撃すると、「甲」「乙」「丙」に分けられていた。
午前中で今日の訓練は終わりのようだ。
「「「「ありがとうございました!!!!」」」」
訓練生達から、大きな声でお礼の言葉を聞いて、6人とも満足そうだ。
「明日も来るからな、お前ら、今日はいっぱいメシ食って寝とけよ!」
ラグが訓練生に声をかける。
「全員注目!」
突然、教員達の中から声が上がった。一人の男が前に進みでる。
黒豹の獣人だ。身体も大きく強そうだ。体育教師ってところだろう。
「お前達はもうすぐ命がけの戦いへと赴く。その前に、今日の戦闘訓練の結果も踏まえて、生産職に向いている者は、生産職専門の学校へと転校してもらう事になる。今から名前を呼ぶもの、こちらへ」
なるほど、人材の有効利用だな。戦争を前に、なにも実力の足りない者をみすみす死なせる事はない。
次々に名前が呼ばれる。先ほどの訓練で、雷に打たれた者や、「丙」の評価をもらった者が中心のようだ。例外もずいぶんあるが、今までの授業の傾向なども加味しての選考だろう。
「ラグさん達の時も、こういう制度はあったんですか?」
「そうだな。俺達の時も、ずいぶん仲間が生産職の学校に転校してたなぁ。みんな元気にしてるかなぁ?」
「同窓会とか無いんですか?」
「なんだその同窓会っていうのは?」
「同じ学校で学んだ者同士が集まって酒を酌み交わすんですよ」
「面白そうだな。会ってみたいが、生産職の学校は、国の反対側にあるらしくてな。転校した奴に会える事はもうなさそうだな」
「それはまた遠い所まで転校しますねー」
転校する生徒は50人ほど呼ばれた。
この人数で国の反対まで転校するとか、長旅だなぁ。
準備も相当かかるだろう。
「よし。それじゃ、呼ばれなかった者は解散。呼ばれたものは、準備が出来ているので、荷物をまとめて1時間後に集合。解散。」
「さて、じゃぁ俺達も帰ろうぜ」
ラグ達も帰るようだ。
「ラグさん、では、自分はここで失礼します」
「おう!じゃ、明日またな!」
ラグたちは帰ってしまった。
オレは、学校から出ると<潜伏>と<隠密>を使い、もう一度、学校内へ戻ってきた。




