ドルトニア
とりあえず、剣をいきなり捧げるとか言われても良く分からんし、メルロの話をじっくり聞くことにした。
客間に戻って、じっくりと話をする。
メルロとは3時間ほど話し合ったので、後で要約して話すとして、まず、この国の事から話そう。
ドルトニアは、まだ建国200年の歴史浅い国だ。
西に水と山の国アクアニア、北に大森林の国ラウロス、東に草原と火山の国プロミリア、南はホーリア海という立地だ。
オレの店があるのは、ドルトニア南西部のリムーレという町だ。メルロの館のある町がドミリス。アクアニアの山岳地帯よりなので、大小の山に囲まれた町だ。
300年前に、ラウロスの大森林南西部に突如として巨大な大穴が開いた。底の見えない、マナカル教を信じる人々は巨大な大穴を「マナカルの大穴」と呼んだ。数十年はラウロスの調査団が調査したが、特に異常はみられなかった、そのうち、その穴に道や穴を刻み住み始める人が出始めた。主に、国に住みにくくなった訳ありの人々だ、ラウロス国内の獣人族やエルフ族が次々に住み着いた。
そのうち、プロメリアから、サラマンダー族やシャドー族が移住してきた。アクアニアからは魚人族やドワーフ族が移住してきた。
各国から、山賊や海賊、逃亡奴隷や逃亡罪人、没落貴族など訳あり人は、マナカルの大穴に逃げ込んだ。無秩序な大穴での、多種民族の共同生活は、次から次に痛ましい事件を起こし、穴の中には数えきれぬ住民が落ち、落とされていった。
そんな、無法地帯の大穴を、その知恵と才覚でまとめ上げ、秩序をもたらした男がいた。
その人物がドルトニア初代皇帝ビヨット・ドルトニア・リンドニックだ。猿人であった彼は、元々はラウロスでも王族と繋がりのあった大山賊だった、ラウロスで繋がりのある王族が世襲争いに負け、自分に火の粉が及びそうになったので、一家を引き連れて大穴に逃げ込んだ。猿人の身体能力と知恵は大穴という悪条件でも遺憾なく発揮され、ビヨットの指揮の元、急速に要塞化が進んだ。穴の周囲に大きな町を築き、防壁も築いた。大穴では税も格安だったので、各地から商人もどんどんと集まってきた。3国の間に突然出来た、大勢力に周囲の3国は討伐隊を繰り出した。
世に言うドルトニア戦役である。3国から来た大兵団も、大森林の中の進軍は困難を極めた。大森林の中を走るアマロス川の水を利用した水魔法によって、大穴への進軍は泥の中の進軍になった。
頭上からは、猿人のゲリラ部隊が、闇夜に紛れて、攻撃魔法や弓を降らせた。いつ敵が襲ってくるか分からない恐怖の中、ろくに眠れず進軍した。
大森林の泥の中の行軍に苦労し、プロミリアとアクアニアの軍は大穴に着いた時には半数以下に減っていた。
それでも、数で勝る3国の連合軍は、大穴周囲の城壁を取り囲み数にものを言わせて攻撃した。元々が山賊や海賊あがりの荒くれ者が揃ったドルトニア軍は粘り強かった、逆に、平和な時代が続いていた3国の兵は、貴族階級の上官達からやられていった。
半年以上の包囲戦を続け、ついに連合軍は城壁を突破した。
だが、突破した先には、誰もいなかった、長引く戦争の中、ドルトニア軍は、大穴の中に、巨大な洞窟大迷宮を無数に張り巡らせていた。
連合軍が大穴の中に進撃を始めると、今度は壮絶なゲリラ戦が待ち受けていた。
城壁の中に陣を張り、大穴の迷宮攻略戦が始まった。障壁を打ち破った時に、連合軍の士気はピークを迎えていた。
終わりの見えない戦いに誰もが疲れを見せていた。
ゲリラ戦を初めて半月、突如、抵抗が無くなった。
大穴から敵がいなくなった。
敵を殲滅したのか?と誰もが思ったが、違った。
張り巡らされた迷宮の各所から、火が燃え上がった、大穴から、火と煙が立ち上り、次々と大穴から連合軍が出てきた。同時に、城壁の外を囲むように、火が放たれた。穴、城壁、町なか、すべてまるごと燃やし尽くされた。水魔法や土魔法などの連合軍の抵抗は、すべて業火に飲まれていった。
火が収まり生き残った連合軍を、大穴迷宮を城壁の外まで掘り進めた、ドルトニア軍が、城壁の外から進軍してきて、すべて大穴に落としてしまった。
過去例を見ないドルトニア軍の大勝利で、ドルトニア戦役は幕を閉じた。
各国の被害は甚大だった。派遣した兵は全滅。民意の低下。各国の経済は困窮した。
戦勝国ドルトニアは、各国から得た賠償金で、さらなる巨大な城壁と街を築いた。移民や商人が次から次に集まってきた。
ドルトニアは多民族、大国家への一歩を踏み出したのであった。
さて、ドルトニア戦役それが200年前の話だ。
驚くべきことにこの初代皇帝ビヨット・ドルトニア・リンドニックはまだ現役で采配を振るっている。
この皇帝がいる限り、他国はドルトニアに手出ししないだろうと言われている。それだけ強力な敗北を3国は200年前に味わってしまった。当時以上に強力な国家へと成長したドルトニアは、我々住んでいる人間としては素晴らしい国だ。住み心地は商人として過ごした10年を振り返っても、大きな不満はない。
ここで、3人の王子が登場する。
第十一王子 アトロック・ドルトニア・リンドニック
第二十二王子 ゴフトス・ドルトニア・リンドニック
第三十一王子 ルシュランド・ドルトニア・リンドニック
高齢になるビヨットには、腹違いの王子が33人いたが、いずれも不慮の死を遂げて、今はこの3人しか王子がいない。
偉大なる王も、世襲争いは防げなかったようだ。
子の半数は姫で、各貴族や他国に嫁に出している。
流石、猿人というべきだろう、子の数が多い。
それでも3人しか王子が残っていないというのは、貴族間の派閥争いは、他国に例を見ない苛烈さということだ。
今、時期皇帝としての有力候補にあるのは、ゴフトスだ。派閥の経済力は他2人より抜きん出ている。
ルシュランドは、武闘派と言われていて、派閥も武闘派の人間が多く集まっている、内戦にでもなれば、最終的にこの派閥が天下を取るだろう。
最後に、アトロックだ、ドルトニアの帝位が世襲制ならば、自然このアトロックが時期皇帝だが、ドルトニアは指名制だ、現皇帝であるビヨットが次期皇帝を指名するということだ、この200年間、指名しない事で派閥争いが常に起きていることは皇帝自身も分かっているだろうが、未だ指名する素振りはない。
アトロックは愚昧と言われていて、派閥もかなり小さい。なぜ今まで生き残ってこれたのかは愚昧だったからと言われている。
ちなみにオレはこういう奴が一番ずる賢いと思っている。オレ自身が同じ立場でも愚者を演じると思うからだ。気が合いそうなヤツだ。
ここで、やっとメルロの話になる。
メルロの話を要約するとこうだ。
・孤児だったメルロはルシュランド派が作っている学校で教育を受けて育った。
・ルシュランド派による一家で冒険者として経験を積む。
・頭角を現してきた時に、ゴフトス派に囚われてしまう。
・当時ルシュランド派のNo3だったメルロは、この時ゴフトスに合う。
・ゴフトスに学校の真実を聞く、学校とは孤児を集めて教育する場所では無く、有力な戦闘民族や戦士の子を極秘に拐ってきてルシュランド派の戦士に育て上げる機関だということ。
・信じられなく、メルロ自身も調べると、自分も知らなかった闇の部隊が人さらいをしていた。
・ルシュランドに幻滅しゴフトスに剣を捧げる
・ゴフトスに更なる力を与えると言われ、右肩から手首までの呪印を施される。
・呪印は男性のエネルギーを必要とした、ゴフトスに手篭めにされた。呪印の力は使えば使うほど凄まじくなっていた。それと同時に、エネルギーを必要とする量がどんどん増えていった。最終的に強力な精力を持つ猿人である
ゴフトスも手に負えなくなり、地方のドミリスに配属される。
・ドミリスでは、何人もの男を、精力を吸い尽くし殺してしまった。
・殺してしまう事実を、自分の心に蓋をするように「木偶」と呼び始めた。
・そんな生活に耐えられなくなりゴフトスに精力を求めようと、王都に行った。
・ゴフトスは交換条件に「バイオトランス」と「ミネローダ」の話をして、売りさばけと言った。急速に老い死ぬのは怖かった。
・呪印の力は極力使わなくしたが、避けられぬ争いや戦争の度に、急速に老いていった。
・次第にゴフトスからのノルマはきつくなり、精力は与えられなくなっていった。
・死ぬ前に、こんな身体にし、自分を捨てたゴフトスに復讐しようと力を求めた。
・なんとか、力を得ようと、無謀なドラゴン戦にも挑んだが結果は知ってのとおり。
・そこにオレが現れた。
ということらしい。
3時間もの長い間、時に怒り、時に空虚に笑い、泣き叫びメルロは話た。
重い。重いよ。
オレはただただ、ちょっと綺麗なお姉さんとお友達にSFになっちゃおうなんて思ってただけなのに、剣とか捧げられて、ゴフトスみたいに最終的に復讐してやるなんて思われちゃったらどうするんだよぉ!
こえー!
メンヘラこえー!
おもーい!
とりあえず、逃げたい!
逃げよう!
「メルロの剣を受け取れる人間か、自分にそんな価値があるのか、分かりません。そして、そのルシュランドの学校の件、自分も信じられない、確かめていいですか?ちょっと、考える時間をくれますか?」
「分かった。私もこれから戦争の準備だ。お前に会えて良かったよルーク。次に会う時は良い返事を聞かせてくれ」
「じっくり考えてみます。失礼します」
メルロの屋敷を後にする。
ずっしりとメルロの気持ちが重い。
剣を捧げるとか、転生前のアニメとかで見てた時はカッケー!とか思いながら見てたけど、実際に自分が言われると無茶苦茶重い。
受け止められんよ。
逃げられた!
万歳!アディオス!
美少女と剣と想い。
それを捧げるって、字面は最高なのに、気分は重い。
これは賢者タイムだからなのだろうか。
このチャンスを逃したら、もうこんなことは無いだろうとは思う。
それでも嬉しい気持ちは湧き上がってこない。
昼時のドミリスを出ると、オレは店のあるリムーレに向かった。




